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君を待ってる~雪が降ったら~

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第4章 ティータイムを雪原で
「……効率が落ちてきた、そろそろ一旦休憩するか」
 判断した樹は、恭司や雛子達に小休止を提案した。
「あんころ餅が用意した粗茶ですが、どうぞ」
 ほほほ、と勧めたジーナは、章にジト目で睨まれむっとする。
 勿論、それは章だって同じだ。
「粗茶ぁ? 言うに事欠いてなんだ、カラクリ娘〜ぇ!」
「……何ですか? 何か文句でもあるですか? 餅ぃ」
「二人とも、折角のお茶が泣くよ」
「ハイゴメンナサイマジメニヤリマス」
「はぁい、静かに休憩します……」
 樹にやっつけられるのがやはり一番効く。
「影野君、神野君……良かったら、どうぞ」
「ありがとう」「いただきます」
新川 涼(しんかわ・りょう)が差し出したひんやりシャーベットは、汗をかいた身には有難かった。
「涼が冷たい料理を作るって言った時は、どうなる事かと思ったけど……」
ユア・トリーティア(ゆあ・とりーてぃあ)は自らも作業を終えた人達に、勧めながら小さく笑んだ。
 冷製パスタに生ハムのマリネにレモンのハチミツ漬にゼリー。
 涼が用意したのは冷たい料理だった。
「うん、温かい料理は本郷さんや一式さん達が用意すると聞いてるし、雪遊びとかでノドが乾いたり汗をかいたりする人もいると思ったしね」
 確かにノド越しの良い食べ物は、火照った身体を程度に静めてくれる。
「まぁ、とり過ぎると身体が冷えちゃいますけど……」
「冷たいもの欲しい人、色々あるよぉ!」
 涼の呟きはちゃんと届いたのか否か。
 俄然張り切り始めたユアは、陸斗や義彦を片っ端から捕まえ、料理を勧め。
「こういうの稽古の合間に良く食べたな……うん、懐かしいね」
「義彦くん、稽古ってやはり剣ですか?」
(「……って、くっつき過ぎじゃぁぁぁぁぁぁぁ?!」)
「ほらほら陸斗も、難しい顔してないで、どんどん食べるの!」
「いえユア……食べ過ぎると身体が冷えますから」
「……」
「井上君、ちょっ顔が悪く……というか顔色が尋常じゃなくなってますが!?」
「赤くなったり青くなったり、面白いのです」
「そんな呑気な……陸斗殿!?、しっかり!」
「とりあえず温まった方が良いですね……こちらに運んで下さい」
 慌てる涼や黎におっとり告げたのはクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)だった。
「教導団も蒼空さんもなく……困っている時はお互い様です」
という慈悲の心の元、パートナーのサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)と共に駆けつけた、シャンバラ教導団員さんである。
「だっ大丈夫だ、俺は全然平気……(くぅここでヒナと奴を残して行くわけには!?)」
「あらあら、ワガママは良くないですよ」
 ドガン、という音と共に崩れ落ちた陸斗を、サイアスが慣れた仕草で回収、休憩を取らせる。
「それにしてもかまくらがこんなに温かいなんて、初めて知りました」
 朱華がたくさん作ったかまくらの一つを借り受けたクエスティーナが、ニコニコと笑む。
 白テンのコートを来た後ろ手に、ブラスター銃型の光条兵器。
「少し休めばまた元気になりますから、ご安心を」
 と、ストーブの上のヤカンがピーっという威勢の良い音を上げた。
