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リアクション
第2章 心を乱す悪魔
「敵に会うと面倒だ・・・静かに探そう・・・・・・」
声を潜めてグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちは、オメガとイルミンスールの生徒たちを救い出そうとクリスタルを探し慎重に歩く。
「(私は・・・鏡は苦手です・・・)」
鏡から森へ入る前のソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は少し躊躇っていた。
自分がグレンと違う存在、“機械”だという現実を突きつけられるからだ。
「(俺・・・こう静かにしてるの苦手なんだよな・・・)」
李 ナタ(り・なた)としては敵に見つかっても構わないが、グレンとソニアが怒るからと、喋らずに静かにしている。
「おっ、向こう側に誰かいるな。格好から生徒のようだけど、ここからじゃよく見えないな・・・」
ドッペルゲンガーかもしれない相手に気づかれないように身を屈め、慎重に近づいていく。
「―・・・グレン?あれ・・・さっき俺たちと一緒にいたのに、なんであんなところに・・・」
目を凝らしてじっと見ると、見知った顔の人物が木々の中を歩いていた。
「(何だかこっち見てるような・・・)」
ドッペルゲンガーのグレンは足を止め、ナタクが隠れている方へ顔を向ける。
「(もう1人来た・・・あれは・・・・・・俺か!?)」
彼そっくりのドッペルゲンガーが薄暗い林の中からやってきた。
なにやら2人で会話をしているようだったが、彼の方には聞こえない。
「(うわヤバッ!こっちに来る!!)」
気づいたのか会話を止めて向かってくる。
素早くその場を離れ、木の傍に隠れた。
傍まで接近してきたドッペルゲンガーのグレンが周囲を見回すと、見つけられなかった様子で、そこから離れていく。
ほっと安堵し、グレンたちの方へ戻っていった。
薔薇の学園に土産話でも持って帰ろうとハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)は森の中を1人で歩いていた。
のんびりパートナーのクハブスや他の薔薇学の人間と、薔薇園でお茶をしているとミニたいふうから手紙が届いた。
時間もあるしちょこっと行ってみようかという感覚だ。
「・・・・・・怖い所だって聞いてたけど、わりとつまんない・・・」
怖いという感情が欠落している彼に恐怖心はない。
「へぇ〜つまらないんだ?ハーポクラテス・ベイバロン。一体ここへ何しに来たのさ」
聞き覚えのある声に反応し、ぱっと後ろを振り返ると同じ姿をした存在が冷たい視線を向けていた。
「そんなんじゃあ、また子供時代みたいに人として扱われなくなるよ?」
「―・・・そんなのとっくに過去のことだよ」
「ただそこにいるだけの存在、人形のように扱われ、だれも人として見ようとしない・・・」
過去として終わらせようとしているハーポクラテスに、ドッペルゲンガーはさらにほじくり返してやろうと言葉を続ける。
「ハーポクラテス・ベイバロンという人間の存在は必要はないといっているんだよ」
「僕が必要とされていない・・・?」
「いるだけでいいんだから、名前も言葉さえもいらないんだよね。顔だけで個人証明できるという人もいるかもしれないけど、ハーポクラテス・ベイバロンの場合はどこかの綺麗な人形という存在・・・個人を証明できるものは何もないんだよね」
ドッペルゲンガーは平常心が乱されていく様子を見ておかしそうに笑い、昔のことを思い出して怯える彼を精神的にいたぶり楽しむ。
「誰もハーポクラテス・ベイバロンとして必要としない。この先ずぅーっとその扱いが変わらない。はっきりいって生きてなくてもいいんだからさっ」
「どういうこと・・・それ・・・・・・」
「人間でなく人形と見られることが、どいうことかわかる?だから老いる前に何も痛みを感じない、ただのお飾りの動物のように剥製にされる・・・。それがハーポクラテス・ベイバロンの結末さ!」
「また虐待される・・・いやだ・・・いやだぁっ」
「つまらない人生にさっさとバイバイしなよ。消えろぉおっ!」
くだらない人形劇を終わらせるために、ドッペルゲンガーが白の剣をハーポクラテスの頭に突き下ろす。
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が白の剣の刃をカタールで防ぐ。
「そいつはだれも必要とされないんだ、生きていてもしかたがない存在なんだよっ」
邪魔をするザカコに偽者のハーポクラテスが怒鳴り散らす。
「いらない命なんて、この世に存在しません!」
「何を偉そうに・・・人間としての人生をまっとうに生きていけないヤツがどんな末路を迎えるか分かってていっているの!?」
