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リアクション
3日目(地下) 夢の終わり
入り口から階段を降りた一行は、早速2組に分かれた。隠し通路を使い、先行して巨大機晶姫の所へ行く組と、2階の調査を重点的に行う組である。2日前に隠し通路を通った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)に護衛を任せ、環菜と会話を交わしていた。後ろには、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)――通称静香と樽原 明(たるはら・あきら)もついている。ちなみに、今日の明のお面は『顔に傷のあるイカツイおっちゃん』である。
「環菜様、巨大機晶姫の扱いはどうされるご予定ですか? 依頼を出された以上、鏖殺寺院に情報が行っている可能性も高いと思われます。利用されないためにも何か手を打っておくべきではないかと」
「そうね……」
環菜は、先程のパズル本を取り出してガガに目を向ける。
「内容は頭に入っているのよね?」
「一通り写したからね。それなりには。後はノートを見れば大丈夫だと思うよ」
「そう」
それだけ言うと、環菜は原本をアーティフィサーの影野 陽太(かげの・ようた)に手渡した。
「彼女に形を聞いて分解を試してみて。あくまでもあなたが主導ね」
「えーーーーーーーー!」
ガガが不満の声をあげる。そりゃそうだ。
「専門職以外の人間がいじって、万が一に壊れてしまったら元も子もないでしょう。でも、形状を説明するのには適任だわ。期待してるわよ」
「げ、外道……」
「ちょ、ちょっと待て、分解するのか!?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が驚いて前に出てきた。
「ロボだぞ? 巨大ロボ!」
「……だから何?」
「巨大ロボの実現は人類の夢だぞ! それを修理するのではなく分解するなんて以っての外だろ!」
「そう言うと思ったから、あなたには原本渡さなかったのよ……」
表情には出さずとも、あきれたように言う環菜。それを後ろで眺めながら、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)がしょうがないなあと苦笑する。
「全く、ファーシーちゃんが大丈夫だとわかった途端これだもんねー。確かに一段落したし、ボク達に出来る範囲は超えたかもしれないけど」
そこで、静香が疑問を口にする。
「それにしても、あれほどに巨大な機晶姫を投入しなくてはならないほど、当時の戦況は悪かったのでしょうか。先程のお話ですとこの街の人達は戦闘用にするつもりは無かったようですが……事実、古王国からは武装化の指示があったのでしょう?」
「より正しく言えば、古王国の使者よ。ルミーナ達から昨日聞いた話を合わせると、私は使者の独断であった可能性が高いと思うわ。アストレアを襲った領主の使者ね。領主は巨大ロボ……いえ、戦闘用の機晶姫を手に入れたかった。それで武装の指示を出したけれど、製作は遅々として進まない。だから、機晶姫の相手である巨人を倒そうとした――アストレアの件に女王は関与していなかったようだし、一番しっくりくるんじゃないかしら」
「しかし、それには巨人の予測が入っていますよね? 事実かどうかは証明できないのでは」
「火の無いところに煙は立たないって言うわ。根拠のない予測ではないでしょう。あの時代を肌で感じた者の出した結論よ。文献での知識しか持たない私達が徒に仮説を立てるよりは信憑性があるわ」
納得のいかない様子の静香に、環菜は続ける。
「本当のことなんて、それこそ領主の幽霊でも出てこなければ判らないでしょうけど、そんな御都合展開が起きるほど現実は甘くないわ。恐らく、これで間違いはないでしょう。尤も、実際の戦況が悪かったという可能性は今後のことも含めて調べていく必要はあるわね」
「……余程に強力な敵戦力がいた、という可能性ですか? 今のシャンバラのような……」
「…………」
それには、環菜は答えなかった。
「ダークヴァルキリーが復活し、キャンプ・ゴフェルが現れた今となっては、巨大機晶姫も戦力として運用できるようになる必要があるのでしょうか?」
半ば独り言のように言うと、静香は祥子と視線を交し合った。
(いくら依頼主が環菜様とはいえ、出来れば……巨大機晶姫は渡したくないですわね。わたくし自身……或いは、ヒラニプラで調査をしたいところですわ)