「冷たいものも素敵ですが、よろしければ温かいものもいかがですか?」
 義彦や陽太達にココアや紅茶を勧めるクエスティーナ。
 トレイの上には紙コップにいれられたそれら温かな飲み物と一緒に、お手製のチョコクッキーも添えられている。
「あれがとう……うん、このクッキー美味しいね」
 ニコリと義彦に笑まれ、クエスティーナの頬が朱に染まる。
「折角の機会ですから、色々お話したいです」
 実はそう思っていたのだ。
「義彦様はその、ジェイダス様の甥ごさんなんですよね」
あまり異性に慣れていない事もあり、緊張しつつ言葉を紡ぐ。
「ジェイダス様がよくお許しになられましたねー」
「あ〜、まぁ面白くはなかっただろうが、最後には俺の自主性を尊重してくれた、ってトコかな」
 にこやかに会話を交わすクエスティーナと義彦、サイアスは安堵半分ハラハラ半分な複雑な気持ちで見守っていた。
 こういった、クエスティーナの社会勉強の機会は大歓迎だ。
 ただ、初心な彼女が翻弄されるような事があってはならないと。
そんなサイアスの執事心を知ってか知らずか。
「今度是非教導団にもいらして下さい」
 ピラっ、コートのボタンを外したクエスティーナはその中の制服を見せた。
「そうだな、機会があったら行ってみたいな。また全然雰囲気が違うんだろうし」
 そういえば義彦はまだパラミタに来たばかりなのだ。
 だから、ただのリップサービスだけとは思えない言葉に。
「はい。その時は心を込めてご案内します」
 クエスティーナは嬉しそうに請け負うのだった。
「はい、お疲れ様です」
 一方、コレットから紅茶を差し出された陽は、思いっきりうろたえていた。
(「女の子からお茶、女の子からお茶、女の子からお茶」)
「ダメだよ、除雪作業は重労働なんだから」
 固まった陽、それを過信と捉えたコレットは可愛らしく頬を膨らませた。
「作業している内は汗だくになるけど、休憩などで動きを止めると途端に体が冷えるし、意外に水分を消耗するの……調子に乗って張り切ると、ヤバいんだから」
「それは……」
 疲れているのは確かだ。
 こうして腰を下ろすと、疲労がズシッと来るし。
「うん、じゃあしっかり休んでからまた、頑張ってね」
 チュッ、と軽くアリス・キッスを贈られ、陽の顔が火を噴き。
「あ〜、お茶が美味い」
 テディは楽しそうに、紅茶をすするのだった。

「ふっ……ふふふふふ〜、遂にこの時がきたわ!」
 ジャっジャ〜ン!
 何とか完成したぬくぬくかまくらの中、透乃が取りだしたのは、ガラスの器とそこに盛り付けられた雪だった。
 そして泰宏が無言で、カキ氷シロップ各種を置く。
「ん……ん〜、美味しい!」
 スプーンですくって口に入れた透乃は、思いっきり笑顔になった。
「……うわっ、美味しそう!」
 と、気付いてピョコンと顔をのぞかせた者がいた……翔子だ。
「翔子ちゃんもいく? いっぱいあるし、遠慮しないで」
「うん!」
「味は何が良い? イチゴにメロンにレモンにブルーハワイに……」
「じゃあレインボー!」
「OK!……やっちゃん」
「……ほら」
 透乃の為おかわりの準備をしていた泰宏は、ガラスの器を手渡した。
 「美味しい」とか「頭がキーンてした!」とかきゃっきゃっしている透乃と翔子。
 忙しく給仕(?)をしながら泰宏は口元に小さく笑みを刻んだ。


 そんな風に皆が一服している頃。
鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)バロ・カザリ(ばろ・かざり)達は料理作りに勤しんでいた。
「皆、この後も頑張るんだものね」
