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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市

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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市
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第2章 パートナーへの願望操作

「池の周りで魔法を使っている遊んでいる人たちがいたけど。ていうことは本当に、この都市の中なら夢が叶うってことだよね」
 都市の噂を聞きつけた皆川 陽(みなかわ・よう)は、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)を誘って入り、実際に叶うのか他の生徒たちの様子を見る。
「呪いらしいけど・・・、都市の中に入ると何か影響うけたりしないよね?」
 1人で入る勇気のない臆病な彼は、騎士のテディについてきてもらったのだ。
「(もし叶うならテディを守れるようになりたいな・・・)」
「こっちに被弾してくることはないよな」
 何かを期待するようにテディは、ニコが一方的にカガチたちを追いかける鬼ごっこへ視線を送る。
「(大人しく守られて、僕の気持ちを受け入れてくれるようになって欲しいな、と思ったり・・・)」
 そんなことを思いながら彼は陽をじっと見つめる。
 逆に陽はテディのことを守ってみたいという願いを思ってしまった。
 彼らの存在に気づき、遊ぶターゲットを変更しようと、ニコがゲラゲラと笑う。
「一緒に遊ぼうよー。あっははは〜」
 この都市の謎を知ろうとやってきた彼らを、通り魔のように罪と死の魔法の餌食にしようとする。
 キマク鋼の楯で陽を狙う魔法から、ディフェンスシフトでなんとかガードしきり、店の看板を踏み台にしてニコにランスバレストの一撃をくらわしてやろうとする。
「んぎゃぁあーっ!!」
 間髪避けるもののニコはバランスを崩し、抱えているユーノと共に、池の中へ落ちてしまう。
「(人・・・みたいだけど、なんだか透き通って見えたな)」
 まだ使えないはずの術を使いすぎ、どんどん蜃気楼のように消えかかっているニコを見て、術の使いすぎだと気づかないテディは首を傾げる。
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「うん、テディが庇ってくれたから。ありがとう」
 テディの願い通り陽は大人しく守られ、それが当然のように自分の腰にしがみつく。
「ずっと僕が守って大切にするから、傍を離れないで・・・僕と一緒にいてくれると約束してくれ」
 先に彼の強い思いが叶えられ、まったく抵抗しようとしない陽の髪を撫でる。
「分かった・・・僕も離れないよ、離れたくない・・・。(どうして僕がテディにこんなことを。まさか・・・これがテディの願い?)」
 思いの通りにしか動くことしかできない陽だったが、抱きしめられ求愛を受け入れている彼の意識ははっきりしていて、たとえ都市から出ても記憶に残る状態だ。
「(守られてばかりじゃなくて、本当はボクもテディを守りたいのに)」
 守ってくれているテディに抵抗するわけじゃないが、やっぱりずっとそれだけじゃイヤだ、彼を守れる力が欲しいと陽は強く願った。
「うぁ冷たい・・・。よくもやったねぇえ!」
 池から這い上がったニコがダンッと片足で草を踏みつける。
「どの魔法にしようかなー?そうだ、石化のやつにしよっと」
「ペトリファイ!?テディ、こっちへ!」
 陽はテディの腕を掴み、まだ使えないはずの体術、先の先を読んで顔面を狙うニコの魔法をギリギリかわす。
「しびれ粉がいいかなー。それとも闇術で苦しい頭痛とか〜?んー・・・当たるように、吹き飛ばしに決定〜!」
 ニコはユーノに驚きの歌を歌わせ、ブリザードで彼らを吹き飛ばそうとする。
「テディ、逃げて!」
「―・・・陽!」
「それくらい痛くないよ・・・」
 石畳の上へ叩きつけられた陽は、痛みを知らぬ我が躯の術のおかげで痛みを緩和させ、リジェネレーションによって傷を徐々に癒す。
 願いが叶ったいつも怯えている彼の恐怖心は欠片もない。
「ボクだって頑張れば戦えるんだから!」
 パワーブレスで威力が増した、ツインスラッシュの剣圧をニコに放ち、地獄の天使の翼で再び空を飛んで見下ろす彼に反撃する。
「ここから防げないよっ!」
 ニコは庇ってよと助けを求めるような視線をユーノに送る。
 盾になってもらうものの、防ぎきれなかった彼と共にまたもや池の中へ落ちてしまう。
「ごべぶぼぼぉおべっ・・・!(訳:うぁあん悔しいっ!)」
 沈みながら悔しそうに叫びながらブクブクと沈む。
「僕には・・・守られたくないのか?」
「上手く言えないけど・・・、ボクだって守る力が欲しい」
 陽は悲しそうに眉をへの字にして彼を見つめる。
「いや・・・僕はただ・・・」
 守りたい・愛して欲しいというテディは純粋な気持ちからだった。
 しかし陽にとっては怯えてるだけじゃなくて、パートナーを守れるくらいの戦える力が欲しいのだ。
「―・・・どれくらい努力すれば、本当に得られるか分からないけど。頑張ってみたいんだよ」
 陽とテディの互いの守られるより守りたいと思う気持ちは、合わない歯車のようにずれてしまっている。
「分かった・・・」
 根負けしたテディはこれ以上、感情のぶつけあいをしてずれてしまわないよう、いつか本当に彼が愛を受け止めてくれる日を待つことにした。