祥子も同じことを考えていた。発見者である環菜は所有権の主張が出来る。だが、教導団員としては管理を任せてみてほしい気持ちがある。
やがて、一行は資料室に着いた。そして、隠し扉を開けて通路を目にして――げんなりした。
約1名を除いて。
「出たな強敵。環菜会長は下がっていろ。こんなゼリーは俺が倒してやる!」
中原 一徒(なかはら・かずと)は、気合を込めてへどろんに向かっていった。ツインスラッシュで攻撃すると、へどろんは驚いたように後退る。そこに祥子がバニッシュを掛けた。光輝属性の攻撃にますます怯むへどろん。
「バニッシュは有効みたいね。このまま奥から来るやつも押し返しましょう」
そうして、一徒と祥子が協力して進んでいく。とはいえ、あちらもやられるばかりではない。形状を変えて、2人に対抗してくる。だがエヴァルトのライトニングウェポンを受け、中途半端な状態でへどろんは痙攣した。エヴァルトとロートラウトは、そのまま脇をすりぬけて終点を目指した。
後に続きながら、環菜が言う。
「決定打が無いわね。誰か、氷術は使えないの?」
「俺は持ってないです……」
横を歩く陽太が、さりげなく要人警護をしながら申し訳なさそうにした。
「俺達も持ってないな……しかし、油性の生物ではそうそう凍結しないのではないか?」
ランスロットが言うと、環菜は首を振った。
「いえ、凍るわよ。大体マイナス20度あれば問題無いわ。氷術を最大限に使えば充分いけるでしょう」
「ガガは使えるよ! 巨大機晶姫の分解、させてくれるなら……」
「それは駄目」
「ちぇっ! ……まあ、今はそんな事言ってる場合でもないか!」
ガガがしびれたへどろんに氷術をかけていく。固まったところで、ランスロットが轟雷閃で砕いていった。
前回、美央が開けた穴から性懲りも無く出てくるこれらをしびれさせると、エヴァルトは出口前にいたゴーレムの間接部を工事用ドリルで攻撃した。動きを封じたところで、鉄甲をつけたロートラウトがソニックブレードで真っ二つにする。
「よし、この先に巨大ロボがいるんだな!」
エヴァルトが勢い良く釦を押す。
回転した壁を抜けると、時を止めた黒い機体が、無言のままに彼らを迎えた。
一方、調査組。
「まさか、またすぐここに来るとはなぁ」
グレートソードを出してルミーナの警護をしながら、葛葉 翔(くずのは・しょう)は誰にともなく感想を漏らす。
「ルミーナさんは私達が守るから大丈夫よ! 上に戻る?」
『道中お供させてください!』とはりきって護衛に立候補したアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が立ち止まった。本気で気遣っているらしい彼女に慌てて、翔は言う。
「いや、意外だったってだけで……まぁ、要人警護もヴァンガードの仕事の内だしな」 ルミーナやファーシーが心配だったのだが、さすがにそれをストレートに言うのは恥ずかしかった。
「ルミーナさんもファーシーさんも、安心していてくださいね! へどろんやゴーレムは、私達がやっつけてあげますから!」
「うん!」
「よろしくお願いしますね、アリアさん」
2人は、要人警護に加えて殺気看破を併用しつつ先頭を進む。
「一応伝えておくけど、へどろん相手には火気厳禁だからな」
翔が全員に聞こえるように言うと、施設内をじっくりと見回していた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が元気に答えた。
「そんなに心配しなくても、爆炎波をへどろんに向けて使ったりしないよー!」
「なんだその使います的な発言……」
「いや本当に、ファーシーちゃんもこんなところでご臨床……じゃなくてご臨終なんてことにはなりたくないだろうしね。積極的に、真面目に戦うよー!」
「透乃ちゃん、そのネタは一部の人にしか分からないかと……」
緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の言葉に、透乃は首を傾げる。
「ネタ? ネットサーフィンしてた時にたまたま見つけたフレーズなんだけど」
「ネタじゃないですか……」
透乃達のやりとりに、ファーシーが声を上げて笑う。
「あ、あははははっ、お、面白過ぎるわ……!」
そこに、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)がハイテンションで話しかける。
「やっふぅー! 朔様からファーシー様のことはお伺いしていたのであります! 早速なのですが、ファーシー様! スカサハとお友達になってほしいでありますーー!」
