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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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1-07 再び、本営

「……ええと、それで何故に一条殿は玉座に座っておられるのでしょう」
 一条、「……」
 それはたぶん、そこに玉座があるから。
 一条、「で、状況は?」
 戦部、「……」。クレア、「……」
 騎狼部隊、レーゼ部隊は出陣した。パルボンもすでに本営にはいない。
 ここへ、地勢などを見てきた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)も戻ってくる。
「どうされましたかな? 皆さん」
 ともあれこうして、戦部、クレアに、【騎狼部隊副官】として騎狼の諸々を預かる(もしや騎狼部隊を裏で操る?)一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)、新人裏方候補(?)の道明寺が加わり、まずは臨戦下となった今の状況に必要なことについて簡単に会議が持たれることになった。
 一条は、戦部の産業振興策に密かに関心を寄せているのだが、目下今は戦闘態勢にあるので、そちらは少し後回しになる。もっとも一条のパートナー、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)はすでにそのための営業に出ていることになるのだが。
 道明寺は、町が戦場になることで出るだろう負傷者の救援について案を述べる。
「それがしとしては、負傷者を収容できる場所を用意したいところですな。医療品についても、集めておくべきかと」
 騎狼部隊の一条としては、
「負傷者の救助活動には、騎狼を。とくに、いちばん被害を受けそうな貧民窟へは、是非援助を行いたいです。
 戦争が起こってしまった以上はバンダロハムも、ウルレミラも関係なく、民については救援を行うことで、教導団の懐の広さをアピールすべきです」
 もちろん、騎狼の有用性のアピールにも。
「それに、ここが湖沼地域であるからには、船ですな。
 それがしは、自由に動かせる小船などが使えるかどうかが、今後の活動を左右するであろうと思いますな」
 貧民窟、船となれば湖賊や、あるいは沼人。各地で動いている者がすでにいることになるわけだが、まだ全体を結ぶ線が見えてきていない。
 実は教導団からも、こういった最新状況を調査し把握すべく、比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が潜入しているのだが、まだ連絡はない。
 産業振興策(……引いては第四師団の独立を?)実現に向けて大々的に展開させてゆきたかった戦部としては、まさにこういったことをまとめあげていきたいところだったかも知れないが……いきなり戦いとなってしまい、しかもパルボンに本陣を任されてしまったことで、彼の頭の中は戦の図一色に書き換えられてしまっていた。
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね」



1-08 境界戦

 戦端の開かれたバンダロハム北の境界。
 先陣を切った岩造とフェイトに続き、浪人の先頭集団が隊長に続いて勢いよく切り込んでいく。
 それに続いて、浪人の半数はぞろぞろと軍勢に足を向け始めた。
「お、おい、あっちを見ろ」「むう」「まずくないか?」
 黒羊軍の右翼が動きを見せた。
 浪人勢の最後尾は及び腰である。
「ここで逃げるな、逃げたらおしまいだ、逃げるは死ぬと言う事だ!」
 いつもは無口な岩造の部下ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が、ここはと厳しく一喝する。
「最後まで全員が生き延びていくように戦っていくんだ!」
「そんなぁ」「大丈夫なのか」「勝てるのかよぉ?!」
「気合を出していくながら戦っていくんだ!」
 ファルコンは岩造の指示により、飴と鞭で浪人をまとめていく心積もりだ。
「君達?!」
 最後尾の数人が逃げ出した。
「待て!」
 カルラだ。
「教導団はいずれ国軍になる。後で仕官できりゃ正規兵、手柄を立てりゃ上も目指せるってことだ。
 だから、もしものときはバカを見捨てても教導団は裏切らない方がいい」
「むむ……君、岩造様のことをバカと言ってはいかんよ?」
「わかってるぜ。ファルコンの旦那。
 とにかくここは、浪人を瓦解させないことだ。ちゃんとした戦術指揮ができなかった場合は、笛の合図で俺が一時離脱の指示をするぜ。おう浪人の仲間よ、そうなったら負けの責任は全部バカにおっかぶせて、俺達は遊撃隊として本隊に協力するんだ」
 カルラは後方の浪人らに言い聞かせ、思い留まらせると押されている先頭集団へ向かった。
「ほ、本隊が来るのだな?!」
「ああ」
 その一言も浪人らを勇気付けた。
「むう。あの者、確か教導団の新入生名簿で見た顔と……?」
 ともかくファルコンは、後方から監視を続ける。
 カルラの肩にぴったりくっつく、小さなドラゴニュート。「初歩的編成や運用もしないなんて……」
 彼の傍には、獣人の姿もある。「ただでさえ低い士気をさらに下げてどうすんだよ……恐怖で統率なんざ、懲罰部隊みたいに帰る場所がない奴らにしか効果ねぇだろうが。不満がどんどんふくれるだけだぞ」
オルパン
 あのバ……いや、岩造隊長さんが、統率の取れた戦術指揮を執れば、龍雷は成長する。自分達は、今はそのためにも浪人がここで脱落しないようにするのだ」
「わかってるって!」
「じゃあオレは、先頭集団の方へ行くぜ。岩造の戦いっぷりも見てきてやるか」
「討たれるな?」
「ああ、任せな」
 パンと呼ばれた獣人は速度を上げて前方へ。
 浪人らは何とか士気を維持した状態だが、やがて、バンダロハムから手練の傭兵勢がやって来る。そうなれば……
「黒乃さんの方は大丈夫だろうかね? 有能な指揮官と聞くけど?」
「見せてもらうとしよう。とにかく、自分達はここを何とか持ちこたえさせねば」



