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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第七幕・機械忍者起動セリ】

 購買では、相沢 洋(あいざわ・ひろし)とパートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)が爆薬の調達を行なっていた。
「作戦に必要なんでな。もらっておくぞ」
「お代はいかほどですの?」
「ああ、ええよええよ。そのへんのほとんど売れ残りの品やから。初回サービスしとくわ」
 そんな購買のおばちゃんの厚意を受け、ふたりは駆け出していった。
 それと入れ代わる形で利経衛がドタドタと入って来た。
 その後ろにはエヴァルトとロートラウトもついて来ている。更に落とし穴の時にはぐれてしまっていた美羽とも合流したらしく同行していた。
「あー。こっちですぅ」
 入ってすぐ手招きするメイベルが目に入った。
「お待たせしたでござるな。それで、相手はどこでござる?」
「うん、それはねぇ」
「ねえねえメイベル! ちょっとこっち来て、すごいよ!」
 と、セシリアに声をかけられ駆け寄っていくメイベル。
 そちらには青色の鎧武者が飾ってあり、
「僕こういうの初めて見たよ! 写メ撮って、写メ!」
 そこから五分近く、いい写メが撮り終わるまで利経衛達は待たされた。
「ごめんなさいですぅ。それで、敵はですねぇ」
「メイベル。ちょっと来てくださいますか?」
 と、戻ってきたかと思うと今度はフィリッパに呼ばれて行ってしまうメイベル。
 彼女は購買の忍者グッズをまじまじと眺めていて、
「記念になにか買いたいのですが、何がいいと思います?」
 そこから十分ほど相談した後、結局オーソドックスに巻物を一本買うまで利経衛達は待たされた。むしろ自分達で探した方が早いのではと利経衛はちょっと思ったりもしたが、せっかくなのでちゃんと待った。
「あはは、何度もごめんなさいですぅ」
「……いえ。気にしなくていいでござる。それで、敵は?」
「あそこですぅ」
 メイベルが指差す先にいたのは、手裏剣の棚の前でうっとりしている胸元に卍の印が刺繍された紅の忍び装束を着たくのいち、卍子だった。
 年齢こそ高校生くらいであったが、その様子にはまだまだ子供っぽさが見られた。そんな彼女は利経衛に気づくなりブンブンと手を振って、
「あ。やほー、ウッチャリ。今日も元気に手裏剣投げてるー?」
「卍子殿は相変わらずでござるな。それよりも、卍手裏剣を渡して貰うでござるよ」
「ぶー、つまんないの。そーいうノリ悪いのあたしきらーい」
 テンション高かったかと思うと、いきなりふてくされる卍子。利経衛はそんな高低差の激しい彼女に、なんだか疲れがドッと増したように感じた。
 そのとき、

