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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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 その頃、馬宿はカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)に頼まれて、蘇我馬子と物部守屋が皇位を巡って争いを起こした当時を案内していた。
「おば……豊美ちゃんの作った世界だ、俺にも大体分かる。結果が変わらなければ問題なかろう」
 豊美ちゃんに置いていかれたことを恨んでいるようにも見える馬宿の案内で、カレンとジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は4度目の戦いの目前の頃にやって来た。
「確か馬宿君はこの時、仏像を彫りまくって兵達を元気付けたって聞いたけど」
 頷いた馬宿に、じゃあ、とカレンが思いつきを口にする。
「仏像よりも、カワイイ女の子の方がやる気出ると思わない? 幼女ならなおよし!」
「……まあ、いいだろう。どうせ想像の世界だ、なんとでもなる」
 やはり馬宿は、豊美ちゃんのことを恨んでいるようである。
 そして、カレンとジュレールが白膠の木を切り、馬宿が道具を手に四天王像ならぬ萌像を彫っていく。馬宿の彫刻技術は色あせておらず、エリザベートやアーデルハイト、ミーミル、豊美ちゃんの木像が出来上がっていく。豊美ちゃんの背丈だけ実寸と10cmほど低いのは、馬宿がやったことである。その時の馬宿はとてもいい表情をしていた。
 出来上がった像は並べられ、人々の目に触れられた。何も知らない人々が萌像を神様と勘違いして拝む様は、これが想像の世界であったとしても怒られてしまうかもしれない。
「……いかんな。これが仏教と勘違いされても困る。しっかりと『萌え』の概念を伝えねば」
 ジュレールがカレンにそのことを伝えると、「じゃあ、これも一緒に並べておくといいよ」とある書物を渡される。
「なに……『幼女を信じるものは救われる』『つるぺたこそが正義』『炊屋姫はぱんつを履かないから正義』……これはいかがなものか。後で豊美に焼かれはせんだろうか」
 ジュレールの心配をよそに、人々は熱心に書物に目を通していた。実のところ人々は書かれている内容を理解してはおらず、ただ素晴らしいものと思っているだけなのだが、それゆえになおのことたちが悪いのかもしれない。
「うーん、ただ並べておくだけってのもつまんないなぁ。ねぇ、この像、戦いの時に操ったりできないかな?」
「それは厳しいだろう……せいぜい、数を並べてその背後から弓矢を放つくらいしか手立てが……」
 そこまで言ったところで、馬宿が察したらしくカレンに視線を向ける。
 カレンもまた、とてもいい表情をしていた。

 そして、4度目の戦いが幕を開ける。戦況は、討伐軍の圧倒的有利で推移していった。
 無論その要因が、例の萌像――しかも背後から、カレンとジュレールの遠距離攻撃つき――にあることは疑うべくもない。
「やったね! これで豊美ちゃんも無事に即位出来るはずだよ!」
「もしかしたら我々は、萌えの起源を生み出してしまったのだろうか……そうだとしたら何と罪深い」
「まあ、問題なかろう。所詮は豊美ちゃんの作った世界――」

「所詮、何ですか?」

 閃光が走り、馬宿が潜んでいた萌像が爆散する。
「う、馬宿君!?」
 ぷすぷす、と煙を立てて倒れ伏す馬宿、しかし息はあるようだ。
「この気配はまさか……豊美ちゃん!?」
「はいそうですよー。もー、ダメですよウマヤド、結果が変わらないからって勝手なことはしちゃいけませんっ」
 あくまで笑顔を浮かべたまま、豊美ちゃんが『ヒノ』を構える。その矛先は、カレンとジュレールに向けられていた。
「わわ、待って待って豊美ちゃんっ、ボクは豊美ちゃんが天皇になるための戦いを助けようと――」
 手を振ったカレンの足元に、一冊の本が舞い降りる。そのタイトルは『炊屋姫はぱんつを履かないから正義』。それを見た二人の顔が凍り付く。
「間違ったことを教えられても困りますからねー。ここで修正したいと思いますー」
 『ヒノ』に魔力が集まり、それは一筋の奔流となってカレンとジュレールが潜んでいた萌像を粉砕する――。

