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リアクション
第4章 陥れる冷酷な眼差し
「今回は森か・・・何が出てくるんだろうな」
ドッペルゲンガーの噂を聞きつけたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、ショットガンを手に森の中を歩き回っていた。
「かなり暗いな・・・足元とかには気をつけねぇとな・・・」
ゴーストタウンと同じく、漆黒の空に覆われているせいで視界が悪い。
ズダダダンッ。
背後から突然銃弾を発砲され、とっさに屈んで避けるものの、弾丸がラルクの右肩をかすめた。
「へぇ、本当に出るのな。おもしれぇ!!」
銃弾を放った相手に喜々として赤色の双眸をギラつかせる。
視線の先にはラルクとまったく同じ姿の人物が彼に銃口を向けていた。
「(まずは接近戦にもちこんでみるかっ)」
自分の偽者が発砲した瞬間、鬱蒼と茂る木々の間に飛び込み攻撃の隙を窺う。
「―・・・向こうも隠れやがったか」
相手もラルクと同じく木々の中へ隠れて襲撃の隙を狙っているようだ。
「さて・・・どこから来るのか・・・」
息を潜め草むらの隙間から顔を覗かせて周囲を見回していると、背後からギリリッとトリガーを引く音が聞こえた。
「それがお前の修行の成果か?」
彼はターゲットの頭に銃口をつきつけてニヤリと笑い、ショットガンのトリガーを引いた。
ダァアンッと銃声が轟く。
振り返り様に銃身を蹴り上げ回避するが、放たれた銃弾が額をかすめ、ツゥーと頬へ赤い血が流れる。
「炎の弾丸で焼かれて消えな!」
銃口の照準を合わせ、ラルクがターゲットの胴体を狙い撃つ。
ラルクのドッペルゲンガーも同時に銃弾を放ち、2つの弾丸がぶつかり合い弾け飛ぶ。
「流石に同じ手を使ってくるか?おもしれぇ!」
大木を蹴り木から木へと移動し、軽身功の素早い身のこなしでターゲットとの間合いを詰め、ドラゴンアーツのパワーを纏った拳で殴りかかる。
「その程度の温い打撃じゃあ俺は倒せねぇぜ?もっと殺す気でかかってこいやぁあーっ」
急所の心臓を狙うが両腕でガードされ、左脇腹に銃弾を撃ち込まれてしまう。
「お前は何のために戦う?・・・何のために強くなるんだ?」
「―・・・・・・・・・。(俺が戦う理由・・・)」
「どうした、理由が言えないのか?それともあまりの激痛のせいですでに声もでないのか。だったら・・・・・・さっさと逝っちまいな!」
グリッと銃口をラルクの喉元につけ、トリガーに指をかける。
「なるほどな・・・。隙・・・見つけたぜ」
「―・・・何だと・・・?ごぁあっ!!」
トリガーにかけた指が生命を握ったと、余裕をかましている相手に膝をガンッと蹴りつけた。
「今の蹴りで確実に骨逝ったよな?」
「ちぃっ・・・・・・」
「俺が戦う理由・・・そんなの決まってんだろ。誰よりも強くありたい・・・ただそれだけだ」
「まだだ・・・まだ俺は・・・・・・」
「これで終いだぜぇえ!地獄の炎をくらいなぁあっ!!」
ラルクのショットガンがドッペルゲンガーのラルクの頭を打ち抜き、辺りにビシャシャァアッと脳漿が飛び散る。
「(銃使いは足元を警戒を怠りやすいようだな)」
動かなくなった自分に似た存在を見下ろし、彼は己と戦った修行で弱点を学んだ。
「へ・・・俺はもっともっと強くなれそうな気がするな!」
ショットガンを右肩にトンッと乗せ、まだ高みに昇れる自分の可能性に喜び笑う。
「意外とえらい騒ぎみたいねえ。ま、クリスタル壊せばどうにかなるんならそうしようか」
鏡から死の匂いに満ちた森に引きこまれた人々を助けるため、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は背の高い草をかきわけてクリスタルを探し歩く。
「破壊すれば引き込まれた人たちは元の場所に戻れるんだよな?」
椎名 真(しいな・まこと)が彼の隣を歩きながら考え込むように言う。
「そうみたいだね。自分たちに似たドッペルゲンガーが出るみたいだけど、どんな感じなんだろう・・・」
「できればそんなのに会いたくないけどな」
首をフルフルと振るい、真は苦笑いをする。
「―・・・残念だけど、出会っちまったようだ」
