薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

リアクション公開中!

【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

リアクション

 ■

 で、数分後――。
 
「くそっ! しつこいな!」
 振り返って、シイナは舌打ちをする。
 全力疾走にもかかわらず、【自警団】は諦めなかった。
 それなりに体力自慢の者が集められているらしく、振り切れない。
 このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。
「という訳で、最後の手段だ! 残りの洋品店全部回りながら、奴らをまくぞ!」
 シイナは全力疾走のまま、明日香や美羽の協力を仰ぐ。
「右、右、右……いや、次の交差点を左だ!」
「て、それ、斜め左でしょ!」
 パコッ、明日香は懸命にスリッパで方向修正する。
「しかし、シイナ!」
 恭司が怒鳴った。
「店に入り込んだら、囲まれてしまうぞ!」
「大丈夫だ! 奴らは正常な男共だ。まずは無理だろう」
「は? 正常? 男?」
(俺も男だぞ?)
 嫌な予感に恭司は眉をひそめる。

 彼の嫌な予感はものの見事に的中して。
 その後彼らは「ランジェリーショップ」と「コスプレショップ」に立て続けに入らされることとなった。
 後者は「無料セール大放出中!」と銘打ってある。
 一行は売れ残りの「シスター」と「神父」の礼服に着替えて、変装して飛び出す。
 だが聖職者の大群なんぞ、田舎町では怪しまれて当然だ。
 という訳で、一行はどこまでも果敢に【自警団】から追い掛け回されるであった。
 
「なぜこんな完璧な変装なのに、見破られたんだ?」
「当り前だろうが!」
 バシッバシッハシッハシシッ、パカッ!
 恭司、美羽、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)、刀真、明日香から、総ツッコミに会う。
 特筆すべきはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だろう。
 彼は4名が終わるタイミングを見計らい、かねてより調達した金ダライを不敵な笑いと共に取り出す。
「ツッコミってなあ、こうするもんだ! 行くぜっ!」
 シュパッ。
 狙い定めて金ダライを放り投げる。
 だが、運悪く目の前に「金物店」の看板が!
 のわっ! とのけぞった時には遅く、看板に直撃した金ダライはそのまま顔面目掛けて直撃した。
「うう、俺は今回もこんなところで果てるのかい!」
 エヴァルト、撃沈。
 彼の背をドカドカッと【自警団】が乗り越えて行く。
「『魔術師』の男かい? 『占い部屋』に通っていたらしぜ」
 町民達の話を、遠のく意識の中で聞きながら……。

「エヴァルト……短い人生だった。おまえの死は無駄にはしないぞ! しかし誰が惨い目におまえを追いやったのか……」
「貴様だろうがっ!」
 シイナが再び総ツッコミにあったのは言うまでもない。
 
 ■

「乗り越えるぞ!」
 シイナが指示したのは、高いレンガの外壁だった。
 上部から怪しげに綱が垂れ下がっている。
「何? あれ?」
 美羽が首を傾げて。
「君は無理でしょう?」
 刀真はシイナにくぎを刺す。
 彼の意見はもっともで、綱は地上部まであるから良いとして、外壁はゆうに3メートルはありそうだ。
「何を言うか、刀真! 日々、新聞配達で鍛えた脚!」
「は? 新聞配達?」
「地球にいた頃、10年近くやっていたんだ。という訳で、行くぞ!」
 残り数メートルの位置まで【自警団】は迫っている。
 殴り倒せないこともないだろうが、そんなことをしたら「地球人迷信」に拍車をかけてしまうことになりかねないので、ここはシイナに従った方がよさそうだ。
 そういった次第で、彼らはレンガ壁の綱を目指した。
「ファイト、イッパアーーツッ!」
 各自は綱に飛びついた。
 その途端、リンゴンッとうるさく鐘の音が鳴りはじめた。
 それも1つや2つではない。
 何十、何百という数だ。
 その騒々しさに、【自警団】はおろか町の人々でさえ家から出てきて、何事かと空をキョロキョロと見上げる。
 シイナが説明する。
「礼拝堂につながってるのだ。この隙に教会へ逃げ込むぞ!」

 ■

 壁を綱を伝って乗り越えた所で、そこは教会だった。
 折しも礼拝堂では結婚式の真っ最中だったらしく、新郎新婦が花弁舞う人垣の中、階段を下りてくる。
「よし、あいつらを人質にとって、町での安全を確保するぞ!」
「え? 人質ですって!?」
「そうだ。このままでは拉致が明かない。花嫁でも人質にとれば奴らも大人しく捜査に協力するだろう」
「いい加減にしろ!」
 全員がハリセンでツッコむ。
 その間に恭司は神父の礼服を脱ぎ去り、
「キミとは、ここで終わりにしようか」
 元の姿に戻ると「光学迷彩」で姿を消す。
「ブラックコート」を被せ、「バーストダッシュ」!
 シイナ拉致に成功した。
「まあ、こんな奴でも、役に立つ時は呼んでくれ!」
 彼女の携帯電話を美羽に放り投げて、タアーッと去って行く。
「彼がやらなければ、俺がやっていたところですね」
 あっけにとられて見送る一行の中で、刀真だけはしきりに恭司の行動を称賛していたとか。
 
 ……ともあれ。
 今回彼らの判断は正しく、シイナを案内役にしてさえメインストリートの半数の洋品店を捜索することに成功した。
「エヴァルトくんや調教組も、重要な情報を手に入れることが出来たことだしね!」
 ボロボロのエヴァルトを探し出してきたロートラウトは、一行の成果を褒め称える。
「もっともエヴァルトくんは、ルミーナちゃんの情報が欲しかったんだけどねー」
 という訳で、別行動でルミーナ捜しに出向こうとする。
 その時着信が鳴って、美羽はシイナの携帯電話にでた。
 
「え? ルミーナさんとオルフェウスさんの蝋人形が見つかった?」