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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚

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【十二の星の華】双拳の誓い(第4回/全6回) 虜囚
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「いったい、お前たちは何をしに現れたのだ」
「それは、私たちの台詞だ」
 伯爵と対峙して、アルディミアク・ミトゥナが言った。伯爵を挟んで、ゴチメイたちも勢揃いしている。他にも、何人かの学生たちがそばにいた。
「馬鹿な。十二星華であれば、なぜ、陛下の忠実な僕である私に逆らうのだ」
 理解できないとばかりに、伯爵が言った。
「こちらとしては、女王像の欠片を返してもらえればそれでよかったんだがな」
 シニストラ・ラウルスが残念だという顔で言った。なんだかんだ言って、本来伯爵は金回りのいいお得意だったのだから。
「でもね、それ以前に、あたしは胸くそが悪い」
 デクステラ・サリクスが、城で見せられた様々な幻影ともつかない物のことを思い出して顔を顰めた。
「結局、お前は何者だったんだ。ただの吸血鬼じゃないだろう」
 ココ・カンパーニュが、伯爵に訊ねた。
「私は、この世界の残り香だ。忘れてはいけない遙か昔の記憶。そして、さらに人々の記憶を取り込み、後世に伝えていく者」
 夢見るように伯爵が答えた。
「夢喰いですわねえ」
 チャイ・セイロンが言った。
「悪夢その物じゃないですか」
 ペコ・フラワリーが嫌そうに言う。
「夢だろうと、悪夢だろうと、どちらでもいいではないか。お前たちも、いずれは夢になるのだから」
 伯爵が断定した。
「それって美味しいのか?」
「霞なんて、食べてもまずいものですよ、マナさん」
 ぼけたマナ・ウィンスレットに、クロセル・ラインツァートが突っ込んだ。
「要は、そんなこたあいいんだよってことだぜ」
 はしゃぎすぎて、結構ずたぼろになったパワードアーマーの一隊がガチャガチャと音をさせながらやってきた。
「はははは、違いない」
 シニストラ・ラウルスが面白そうに笑った。
「そろそろ、夢には覚めていただこうか。消えろ」
 シニストラ・ラウルスが言い捨てた。
「それはどちらかな」
 低く笑う伯爵の周りに、わずかに残っている霧が集まってきた。それが、十二の塊となり、そして、十二人のティセラ・リーブラの姿となった。
「なぜ、ティセラが……」
 デクステラ・サリクスが身構える。
「私はね、陛下のことをよく覚えているのだよ。そして、十二星華のこともね。忘れさせはしない、永遠に……」
 伯爵の姿が薄くぼやけていき、やがて消えた。同時に、十二人のティセラが目を開けた。姿形こそ同じだが、それぞれの持つ星剣はすべて違う。
 星杖シナモンスティック、双星拳スター・ブレーカー、星双頭剣ディエ・スパデ、星双剣グレートキャッツ、星扇澪標・不知火太夫、星剣ビックディッパー、星銃パワーランチャー、星弓ヴィータ、星鎌ディッグルビー、星槍コーラルリーフ、星槍サザンクロス。
 さすがにこれだけ揃えば壮観だ。
「所詮は紛い物だ」
 シニストラ・ラウルスは一笑にふした。
「ひとまず停戦だ。ややこしくていけねえ。細かいことはいいから、全部叩き潰せ!」
 実に割り切って、シニストラ・ラウルスがその場の全員に命じた。
「そんなこと……」
「いいか、従うんだお嬢ちゃん。物事には、優先順位というものがある。それを忘れるな……、来るぞ!」
 アルディミアク・ミトゥナを気迫で押さえたシニストラ・ラウルスが、注意を喚起した。
 星弓ヴィータを構えたティセラ・リーブラが、光矢を上空に撃ち上げた。それが、何物をも貫く幾千もの光の雨となってすべての者の頭上に降り注ぐ。
「来い! エレメント・ブレーカー!」
「来臨せよ! ジュエル・ブレーカー!」
 ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが同時に星拳を召喚した。
「アブソーブ!」
 降り注ぐ光条の雨を星拳が吸収してその下にいる者たちを守った。
「やればいいんだろう」
 状況を考える間もなく、乱戦が始まる。
「くだらない。霧の化け物だ。要は一気に蹴散らしてしまえばいいのだろう」
 戦いは学生やシニストラ・ラウルスたちに任せて、アルディミアク・ミトゥナが星拳を構えた。先ほど吸収したエネルギーを、衝撃波に変える。
「伏せろ!」
 叫ぶなり、アルディミアク・ミトゥナが星拳を突きあげて三百六十度に衝撃波を放った。直撃を受けたティセラ・リーブラが霧となって吹き飛ぶ。
「やったか」
 あっけないなと、トライブ・ロックスターがつぶやいた。
 だが、そうはいかず、散ったと思った霧はすぐに再集結して再びティセラ・リーブラの姿となった。
「夢は消えることはない……」
 ティセラ・リーブラたちの口から、伯爵の声が発せられる。
「力が足りない、二人で一緒にやれ。それが、星剣本来の力だ」
 シニストラ・ラウルスに言われて、アルディミアク・ミトゥナはなんとも言えない顔になった。きっと、その頭の中では、様々な記憶が混沌と渦を巻いていたのだろう。
「消す必要はない、忘れる必要もない、でも、今はなくなれ! 頼む、力を貸してくれ、シェリル!」
 ココ・カンパーニュの言葉に、アルディミアク・ミトゥナが無言ですっと腕を突きあげた。ココ・カンパーニュも、同じように腕を高く上げる。
「魔力を一気に高める。光術を使える者は、二人に光を!」(V)
 緋桜ケイが叫んだ。
「他の者は、敵を押さえろ」
「もうやってるぜぃ」
 樹月刀真の言葉に、ナガン・ウェルロッドが言い返した。
「集え光よ……」
 ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの星剣に光が集まっていく。
「輝け……」
「ライジング・ホーリー」
 ココ・カンパーニュとアルディミアクがそれぞれの手を音をたてて打ち合わせた。その瞬間、光の輪が広がる。
 学生たちと戦っていた十二星華の幻影が、完全に吹き飛んで消えた。
「ふう」
 力を使い切ったかのように、ココ・カンパーニュがぺたんとその場に座り込んだ。その背中を、アルディミアク・ミトゥナが黙って見つめた。今なら、ココ・カンパーニュは無防備だろう。
「撤退するぞ」
 シニストラ・ラウルスの言葉に、アルディミアク・ミトゥナはその場を離れた。ディッシュとウィング・シールドに乗って、ゴチメイたちが呼び止める間もなくその姿を消す。
 残されたココ・カンパーニュたちが見た城は、ただの廃墟であった。
 彼らが破壊したというわけではない。この城は、元から廃墟だったのだ。すべては、霧中の出来事であった。
 
「それで、女王像はどうするんだい?」
 放っておいていいのかというふうに、デクステラ・サリクスがシニストラ・ラウルスに訊ねた。
「知るか」
 少し怒ったように、シニストラ・ラウルスが答える。
 女王像の右手に価値があるとすれば、それは今の体制下でという条件つきだ。そして、明日も今日と同じであるとは限らない……。

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 ちょっと今回しんどかったです。
 情報量が膨大で、ちょっとへろへろです。
 それでも、まだゾブラク・ザーディアのすべての思惑だけはまだ出ていないわけですが。
 さて、残り後2回、お約束の展開になるのかそれとも……。最後までおつきあいただければ幸いです。

P.S.一部スキル読み間違えていたので修正。誤字脱字修正。