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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 6.町・守護天使
 
 アイナに危機が迫っている頃、朔から連絡を受けた一行は守護天使服専門店の「天使のピエロ」に到着していた。
「なるほど! これは……」
 蒼空学園・本校生の面々は絶句する。
「ルミーナ・レバレッジ本人の蝋人形と、断定すべきよね……」
 シイナに変わって「案内役」を引き受けた美羽は、口元を押さえて絶句する。
 その蝋人形は瞳に精気が宿ってないだけで、まさにルミーナそのものだった。
 どれほど腕の良い職人が手がけようとも、これほどの精巧さは出せまい。
「ルミーナさん、ルミーナさん、起きてください!」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)は人目もはばからずショーウィンドウに近づいたが、ルミーナが答えるはずもなく。
「一体、誰がこんなことを……」
 隼人ばかりでなく、一行は少なからずの衝撃を受けていた。
 月夜はトレジャーセンスを使う。
「竪琴と……指輪? かしら?」
 なぜそんなものに反応するのか? と首を傾げる。
 スキルはルミーナの左手の薬指にある「光精の指輪」と右手にある「竪琴」を指しているのだ。
 その時、月夜をはじめとする本校生達は短い声を上げた。
「何か、変だよね? これ。ルミーナさんって、竪琴持っていたっけ?」
 騒ぎを聞きつけて、店主の女が出てくる。
 コハクとクリスは彼女に尋ねた。
「あの、このマネキンは、いつからこちらの店で置かれているのでしょうか? どこで調達したのでしょう?」
「ああ、町長が置いて行ったんだよ。最近ね」
「最近?」
「朝早くにね、町長が置いてくれ、て。まあ、噂の娘達の蝋人形じゃないし、借金も棒引きにしてくれるっていうし。それが、何か?」
 2人が質問づめで店主をくぎ付けにしている間に、恭司は「光学迷彩」で姿を隠し店内を捜索する。
(特に怪しい点はない。ルミーナ先輩に関するものもなさそうだ)
 店主が告げたことは真実ということだ。
「じゃ、このマネキンを買い取るっていうことは出来ないの?」
 いいよね? とロートラウトは契約者の財布を取り出す。
 だがエヴァルトが吠える前に、店主は青ざめて。
「と、とんでもございませんよ! お客様」
 脅えて首を振った。
「そ、そんなことをしたら! 私が町長に殺されてしまいます!」
 そういう契約なのだという。
「でも、そのマネキンは……マネキンじゃなくて。町の娘さんと同様に蝋人形にされてしまった俺の知り合いなんだ!」
 ルミーナ命! の隼人は涙目で食い下がる。
「いくらかかろうとも構わまん。譲ってもらえないか?」
 店主は「いくらかかろうとも?」と繰り返したが、やはり命の方が大事なようだ。
「御冗談言わないでくださいませ、お客様」
「じゃあ、元に戻しちゃえばいいのよね?」
 ブリジットは店の中からヤカンを持ってくる。
「お湯掛けて、3分待てば戻るんじゃないの?」
「んな訳、あるかっ!」
 ハリセンの総ツッコミにあって、撃沈する。
 
 仕方がないので店主の勧めに従い、携帯電話のカメラに画像を収めて店を立ち去ることとした。
 
 ■
 
「じゃ、次行こっか! 2丁目の小奇麗なアパートだったっけ?」
 美羽は静麻からのメールを再チェックする。
 その時隼人の携帯電話に着信が鳴った。
「何だろう、ルミーナさん……な訳ないか」
 落胆しつつ液晶画面を確認する。
 『士元』とある。
「アイナじゃなくてよかったぜ」
 冗談とも本気ともつかぬことを呟いて電話に出ると、士元の苦しそうな声が流れてきた。
「隼人、ですか? アイナ君が……攫われました。町長と『迷いの森』へ……」
「……え? アイナが?」
 言うが早いか、隼人は一行を飛び出して「迷いの森」へと向かった。
 
 隼人! どうしたの? という美羽達の声は見る見るうちに遠くなって行く――。