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雪下の幻影少女 

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雪下の幻影少女 

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【7・雪の巨人の慟哭】

 片腕を失った巨人は一気にバランスが不安定となり、左側にやや重心を傾けていた。頭に乗っている美央もやや座っていづらそうだった。
 ただ、体重が軽くなったせいか、歩くスピードが若干あがっており。チャンスと同時にピンチでもあるのを察し、一気に畳み掛けるべく樹は携帯電話に向かい、足の間近にいるふたりへと指示を出していく。
「ジーナ、洪庵! この機を逃すな! いけ!」
「はいっ!! 今ですね!! 膝関節を狙って爆炎波〜!!」
「よし、今だね。喰らえ、ツインスラッシュ、下から上へ!! あれっ? ちょっと待って、バランス崩した」
「ええっ、ばっ、どきやがれなのです、あんころ餅〜!!」
 右足をジーナが、左足を章が攻撃したのだが。太ももをVの字に切り取るようにしようとやや無茶な態勢で攻撃した章が、勢い余ってジーナもろとも地面へとダイブしてしまっていた。そしてそのあとは当然……
「ああもう! なにやってやがるんですかこのあんころ餅!」
「カラクリ娘こそ、攻撃の後でボーッとしてるからいけないんだよ」
 ぎゃあぎゃあと喧嘩をし始めるふたり。
 しかし当然巨人は歩みをまだ止めないまま、突き進んでふたりをその巨足で踏み潰そうと動いてくる。
「馬鹿者! バカはやるが、死人は出さない、それが鉄則だ!!」
 その寸前、急いで駆けつけてきた樹がクロスファイアによる十字火炎攻撃を放ったおかげで足の軌道が若干逸らされ、スレスレで三人とも回避できていた。
「少しは連携というモノを覚えろ、この馬鹿共が!」
 樹からの恫喝に、しゅんと静まるふたり。
 そんな様子を苦笑しつつ見ていたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)。ふたりも美央の考えに賛同する者たちであるが、足への攻撃をしていた三人には手は出さずにいたのである。
「さて、ワタシ達もそろそろいきましょうか」
「うっし、気合入れていくぜ!」
 レイナはパートナーと自分にパワーブレスをかけ、積極的に雪の巨人の足を狙い、かつ雪の巨人を転ばせないように削っていく。ブレスドメイスによる殴り飛ばしで、放水などでかなり攻撃を受けた左足をまず叩き壊そうとしていく。
 ウルフィオナの方はペットのネコと共に、同じ左足を蹴り飛ばし剣の腹で殴っていく。しかも超感覚をフルに活用しているので、上手く崩せるような攻撃の仕方ができていた。
 ただ……
「ううっ! そろそろ限界だ、一旦退避―!」「「「にゃー」」」
 ネコは元よりウルフィオナもネコの獣人なので、定期的にコタツに入り寒さを凌ぎに行っていたが。
「よし、そろそろ崩せそうです……やあっ!」
 レイナがそう見立て強めの一撃をお見舞いすると、一気にビキビキビキッ! と左足に亀裂が入った。元より全体重をかなりそちらに傾けていたせいでもあるだろう。そのまま難なく左足部分は瓦解して、ついに巨人は膝をつき、その膝もそのまま崩れた。
「おぉ、すげぇな……」
 と、そんな様子を空から眺める人物がいた。
 それはリアド・ボーモン(りあど・ぼーもん)で、サンタのトナカイで偵察に来たのである。
「ああ、もしもし? そう、今左足が完全に崩れた。っと、でもまだこいつ進んでくる気満々みたいだ。そろそろ俺らも準備したほうがよさそうだし、一旦切るぜ」
 携帯でパートナーと会話した後、トナカイを飛ばして学園の方へと戻っていく。
「このまま何もせず終わりゃあ、楽でいいんだがなー……どうやらそうもいかなそうだ」
 右腕と左足を無くし、左腕と右足だけで這う移動を余儀なくされた巨人だったが。むしろ遮二無二暴れるような勢いで動き始め、その場の生徒を弾き飛ばして進んでいった。

