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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

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モンスター軍団の刺客祭り
「ここは、このまま真っ直ぐですわね」
 隼人が残した地図を頼りに、洞窟を進んでいくまゆみ一行。
 洞窟の中はひんやりと涼しく、岩がごつごつしているが、充分な広さがあり、歩くのに不便はない。もともと、この天然洞窟は空京自然公園で一般公開されているものなので、落石などの危険は、全て公園スタッフが取り除いて整備されている。
 カツーン、カツーン。遠くまで響く足音が、この洞窟はまだまだ深い……そんなことを思わせた。

「やはり入ってきてしまったな!」
 洞窟効果で天然のエコーが効いた声が響き渡る!
「命知らずだにゃー!」
 まゆみたちの数メートル先に、2つの影がある!
「どなた!? 剣士ことのは……ではないわね。洞窟のモンスターね!」
「いかにも! ここは我らの住み家。土足で他人の家に入り込むなど、失礼なやつだにゃ!」
 まゆみの仲間が光で人影を照らす。
 現れたのは、犬の着ぐるみを着たともと、猫の着ぐるみを着たみりだ!
「私たちは、さらわれた娘さんを助けに来ただけです。すぐに出て行きますから!」
「そうはいかないなぁっ! ここに足を踏み入れたが最後! 我らのおもちゃとごはんになってもらうぞ!」
 犬の着ぐるみ……ではなく、どう猛な犬モンスター・犬神ともが、びしっと胸を張って叫んだ。
「仕方がありません。私たちも絶対に娘さんを助けなくてはならないのです! 強引にでも進ませてもらいますわ」
「にゃー! だったら仕方がないにゃー!」
 猫の着ぐるみ……ではなく、狡猾な化け猫のみりがにやりと笑った。
「この先の道には、多数の刺客と罠を仕掛けおいたにゃ」
「なんですって!」
「先に進みたければ、そこを通り抜けてくるしかないにゃ!」
 ご丁寧に、ここからが危険ゾーンだと教えてくれる悪役たち。
「勇者まゆみよ! 気をつけて……じゃなくって、覚悟して進むがよいっ! ……あとは頼むぞ、キツネ!」
 ぶわあぁっ!
 突如砂煙が巻き起こり、ともとみりの姿を隠してしまった!
「げほげほ……!」
 砂煙がおさまると、そこにはともとみりの姿はなく、かわりに九条 風天(くじょう・ふうてん)が身構えていた。
「犬神とも様の腹心、さつりくキツネ侍、お相手いたす!」
 狐のお面と着物に身を包んだ風天は、剣をかまえてまゆみに近付いてきた。
「勇者まゆみ、いきます!」
 まゆみも剣をかまえる。
「たあーーーっ!」
 ガチッ! 2本の剣が交わる!
 びりっ……! まゆみの手がしびれる!
「うう、ピリピリしますわ……!」
「隙ありぃ!」
 キツメ侍こと風天が剣をふりかざした!
 ところが! 出力を最低限に抑えることに集中していた風天は、足元の小さな出っ張りにつまずいてしまった!
「あっ!」
 勢いよく、風天の剣がまゆみに振り下ろされる!
「あぶないですぅ、勇者様!」
 カツーーーーン!
 風天の剣を素早く弾いたのは、シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)だ!
 冒険ごっこ中の思わぬ事故に備え、まゆみに本当の危険が及ぶまで後方に控えていたのだ。
「ご、ごめん。助かった」
「いえいえ、お互い盛り上げていきましょう〜」
 一瞬、小声で風天とシャーロットが会話を交わした。
 それだけ言葉を交わすと、二人は後方に飛び、距離を置いて演技に戻った。
「我が剣を止めるとは、さすがは勇者まゆみの仲間だな!」
「まゆみ様に手を出させるワケにはいかないのですぅ〜!」
 しばらくの間にらみ合う風天とシャーロット。
 折れたのは、風天だった。
「拙者は少々暴れすぎたようだ。ここは勇気ある貴女に免じて拙者は引こう。……だが、我が仲間がもうすぐそこで準備しているのだがな!
 ぶわあぁぁっ!
 再び舞い上がる砂煙に巻かれ、風天の姿は見えなくなった。
「勇者様! 勇者まゆみ様、お怪我はありませんか〜?」
 シャーロットは、すぐにまゆみのもとに駆け寄った。
「ありがとうございます! 何ともありませんわ!」
 まゆみの無事を確認し、シャーロットはほっと胸をなで下ろした。
「油断してるとはねちゃうよーーーー!」
 ドドドドドドドド! 何かが突っ込んでくる!
