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ホワイトデーはぺったんこ

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ホワイトデーはぺったんこ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「さあ、ドンとこいッス」
 たっゆんと豊かなバストをゆらして、サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が叫んだ。
「こんな感じでいいんだよね」
 隣を歩くヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)も、リズミカルに身体をゆらしてたっゆんなバストをふるふるさせている。
 踊りに長けた二人は、自分たちのバストを強調するのもお手のものだ。これだけ目立てば、犯人たちの方から近寄ってくるに違いない。
「いい? 犯人が現れたら、一気に捕まえて解毒薬の情報を手に入れるッス」
「頑張ってね」
 なにやらサレン・シルフィーユに期待しながら、ヨーフィア・イーリッシュが言った。
「とにかく、巨乳を狙った犯行なら、私たちを狙わないわけがないッス」
 自分たちが未だに無事なのがちょっと不満そうに、サレン・シルフィーユは言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ふふふふ、いいだろー。うらやましいだろー」
 通りすがりに山葉涼司からもらったキャンディを見せびらかせながら、リア・ヴェリー(りあ・べりー)明智 珠輝(あけち・たまき)に言った。
「リアさんが人に物をもらうなんて珍しいですね。それで、私の分は?」
「ない」
 すっと手をさしだす明智珠輝に、リア・ヴェリーがどきっぱりと言った。
「しかたないですね。では、リアさんが半分なめた後の飴を私に口移しで……。愛の口づけをあなたに……」(V)
 素早く繰り出されたリア・ヴェリーのパンチが、明智珠輝の言葉を途中でさえぎった。
「まったく、どうしてそういう発想ばかりするかなあ」
 ポイと赤いキャンディを口に放り込んで、リア・ヴェリーが言った。
「そんなことばかりちゅるから、どへんちゃいだといわれぇ……」
 ずってん。
 なぜか、後ろを歩く明智珠輝にズボンの裾を踏まれて、リア・ヴェリーがすってんと転んだ。
「なにをちゅる!」
「かわいい……ぽっ」
「なにが、かわいい……にゃあぁぁぁ!」
 両手をついて立ちあがったリア・ヴェリーは、シャツがずるりと肩から滑り落ちるのを見て、小動物的な悲鳴をあげた。
「どうなっちゃたのー。たまきぃ、またなんかしたにょー」
 ぽかぽかと小さな拳で明智珠輝を殴りながら、リア・ヴェリーが叫んだ。
「いやあ、みごとに縮みましたね。ほら、知らない人にもらったあんな物とかこんな物とかを勝手になめるからですよ。どうせなめるならわ……ぐはっ」
 片膝をついてよけいなことを言いだした明智珠輝の顔面に、リア・ヴェリーがひっさちゅきっくを見舞った。反動でパンツが脱げそうになり、真っ赤になりながらあわててたくしあげる。
「しかたないですねえ」
 袖をだらんとさせたシャツ一枚の姿になったリア・ヴェリーを、明智珠輝は自分のマントでさっとつつみ込んだ。そのまま、芋虫のようにくるんでだきあげる。
「とりあえず、お子様服を買いに行きましょう。大丈夫です。子供の着付けは、慣れて……」
 言いかけた明智珠輝の顎を、だきかかえられたリア・ヴェリーが蹴りあげた。
「見えますよ、リアさ……げぼぼぼぼぼほ」
 口を閉じない明智珠輝の顎を連続して蹴りあげて、リア・ヴェリーが下に視線をむけられないようにする。
「どにがぐ、ごうばいにいっでがら、山葉さんを探しましょう」
 ぎゅっとリア・ヴェリーをだきしめておとなしくさせてから、明智珠輝は購買へと走った。
 
    ★    ★    ★
 
「セーフェル、セーフェル」
「はい、どちら様です?」
 和原 樹(なぎはら・いつき)に呼び出されたはずのセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)は、突然幼児に声をかけられて戸惑った。
「だっこ」
「ええと、そういうことは、お母さんに頼みましょうね」
 いきなり両手を差しのばされても困る。それよりも、ずるずると引きずっている服が、まるでサイズが合っていないのだが……。
「いいかげん気づけ」
 突っかかろうとして前に出た幼児が、服の裾を踏んづけてつんのめった。
「はあ、もしかして、マスターですか!?」
 あわててだきとめたセーフェル・ラジエールが、幼児の顔を見て素っ頓狂な声をあげた。
「気づくのが遅い」
 和原樹が、呆れたように言った。
「言われてみれば、確かに面影が……。でも、いきなりこんなことになってたりしたら、分かるわけないじゃないですか」
 イルミンスール魔法学校でこんな事態に遭遇するならともかく、ここ蒼空学園ではあまりに想定外だ。
「まったく、フォルクスが見たらなんて言うか……」
 セーフェル・ラジエールは言ってはみたものの、まずは和原樹の格好をなんとかしなければならなかった。
 