 思い切り遊んだり、真面目に雪かきをしたり、とても疲れるし寒いしお腹も減るだろう。
「寒い日は……おうどん?」
 だから、皆の事を考えた氷雨がそう思い至ったのは理解できる。
 ただ。
「……なぁ氷雨、何を始めようとしてるんだ?」
 当惑するバロに、氷雨は美少女にしか見えない可憐な笑顔で言ったのです。
「おうどん作るんだよ」
「いや、うどんって……普通は野菜を切ってとかそういう段階だよな、何故に粉を手にしている?」
「んと……やっぱり美味しいものを食べて貰いたいなって」
「……アホかぁぁぁぁぁぁっ! 料理初心者が麺なんて打てるかぁぁぁぁぁぁ!」
「大丈夫! 頑張ればきっと何とかなるよ♪」
「まぁまぁ、そう声を荒げないで下さい。氷雨様のお気持ちはとても尊いものだと思いますよ?」
 そんなバロを宥めたのは、本郷 翔(ほんごう・かける)だった。
 生粋の執事である翔は、豚汁を作るつもりなのだが、このやり取りを見、放っておけなかったのだ。
「とりあえずこちらは自分達で事足りますし、本郷さんは鏡さんを見て上げて下さい」
「すみません、少しお願いします」
 共に豚汁を作っていた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)にほんわか請け負われ、軽く頭を下げる翔。
「すげ〜多量の雪だな? 片づけるの大変そうだが、がんばれよ〜って思った、マジで」
 入れ替わりに紙の皿やコップ、箸やゴミ袋を手に帰ってきたレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は、この事態に翡翠に尋ねてみた。
「で、俺作らないでいいのか?」
「……ええ、レイスには備品の確認や搬入、あぁ外の出店の手伝いやスペースの確保などをして欲しいので」
 レイスの料理の腕を知っている翡翠である、手伝わせるなんて無謀なマネは出来なかった。
「あぁ、それにしても皆さん、甘いですね? 下手なやり方だと腰に来るんですよ?」
 とりあえず小休止に入ったらしい一輝達を見やり、翡翠は眼鏡の奥の瞳を細めた。
「立ち上がれなくなる人はいますかね……まだ若いし、さら雪だし、平気でしょうか」
「うぁっ、そんな辛いのか?」
「ええ、大変でしょう……そんな頑張る若者たちの為、頑張って作らないとですね」
 という翡翠がチョイスしたのは豚汁とおにぎりと甘酒だ。
「神和さんが美味しい酒粕を持ってきてくれましたし……そうだ、レイス。休憩している皆さんに甘酒を持って行って下さい」
「成る程、了解〜」
 そうして翡翠は手早く用意を整えレイスを送り出してから、改めて豚汁作りに取り掛かるのだった。
「いいですか、この中力粉をこねて丸めて……」
「踏み伸ばして、また丸めて……」
 やがて、氷雨へのレクチャーを終えた翔も作業に入り、場は忙しい中にも和やかな雰囲気が漂っていた。
「単純だが奥が深いな」
 始めは氷雨をハラハラ見守っていたバロだが、手を出してみるととこれが中々楽しいもので。
 ついつい夢中になってしまう。
 だから、気付くのが遅れた。
 翔達も野菜切りなどに入り、一人になった氷雨が。
「おうどん……白……白……」
 ブツブツと何事か呟いていた事に。
 そして。
「お前はまたか!」
「雪の撤去で皆、白って見飽きてるよね」
 にっこりと笑む氷雨に翔は苦笑交じりに頷き、バロは頭を抱えたのだった。
「あっち、中々楽しい事になってるね」
「よそ見をしている暇はないぞ、綺人」
 ユーリにビシリと言われ、慌てて手元に意識を集中する綺人。