 蒼空学園の近くにある、配電施設の五階建てビルの屋上。
 そこで巨人を待ち伏せているのは牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)。更に、その建物の前方にある木々のひとつに陣取っているパートナーのシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)、そして凧に乗って待ち構えているランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)だった。勿論リアドが連絡していたのは彼女たちである。
「来たか……」
 右足がどんどん崩れていくのも厭わぬまま、軽く走るくらいのスピードで突進してくる巨人を確認後、槍を構えるシーマ。
 そんなシーマと、アルにパワーブレスをかけておくのは空を旋回するリアド。彼はパートナーの攻撃に巻き込まれるのを恐れてか、そのまま学園よりに下がっていく。
「固体化したあれだけの質量の水のぅ……溶かして大丈夫じゃろうか」
 呪術師の面ずらし、巨人を一瞥しつつぼやくランゴバルト。
「じゃが、来るのならば仕方あるまい。素通りさせる理由にはならぬな」
 そして、杖の魔力と自身の魔力の波長を合わせ、炎の力を練り上げていく。
 一方のシーマは爆炎波を発動させ、槍を回して火炎を収束させて、
「穿つ!」
 それを一気に先端に集め、炎を飛ばし攻撃を繰り出した。
「火龍の力見せてくれようぞ!」
 そのタイミングに合わせ、上空から周りで戦う生徒達の隙間を縫って炎の嵐を降らせるランゴバルト。かなりの火力で一気に溶かすことを目的としてのことだった。
 だが。
 彼らは知らず、リアドも気づかなかった。
 そう……頭上にいる雪だるま王女の存在を。
「クロセルっ!」
「ええ。胴体や頭への攻撃は、絶対、厳禁です!」
 美央の指示に、クロセルはせっかくのランゴバルトの攻撃を氷術で相殺させてしまうのだった。シーマの攻撃こそ、巨人の左腕に命中したものの、美央が事前に巨人にかけておいたファイアプロテクトのせいで、その効果も半減していた。
「ちょっと! なにをやっているんですか!」
 驚きながらも一番先に我に返ったのはアルコリア。彼女は、超感覚にヒロイックアサルトなどの強化スキルをフル起動し臨戦態勢に入る。
「ああ、これは失礼。俺たちは実はこの巨人を雪だるまにしようと考えているのですよ。それゆえ胴体や頭への攻撃は避けていただきたいのです。よろしいですか?」
 クロセルが説得すべくそう言ってきた。
 が、アルコリアはどうにも納得がいかない様子で。
「……話はわかりましたけど、こっちにもこっちの作戦があるんです!」
 そして、爆炎波で、頭めがけて攻撃を放った。美央達には当たらないように放たれたそれだったが、きっちりクロセルが止めていた。
 更に上空から、リアドとは別のトナカイが飛んでくる。トナカイのソリに乗っているのは、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)
「覚悟するが良い、マナ様の御意思を理解できない下郎共めッ!」
 シャーミアンはソリに設置された機関銃でダダダダダダとアルコリアに攻撃しはじめる。
「きゃ! たっ、いたたた!」
 弾こそゴム製の弱装弾だったが、当然当たれば痛い。
「ああもう、わかりましたよ! とにかく腕と足を狙えばいいんですね!」
 それに辟易したアルコリアはあっさり折れ、彼らとの共同戦線を張ることを告げる。それを受けて攻撃の手をやめ、また旋回するふたりのトナカイ。
「まったくもう……ふぅ、私の色温度は何ケルビンかしら?」
 そのウサをぶつけるがごとく、攻撃を再開したシーマの間を縫うように、爆炎で斬りつけるアルコリア。
「雪は空から降るべきです……天に上ってください」
 そのままSP尽きるまでガンガンと連打し、ついには迫ってい巨人の右足を切り崩すまでに至っていた。完全に足を失い、地面へと接着する巨人。とうとう巨人の進行は止まり、一瞬場の緊張の糸が解けかけた。
 だが唯一残された左腕を、もうなりふりかまわずにブン回す巨人。
 美央が落ちぬよう、踏ん張るクロセル。慌てて建物の陰に隠れるアルコリア。
 そしてシーマは槍地面に付きたて、両手の2つずつの指輪で力を増幅させて、
「対氷結結界……展開っ」
 猛攻から身を守っていた。
 そしてランゴバルトの凧は、
「全く、風情のない雪じゃのう……っと、いかん!」
 風に煽られ、運悪く巨腕にぶつかり弾き飛ばされた。
「ぐぉっ……!」
 拍子に意識を失ったのか、そのまま落ちていくランゴバルト。
「やばいっ!」
 トナカイを操り、慌てて助けようとしたリアド。しかしそこへまたしてもなぜかダダダダと攻撃が仕掛けられる。
「わ! おいこら、なにすんだ!」
 文句を言いかけるリアドだったが、肝心のランゴバルトは既にもうひとつのトナカイ、マナとシャーミアンによって助けられていた。
「シャーミアン、キミの好意には感謝しているのだが……あの人は明らかに仲間を助けようとしていたんですけど。決して追い打ちをかけようとしたわけではなく」
「ん、そうでしたか。これは失礼しました、そちらの方」
「はぁ……さっきまでの流れを見てればわかるでしょうに」
 ふたりはそんな掛け合いをしつつ、美央達も落ちないよう気を配っていたが。
 その不安を取り除くように、巨人のその最後のあがきは己の力で逆に左腕の寿命を短くすることとなったらしく、

ドオオオォオオオン!

 これまでに蓄積されたダメージも合わさり、轟音と共に残った腕もついにその場に崩れ落ちた。結果本当に雪だるまとなってしまった巨人は、身動きできなくなり完全に沈黙し。
「巨大雪だるま……堂々、ここに完成です!」
 代わりに美央の叫びが響き渡り、それは意識を取り戻した環菜の耳にも届いたとか。