カガチと真とまったく同じ姿をした人間が、ゆっくりとした足取りで彼らへ近づいてくる。
「ドッペルゲンガーの俺たちもつるんでるんだな・・・」
冷たい眼差しを送る2人のドッペルゲンガーに対し、鉄甲をはめた拳を握り隙を窺う。
「見なよカガチ。獲物が2匹、のこのこと向こうからやってきたよ」
「本当だねぇ。あっちから殺されに来てくれるなんて・・・」
「俺たちは森へ引き込まれた人たちを助けるためにクリスタルを破壊にしただけだ。生憎、君らにくれてやる命なんてここには持ってきていない!」
自分たちになり変わろうとしている彼らに拳を向けて怒鳴る。
「可哀想に赤の他人のやつらのために、ここで朽ち果てるなんてな」
真の言葉にドッペルゲンガーの真は小ばかにしたようにクスクスと笑う。
「なぁどっちを殺りたい?」
「んー・・・じゃあ俺は向こうの椎名くんを優しくいじめ殺してあげようかな」
ニヤニヤと薄笑いを浮かべ、もう1人のカガチが真を狙い、バスタードソードを振り下ろす。
「その程度の斬撃じゃあ俺には当たらないぞ」
鉄甲で受け流しながら火術を放ち、友の姿をした偽者の刃を避ける。
「ちょろちょろ鬱陶しいやつだ・・・。さっさとくたばれよ!どうせあんたは誰も守れやしないんだからよぉお!」
「―・・・そ・・・そんなことはない!」
「そうかなぁ?あんたは誰も守ることができない。なぜなら・・・俺が守るとかほざいといて結局、あんたが守られてんじゃないか」
動揺の色を見せた真に、もう1人のカガチはニヤリと笑い、彼の精神を激しく揺さぶる。
「仲間を守るために戦っているつもりが、その仲間に守られている。そんなあんたが誰かを救えると本気で思っているのか?」
「俺は・・・・・・皆を守るためならこの身がどんなに傷つこうとも戦い続けてきたんだ・・・。仲間たちから助けられることもあるかもしれないけど、それは・・・互いに助け合ってこそ戦えるってことで・・・」
「いいかげん助けられているのがあんただって気づいたらどうだい。本当はもう気づいているだろう? 自分自身が仲間たちに助け守られていることに」
「だって俺は・・・必死に皆を・・・・・・。あれ・・・いつ助けたことがあったけ?―・・・なんで・・・思い出せないんだろう・・・」
真は膝を地面につき、頭を抱えて記憶を必死にたどる。
「何を見てる!何をきいてる!俺はここだ!」
呼びかける友の声すら、もはや彼の耳には届かない。
「クソガキフェイスの執事、結局あんたは何もできないんだよぉおお!」
ドッペルゲンガーのカガチが真の背をドンッと踏みつけ、踵でグリグリと痛めつける。
「なぁどうやって殺されたい?踏み潰されるか、首の骨へし折れたいか・・・それとも内臓を捻じられたいか。どれでも好きなのを選ばせてやるよ」
真の襟を掴み木に叩きつけ、手にしている剣を彼の腹部にズブリと刺し込む。
「ほら答えろよ。答えないなら、じっくりと死んでいく感覚を味合わせてあげるよ」
動物をいたぶるようにクスリと笑い、柄をグリンッと回転させて剣を引き抜き、わざと急所を外しながら真の身体を何度も刺す。
ズシュッ、ビチャァッ。
刺し口から鮮血が噴出す。
「―・・・俺は本当に誰も守れなかったのか?誰も・・・」
「何を言っているんだ真!あんたは病棟で悪霊に憑かれた俺を助けてくれたじゃないかっ」
「たしかに俺は守られてばかりかもしれない・・・。だけど・・・こんな俺だって大切な友を救うことができたんだぁああ!」
消え入りそうな意識の中、友の声が真のようやく耳に届いた。
身体に刺さっている刃をぐっと握り、偽者のカガチの首を掴む。
「なっ何しやがる、離せ・・・離せクソガキーー!!」
瞳に闘志を取り戻した真が、氷術で偽者の身体を全身凍てつかせ、ヒロイックアサルトのパワーを込めた拳で叩き割る。
「―・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・ちょっと血流しすぎたみたいだ」
「休んでいてくれ。椎名くんのドッペルゲンガーは俺が倒すからさ」
「よくもカガチを殺したな・・・。でもまぁ、その傷じゃあとうぶん動けないだろうけど」
親友を殺された憎しみに満ちた眼つきで真を睨み、ダンッと土を蹴って殴りかかる。
