First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
第六章 奇妙な中華飯店
第三十七話 人体ラーメン
仲間とドライブにきたら道に迷い、PMR(パラミタミステリー調査班)一行は、けばけばしいネオンサインが輝く、怪しげな建物にたどりついた。
「こんな山奥に、なぜ、中華料理店があるんだ。店名は、中華なのに、「ホンコン」」
「な、なんだってえ!!」
店の前でみんなで驚いてから、店内に入る。
中は、薄暗かったが、営業はしているようだ。
汚れたコック服の、香港人でも中国人でもなさそうな、日本人っぽいおじさんが注文をとりにきた。
席数は多いが、一人で経営しているのだろうか。
最初に運ばれてきた料理は、翼の折れた守護天使、ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)が頼んだ塩ラーメンだった。
「ビールより先にラーメンがくるってのは、どういうわけだ。この店は怪しい。陰謀のにおいがぷんぷんするぜ」
おやじは立体映像だが、ラーメンは、においもするし、食べられそうだな。
ハーヴェインは、遠慮なく箸をどんぶりに入れ、スープの中に沈んでいた、それをつかみあげた。
指。
ちぎれた人間の指だった。思わず、箸を手から落とし、指はまたスープへ。
ちゃぷん。
「おやじ。ちょっと、こい!」
「ビールはいま、冷やしてるから、まだよ」
「違うよ。いいから、こいって」
ハーヴェインに怒鳴られて、奥からおじさんがでてきた。
「指だよ、人間の指。ラーメンに入ってるぞ」
「ああん。お客さん、ラッキーね。それ、私の大切なものだから、あなた、きっといいことあるよ」
提出者 渋井誠治
「さっきはすまなかったな。持病の発作が起きて、我を失っちまった。オレはビビリじゃねえから、怪談なんか怖くないんだよ。みんな、わかるよな。それでさ、この話は、オレの実体験だ。でもな、指は、店のおやじの趣味の、等身大フィギュアの指だったんだ。自分の宝物をバラして、ラーメンに入れやがったんだ。「お客さん。当たりだよ。ラッキーアイテム発見おめでとう」とか、ふざけたこと言ってたぜ。ほんと、ヘンな店だったな」
三十七 固形怪談ガラスープ。
第三十八話 指なし姫
教授や講義準備室のものとはまた違うが、とにかく血のにおいがしたので、吸血鬼の少女、ミレイユ・グリシャムは、においに誘われて、勝手に店の二階にあがってしまった。
「お腹が空いてるって時に、こういう誘惑の連続は、ワタシとしても困るんだよね。まいっちゃうな」
二階には、ナタを持った、指のない女が立っていた。
女の、血に染まった片腕、片手には、指が一本もない。
ナタを使った事故でもあったのだろうか。
「うわあ。その血。もったいないよ」
ミレイユは、床にしたたる女の血に、手をさしだした。
ミレイユの血は手の平をすりぬけ、床に落ち、消えた。
「貴重な一滴が床に、取られちゃった」
「ミレイユ。彼女はすでに亡くなっています。それに、あなたに伝えたいことがあるようですよ」
パートナーを心配して、二階に上がってきたシェイド・クレインに指摘され、ミレイユはあらためて、女を見つめる。半透明の女は、悲しげな目を壁に立てかけられた竪琴にむけていた。
「弾きたいの? 幽霊さんのお琴なの? ワタシになにかしてあげられる?」
「私、指がないの、あなたの、体を、使わせて」
そう言うと女はミレイユと重なり、消えてしまった。
「どうぞ。これですね」
シェイドが竪琴をミレイユの前に置くと、ミレイユは満足げな表情で、たくみに琴を奏でた。
提出者 金仙姫
「心の広い仙女のわらわは、指なし姫に体を貸してやったのじゃ。思う存分、琴を弾いた姫は、わらわに感謝して成仏していったぞ。もっとも、琴の腕前でいえば、才色兼備のわらわに比べれば、まだまだでな。なんなら、いまここで、わらわのミニ演奏会を、なんじゃ、ブリ、袖を引っ張るな!」
三十八 良家のお怪談なら、お琴ぐらい弾けないとね。
第三十九話 自家製
ラーメンにフィギュアの指を入れたのをまったく反省していないおじさんに、気さくな性格のハーヴェイン・アウグストもさすがに、あきれてしまった。
「おやじ。隠し味にしてもやりすぎだろ。バカやってると、保健所に訴えられるぞ」
「お客さんこそ、バカいっちゃ困るね。ウチの隠し味は、こんなもんじゃないよ。隠し味は、これよ」
おじさんは、自分の耳からでている、白い糸のようなものを指でつまんだ。
「都市伝説か。それが視神経で引っ張ると失明ってネタは、聞き飽きてるぜ」
「これは、アタシのペットね」
おじさんが引っ張ると、白い糸はどこまでもどこまでものび、それ自体に意思があるように、ぐにゃぐにゃと動いた。
「途中で切っても、また生えてくる。ラーメンにちょこっと、入れてるね」
提出者 宇佐木煌著煌星の書
