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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 2.リトルブレーメン
 
 【捜索隊】が鹿島 シイナを正門前でピックアップして町に到着したのは、キャンパスを出てから10分後のことだった。
 シイナを「案内役」に立てて予定通り到着出来たのは、奇跡に等しい。
「これもすべて、明日香と私のお陰よね!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)神代 明日香(かみしろ・あすか)を振り返り、ナナから借り受けたハリセンを掲げる。
 明日香がシイナから行きたい方角を聞き出し、違う方向に行きそうになると美羽がハリセンで叩いて修正する。
 それらの行為を繰り返した結果、一行は速やかに町まで辿りつけたのだった。
「これで、とりあえず町に着くまで1日費やすということはなくなったのだな」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)は「一行の安全」面から胸を撫で下ろす。
 
「それにしても素敵な町ですね!」
 明日香は目を輝かせて丘の上を見上げた。
 小さな丘全体に、明るい色の屋根瓦で彩られた中世の田舎町がある。
「何しろ、5000年間1度も他国の文化が入ったことのない町だからな」
 そう教科書で習った、とシイナは説明する。
 成績上位者、というナナの話はあながち間違いではなかったようだ。
「という訳で『頑固さ』も筋金入りだ。そのうえ地球人のことは『雰囲気』で悟ってしまうほど、連中は敏感だ!」
 そこまで話して、シイナは頭を下げる。
「本当にすまないと思っている。我がキャンパスの不始末の所為で、また皆の世話になることになってしまった。しかもよりにもよって、こんな最悪の状況の中で……」
「何言ってんだ! 鹿島」
 声を上げたのは隼人だった。
「それに2人は一刻を争う事情なのだろう? 俺は、その……なあ、皐月」
 皐月? と隼人は振り返る。
 ボウッとしていた日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、顔を向けると遠慮がちにああ、と同意した。
 
 町の手前までくる。
 一行は木陰から中の様子をうかがった。
 噂通り、武装した町民達が絶えず徘徊している。
 これでは地球人どころか、一般のパラミタ人でさえ中に入ることは難しいだろう。
「で、どうするつもりだ?」
 静麻の問いに、シイナは即答した。
「まず用意をする。その後は各自に任せる。手分けして行動した方が早いだろう。という訳で、私と共に行動する者達と、単独行動組に分かれて町中を捜索だ」
「シイナ、いいかな?」
 それまで黙っていた鬼崎 朔(きざき・さく)が切り出す。
「事情は色々とあると思います。けれど、その……自分は真っ先に、噂の占い師に会いに行きたいんです!」
 朔は浦深 益代のことを話す。
 彼女は益代と唯一【痛みを分かち合える者】として、親交を持った少女だった。
「なるほど、そういった事情があるのなら……」
 シイナは理解を示して、地理のわからない朔のために地図を描いて占い師の場所を教えた。
 渡しながら、そうだな、と宙を睨む。
「もし……他にも占い師に会いに行きたい者がいたら。朔について先に行ってくれないか? それで有益な情報があったら、携帯電話で教えてくれ。その間、残りの者は全員民家の物陰で待機しよう」
「なぜです?」
 片眉を上げたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)
 彼は敬愛する御神楽 環菜(みかぐら・かんな)のためにも、一刻も早くルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の捜索をすべきだと考える。
「占い師は町の人間だろう?」
 シイナは努めて穏やかに答えた。
「情報は多い方がいいに決まっている」
「つまり『辺りをつけて』から、捜査にかかるということだな」
 静麻は頷いた。
「その通りだ、静麻。情報が集まるまではこらえてくれ、刀真。では、用意にかかるとしようか」

 という訳で、以降は急きょ木陰で準備に取り掛かることとなった。
 
 シイナはナナに用意してもらった民族衣装に着替える。
 隼人は犬のきぐるみでゆる族を気取る。
 梓は「光学迷彩」や「隠れ身」で、綺人は「隠れ身」で目立たぬようにする。
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は「禁猟区」をあらかじめかけておく。
 朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は「ヴァンガードエンブレム」を目立つ位置につける。
 イリス・カンター(いりす・かんたー)椿 薫(つばき・かおる)に縄で首輪をつける
 別行動組は綺人に地図を見せてもらい、町の地理を把握。
 迷った時のために、シイナから携帯電話の番号を教わる。
 ついでにと、隼人は彼女に町の正確な地図を頼み、メモ帳に描いてもらった。
 
 一行の準備が終わった後で、シイナは今一度、
「いいか、地球人は『雰囲気』でわかってしまう。策を練ってない者は、極力大人しくしていることだ!」
 全員に伝え、行動を開始した。
 一行は【別行動隊】と【シイナ隊】の2隊に分かれ、町の中へと入って行く。
 今回もやる気だけは十分なシイナの目を盗み、恭司は。
『暴走の際は拉致してでも止める。安心しろ!』
 当事者以外の全員に、メールでその旨通達するのだった。

 ■
 
 彼ら遥か後方を、冷ややかな目で眺めている人影があった。
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)――その人である。
 動機も目的も一行とはかけ離れているこの男は、何食わぬ顔をして【捜索隊】に混ざり、誰に気づかれることもなく町の中へと侵入して行く――。