「どういう道を歩み、どんな結果を得るかはその人の選択しだいです。誰かがどうこう指図するのは筋違いでは?」
視線を逸らさず、ハーポクラテスを偽者から引き離そうと、徐々に相手と距離をとる。
「あなたはどうしたいんですか・・・」
「―・・・僕は・・・人間でいたい。・・・・・・人間として生きていたいよー!!」
「そう・・・それが人としての答えです。早くここを離れましょう、他のドッペルゲンガーを呼ばれたら厄介です」
ザカコは彼の腕を掴み、その場から逃れる。
20分ほど歩いたところでハーポクラテスはぐったりと疲れてしまった。
精神的に追い詰められてしまったことも影響している。
代わり映えしない景色に、真っ暗な空の下を歩き続け、何時間も歩いているような感覚だった。
「ここまで来ればとりあえず大丈夫そうですね」
「うん・・・・・・」
足を止めてハーポクラテスは木に寄りかかる。
「隠れてください、誰か来ます・・・」
「人間・・・?」
「ドッペルゲンガーかもしれません」
ザカコは彼を守るように前へ立ちカタールを構えた。
やってきたのはドッペルゲンガーではなく、人のようだった。
背丈はザカコより少し高く、すらっとした体系の口数の少なそうな整った顔立ちの青年が、細身の長剣を携えている。
「こんにちわ、何をしてるんですか?」
警戒心なくハーポクラテスは光る青の双眸で見つめて話しかける。
「友がこの森に連れ去られたと聞いてな・・・ここから助け出すにはクリスタルを全て破壊しなければならない」
「・・・・・・え、クリスタルの破壊?」
少年はきょとんとした顔をして首を傾げて聞く。
「ミニたいふうから送られてきた手紙には、イルミンスールの生徒たちもここへ引き込まれたと聞きましたけど。それを壊せば皆、もとの場所に戻れるんですか?」
「6つ全て壊すことで、森へ引き込まれた者たちはもとの場所に戻れる・・・。犠牲者が出る前になんとかせねばな」
「えっと・・・他の生徒たちにもその協力を頼み歩いていた人ですよね?名前はたしか・・・レヴィア・・・・・・」
「あぁそうだ」
「じゃあ僕も一緒にお手伝いします」
生徒たちを助け出そうと、ハーポクラテスもクリスタル破壊に協力する。
「近くにクリスタルを探している生徒たちがいるようだから、その者たちと動向してもうらとありがたい」
「一緒に行かないんですか?」
「まとまって探すより、分担して探すほうが効率がいいと思ってな」
「うーん・・・そうですね」
ハーポクラテスとザカコはレヴィアと離れ、近くでクリスタル探しをしている生徒たちと合流することにした。
「レヴィアが言っていたクリスタルを探している人たちってあの人たちかな?」
ザカコがハーポクラテスの視線の先を見ると、グレンたちの姿があった。
「殺気看破の能力が反応しませんから、ドッペルゲンガーではないようです」
ゴーストを引き寄せないように呼びかけず、小枝を投げて気づかせ駆け寄る。
「協力者が増えるのはありがたいな」
気づいたグレンたちは足を止めて協力し合う。
「探索に集中している間、自分が敵の警戒をしましょう」
「あぁ頼んだ」
「自分の友のドッペルゲンガーなんかに遭遇したら危険ですからね」
「―・・・どれくらい危ないんですか?」
ソニアは不安そうな顔をして聞く。
「なんというか核爆弾のような感じですね・・・」
「そんなに危ないんですか!?あぁっごめんなさい。つい大きな声を・・・」
目を丸くして驚き、ソニアは思わず大きな声を出してしまう。
「えぇそれはもう・・・・・・人類の最終兵器的な存在です」
「最終兵器・・・・・・」
ザカコの言葉に生徒たちは、もはや人ではなく進化した機晶姫をイメージした。
「やべぇよ、そんなの遭遇したくねぇ!」
ナタクはぶるっと身を震わせる。
「静かに行きましょう・・・静かに」
「そ・・・そうだな・・・・・・」
恐ろしい者に遭遇しないようにソニアとグレンは、探索当初よりもさらに小さな声で喋る。
「ねぇ・・・クリスタルってこれ?」
ハーポクラテスが池の中に沈んでいるクリスタルを発見した。
「そうみたいだな」
「こんな物は破壊します!」
加速ブースターの速度で一気に間合いを詰め、ソニアはソニックブレードの凄まじい剣風の刃で池の中のクリスタルを破壊した。
「―・・・っ!何かここへ迫ってきます・・・」
木々が揺れ森がざわめき、サササッと草の中を何かが移動する音が聞こえた。
危険を感じとったザカコがカタールを構える。
「ドッペルゲンガーか?」
「いえ・・・この気配はゴーストですね。まだこの距離感なら逃げ切れると思いますけど・・・。こんなとこで憑かれたら洒落になりません。急いで離れましょう!」
迫り来るゴーストから逃れるため、彼らは急いでその場を離れた。
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