「よ、よけてっ!」
 まゆみたちは飛び退いて、突っ込んでくる何かを避けた!
「むむ……よけたなぁ! 次はひいちゃうぞ!」
「ど、どちらさま?」
「犬神とも様の刺客! 疾風イノシシ女だいっ!」
 疾風イノシシ女ことミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、再び突っ込んでくる体勢だ!
「とってもかわいらしいイノシシさんですけど、そこを通していただけないのでしたら、戦わせていただきます!」
 まゆみも身構える!
「えへへ〜。楽しませてよね!」
「どいてくださらないと、ぼたん鍋にしてしまいますよ!」
「むぅ〜〜! 味噌が肌につくとぴりぴりするからいやだいっ!」
 ドドドド! 再び突っ込んでくるミルディア!
「きゃっ!」
 そのあまりの勢いに、避けるのが精一杯のまゆみ!
「ああ、避けたらだめぇ! 急に避けたら止まれないってばああぁぁ……」
 ドドドドドド……。イノシシは急に止まれない。
「あぁぁぁ、こーれーまーでーかー! でも、楽しかったよおぉ……」
 明るい叫び声とともに、イノシシ女のミルディアは遠ざかっていった。
「……ホント、かわいらしいイノシシさんでしたわ」
 まゆみは、ぽんぽんっと服のほこりを払って、起き上がった。
「さ、先に進みましょう!」

 カツンカツン。足音を響かせ、先を急ぐまゆみ一行。
「あのモンスターたちが言っていた、トラップや刺客が、これで終わりとは思えませんわね……」
 まゆみは、注意深く天井や足元に目を光らせた。
「あら、あんなところに……」
 赤いずきんを被った女性が、洞窟の奥でうろうろと何かを探しているようだ。
「お嬢様、こんなところにお一人でいては、危ないですよ?」
 まゆみは少女に声をかけた。
「ああっ! あなたは勇者様? 実は私は病気のおじいちゃんに、この洞窟で採れる、薬になるコケを持ち帰ろうと思ってやって来たのです……」
 赤ずきんの少女……ではなくよく見たら男性の明智 珠輝(あけち・たまき)が、目をきらきらさせてまゆみに訴えた。
「勇者様。もしも薬のコケを見かけたら、私に分けてくださいまし」
「わ、わかりましたわ……。少しの時間ですが、探すのをお手伝いします。それは、このあたりにあるのですか?」
「ええ。それは間違いないはずです」
 優しいまゆみ一行は、少しの間だけ全員で、コケを探してあげることにした。
「ええっと……ないですわねぇ……」
 岩肌を慎重に調べるまゆみ。だが、コケはなかなか見つからない。
「ああっ、もしや……あれでは!」
 まゆみより少し先の方を調べていた赤ずきん珠輝が、何かを見つけて走り出した!
「ああ、あまり遠くに行っては危険ですよ?」
 まゆみも慌てて後を追う。
「だってほら……ここに、探していたコケがいっぱい生えているんですもの!」
 赤ずきん珠輝は、必死にコケをつみ取り始めた。
「これだけあればおじいちゃんは必ず助かります! ……でも、なんだかこの岩のカタチ、不思議ですね。ここは足のようなカタチをしていて……」
 珠輝がコケをつみ取っている岩の形は、確かにおかしい。まるで2本の足と、胴体と……。
「今だゴーレム!」
 ズズズ! 突然、コケの生えた岩と思われていた箇所が動き出した!
「ああっ、それは岩じゃありませんわ!」
 岩だと思っていたもの。それは、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が使役するゴーレムだった!
「あ〜れ〜! ゆ、勇者様! お助けを〜!」
 腰を抜かした演技でへたり込む、赤ずきん珠輝。
「すぐお助けしますわ!」
 まゆみは、赤ずきん珠輝を安全な場所へ走らせ、ゴーレムと向き合った!
「あっはっはっは! うちのゴーレムの強さを思い知ってもらうよ!」
 カレンはゴーレムの肩に座っている。
「つ、強そうですけど……負けません!」
 まゆみは剣を抜いた!