神和 綺人(かんなぎ・あやと)とパートナーのクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)、三人が手掛けるのは、粕汁だ。
「……綺人の実家から酒粕が大量に送られてきたことだし、ちょうど良いな」
 というユーリの一声で決定した。
 神和家伝統の味、という事で本来指示するのは綺人なのだろうがそこはそれ。
 やはり料理が得意なユーリが自然、場をし切っていた。
 材料は塩鮭(中辛)、薄揚げ、コンニャク、大根、ニンジン、長ネギ、里芋、味噌、酒粕。
「うん、分かってる。先ず材料を切らないとね」
答えて野菜を切る綺人の手つきは中々、手慣れている。
 そう、問題は。
「ちょっ、この……どうして薄く剥けないんですか!?」
 コト戦闘などでは非常に頼りになるクリスだったが、残念な事に彼女は不器用だった。
「……力が入り過ぎている。少しくらい厚く剥いても何の支障もないから、もっと力を抜けばいい」
 もっともユーリは、クリスの料理の腕は決して壊滅的ではないとみている。
 だとすれば根気よく指導していけばゆくゆくは上達していく……筈である。
「うぅっ、この……この、この!」
 文字通り格闘するクリスと、順調に工程をこなしていく綺人を見守りながら、ユーリは大きな鍋に水とだしパックとをセットするのであった。


「あれ? コタ君、お友達が出来たんだ」
「あき、ちみたんだお」
「こたちゃんにお友達ですか? 一緒にお茶でもどうですか?」
 コタローに気付いたジーナがニコリと微笑み。
「ウチのあんころ餅が用意した粗茶ですが」
「……って、粗茶あ?」
「いや二人とも、それさっきやったから」
 ぴょんと飛びついたコタローを膝に乗せ、投げやり気味に突っ込む樹。
「夜魅さん、どうぞこちらへ」
「みんな〜、あったかいお茶はいかが〜?」
「「「わぁ〜い」」」
 その間に志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)が用意したお茶を配る。
「こっちが緑茶、これが紅茶……と、お茶うけのわらび餅とビスケットだよ」
「夜魅さん、砂糖は……はいはい、後ミルクもですね」
「あーーーーんっ」
「はい、あいじゃわちゃん」
「美味しいのです、幸せなのです」
「ちみたん、ちみたん、こたもこたも!」
「じゃあコタちゃんも、はいどうぞ」
「おいしいのれす、ねーたんもぱくするのれす」
 美味しいお菓子と飲み物で、人心地がつく中。
「環菜も仕事だけじゃ気が滅入るのに」
 手にした緑茶に視線を落とした月夜がポツリと呟いた。
 忙しいらしく、捕まらなかったのだ。
「環菜、義彦のスカウトのこともあるけど少し急いでる気がする。焦ってるのかな?」
「そういえば……」
 と刀真が義彦に尋ねた。
「環菜会長がスカウトしたという事ですが勤め先はクイーンヴァンガードですか?」」
「いや。多分、別口だな」
義彦は躊躇なく首を振り。
「知ってるか? あの美人さん、俺以外にも地球から色々連れてきてる。主に剣の腕の立つ奴」
「……確かにそういう噂は聞いてます。この時期なのに、妙に転校生が多いと」
 環菜会長が飛びまわっているのも、知ってるが……陽太は知らず唇を引き結んだ。
 環菜会長が焦っている、月夜だけでなくそれは陽太も感じていた。
「で、剣の大会だか試合だかやるらしい……プリンス・オブ・ソードの再来を狙ってるって話だが」
「プリンス……って何ですか?」
「詳しくは知らないが、昔そう呼ばれた剣の達人がいたという話だ。大方、そういう存在が……蒼空学園をまとめてくれるような存在が欲しいんじゃないか?」
 何の為に?