1-09 黒豹小隊、初陣!

 さて、黒羊旗と挟撃し、龍雷連隊を討たんと貴族館から出撃した傭兵勢を足止めするべく展開するのは……
「音子。あんたにまた会えるなんてね〜。
 で、以前貸してた金はどうしたんだい? まさかー荒巻鮭買ったんじゃないだろうな〜〜!!」
 と言うのは、ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)
 黒乃 音子(くろの・ねこ)の幼馴染にして、悪友で戦友。同じ境遇で戦場を経験した仲、である。
「〜〜……えーと。まあ、それはまた後でね」
 この度、黒乃の立ち上げることとなったLa Panthere Noire――すなわち【黒豹小隊】の一員として参戦する。
 こちらは、ロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)もまた。黒乃のパートナー、フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)とは、母国フランスの中学時代の先輩後輩の仲。フランス陸軍士官学校(サン・シール)より編入してきた。黒豹小隊の火力指揮官だ。彼のスポッターとして、アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)、剣の花嫁が後ろに控えている。

 更に一行の後方で、でんと構えるのは……
 フランスの重戦車(32トンのWWW2時代の戦車)ルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)(B1bis)、主砲17口径75ミリ対戦車砲SA35、備砲30口径47ミリ戦車砲SA34(説明書より転載)。……型の機晶姫だ。「あの〜……私。自信ないのですけど〜〜」。ジャンヌのパートナーである。
 盟友たる岩造の龍雷連隊を助けるべく、北上する傭兵勢を迎撃する。
 前方に立つ、ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)が、敵の姿を見とめた。
「さあ音子。敵のおでましやで」
「よしっ、かかっておいで!」