「おっと・・・あんたの相手は俺だってぇの」
深手を負って戦えない友に代わり、バスタードソードの刃で鉄甲の打撃をガードした。
「邪魔するなよ」
「そんなこと言われも、退くわけにはいかないんだよね」
「なんかムカツクな・・・。退かないなら殺すけどいい?」
火術の気を纏った鉄甲で殴りかかる。
真と同じ能力を持つ力の相手に、反撃の隙を見つけられないカガチは防戦を強いられてしまう。
「反撃してこないなら、その剣・・・叩き折るよ」
冷酷な口調で言い放ち、カガチの武器を破壊しにかかる。
「くぅ・・・調子に乗って俺の剣を殴りやがって・・・」
もう1人の真が繰り出す重い衝撃に、徐々にカガチの体力が削られていく。
「はぁ・・・なんか飽きた。もう死んでよ」
「ぐぶはぁあ゛っ!!」
脇腹に拳を叩き込まれ、骨がミシミシと鳴る。
「―・・・い・・・う・・・・・・な。死ねとか軽々しく、椎名くんと同じ顔で言うな!」
「はぁあ?何それ、笑えるんだけど。だったらもう一度いってあげるよ。―・・・死ね」
「この偽者野郎ーー!!」
ツインスラッシュを放つが、軽々と避けられてしまう。
「なぁ、どうしてヒールを使わないんだ?」
「―・・・あんたにそんなの使わう必要だないからだよ」
「ふぅん・・・使わないんじゃなくて、本当は使えないんじゃないのか」
「だ・・・だったら何だっていうんだ!」
「ヒールすら持ってないの?はは・・・」
ドッペルゲンガーの椎名は、クスクスと見下したように冷笑する。
「半端で出来損ない・・・なんでそんな君が、俺と友達なんかになれるんだ?」
「俺の友達はそこにいる椎名くんだ。あんたなんかじゃないっ」
「そこにいるやつと俺は同じ存在。否定するっていうことは、そこにいる椎名真も友達じゃないっていうことだけど?」
カガチを精神的に追い詰めてやろうと嘘の言葉を吐く。
「暴力しか能のない、出来損ないの役立たず。そんな君が俺と友達なわけないだろう!」
耳元で囁くように言い、カガチの鳩尾に蹴りを入れた。
「さっさと死ね、出来損ない」
土の上から立ち上がろうとする彼の髪を掴んで振り回し、大木へ投げつける。
「苦しみながらナラカに沈め・・・」
絞殺しようとカガチの首を両手で掴んだ。
「そいつは俺じゃない、俺じゃないんだ!」
ズルズルと這いながら真は、ぐったりと地面に倒れ込む彼へ必死に呼びかける。
「俺はここだ、ここにいる・・・!虚像は容赦なくぶち壊してくれ!」
「へっ・・・また助けられちまったな」
絶望の淵から生きる気力を取り戻したカガチは、拳に怒りを込めて偽者の真の顔面をブン殴った。
「君にこの俺が殺せるのか!?」
「あぁ、ぶっ壊してやるさ。あんたは俺が知っている椎名くんじゃない」
立ち上がった彼は口に溜まった血を土に吐き捨て、虚像へ剣の刃を向けた。
「何を言っているんだ。俺は椎名・・・椎名真だ」
「違うね。なぜなら・・・椎名くんは誰よりも、命の重さを知ってるからだぁあっ!」
二度と喋れないように口へ手を突っ込み舌を引き千切った。
ヒロイックアサルトを繰り出すドッペルゲンガーの真を、ソニックブレードの凄まじい剣風で斬りふせる。
真っ二つにされたもう1人の真の胴体が草むらへ転がり落ちる。
まだ怒りがおさまらない彼は、素手で臓物を掴み振り回す。
ビシャシャァアッ。
大腸や消化器官が木の枝にだらんとぶらさがり、ボタボタと血が滴り落ち、緑の葉を真っ赤に染める。
「さすがにちょっとヤバかったかな・・・。椎名くん立てるかい?」
「まぁなんとか・・・。森に連れて行かれた人たちも、こんな嫌な思いをさせられているんだろうか」
「そうかもしれないね・・・」
「一刻も早くクリスタルを壊して助け出そう!」
カガチと真は深手を負ってしまった身体の痛みを堪えながら、クリスタルを破壊しに向かった。
「この森にオメガさんが連れ去られたと聞いて助けに来ましたが見つかりませんね・・・」
森に茂った背の高い草をかきわけながら緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、オメガの捜索中に偶然出会った仲間の生徒と共に連れ去られた魔女を探していた。
「どこにいるんやろなぁ・・・」
七枷 陣(ななかせ・じん)は草のない広い平地に出て周囲を見回す。