「うん、いいよ。よろしくね、スカサハさん!」
「スカサハ! 絶賛お友達募集中なのでありますよ! また目標に近付いたであります!」
「目標って?」
「お友達100人計画であります! 機晶姫のお友達を一杯作るでありますよー!」
「100人? すごいわね! そんなにいたら楽しいだろうなあー」
驚き、感心するファーシーにスカサハは言う。
「ファーシー様も出来るでありますよ! スカサハと合わせたら、200人であります!」
「いや……結構被るだろうし、200人にはならないと思うぞ……」
つっこみながらも、鬼崎 朔(きざき・さく)は2人が友達になったことを微笑ましく思っていた。スカサハにファーシーのことを話した時、何かしらの共感をしていたようだったからだ。彼女も戦争で主人を亡くしていたので、思うところがあったのだろう。
「巨大機晶姫、楽しみであります! ビル5階分の大きさなんてすごいであります!」
「そうよね、早く見てみたいなあ……。みんなでどんな機晶姫を造ってたのかなあ……」
ファーシーの声は自然体で、心から楽しそうで朔は安心した。そして気を引き締める。ここにはへどろんなるモンスターがいるらしく、会ってみたくはない、会ってみたくはないが(大事なことなので2回言いました)、会わないわけにもいかないだろう。他にも何が出るか分からないし、とりあえず殺気看破で辺りを警戒する。
その時、朔は集団の最後尾にいる赤羽 美央(あかばね・みお)が壁際にしゃがみこんで何やらやっているのに気がついた。トラッパーを仕掛けているように見えるが――
「何してるんだ……?」
「なんでもありません」
美央は立ち上がると、集団に追いついてきた。トレジャーセンスを発動して飄々と調査に混じる。
「いつもと様子が違わないか?」
ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)に言ってみると、ジョセフも同意するように首を傾げた。
「デスよね……なんか美央がおとなしい気がするのデスが、なんなんデショウ。『なるほど、さっぱりわかりません』と言ってミーに皮紙の解読を押し付けてから、後ろでコソコソしてることが多いのデスヨ? 一昨日は生き生きと壁を壊しまくっていたというのニ、デス」
皮紙というのは、ジョセフが1階で見つけたモデル云々と書かれていたものである。
「美央ちゃんにもいろいろあるのよ」
タニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)が言う。朔も『雪だるま王国』の大切な国民だったが、今回の任務は少人数で行った方が良いだろう。知らないのであれば、確認が済むまで徒に広める情報でもない。
「ふうん……で、その皮紙はなんなんだ?」
釈然としないながらも、朔は話を切り替える。
「これは前回、ミーが1階で見つけたものデス。大きな『モデル』という文字は読み取れるのデスガ、他は文字が小さい上に掠れているノデ博識を使ってもナカナカ……」
そうして、ジョセフは皮紙に意識を向け始めた。美央はきょろきょろしながら通路を歩いている。
「さっきからトレジャーセンスが反応しっぱなしなのですが、壊れたのですかね?」
「スキルは壊れません。何かあるのでは」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)の言葉で全員が立ち止まる。近くの部屋を手分けして確認し――それに気付いたのは、フィーネだった。
「扉に埃の被ったドクロが付いてるな。これは水晶ドクロだ。戦闘中に使うと光輝属性の効果があるやつだな。お守りとして、付けていたんだろう」
そこに、ファーシーが当たり前のように補足する。
「あ、うん。それってお守りじゃないの? 厄除けとか。付けてないとモンスターが来るんでしょ?」
「…………」
揃って沈黙する一同。
「これが、モンスターが1階に来なかった理由か」
アーキスが言う。ずっと疑問に思っていたことが解けてすっきりするかと思いきや、あまりの単純さに脱力する気分である。
――再び歩み始めてほどなく。
「そろそろ地下2階だ。気をつけろよ」
2日前にこちら側のルートを通った涼が、銃型HCを確認しながら言う。アーキスは前回、隠し通路側だったので案内は涼に任せて護衛に徹していた。
改めて緊張をして、階段を降りる。レン・オズワルド(れん・おずわるど)がこれまでに一言も発していないことに、誰も気付いていなかった。
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