 騎士カチュアが、前方に展開する一隊を見て傭兵ら一同を止める。
「待って!」
「メニエス様……!」
「こんなところに教導団の小隊か。……ええい邪魔な!」
「わたくしにお任せを」
 牙を剥くミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)
「待ちなさい。ミストラル。
 ……こいつら、数が少ない。私達の目的はあくまで、境界にいる敵部隊の挟撃」
「ぎゃはは。いたぜいたぜ!」「おうおう、いやがったな教導団」「何かしらねーがよーお前たちをよー殺せってことだからよー。死んでくんね?」
「待ちなさい」
 メニエスとミストラルは傭兵どもを制止し、ざっと敵陣を観察する。
「ぎゃはは。何?」「おうおう、どうした。やんねーのかよ」「とにかくよー早く斬りたくてよーうずうずしてんだがよー。とっとと始めねぇ?」
 銃火器を主力とした一隊のようだ。……あの後方の戦車は何だ? 厄介な。
「ここは、ボクたち黒豹小隊が通さないよ!」
 指揮官は見覚えがある。わかっている限り、あのパートナーも手練れ。下手に斬り込んで兵力を減らすのはまずい。
「お、おおお? どしたよお?」
ドリヒテガ。こいつらが教導団だ。言ったね、赤い服と緑の服を来たやつを見たら食べていいと」
「ぐふへへ。うまそうだなあ」
「待ったっ!」
 相手の指揮官が出てくる。
「ドリヒちゃん! ボクは黒乃 音子。
 ボクたちと一回っきりで戦うのと、これから起こる出来事や戦いに身を投じて共に戦うのとどちらが好み? ボクも夢はお腹いっぱいご飯を食べることなんだ! ドリヒちゃんも同じなんじゃない? ボクたちと一緒に世界中を食べ歩いていこう!」
「その食い気を我らに貸して、お前は我らと戦場を渡り歩かぬか?!」
「ニャ、仲間は多い方がいいのニャラ」
 フランソワ、ニャイールも、ドリヒテガに語りかける。
「おおお?」
「ドリヒテガ、言った筈。教導団の肉は美味いよ?」
「お、お、まずおまえらのにに肉食わせろ!」
 黒乃に飛びかかるドリヒテガ。
「わっ。ドリヒちゃん!」
「音子、危ない!」
 とっさ、光条兵器ウォーハンマーを手にフランソワが出る。ドリヒテガを阻むが、
「う、くっ……な、何て力だ」
 こうなっては仕方あるまいか……ロイが、手を挙げた。
「いかなる勢力でもこの先を通すわけには行かない!
 小隊火力を惜しむ事無く正面の敵に総て注ぎこめーぇ!!!」
「た、対戦車榴弾……」
 を放つ予定だったが、初陣の緊張からか、ビーワンビスはツインスラッシュを放って傭兵のど真ん中に突っ込んでいった。
「ぎゃは?!」「おうお、あ、危ねえ!!」「やってられねーよなー」
「ビーワンビス!
 ええい。とにかく今だ!」
 ニャイールのシャープシューター! 続いてジャンヌも銃を抜く。狙いは、敵陣の後方。傭兵勢の後衛に位置する魔術師、射手などの一部が倒れた。
「まずい、兵が……やむを得ないわね。忌忌しい、私の手を煩わせるとは!
 ファイアストーム!」
 メニエスの手から放たれた炎が、小隊を包み込む。
「今だ! 行け!」
「おのれ、通すか!」「ニャー!」
 傭兵勢のうち、手練の剣士や身軽なモンク、ローグら十名程が黒乃の防衛ラインを抜けた。
「お前達! そのまま境界へ向かうのだ」
「おうおう。これだけいれば十分だぜ!」「俺達がよー本隊をよーぶっつぶしてよー戦功第一奪いとってやっぜ」「忍……忍……」
「メニエス様!」
「ミストラル。行きなさい!」
 ミストラルも、境界へ向かう集団と共に。
「うがぁぁ!」
「おっと。ドリヒちゃんは通さないよ!」
 ロイが再び手を挙げる。
 弾幕が来る。
「ちっ……おのれ。魔道師・射手はこの場は下がらせる。迂回して境界に合流するわ。私に付いておいで!」
「なんだかしんねえが、女。貴様えらそうにしやがって、いつから俺らのリーダー気取りだ」
「焼かれたいの? あなたの腕じゃ私には勝てなくてよ?」
「くっ、わかったよ。早く導けや」
「ドリヒテガ。あいつら、残らず食ってしまうのよ。わかった?
 騎士カチュア。残った傭兵を指揮しここを片付けてくれる?」
「ええ、……わかったわ」
「ぎゃはは。ここは俺達に任せな! あの指揮官の首級取ってやる」
「では、あたしたちは、こっちへ!」
 傭兵から更に、後衛の十名程が抜ける。
 黒乃らの銃弾に倒れたのは七、八人。
 残る八名程の手練が、黒豹小隊と向かい合う。数ではほぼ互角。しかし敵には、ドリヒテガが健在だ。
 後ろの傭兵はどうでもいい。だけど、
「ドリヒちゃん! ボクはどうしてもドリヒちゃんがほしいんだ!」
 言ってみた。ドリヒテガ……彼(?)は呂布並みに得がたい戦力であると。
「が???」
 メニエス、「……」。カチュア、「……」