「お腹に寄生虫を飼って、ダイエットする方法があるじゃん。同じ理屈で、頭の中に虫を飼って脳の血管を掃除してもらうって、古来からの怪しい健康法があるらしいんだよ。ボクは、絶対やらないし、みらびにもやらせないけどね。トンデモ健康法に引っかかりやすい子は気をつけなよ。ニヒヒヒ」
三十九 半分にちぎって海に捨てると、怪談は増える。
第四十話 特別料理
ハーヴェインとおじさんのやりとりをみて、おじさんの作る料理も食べたくないし、こんな店にはとてもいられないと、怯えていたホワイト・カラーに、おじさんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん。ウチの店は、一見さんにはハードルが高いかもしれないが、あなたみたいなかわいい子のために、特別メニューあるよ」
「コック様。私のために、特別、ですか?」
ホワイトの感情をあらわすクセ毛が、頭の上で?マークになる。
「実は、この店には幽霊や動物をいっぱい放し飼いにしているよ。トラいるよ。大熊猫いるよ。亀もいるよ。あなた、すっぽん捕まえる。風呂場、あやしいよ。アタシ、それ、ナベにしてあげる」
「このお店の中にいるすっぽん様を捕まえて、ナベ」
「棒をくわえさせて首ぎっちょん。カミナリきても、離さないよ」
「首、ぎっちょん」
「頭がおかしくなるから、まともに聞くな」
パートナーのエル・ウィンドが、ホワイトの耳を後から押さえた。
提出者 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)
「私の経験から言って、幽霊騒ぎには、すっぽんナベなの。私は空大の最新技術に興味があって、ここにきたんだけどね。講義準備室は、講義終了まで出入り禁止でしょ。立体映像は、質感もあってすごいわね。えっと、レポートについては、すっぽんは、ゼラチン質が多くて、天然コラーゲンの宝庫、美容と健康にもってこいの食材だと思うわ。滋養強壮にも最高よ。日本円で一ナベ、二万円もだせば、おいしいのが食べられるわ」
四十 怪談の生き血は、夜に効く。
第四十一話 集合
指なし姫が体から抜けて、気を失ってしまったミレイユ・グリシャムを、両腕で抱えたシェイド・クレインは、一階へ戻ろうとした。
ところが階段をおりても、おりても、下につかない。
えんえんとおり続けたが、一階につかず、階段に座って一休みした。
「重いよ」
シェイドが座った階段がしゃべった。
提出者 緋桜遙遠
「この再現では、階段の幽霊ですね。幽霊は、幽霊を呼びますから、気がつくと数が増えていたりするものです。
遙遠のペットの幽霊たちも、仲間を呼んでくるのか、たまに部屋にいる数が増えますね。
遙遠はネクロですので、幽霊を怖いとは思いません。
まあ普段、見なれてますし、慣れれば平気ですよ。しかし、見えるの、見えないのふくめて、ここにはたくさんいますね。さっきよりも、また増えた。なにが引きつけるのでしょうか。
フライシャー教授は、そんなにまとわりつかれていて、苦しくはないですか?」
「私は、なにも感じない。霊感とは、思い込みの場合も多々あるからね」
「あなたは、幸せな方です」
遙遠は、肩をすくめた。
四十一 宇宙の九十パーセント以上は、不可視の暗黒怪談でできている。
第四十二話 未来人
店のトイレを借りた比賀 一(ひが・はじめ)は、手洗いの鏡に写る自分の姿に驚いた。
「・・・な、なんだってえ!?」
パートナーのハーヴェイン・アウグストを連れてきて、二人で鏡を眺める。
鏡に写る二人は、どう見ても、いまより十歳は若く見えた。一は眠そうな顔をした少年で、ハーヴェインは顎鬚をはやした青年だった。
「ずいぶん、写りのいい鏡だな。一が小学生に見える」
「写りの問題じゃないぜ。ヒゲ」
驚く二人の前で、鏡の中の二人も、こちらを指さし、声はきこえてこないが、なんだか不満そうに、しゃべりはじめた。
提出者 神代 明日香(かみしろ・あすか)
「お話はこの通りですけど、私は教授が心配ですぅ」
赤いリボンにメイド服の明日香は、フライシャー教授に走りよった。
「もともと具合が悪そうでしたけど、さっきの鼻血は、放っておけません。治療魔法で治してあげます」
「やっぱり、私も汗を拭いてあげますわ」
「うさぎは、お洋服のシミや汚れをとりますっ。取れかかってるボタンもつけます。スーパーお裁縫タイム!」
たちまちフライシャー教授は、彼を心配する少女たち、明日香、橘舞、宇佐木みらびに囲まれてしまった。
「きみたち、気持ちはありがたいが」
「すぐ治りますぅ」
「こんなに汗をかいて、熱は大丈夫かしら」
「上着、脱いでいただけますかっ」
あきらかに善意を示す少女たちを教授もむげにではできないらしく、されるがままだ。
少女たちの後に、席を立った二人の男子生徒、七尾蒼也と、黒崎 天音(くろさき・あまね)には、それぞれ目的があった。