「あれ、ヨウくん。さっき向こうの方にいたような・・・気のせいなんかな」
草が覆い茂る地帯を探索していた彼が、突然離れた場所を歩いている姿を見つけ、不思議そうに首を傾げる。
「なぁ、そろそろ別のところ探してみないかー?おぉーい・・・。おあぁあっ!?」
振り向き様に氷術を放たれ、避けるのが遅れたら氷漬けにされるところだった。
「―・・・んなっ・・・。いきなりなりするんや!」
「ちょっと凍らせて砕いてみようと思っただけですよ」
遙遠は冷たい表情で言い放つ。
「本気で言ってるように聞こえるんやけど・・・」
「冗談のように聞こえるなら耳の治療を受けにいってはどうですか」
「い・・・今のはいくらヨウくんでもあんまりじゃないか・・・ちょい傷ついたし」
酷い物言いにムッとしながらも拳を握り、陣は怒りを抑える。
「何があんまりなんですか?」
「―・・・へ・・・、ヨウくんが2人!?」
同じ姿をした酷い言葉を浴びせる遙遠と、背後からぬっと現れた遙遠を見比べる。
「ついに現れましたか・・・ドッペルゲンガー」
「ていうことは・・・あのヨウくんは偽者なんかい」
「えぇそうです」
「はあ〜よかった・・・。いやぁ〜やっぱヨウくんがあんな暴言を吐くからおかしいなーと思ったんや」
「どうやら逃がしてくれそうにないようです。無駄な体力を消耗したくはなかったんですがね」
木の陰から姿を現した陣とそっくりな人物を睨むように見据える。
「はぁ〜・・・ここまでそっくりだとはねぇ。ねぇヨウくん?お互いのドッペル、交換せん?」
「そしたら遙遠は陣さんのドッペルの相手ですか・・・」
「仲間内ではさすがに出来んかったけど、一度やってみたかったんよねぇ。焔の魔術士VS氷雪の魔術師ってのをさ。どう?」
「なるほど・・・面白そうですね」
「そんじゃいっちょ暴れますかぁあっ!」
手の平をもう1人の遙遠に向け、火術で作り出した矢を放つ。
「まだまだぁ、セット!サンダーブラスト!!」
球体のプラズマがドッペルゲンガーに直撃し、衝撃で辺りに煙がたちこめる。
「ふぅ・・・この程度で遙遠と戦うとほざいたんですか」
氷術による氷の壁でガードされ、術を全て防がれてしまった。
「今ので終わりですか?でしたら・・・今度は遙遠の番ですね」
バーストダッシュのスピードで大木へ駆け上がり、氷術で作り出した氷の槍を陣の脳天目掛けて投げつける。
「そんなのオレの術で溶かしてやる!・・・ぶぁっ、あちぃいい!!」
迫り来る氷の槍へ火術を放つが、溶けて熱湯になったお湯を頭から被ってしまう。
「もうちょい離れたとこからにすればよかったようやね」
熱湯を被って負った火傷をヒールで癒す。
「頭を使わずに術を発動させるとそうなるんですよ」
「―・・・い・・・今のはちょっとしたミスや!」
深いため息をつくもう1人の遙遠に向かって大声で反論する。
「ヒールなんかよりも、もっと手っ取り早く冷やす方法を教えてあげましょうか」
「回復系の術で以外で直せる術なんてあるはずが・・・」
「ありますよ」
さらっと言い放つ彼に、その方法に興味を示した陣がちらっと視線を送る。
「もったいぶらないで早く言えやっ」
なかなか言をとしない相手に苛ついた陣はダンッと地面を踏み鳴らす。
「それは・・・」
「―・・・それは・・・・・・?」
「その身を氷で覆うことです」
「え・・・・・・。んなっ・・・!?」
陣を取り囲むように、周囲に氷術による冷気が発生し始めた。
ピキッ・・・ピキキッ。
どんどん足元から凍りついていく。
「後・・・数分もすれば完全に凍りつきます。そうすれば熱湯の火傷も冷え、何も痛みを感じなくなります」
「オレを騙したのか・・・」
「騙す?心外ですね。痛みを癒す・・・という点で、騙したことにはなりません」
「そんなの屁理屈や!」
「さぁ・・・全身凍てつきなさい。愚かな生き物に永遠の眠りを・・・」
氷のように冷たい眼差しを向け、冷酷に言い放つ。
「―・・・誰が愚かな生き物だって?ふざけんなぁあーーっ!!」
「なっ何!?」
陣の両足を覆う氷がシュゥウウウッと音を立てて溶けていく。
「ちょっと頭を使ってみたら出来たようや」
火術の気を自身の周囲に発生させ、氷を溶かしたのだった。
