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リアクション
第二章 夜が更けてゆく
先導していたパッフェルは、決して道に迷ったわけではない。
微かに聞こえた岩造の言葉が彼女に遠回りをする事を決意させたのだが、それが影響したのであろう。巨大な針葉樹が密集した林の更に奥にそびえ立つ「毒苺のなる巨樹の下」に辿り着いた時、既に数名の生徒が一行を待っていた。
プリーストの影野 陽太(かげの・ようた)とフェルブレイドの神代 明日香(かみしろ・あすか)、そして右ふくらはぎが水晶化している神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)は素早く立ち上がると、漆黒のグリフォンに乗るパッフェルに跪いた。
「あなたが女王器を手に入れる事に協力します。その代わり成功した時には水晶化した剣の花嫁たちの治療法を教えていただきたいのです」
「私も、パートナーの夕菜を助けたいんですぅ。出来る限りの事をしますぅ」
「… お願いします」
パッフェルは何も言う事もせずに漆黒のグリフォンから降りた。
「同じようなのが集まってくると、キャラが被るね〜」
そう言ったマッシュは歯を見せて笑ったが、朔はマッシュに視線を向けただけの応えをしながらバイクを降りた。
一行の全員が地に足裏をつけた時、木々の陰から8つの影が飛び出してきた。
トト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)の放った火術がパッフェル目掛けて飛び向かってきた。
これをドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が同じく火術を放ち迎撃したが、衝突と共に煙風が一帯に広がった。
視界の悪くなった煙帯を避けるように李 なたは宙高く飛び出してハルバードを振り下ろしたが、いち早く反応した尼崎 里也(あまがさき・りや)の薙刀がそれを防いだ。
同時に飛び込んでいたグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)のハンドガンには支倉 遥(はせくら・はるか)がスナイパーライフルの銃口を突き合わせ、セスタスを装備した蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)と手甲を装備した五条 武(ごじょう・たける)の拳撃は、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)のカタールと御厨 縁(みくりや・えにし)のホーリーメイスが防いだのだが。
次の瞬間、その横をバーストダッシュと加速ブースターで加速したトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)とソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が煙を裂きながら駆け過ぎていった。
トライブの綾刀とソニアのライトブレードでの斬撃は、強盗 ヘル(ごうとう・へる)の白の剣と鬼崎 朔(きざき・さく)の雅刀が防いだが、2人の狙いは斬撃にあらず、2人の肩に掴まって加速していた機晶姫のイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が勢いのままにパッフェル目掛けて突っ込んでいったのだった。
「機晶姫には毒も水晶化も効かないはず。どうする」
パッフェルに忠誠を誓った松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は思いながらも瞬間に静観する事を選んだが、パッフェルは瞬く疾さでランチャーから3発の銃弾を放って、これを迎撃した。
イビーが吹き飛ぶのを見て、襲撃者たちは武器を収めると、一行から距離を取って離れた。
「何者じゃ」
御厨 縁(みくりや・えにし)の声に、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が笑いながらに答えた。
「あっはっはっ、悪かったな、少し試させてもらったよ」
「試す、じゃと?」
「あぁ、自分が守護する対象の実力を見たかったんだ。それと、アンタ等の実力もな」
トライブ、そしてパートナーの蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)はパッフェルを見つめると、その場で跪いた。
「イルミンスールに1人で仕掛けた、あんたの度胸に惚れたんだ。「姫さん」と呼ばせてもらうぜ」
「一媛もトライブと同じである。おぬしに仕えよう」
五条 武(ごじょう・たける)とトト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)はノビているイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)を抱えながらに頭を下げた。
「俺は現女王候補のミルザム・ツァンダが気に食わないんでな。十二星華ってのに力を貸す事にした」
「分かるぜ、俺もクイーン・ヴァンガードは肌に合わねぇ気がしてな、「姫さん」の方がよっぽど魅力的だぜ」