「私は、ぱんつを履いても正義です!」

 吹き飛ばされる直前、カレンは確かに目撃していた。ふわりと舞ったスカートの中、紫の生地の存在を。
(というか、怒るのはそこなの、豊美ちゃん……)
 カレンの意識はそこで途切れた――。

「あっ、豊美ちゃん馬宿さん、どちらに……って、馬宿さん、凄いボロボロですよ、大丈夫ですか?」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)の前に現れた馬宿は、見るも無残な格好に成り果てていた。
「あ、ああ、大丈夫だ、慣れている……問題ない」
 途中で向けられた豊美ちゃんの視線に明らかに狼狽えた様子の馬宿に首をかしげつつ、巽が視線を宮殿へと向けると、推古天皇と厩戸に何やら報告をしている者たちが見えた。
「あれは妹子さんですねー。遣隋使として帰ってきた時のでしょうかー」
「……いえ、違います。あれは2度目の遣隋使派遣の時のです。覚えていますか? 『日出〜』の国書を妹子に渡したことを」
 どうやら馬宿は耳だけでなく目もいいようである。
「あー、ありましたね。私は嫌だったんですよー、『天子』なんて書いたら私が魔法少女だってバレちゃうかもしれなかったじゃないですかー」
「誇張しておくことも時には必要なのです。おかげでおば……豊美ちゃんが正式に天皇として認められたではありませんか。倭王よりよっぽど響きがいいです。あと、魔法少女なんて当時の言葉にありませんから、仮にそのまま書いたとしても絶対に伝わりません」
「『天使』とは書かれていたりしないですよね?」
「それもない。相手が理解できる言葉でないと意味が無かったからな。写真もない時代、相手がどのような人物であるかは言葉と文章で判断するのみだ。適度に『ふかし』を利かせてさもその人物が偉大であるかのように思わせれば、反感は抱かれるかもしれないが見下されることはない。実際このような人物でも――私が悪かったですからどうかその杖を降ろしてくれないでしょうか」
 笑顔を浮かべたまま『ヒノ』を向ける豊美ちゃんに、馬宿はタジタジである。
「気になったんですけど……小野妹子って本当に男だったんですか?」
「? 男性ですよー。……あー、でも思い出しました、妹子さん、男性なのに随分とウマヤドにご執心――」
 ひゅっ、いつの間にか取り出した笏が、豊美ちゃんの鼻先に当てられる。
「……おば上。それ以上言うようでは、たとえおば上であっても許しません」
「お、落ち着いて下さい馬宿さん」
 巽が二人の間に割って入り、事なきを得る。どうやら二人の間には、並々ならぬ繋がりがあるようだ。

「私が小さい頃読んだ本には、聖徳太子が日本最古の忍者の主だって書いてあったんだけど、それってホント?」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)の問いに、馬宿が思い出したように答える。
「ああ、『志能備』のことか。別にそれまでも、情報を得るための間者として徴用することはあっただろうが、役職として設けたのは日本では俺が初めてかもしれんな。……だが、その後続々と地方の有力豪族が真似をしてな。志能備同士の争いが絶えなくなってしまった」
「人が足りなくなると、女性や子供まで雇われることもあったんですー。ウマヤド、公表することに意味はあったんですか?」
「民や豪族に疑念を持たれるのを防ぐ狙いがありましたし、雇われる者たちの身分保障にも有用でした。必要とはいえ決して誉められない仕事ですからね、やる気を失わせないためにも、表向きはいい仕事してます、と触れておくべきなのです」
「な、なんかいきなり難しい話になっちゃってる? じゃ、じゃあ、馬宿も女子供を忍者に雇ったりしたの?」
 首をかしげながらの沙幸の問いに、馬宿は首を振って答えた。
「一時はそれも考えたが、おば……豊美ちゃんがどうしてもダメだというのでな」
「ダメに決まってますー。なので、私がやってました。ほら、私魔法少女ですからー」
「……理由は兎も角、それ以後志能備の被害は一人も無くなった。たとえ危機に陥ったところでおば……豊美ちゃんを屠れる者など、当時は誰もいなかったからな。いたとすれば時間くらいだ」
「私が死んじゃった後のことを考えておくべきだったのは反省してますー。そうすれば飛鳥時代も500年くらい続いたかもしれませんねー」
「今更言っても後の祭りですよ、おば……豊美ちゃん」
 努めて明るく答える豊美ちゃんに、馬宿が呆れてため息をつく。
「うーん、ということは、豊美ちゃん先生は日本の歴史に名を残す人物の中では最初の忍者で、しかも魔法少女だったってこと?」
「そうなるんですかねー?」
「そうなんじゃないですか? それまでの志能備は名は残っていないわけですし」
 豊美ちゃんと馬宿の言葉に、沙幸の顔が一気に綻ぶ。
「私が魔法少女忍者として活躍するために、ぜひ参考にさせてほしいなっ! あ、せっかくだから名乗っちゃうねっ。……たとえ闇夜にまぎれても、悪の匂いは消せやしない。今こそ魅せます正義の忍術。『まじかるくのいち☆さゆきちゃん』参上だよっ♪
「はい、私でよければ、よろしくですよー」
 豊美ちゃんと沙幸が手を取り合い、微笑み合う。