 ……戦う為に。
 簡単過ぎる答えに、場がシンとする。
「ああっ、やめやめ! 折角の茶がマズくなる」
 と、仁が沈みかけた空気を破るべく声を上げた。
「小難しい話はなしにしようぜ」
「同感です。ね、茸さん」
「……あん? わりぃ、オレ聞いてなかった。それよりこのパスタ美味いな、もう一皿くれよ」
「了解だよ♪ う〜ん、嬉しくなっちゃう食べっぷりだね」
 我関せずの茸といそいそと料理を運ぶユアに、自然と空気が和む。
 と、そこにレイスもやってきた。
「よっと、甘酒はいるか? あったまるぜ」
「貰おう」
 レイスから受け取ったのは、静麻だ。
「気分だけでも雪見酒としゃれこむか」
「ミルクなの?」
「甘酒だ。といっても、アルコールは入ってないぜ」
「あるこぉる?」
 首を捻る夜魅を見たレイスは軽く目を見張った。
 その背中の羽……守護天使としては珍しい、自分と同じ黒い羽に。
(「災厄か……成程な」)
 内心でだけ思い、代わりに笑みを作り小首を傾げた。
「にしてもあの大量の雪、どうするんだ?」
 視線の先には、うず高く積まれた雪・雪・雪。
 答えたのは樹だった。
「集めた雪でな、雪像を作るんだ」
「せ……ぞう?」
「ああ。雪だるまの発展形……ようするにもっとすっごい雪だるまって事だ」
「「「すっごい雪だるま!?」」」
 夜魅と虹七と遊雲、ちびっこ三人の顔が輝いた。
「もう暫くしたら出来あがるから、楽しみに待ってろよ」
 視界の端、ジーナと章が悶えているのを黙殺しつつ、樹はそっと微笑み。
「かわいい〜。お持ち帰りしちゃいたいな〜」
 シーラは夜魅の可愛らしさに思わずギュッと抱きついた。
「にゃっ……はにゃ〜?!」
「やっぱりあなたは可愛いらしい人ですよ」
 そして、大地は随分と低くなった夜魅の目線まで膝を落とし、微笑み。
 シーラから救い出した身体を抱き上げた。
 そのまま羽のように軽いそれを、肩に乗せる……肩車だ。
「夜魅さん……楽しめていますか?」
声は何気なく、けれどどこか深くて。夜魅は知らず、そっと胸に手を当てた。
 大地の肩はしっかりしていて大きくて、不思議な感じがする。
 コトノハやジュジュとは違う、壮太や政敏とも違う、でも同じように温かくて大きくて。
 似た感覚や存在を表す概念は知らなかった、けれど。
 たとえばそれは父親というモノに似ていたかもしれない。
「うん、楽しいよすごく……すっごく……」
 だから答えながら夜魅は、大地の頭に捕まる手に、少しだけ力を入れたのだった。
「いただき♪」
 それを収めた勇はそのまま、皆のお茶会風景を撮り。
「……こういうのを見ると、頑張るのも無駄ではないとそう、思えますね」
 目を細める陽太に、静麻も甘酒を口にしつつ同意する。
「そうだな。銀世界ではしゃぐ女の子を見るのは正直、悪くない」
 もし災厄を止められなければ見る事の叶わなかった光景だ。
「はい」
噛みしめる陽太の脳裏を過ぎったのは、環菜会長の顔だった。
 災いを巡る事件の顛末を聞き、平和のために『力』を求める矛盾を憂慮していた、環菜会長。
「それでも……いくばくかの『力』のおかげで、今のこの光景が実現したのだとしたら、俺は『力』を求めることも捨てたもんじゃないと思います」
 除雪されて部分……四角く切り取られた校庭に、不安がないかと言ったら嘘になる、けれど。
力がなければ守れない、そんな時もあると思うから。
「力なんて縁の無い臆病者だから言える戯言かもしれませんが……」
 照れたように付け加えた陽太に、
「要は、力をどう使うか……だろ?」
夜魅やその周りの者達を見つめつつ静麻は語り。
 その視線を追った陽太もまた、暫くの後に頷いた。
「力、か……しかし確かに」
 そして静麻は胸中でだけ思う。
陸斗と義彦の恋の鞘当は見ていて面白いし、夜魅達も微笑ましく思う、けれども。
「ホント、夜魅を捕らえていた災いはまだ健在だって言うのに、完全に忘れてる位のはしゃぎっぷりだな」
 だがその口調は呆れというには随分と優しい。
「まぁ、闘うと決めたら覚悟は半端じゃない奴等だし、今は羽目を外すのも悪くないな」
 せめて今だけは。
 静麻は頬を微かに緩め、甘酒を口に含んだ。