「パンチだ、ゴーレム!」
 ゴーレムはカレンの指示通りパンチを繰り出した。
 ふわあ〜っ。
 ゴーレムも演技指導をあらかじめ受けているらしく、ゆっくりとしたパンチをあさっての方向に放った。
 とん。ゴーレムが放ったパンチは、まゆみが避けるまでもなく大きく外れ、洞窟の壁を軽く殴った。
 ところが。
 ズズズ……。
「ゆ、揺れますわ!」
 ゴーレムにしてみたら軽く叩いた程度なのだが、パンチの振動で洞窟内が大きく揺れた!
 そして……まゆみの頭上に、こぶし大の大きさの落石が落ちてきた!
「あぶないよっ!」
 どん! 誰かに押されたまゆみは、転びながらも落石からは逃れることが出来た。
「あ、ありがとうございます……ってあれ? 誰もいない?」
「ここにいるよ!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が姿を現した。
「まゆみちゃんがピンチになっちゃった時のために、姿を消して守ってたんだよ」
 光学迷彩で隠れたレキは、冒険開始時からずっとまゆみの側にいたのだった。
「ありがとうございます……。何とお礼を申し上げよいか、レキお嬢様」
「そういうカタイのはいいよ。勇者様を守れて、ボクも嬉しいよ」
 レキは、転んだままのまゆみを引っ張り起こし、ぱんぱんと服のほこりを払ってあげた。
「さ。勇者様にはすることがあるよ。あのゴーレムをやっつけてね!」
 そう言うとレキは再び姿を消した。
「あっ……!」
「大丈夫。ピンチの時はまた守ってあげるから」
 レキの声だけが、まゆみに頼もしく聞こえた。
「では……改めて、いきますよ! ゴーレムさん!」
 まゆみが起き上がるまで忠実に待っていたゴーレムは、準備が整ったと見ると、再び大きな腕を振り上げた!
「ゆけーーー! ゴーレム!」
 カレンの指示が飛ぶ!
 ゴーレムは、再びゆっくりとパンチを繰り出した! 今度は壁にも当たらないように気をつけているようだ。
「甘いですわ!」
 そのゆっくりパンチを避けたまゆみは、反撃に転じた。
「勇者キーーーーック!」
 剣を持っているというのに、何故かキック攻撃を繰り出したまゆみ!
 こんっ。
 キックはゴーレムのスネあたりに軽く命中した。
『……!』
 このゴーレムもなかなかの演技派。スネをさすりながらうずくまってしまった。
「ああっ、ゴーレム!」
 カレンがゴーレムの頬をさすってあげた。
「……強いじゃないか、勇者まゆみ。我々はここまでだが……仲間が無念を晴らしてくれるだろうっ!」
 カレンとゴーレムは逃げ出した!
「勝ちました……! あれ? この箱は?」
 ゴーレムが立ち去った後に、小さな宝箱が残されている。
「開けてみましょう……」
 ぱか。中からはかわいい包み紙のキャンディが数個出てきた!
「嬉しいっ! モンスターを倒してお宝を手に入れるのは、冒険の醍醐味ですわね」
 まゆみは、箱のキャンディをひとつ取り出した。
「赤ずきんさん!」
 安全な場所に避難させていた赤ずきん珠輝に、キャンディを一粒持たせた。
「これは、きっとおじいちゃんの薬になります! 持って行ってください」
「……まあ! ありがとうございます、勇者様!」
 赤ずきん珠輝は飛び上がって、やけにスカートをひらひらさせながら喜んだ。
 すぐに「やりすぎだ」と、他の者たちに引っ張っていかれてしまったが。
「お〜の〜れ〜! 勇者まゆみぃぃ! キーーーーッ!」
 不気味な声が響き渡る!