「あっ、あれウマヤドさんですよね。凄い数の子供ですね」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が示した先では、数え切れない程の子供に囲まれた厩戸がいた。その表情はどこか柔らかいもので、それを見つめる馬宿の表情も、やはりどこか柔らかかった。
「親を戦や疫病で失っても、子供は逞しく生きようとする。彼らを救えぬのであれば、国はやがて滅ぶ。……まあ、それだけではない面もあるがな。当時の俺は気の休まる暇もないと言っていたが、案外この時が心休まるときだったのかもしれんな」
「それが本当なら、ウマヤドの新たな一面見たり、ってところだね。ねえ、ここに『聖徳太子は36人の子供の声を聞き分けた』って書いてあるけど、どうなの?」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の手には、豊美ちゃんが持っているような物ではなくちゃんとした歴史の教科書が持たされていた。
「実際に36人だったかどうかは定かではないぞ。『とにかくたくさん』の意で使われている場合もあるしな。かといって千人万人と書いては作り話と疑われかねんし、その数に落ち着いたのではないだろうか。多くの声を聞き分けられることは、子供をあやすのには重宝したがな」
「なるほど……何かコツみたいなものはあるのですか?」
 ノートにメモを取りつつ、ナナが馬宿に尋ねる。
「コツといっても、要は言われたことを覚えておく記憶力と、言われたことに対して即座に答えを導く力があればいいだけだ。その力をどう鍛えればいいのかという問いには、俺は教師でもない以上答えることは出来んな」
「ウマヤドは記憶力いいのに、都合のいい時だけトボケますからねー。あっ、ウマヤド、お風呂掃除やっておいてって頼みましたよねー?」
「はて、何のことでしょうか」
 豊美ちゃんの言葉に、馬宿は忘れた振りをしてはぐらかす。
「その他に伺ったのでは、ウマヤドさんは武勇に優れていて、他の国との戦も一騎討ちで解決してしまったと」
「ナナ、それネットの嘘情報だよ。無暗に信じちゃダメだってば」
「……………………」
「あれ、ウマヤド、どうして黙ってるんですかー? ウマヤドだって結構――」
「む、あれは冠位十二階制定の時か」
 いつの間にか場面は変わり、厩戸が長々と続く巻物を読み上げていた。
「冠位十二階……実は胸のサイズで決まっていたのよ。胸の小さい方が位が高かったって話。くす……今も昔も、ロリっ娘は強いのよ」
「あ、それじゃ幽綺子さんの位は低いですね――痛っ!? 何するんですか幽綺子さん、見方を変えれば誉められてる――痛いですってば!! そもそも幽綺子さんがデタラメ言うのがいけないんですよ!?」
 笑顔を浮かべたままの西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)に、ツッコミを入れたはずの音井 博季(おとい・ひろき)が逆に散々に突っ込まれていた。
「ふぅん……じゃあナナは位高い――あいたっ!!」
「ズィーベン、変なこと言うとぶちますよ」
「ぶってから言わないでよ〜」
「お前たち何を言っている……ふむ、しかし彼女の言うことにも一理ある――がっ」
「ああっ、ウマヤド、大丈夫ですかー?」
「…………ええ、大丈夫です。ですがおば……豊美ちゃん、至近距離では勘弁してください。流石に痛いです」
「はて、何のことでしょうかー」
 何やらうやむやになった話がありつつも、基本的には楽しげな雰囲気の中、講義は続けられる――。