「そんじゃ、お別れですっ・・・てか!」
光輝の書で魔力にかけ、ドッペルゲンガーの遙遠を火術による焔ノ慟哭で焼き尽くす。
「さてと・・・ヨウくんの戦いぶりを見学しにでも行きますかっ」
離れた別の場所でドッペルゲンガーと戦う遙遠のところへ向かった。
「氷と焔・・・どちらが勝っているか試すいい機会ですね」
ドッペルゲンガーの陣を見据え、遙遠は術を仕掛ける隙を窺う。
「はぁー・・・そっちのヨウくんがオレの相手なんて、つまらないなー」
「遙遠が相手では不服ということですか?」
「だって氷なんて焔ですぐ溶かせるし。ぶっちゃけ相手にならない感じやねっ」
相手の無礼な物言いに苛立ち、いつもの冷静な表情を一変させ、ギリリッと歯を噛み締める。
「そういう言葉は・・・結果を出してから言いなさい!」
動きを封じてやろうと遙遠は地面に片手を当て、氷術で土を凍らせていく。
「おぁあっ!」
もう1人の存在の陣は、凍結した地面に足を滑らせ転倒してしまう。
「本物と違ってまったく手ごたえありませんでしたね」
止めを刺そうと遙遠がバーストダッシュで間合いを詰める。
「しまったぁああ!・・・なぁんてなっ」
足元を狙い氷術を放とうとする遙遠に向かって火術をくらわす。
「―・・・・・・うっ!」
彼が致命傷を狙いわざと転んだ思惑に気づいた遙遠はとっさに飛び退き、術を使おうとした片手に軽度の火傷を負った程度で済んだ。
「燃え散れ・・・。セット!クウィンタプルフレア!!」
指先に纏った火術の火球を5連発、同時に発射させる。
「それくらい氷術の壁で・・・。うくっ、ぁあぁぁあー!」
猛スピードで迫り来る火球が氷の壁を砕き、砕かれた氷の破片が遙遠に襲いかかる。
「あーっははは!燃えろ、燃えカスになってしまぇえ!」
遙遠の周りを囲うように術を放ち草木を燃やす。
「もうその傷じゃあ、たいして動けないよな。ありゃ?血ィ流しすぎて声もでないんかい?んじゃ、これで終わらせてやりますかっ」
火術で消し炭にしてやろうと、ドッペルゲンガーの陣がゆっくり近づく。
「まだ倒してもいない相手に勝利宣言ですか・・・。その余裕が仇となりましたね」
「はぁあ〜?この状況で勝つ気なん?」
「受けたこの傷の数倍、お返しさせていただきます!」
両手を叩いてゲラゲラと笑う相手の頭上に、氷術で発生させた氷柱の雨を降らせる。
ズドドドドォオッ。
氷柱がドッペルゲンガーの身体を貫き殺す。
「こんなにくらってしまうなんて、ちょっと甘くみてましたかね」
草木を燃やす炎を術で消し、痛む身体を引きずるように陣と合流する。
「道の途中で逸れるとは・・・まったくしょうがない小僧だ」
仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は一緒に来た陣と逸れてしまい、彼を探し歩いていた。
「いつまでぬるい状況に浸っているのか?」
どこからともなく突然、磁楠と同じ声が聞こえてきた。
「―・・・どうした?そんな顔をして・・・。自分と同じ姿をした者がいると知ってて来たのだろう」
ドッペルゲンガーの磁楠は、まるで磁楠がここへ来ることを予知していたかのように言う。
「寺院への怨みや憎悪が薄れたんじゃないか?」
「・・・誰が寺院への憎悪が薄まっただ?私をなめるのも大概にしろ」
「そうだろうか。私には今の貴様が生温い生活に浸っているだけのように見えるが。何もかも忘れて、このままずっと楽しく暮らしていたい・・・違うか?」
「ご託はそこまでにしろ、耳障りだ」
鋭い眼つきで相手を睨み、カルスノウトの刃で斬りかかる。
「図星のようだな!」
「疾く失せろ紛い物・・・非常に不愉快だ」
カンッ、カンッガキィインッ。
ぶつかり合う刃の音が周囲に響き渡る。
「温い生活を終わらせるために、私が貴様に代わってパートナーの怨みを晴らしてやる」
「貴様は少しでも生きたいのなら、私の心を読むべきでは無かった」
ツインスラッシュの剣圧によって胴体と首を斬り離し、2度と喋れないように右頬から左頬へとぶった斬る。
磁楠の逆鱗に触れた偽者は、怒りの刃の餌食となり絶命した。
鮮血に塗れた刃を振るい鞘に収めた。
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