「先生・・・だめだよ。あやまちを償って生きるのが、死者のためになるんだよ」
蒼也は、教授の耳元でささやき、天音はハンカチで教授の靴の血痕を拭きとる。
「教授。失礼しました。靴にも汚れがついていたもので、ご気分はいかがですか」
「あ、ああ、ありがとう。わかった。わかったから、みんな席へ戻ってくれ。たしかに私は、体調が悪い。だが、この講義は最後までやるつもりだ」
教授のぎごちない笑顔に送られ、生徒たちは席へ戻った。
四十二 ピットクルーの腕しだいで怪談の展開もだいぶ変わってきます。
第四十三話 誘導
相次ぐ怪異に食事どころではないと、PMR一行は店を後にした。
車のハンドルを握るのは、黄金の騎士、エル・ウィンドだ。
「エル。起きて。起きてえ! はうっ」
「おおっ」
助手席のパートナー、ホワイト・カラーに体当たりされ、エルは目を覚まし、ハンドルを握りなおす。
しかし、運転していると、二分もしないうちに、また、まぶたが。
他のメンバーに代わってもらおうにも、メンバーはみんな、座席で眠りこんでしまっており、ホワイトにしても、エルを眠らせたら大変と、自分の太ももをつねって、どうにか自分の眠気をまぎらわせているのだ。
深夜の山道、車が一台ようやく通れる一本道である。
車をとめて、休憩していて、もし、後続車や対向車がきたりしたら、事故間違いなしだ。そうでなくても、ハンドルを横に切りそこなえば、崖や山肌が待っている。
「寝るな!」
「はっ」
「寝ちゃだめえったらだめえ!」
「うわっ」
ホワイトとエルの努力で、夜明け頃、車は人家にたどりついた。
そこは、朝もやの中、ネオン輝く中華料理店「ホンコン」だった。
提出者 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)
(パートナーの黒崎天音に渡された教授の靴の血のついたハンカチを眺め、科学捜査とはなんだ? などとつぶやいていたが、それを懐にしまって)「眠っているうち、夢の中にいる間に、なにかに呼ばれていた気がして、目をさませば崖の上に立っていた、という体験を我はした。理由はわからぬ。魔物にでも呼ばれたのか。魔物はどこで人を誘惑してくるのかわからぬのでな」
ドラゴニュートの赤く輝く目をブルーズは、教授にむけた。
四十三 赤の怪談は、関東ではとまれ、関西では周囲をみて進め。
第四十四話 「ホンコン」の秘密
車をおりたPMR一行は、「ホンコン」に入るべきか迷っていた。
すると、店から箒を持ったおばさんがでてきた。
「あんたたち、どうしたね。だいぶ、お疲れの様子だけど」
「おばさん、あんた、あのおやじの奥さんか?」
「いいえ。あたしはこう見えても独り身でね。山奥でめったに人のこないこの店をやって、細々と暮らしてるのさ。この店も、前のオーナーの時にはいろいろあったらしいけど」
「話は聞かせてもらった」
比賀一は、面倒くさげにつぶやいた。
「今回は、みんなで分担していくぜ。まず、俺とヒゲから。十年前、ここの前オーナーは非業の死をとげた。それが、「ホンコン」の呪いのはじまりだったんだよ!」
「だから、俺と一が見た鏡の中は、十年前で時間がとまってたってわけだな」
続いて、ミレイユ・グリシャムとシェイド・クレイン。
「ワタシがあった指なし姫の幽霊は、オーナーの愛人さんで、自分で指、手首を切って自殺しちゃったんだよね」
「昨夜、彼女は成仏したと思いますよ」
最後にエル・ウィンドとホワイト・カラーがまとめる。
「愛人の死にショックを受けたオーナーは、妻を殺してラーメンに入れ、自分も脳に寄生虫を飼い、店内に虎だのすっぽんだのを放し飼いにして、狂気にむしばまれ、死んでいった」
「コック様はこうしての自分の死の真相を私たちに知って欲しくて、ここに呼びだしたんでしょうか」
PMRの六人が超推理を語り終えると、おばさんは驚いた顔でつぶやいた。
「あんたら、なんで、それを知ってるんだい」
「な、なんだってえ!!」
提出者 ブリジット・パウエル
百合園女学院推理研究会代表のブリジットは、マイクの前ではなく、フライシャー教授の隣にいた。
「ブリジットくん。解説をしたまえ」
「教授があんまり、その腕時計を気にしてるんで、私まで気になって見にきちゃったわ。へえ。それ、壊れてるのね。私と同じく教授の時計が気になってる、参加者のみなさん。時計の時刻は、午前十時少し前、つまり、講義開始、数分前でとまっているわ。これって、重要よね。では、教授。続きは、また後で」
ブリジットは解説をせずに、青いスカートをひるがえずと、席へ戻っていった。
ステージ上のミレイユとホワイトが顔を見合わせ、頷きあう、せーの。
「な、なんだってえ!!」
四十四 超推理は、怪談のこと、きらいじゃないっていうか、す、す、好きだよ。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last