「にゃー! まさかここまで進んで来るとはっ!」
 刺客がどんどん倒され(?)しびれを切らした化け猫みりが姿を現した。
「ああ、みりちゃ……化け猫みり!」
「どいつもこいつも頼りにならない! ここはみりが直接指揮をとりますにゃ!」
 みりは、数人の腹心を引き連れ、直接まゆみと対決するために出てきたのだった。
「の、望むところですわ! 私は勇者……負けません!」
「では、我が腹心の、恐ろしいモンスターを送り込んでやる! ……行け!」
「はっ……はい! みりさま!」
 ひらひら。ピンクのフリルをひらつかせ、真口 悠希(まぐち・ゆき)がおずおずと前へ進み出た。
「あのぉ……そちらのお嬢様はモンスターなのですか?」
 恐ろしいモンスターと聞き、警戒していたまゆみだが、ひらひらフリルのかわいい悠希が出てきたことで、肩すかしを食らった気分だ。
「ボクは……どんな可愛らしい子にも変身しちゃう恐るべき変身モンスターちゃんです!」
 あくまでモンスターだと言い張る悠希。
 ちなみにこのピンクの衣装は、桜井静香の衣装のレプリカである。
「モンスターとは思えないくらい……かわいいですわね……」
「ひゃあ! あ、あんまりかわいいって……言わないで……」
 悠希は耳まで真っ赤だ。
「で、では行けっ! 悠希よ!」
 みりの出撃命令! ……だが。
「ごごごごごご……ごめんなさいっ! やっぱりボク恥ずかしいっ!」
 ぴょこん。悠希はみりの後ろに隠れてしまった。
「……」
「……」
 ぽかーんとしているまゆみと、ぽりぽりと頭を掻いているみり。
「ごめんなさいごめんなさい……」
 悠希はもうみりの背中から出てこれないようだ。
「あっ……あなたの腹心は倒しましたわ!」
 とりあえず、この勝負はまゆみの勝利ということで話が進む。
「みりさま……ごめんなさい。ボク役立たずで……」
「そんなことはありませんよ。この間に、次の手を打てたのですから!」
 誰もが悠希とまゆみのやりとりに気を取られている間に、みりは次の手を打ったのだという。
「ど、どういうことですの?」
 慌ててきょろきょろするまゆみ。
「ふふ。もうあなたの後ろにいるじゃないですか! 次の刺客が!」
 はっと振り返ると……!
 カツ、カツ、カツ。
 誰もいないはずなのに聞こえてくる足音。
 ……そして。
「へへへへへへ……こんにちは、勇者さん」
 ぱっと姿を現したのは、ホッケーマスクとツナギに身を包んだ……スプラッタ殺人鬼!
「きゃあああああぁぁ!」
 突然のことに驚いたまゆみの悲鳴が響き渡る。
「ほらぁ、追いかけ回しちゃうぜぇ?」
 まゆみにじわじわと寄ってくる、スプラッタこと国頭 武尊(くにがみ・たける)
「いやああぁぁぁ! 来ないで来ないでホントに来ないで!」
 素で怖がるまゆみ。武尊はマスクの下で満足げににやりと笑った。
「まゆみちゃんにぃ。手を出すなーーーー!」
 まゆみが素で怖がっているのを見て、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が飛び出した!
「ア、アキラ様!」
「まゆみちゃん、俺アクィラだから……」
 お約束の名前読み間違いに突っ込むが、まずは目の前のスプラッタ殺人鬼をどうにかしなくてはならない。
「くらえーーー!」
 アクィラが放ったペイント弾が、武尊の足に命中した!
「おおっと……!」
 まゆみを追いかけることに夢中になっていた武尊は、不意を突いた攻撃にふらついた。
「今だ! このーーーっ!」
 そこを好機と、アクィラが武尊に飛びかかった!
 とはいえ刃物などの武器は持たず、ちょっと転ばせる程度にセーブしてのことだが。
「あ、いや、そこはまずい……!」
 武尊とアクィラがもつれて転がり……。
 べちゃあっ。
「あ、あーあ……」
 様子を見ていたみりがため息をつく。
 武尊とアクィラが二人でもつれて転がっていった先には、みりが仕掛けたイタズラ『勇者ホイホイ』があったのだ。
「ここは撤退だわ……」
 みりは、素早く姿を消した。
「べ、べたべたする……」
「身動きが……とれねぇぜ」
 武尊とアクィラは見事に張り付き、身動きがとれなくなってしまった……。
「アキラ様、お陰で助かりました。ありがとうございます!」
「あの、アキラじゃなくてアクィラ……」
「後ほど助けに参ります。……では皆さん、先に進みましょう!」
 ホイホイにとらわれた二人を残し、勇者まゆみ一行は先に進むことにした。
「まあ……盛り上がったし、いいか」
 アクィラはやれやれと息を吐いた。
「へへ。後ろ姿もいいアングルだぜ……」
 まゆみの姿を見送りながら、武尊がにやりと笑った。

『敵の刺客をはねのけたまゆみ。だが、敵の攻撃はまだまだこんなものじゃあない! どうなるんだ、勇者まゆみ!』