ピンポンパンポーン

『卍子様、聞こえていますか? これから全校放送で手裏剣談議を行ないたいと思っています。一緒に手裏剣について語り合いませんか? ですのでよかったら、放送室まで来てください』
 突然聞こえてきたのは望の声。どうやら放送室を借りて呼びかけを行なっているらしい。
「へぇ……こっちの方が断然面白そうね。そういうことで、悪いけどあたしそっちに行くから。じゃね」
「え? あ、ちょっと待つでござるよ!」
 そそくさと去っていく卍子を、止めようとした利経衛だったが。
「待テ」
 そんな彼を更に呼び止める人物がいた。振り返るとそこには、
「先ニ我ト戦ッテモラオウカ」
 カタコトで喋る目的の忍者のひとり、機晶姫のSABAKI三号が仁王立ちしていた。
 利経衛を見据えるその顔こそ、卍子と同世代の少女で可憐さが感じられるものであったが。表情に色は無く、重量級のカラダに灰色の忍び装束を着込んでいるゆえ、どうしてもアンバランスと言わざるを得なかった。
「SABAKI殿、お主もここにいたんでござるな」
「卍子ヲ追イカケルナラ、我トノ勝負ヲツケテカラニシテクレ」
 利経衛は一瞬迷う仕草をしたが、どの道相手をしなければいけないのは同じだと考えたのか、改めて三号と対峙することとなった。
「では、いくでござるよ」
「私もせいいっぱい、がんばっちゃうよ〜」
「勝負だ、ロボ忍者SABAKI! またの名を忍者戦士飛か――」
「ちょっと! いつの時代のロボットアニメの話してんのよ!」
 そして各々が戦闘態勢に入った後、チカチカと三号の瞳が明滅したかと思うとその身体からプシュー……と音をあげながら白煙があがっていき周囲が白く覆われていく。
「先ニ伝エテオク。死ナナイヨウ、気ヲツケロ」
 三号はその言葉と同時に、ふっと煙の中に消えた。どこから来るのかわからない恐怖が四人の間に漂う中、エヴァルトはライトニングブラストのスキルを応用して、機晶石の波動を探っていく。そして、
「ロートラウト、後ろだ!」
「うんっ!」
 叫びに呼応するかのように煙の中より突進してきた三号。その左腕の鉤爪とロートラウトの鉄甲がけたたましい金属音を奏でた。
 奇襲が失敗した三号はわずかに後ろへ跳び、その際に足を振り回した。すると膝や足首部分から手裏剣や、クナイ、更に鎖鎌や鉄扇、七首などが飛び出して襲い掛かってくる。
 機晶姫ならではの暗器の使い方に、同じ機晶姫のロートラウトとは対抗心を燃やしつつ自身の特製鉄甲を駆使してそれらを弾き飛ばし。時折エヴァルトも援護して鎖十手で武装の数々を絡め取っていく。
 キンキンキンキンキンと、そうした攻防が何秒か続いた後、三号が突如右腕を平行に出した。かと思うとその掌から目的の忍者刀が飛び出し、三号はそれを掴みとる。忍者刀は普通の刀より短いのが常だが、三号の手がゴツイゆえ余計に短く見えた。
「あれが例の刀よね! 私達も行くよ!」
「わかったでござる!」
 すかさず、美羽が勢いよく正面よりの特攻をかけた。
 忍者刀を狙ってのことだとは三号とて承知の上であったが、それでも盗られない自信があるのか、その忍者刀を上段に振りかぶり実際に攻撃する構えをとってきた。
「はああああああっ!」
 それに対する美羽はスピードを落とさないまま、三号が完全に振りぬかれる前に炎の闘気をまとった脚をミニスカートをはためかせつつ勢いよく振り上げ、右手を食い止めていた。
「貰ったでござる!」
 その隙に、利経衛は中途で止まった忍者刀めがけて真横から飛び掛っていった。
 しかし。三号の右腕がガコンと何か音を立てた直後、そこから何十本もの鉄針が利経衛めがけて放射された。
「うわあああっ!」
 その攻撃に利経衛はたまらず両腕で防御するも、腕や足の数箇所に針が突き刺さった痛みで膝をついてしまった。
「利経衛……! あ、きゃあっ!」
 美羽の方も支えていた右腕を後方に引かれてバランスを崩したところを、人間ならあり得ない角度で跳ね上がった右足によって、そのまま後ろへ蹴り飛ばされてしまった。
 更に返す刀で今度はエヴァルトに向かって、また刀を上段に構えて振りおろさんとする。
 だがエヴァルトはそれでも避ける素振りも見せず真正面から立ち向かう姿勢をとった。
「今だ! 真剣白刃取り――」
 そして刃が絶妙のタイミングでその手と合わさろうとしたとき、
 三号の右手自体が切り離されて飛んで来た。
「!?」
 忍者刀による攻撃でなく、まさかそれを持った手のロケットパンチが来るとは思いもしなかったエヴァルトはそれをもろに喰らい、支えようとしたロートラウトもろともに後方の商品棚に激突させられた。
「コノ我ノカラダモ、アルイミデハ暗器ノヒトツ。ザンネンダッタナ」
 三号は気を失ったらしいエヴァルト、ロートラウト、そして美羽を順繰りに眺めていき。
 最後に苦しげにうめいている利経衛へと視線を向けた。
「サテ。コレデオワリカ?」
「く……」
「ちょっとまったぁ! 次は私たちが相手だよ!」
 と、いきなりまったく別の声が轟いた。
 その声を放ったのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)。隣にはパートナーの霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も控えていた。
「イイダロウ、相手ヲシヨウ」
 そう呟きつつ、三号は忍者刀を再び右手の中に収納する。更に散らばった手裏剣やクナイを足で踏みつけた。すると足の裏からまるで掃除機で吸い込むかのような音が聞こえてきた。どうやら暗器の回収機能も搭載しているらしい。
「わ〜、便利だね。でも、全部取り終わるまでは待ってあげないよっ!」
 向かってきた透乃に身構える三号だが、彼女は正面からぶつかることはせずに軽身功を使って壁や棚をひょいひょいと駆け、間合いをとりながら三号の周りを動き回っていく。
「私もいきますっ!」
 そうした透乃の撹乱に続いて、陽子は射程ぎりぎりのラインを保って凶刃の鎖での攻撃を繰り出していく。
「ク……小癪ナマネヲ!」
 三号は近づかないふたりのやり方に苛立ったのか、ぎゅるりと身体を回転させて四方八方にクナイと鉄針を放出させる。更に左腕から鎖分銅を出して陽子の鎖を絡めとっていた。
 だがそれと同時に三号の回転がおさまった隙を狙い、泰宏はランスバレストを使って、一気に懐へと入り込んだ。
 その突撃を胴体に受けて一歩よろめく三号だが、すぐに体勢を立て直して泰宏を引き剥がそうと殴りつけていく。
「ぐっ、くそ……負けるかぁ!」
 三号の文字通りの鉄拳を身に受けながら、泰宏はしぶとくその身に捕まり続けた。
 こうも間近に来られては重量を生かした攻撃もできないと判断した三号は、再び右手から忍者刀を取り出した。
(((よし!)))
 しかしそれこそ三人の狙いだった。
 陽子はすかさず奈落の鉄鎖で重力を掛けて相手の動きを鈍らせる。元々の体重が重たい三号にそれは効果的で、目に見えてガクリと身体に動揺を走らせた。
 そこを撹乱で走り続けていた透乃が方向転換して一気に、忍者刀を奪うべく飛びついた。
 三号は利経衛にした時のように右腕の仕掛けを動かそうとしたが、しがみついている泰宏が邪魔でその機能が正常に働いてくれず。
「やあああああっ!」
 突撃の勢いを生かした透乃は、三号の手から忍者刀を奪うのに成功していた。
「やったあ! って。わ、あ、あぶない」
 勢いがつきすぎた透乃はそのままゴロゴロと転がりながら、抱きしめた忍者刀で危うく身体を切りそうになっていた。
「………………フ。我ノ負ケノヨウダナ」
 三号は勝負がついたとばかりに、プシュウゥゥ……と蒸気を発しながらその場に座り込み、そのまま動かなくなるのだった。