「あぁ、奴は冒険者達の捜索によって発見された「朱雀鉞」を、自分の女王候補宣言の為に用いたんだ、協力するなど有り得ん」
「また人数が増えましたよ。どうされますか?」
「ノーム教諭を甘く見ないほうが良いぜ。ヴァジュアラ湾じゃ、女王器を引っ張り出した鏖殺寺院が負けたんだ。忠誠を誓う精鋭を確保しておくのも、手だと思うけどな」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)、そしてそれに加えて投げたトライブの言葉を聞いても、パッフェルは表情を変えずに一同の顔を見回しただけだった。
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)がグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)、李 なたの3人に、
「あなた方も、同じですか?」と問いたが、
「剣の花嫁たちを救うためだ。そして十二星華にも十分に興味がある」
との答えに、マッシュは再びに朔に笑みを向けていた。
パッフェルは歩みながらマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)に携帯電話を手渡すと、鞠が跳ねているかのように、毒苺の巨樹を登っていった。
渡された携帯電話には手作りであろう熊のストラップが付いていた。覗き込むようにして見たシャノンが気付いて呟いた。
「マッシュ、それ、光ってるよな?」
「ん? って! 発信中?!」
ディスプレイには「タツミ」と表示されていた。
風森 巽(かぜもり・たつみ)はベッドに横たわるティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)にそっと布団をかけなおした。
「えっと、ええっと、変な音がしたって訳じゃないし、それから」
「分かったから、ティア、いいから休め」
「でも……」
「いいから休むんだ、今度抜け出したら承知しないぞ」
「ぅん…… ごめんなさい」
「それなら僕が謝ろう。ティアを行かせたのは僕だからな」
「そんなぁ、水海さんは悪くないよ、悪いのはボクなんだから」
「そうだぞ、水海さん、悪いのは約束を守らなかったティアなのだから」
「うぅっ、だからごめんなさいって」
「そして! 何より悪いのは!!」
「えぇ、パッフェルとかいう犯人です!」
「ぬおっ、愛沢、我のセリフを横取るとは、良い度胸だ、感心したぞ!」
「怒るのではなく、褒めるのですか。さすがは風森」
風森に対して妙な感心をした何れ 水海(いずれ・みずうみ)は、パートナーの愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)へ視線を向けた。
「ティアの側には風森が居たほうが良いだろうな」
「えぇ、俺たちは治療法を探ろう、何としても見つけなきゃ」
「すまないな、愛沢、部屋を借りた上に調査まで任せてしまって」
「良いって事よ。………… ん? 何か鳴ってない?」
ミサの指摘にも水海は動くをしなかった。音の正体が携帯の着信音だと直ぐに気付いたからであり、同時にそれが自分の携帯ではない事にも気付いたからである。
鳴っていたのは巽の携帯電話。そして表示を見た巽は大きく目を見開いた。
発信元は、無くしていたティアの携帯電話からだった。巽は唾を飲み込んでから、通話ボタンを押した。
「はい」
「んわっ、あぁ〜、繋がってしまったぁよ」
「誰です? ティアの携帯を拾ってくれた者ですか?」
「いぇいぇ、十二星華の一人、パッフェルに力を貸している者ですよ〜」
「なっ!!」
室内が一気に緊張に包まれた。携帯から漏れた相手の声は、ミサと水海にも届いていた。
「なぜその携帯を持っている。貴公は何者だっ!」
「そう何度も言わないよ〜。あぁ、とにかく、この事は誰にも言わないこと、また連絡するから電源は切らないで繋がるようにしておくこと、そういうこと、またね〜」
それだけを告げると電話は切れてしまった。
突然の出来事に、一行はどうにも動けないでいたが、ミサが強引に言葉を発して口火を切った。
「とにかく! この事は誰にも言えない、ですよね」
「んん?! なぜだ? 愛沢」
「だって、ティアを水晶化した相手だよ、逆らえば……」
ミサは視線をティアへと向けた。電話の相手がパッフェルに近い位置にいる者だったという事は、人質交換へ影響を及ぼす可能性がある。そしてティアの水晶化の症状を進行させられる可能性だって考えられる。電話がブラフで、近くに敵が潜んでいる可能性だって考えられるからだ。
「ミサ、僕たちが相手との連絡手段を持った事は事実だ。制約はあるが、利用できるかもしれない」
「そうね、何か要求してきた時に、すぐに対処できるようにしておく事が大事、だよね」
「あぁ、校長や教諭、生徒たちの動きを把握しておく必要があるだろうな」
巽は携帯を握り締める力を必死に抑えていた。その怒りは今にも爆発しそうであった。
「我はここで奴らからの連絡を待つ。愛沢、水海さん、頼みます」
腕を震わせている巽を見て、ティアは体を起こそうとして…… 止めた。
そして自分が勝手に動いたことで。自分が水晶化しているせいで。しかも自分の携帯を利用されている。
ティアは唇を噛み締めて。布団を被りて涙を隠したのだった。
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