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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
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第1章 準備は万端


「皆さん、おはようございます。」
 マイクを持った教導団のミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が、パートナーで吸血鬼のアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が構えるカメラに向かって言った。
「我々は、今、詳しくは申し上げられないが、ヒラニプラでも有数の高山に来ている。
 なんと、本日ここで、サンタクロースの秘術を伝授する秘密の特訓が行われるとの情報を我々のみがキャッチした。しかも、史上初めての同行取材が許されたのだ!
 一体ここで何が行われるのか。そして、選ばれし者達の運命とは!? 我々は今ここから、世紀の生き証人になるのだ!!………こんな感じでどうかね、アマーリエ」
 そこまで喋り終えたミヒャエルが、アマーリエ・ホーエンハイムに向かって尋ねる。
 彼らは、サンタクロースのドキュメンタリー映像を撮ろうと山へ来ていた。
「そうですね、華がないのは目をつぶるとして、もっとドラマチックに盛り上げられませんか?」
「それって、もっとハッタリかませってこと?」
 機材運びの為に連れてきたトナカイの傍にいる魔道書のイル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)が、ツインテールの頭をこてんと傾げながらアマーリエに聞く。
「ただのハイキングを『秘密の特訓』と言うのは、すでに誇大広告もいい所だと思うのだが……」
 十誡の『隣人に対し偽証してはならない』という項目を思い出しながら呟いた英霊のロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)を、アマーリエがギロリと睨みつける。
「照明の位置が少し下がってきているようですが?」
 アマーリエの言葉に、ロドリーゴはあわてて照明を持つ腕を上げた。
「それでは、続けましょう」
 アマーリエがミヒャエルを促す。ミヒャエルは頷き、再びマイクに向かって話し出した。
「それでは早速、参加者の様子をお伝えしよう」
 ミヒャエルは、大がかりな作業をしている一団の元へ向かい、アマーリエとロドリーゴもそれに従った。

「おはようございます。今、こちらでは何の作業をされているのですかな?」
 ミヒャエルにマイクを向けられた同じ教導団の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、その問いににこやかに応じる。
「私たちはぁ、皆様の安全の為、山岳救助隊を編制しているんですぅ。こちらにベースキャンプを置いて、遭難者の探索・救助にあたるのが目的ですぅ」
 伽羅の後ろでは、彼女のパートナーの英霊2人、皇甫 嵩(こうほ・すう)劉 協(りゅう・きょう)が金属パイプを組み立て、丈夫な布を屋根に被せて運動会でよく見かける簡易テントを設営している。もう一人のパートナー、ゆる族のうんちょう タン(うんちょう・たん)は、テントの下に長机や椅子をせっせと運んでいた。
「きちんと登山訓練の計画書もとりまとめて、上に提出しておきましたのでぇ、準備は万端ですぅ。あ、これ、登山予定ルートの地図ですぅ。よろしかったらどうぞぉ」
 伽羅は、事前にフレデリカから聞いておいた登山ルートが記入された地図を、ミヒャエル達に渡した。
「ほぉ、これは使えそうですな」
「ご利用は計画的になのですぅ。素人が山をなめてはいけないのですよぉ」
「その考えには、オレも賛成じゃ!」
 伽羅の言葉を聞いた葦原明倫館の赤城 長門(あかぎ・ながと)が、力強く賛同した。
「山を軽くみていると痛い目にあうけぇのぅ!」
 そう言う本人の格好はと言えば、鍛え上げた筋肉を見せつけるように上半身には何も着ておらず、下はモンクの稽古着のズボンという超軽装だった。
「是非、オレにも救助を手伝わせてほしいんじゃが」
「歓迎しますぅ。人手は多い方がいいに決まっているのですぅ」
 長門の申し出に、伽羅が快く応じる。
「それじゃあ、よろしく頼むけぇ!」
 長門は素直に喜んだが、伽羅が含みのある笑顔で瞳をキラリと光らせた事に気付かなかった。

 ミヒャエルが伽羅から地図を受け取る1時間ほど前、最初に地図を受け取ったイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)琳 鳳明(りん・ほうめい)、パートナーの地祇、南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は、皆が楽しくハイキング出来るよう、先に山に入り、安全の確保に努めていた。
 行軍訓練で登り慣れた山なだけに、3人の足元には迷いがない。
 イリーナが周囲の警戒と鳳明の護衛にあたり、鳳明が地図と道を見比べながら、間違えそうな脇道には太い枝を組み合わせて目印を作り、滑落しそうな危険個所にはスプレーで色を塗って目印をつけていく。
「きゃっ!」
 消えかけていた獣道をわかりやすいように踏み馴らしていた鳳明が、小さな悲鳴と共に慌てて足を引いた。
「琳、どうした!?」
 イリーナが鳳明を庇う様に前に出ると、太い枯枝が折れ、鋭い先端が、鳳明に向かって突き出ていた。
「はっ!」
 イリーナは掛け声とともに、枝の尖った部分を光条兵器で切り落とした。
「大丈夫か?」
 鳳明は、切り落とされた枝を見ないようにして、強張った顔で頷いた。先端恐怖症の彼女は先ほどから、尖りものを目にする度に、イリーナに助けてもらっている。
「ご、ごめんね、イリーナさん」
 申し訳なさそうにいう鳳明に、イリーナはおやすいご用だと笑ってみせる。
「本当に、琳と違って凛々しいのぅ。琳、爪の垢でも煎じて飲ませてもらえ。そうすれば少しは軍人らしくもなろうよ」
 大型騎狼の上でのんびり柏餅を食べていたヒラニィが、呆れながら鳳明に言った。
「ヒラニィちゃんたら、わざわざ言わなくても自覚してるってば!」
「それをわかった上で、あえて言っておるのだ」
 反論するも、やりこめられて落ち込む鳳明の肩を、イリーナがなぐさめるようにポンと叩く。
「誰にだって苦手なものはあるものだ。琳、怖そうな部分があったら遠慮なく言え。私が潰してやるから」
 イリーナは鳳明にそう言いながら、先ほど切り落とした枯れ枝の先をペシリと踏みつぶした。
「うん、ありがとう」
「よし! それじゃどんどん行こう」
『皆の、楽しい今日のために!』
 2人は声を合わせて言うと、同時にくすくすと笑い出した。