「何があったのだ。樹が幼児の服を脱がせたから着替えを持って来いとは、どういうことなのだ。ついに樹が犯罪に走ったか?」
 連絡を受けて駆けつけてきたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)であったが、まったく要領を得ない。
「どんな説明をしたんだ、おまえは」
 馬鹿者と、和原樹がセーフェル・ラジエールをかわいく蹴飛ばす。
「これが、樹なのか……。よし、脱がそう」
 言うなり、フォルクス・カーネリアが、和原樹にバンザイをさせた。するりと、ぶかぶかの服を一発で剥ぎ取る。
「ちょ、こら、いきなり脱がすな。自分でできる」
「黙って任せろ。さあ、脱げ」
 和原樹の抗議は受けつけず、フォルクス・カーネリアは手早くじっくりと着替えをさせていった。
「ちょっと待て、これは幼児用ロング寝間着じゃないか」
「素敵なワンピースだな」
「上だけかよ。せめて下よこせ、下。パンツ!」
「やれやれ、二人とも……」
 どこか楽しんでいるような和原樹とフォルクス・カーネリアのやりとりに、セーフェル・ラジエールが頭をかかえた。
「とにかく、俺は身長を取り戻す。絶対、元に戻る!」
「それですが、ここへ来る途中で、ここにいるはずのない方の姿を見かけた気がするのですが」
 気合いを入れなおす和原樹に、セーフェル・ラジエールが言った。
「誰のことだ?」
「アーデルハイト様です」
 訊ねるフォルクス・カーネリアに、セーフェル・ラジエールが答えた。思わず、二人が、悲鳴ともつかない叫び声をあげる。
「もしアーデルハイト様が絡んでいるのであれば、マスターが小さくなる原因となった赤いキャンディですが、そんな魔法薬を作れるのはただ一人」
「間違いない、ババ様が黒幕だろうな」
「ええ。ですが、アーデルハイト様も鬼ではありません、多分解毒薬は用意しているかと」
「よし、それを探す。とにかく、まずはババ様だ」
「はい、マスター」
 意気込む和原樹とそれに従うセーフェル・ラジエールとは対照的に、フォルクス・カーネリアは、おーっとやる気のない声をあげた。
 
    ★    ★    ★
 
「ぺったんこに、栄光あれー♪」
 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )のフードの中で、マネット・エェル( ・ )がのりのりで叫んだ。
「もう、マネット、はしゃぎすぎだよ」
 あまり騒いで目立っては困ると、九弓・フゥ・リュィソーは、マネット・エェルをたしなめた。
「しかたないですね。全員、大ババ様にぺったんこと認定されてしまったのですから」
 溜め息混じりに、九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が言った。そんなレッテルを貼られて喜ぶのは、マネット・エェルぐらいのものだ。
「だいたい……、おっ、いい被写体が……」
 話しかけた九鳥・メモワールが、走る二足歩行のカバにかかえられた男の子を見つけて、すかさず写真を撮った。
「はしゃぐのはいいけれど、あたしたちの真の目的を忘れてはだめだよ」
 九弓・フゥ・リュィソーが、あらためて二人に釘を刺した。その手には、赤いキャンディと青いキャンディが握られている。
 イルミンスール魔法学校の生徒たちは、ほとんど全員が、こんなことをするのは大ババ様に違いないと確信していた。そのため、日堂真宵のように、早期に大ババ様と接触できた者もいる。九弓・フゥ・リュィソーも、すかさず大ババ様に取り入って、貴重なキャンディを手に入れていたのだった。
 その目的は、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の幼児化した写真を撮ることであった。もちろん、そんな面白い話に、大ババ様が乗らないはずもない。
「問題は、蒼空学園の校長が、今どこにいるかだよね。頼んだわよ、マネット」
「任せてくださいですわ」
 小さい胸をドンと叩いて、マネット・エェルが答えた。
 マネット・エェルのトレジャーセンスと九鳥・メモワールの情報通信が、勝利の鍵である。御神楽環菜のパートナーであるルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)は、電波を操る特殊能力を持っていると噂されている。携帯電話を頼りに九鳥・メモワールが電波帯の異常スポットを検索し、マネット・エェルがお宝であるでこを探しあてようというのである。
 だが、彼女たちは、御神楽環菜とルミーナ・レバレッジが揃って出張で空京大学に行っていることなど知るよしもなかった。だいたいにして、蒼空学園において大ババ様がここまで好き勝手できていること自体、御神楽環菜の不在を如実に語っているものであったのだが。
「おかしいわねえ。どこにも、それらしいスポットが見つからないんだけれど。やっぱり、電波の天使っていうのは、都市伝説だったのかしら」
 自分用の超小型携帯の液晶画面を見ながら、九鳥・メモワールが小首をかしげた。一見するとドール用の玩具みたいな携帯電話だが、ちゃんとほとんどの機能は備えている。インターフェースさえどうにかなればここまで小型化できるということの見本のようなものだ。もっとも、ドットピッチやCCDの問題など、さすがに普通サイズの携帯とくらべると機能が劣ってしまう部分も少なくはないが。
「それじゃ、でこ校長幼児写真バラ撒き大作戦が実行できないよー」
 困ったように、九弓・フゥ・リュィソーは言った。
 せっかく、大ババ様に魂まで売って手に入れたキャンディである。使えないのでは意味がない。
「やはり、ここはわたくしの出番ですわ」
 マネット・エェルが、両手の人差し指をこめかみにあてながら、難しい顔をした。こうなると、彼女の勘だけが頼りではあるのだが、本当はすでに一度遺跡探査で失敗している。でも、それはすでにマネット・エェルの記憶の彼方の出来事だった。
「うーっ、でこ、でこ、でこ……」
 唸った後に顔をあげたマネット・エェルが、横にいる九鳥・メモワールのおでこをじっと見つめた。
「なぜ、九鳥を見ますか!」
 九鳥・メモワールが、抗議の声をあげた。
「違いました。紛らわしいですわ。うーん」
 またひとしきり唸った後、マネット・エェルが廊下の奥の方を指さした。
「こっちですわ……きっと」