「大丈夫・・・かな?」
 池に沈んだニコとユーノを、綺人たちが助けてやる。
「完璧に気絶してますね」
 クリスはずぶ濡れになって気絶している彼らを見下ろす。
「さっき飛んでた片方・・・、何か透けて見えないか?」
「というより地面が見えるね」
 綺人も見てみると、ニコの身体は服ごと透けていて、すでに地面が見える状態だ。
「まだ使えないはずの魔法とかを使っていた影響でしょうか」
 もしかして呪いの影響なのかと、瀬織が顔を顰める。
「じゃあ、あのまま使い続けていたら、消えちゃったかもしれないってこと?」
「かもしれません・・・、放っておいたら蜃気楼化していたのでは」
 問いかける綺人に瀬織が答える。
「ゴーストタウンとは何か違うみたいだね。今回のは呪いだし、純粋な不の力の塊みたいな感じがするよ」
「もう少し調べてみますか、アヤ」
「他の生徒の様子も見てみよう。危ない状況に陥りそうだったら、止めなきゃいけないし。食べ物のこともきになるからそこへいってみよう」
 ここへやってきた別の生徒の様子も見ようと、フードショップへ向かう。
 一方、先にフードショップに来ているメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちは、住人が何を食べているのか見にやってきた。
「美味しそうな焼肉ですね・・・。これはやぎの肉でしょうか?」
「鳥肉みたいにも見えるよ。(食べたい・・・でも我慢!)」
 目の前で焼かれている鉄板焼きに、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は水筒の水を飲んで我慢する。
「今度は小さな洋ナシのような果物を使うようですわ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も鉄板焼きを眺めている。
「ミカンとレモンをミックスしたような、すっきりとした爽やかな香りですわね。1つください・・・いえ、何でもありませんわ・・・。(我慢ですわ・・・)」
 焼肉の味付けにかけている果物の香りに思わず、誘惑に負けそうになってしまう。
「どれも美味しそう、むー・・・」
 お弁当をつまみながらセシリアはひたすら我慢する。
「向こうはパラミタのサメで料理したフカヒレ入りの春巻きや、たった1夜でお肌がつるつるになると言われている、伝説の薬膳料理もありますわ」
「美容ですか・・・羨ましいですね」
「アヤ、美容の薬膳料理があるそうです」
 フードショップを見に来たクリスが綺人に言う。
「よせ、もし食べたら・・・ぱっと消えるかもしれないぞ」
「うぅ・・・そうですよね」
 レトルトのやつをお土産に買おうと思ったクリスはしょんぼりとする。



「へー・・・。一応ちゃんと願いが叶うんだな。まだ覚えてない魔法か使えたりしているし。俺は何を願ってみようかな」
 陽たちを遠くから見ていた久途 侘助(くず・わびすけ)は、何を願おうか考える。
「(そういえばいつも俺が助けてもらってばかりですよね。しかも身長まで俺の方が低いですし、見下ろせるほど小さくなってしまえばいいのに)」
 香住 火藍(かすみ・からん)はまるで“小さくなってしまったらいいのに”と念力を送るように、侘助へ視線を向ける。 
「(出来ればその頃に着ていた服も見てみたいですね・・・)」
 自分より小さくなった侘助が、その年頃にどんな服を着ていたのか気になり、見てみたいと願う。
「うわーっ、こりゃどういうことだぁああーーっ!!」
「どうかしたんですか?―・・・て、まさか本当に!?」
 大声で叫ぶ侘助の方へ振り返ると、火藍が想像した願い通りに背丈が小さくなり12・3歳頃のサイズになってしまい、昔着ていた女子の着物姿に変わってしまった彼の外見はまるで女の子のようだ。
「本当に小さくなってしまうなんて・・・。でも・・・なんだか可愛いですねぇ」
 火藍は嬉しそうに侘助を見下ろして彼の青色の頭を撫でる。
「まさかこんな願望があったなんて、まったく知らなかったな・・・。いきなり背が小さくなったり服が変わったのは、火藍がそれを叶えちまったからか」
 昔の姿に変わった彼は、くるっと回って自分の姿を見て、ふぅとため息をつく。
「ていうかどうせ夢を叶えるなら、もっとデカいのにすればいいのに。まっ、それでお前が喜ぶなら別にいいけどな」
「その背の年頃に着ていた服装も見てみたいと思っただけで、特にどういう服を着て欲しいて願ってないんですけど。それって女性用の着物ですよね、どうしてですか?」
「あぁこれか。その頃って俺、体弱かったからさ。まぁなんつーか・・・厄除けってのかね」
「そうだったんですか・・・。この都市の中だけでも、こうしてあなたを見下せるのは少し楽しいですね」
 面白そうにクスッと笑い、侘助の頭をぐりぐりと撫でまくる。
「今のあなたのサイズなら、こういうことも出来そうですよね。よいしょ・・・ほら、ここからの眺めはどうですか?」
「こっ・・・こらぁ、高い高い〜をするなぁあ!」
 火藍に両手で持ち上げられてしまい、ムッとした顔をして怒鳴る。
「飴細工ですか、1つください。ほらほら可愛い動物の飴ですよ、食べさせてあげましょうか?」
 ライオンの子供の形をした、小さな飴を侘助にあげようとする。
「俺を子供扱いするなって!」
 頭から湯気を出してプンスカと怒る。
「おっ、火藍火藍!あっちに美味そうな食べ物がいっぱいあるぞ、早く買わないとなくなるかもしれないな!」
 侘助は彼の襟を引っ張り、食べ物屋へ行こうとねだる。
「そんなに急がなくても、食べ物は逃げませんから」
 やれやれと急かす侘助のために、火藍はそこへ走っていく。
「洋菓子や和菓子・・・いろいろありますね。どれにしますか?」
「ん〜そうだなぁ、まずは主食になるものが食いたい!」
「あっちに海鮮丼とかがありますよ」
「いやー・・・なんつーか。たまにはさぁ、洋なのに和が入っているようなもんとか?」
「和がはいっているということは、さっぱり系ですか」
 侘助の食べたいものがあるかどうかうーんと唸る。
「向こうにスープパスタがあるぞ!」
「あぁそこならあるかもしれませんね。いたたっ引っ張らないでください」
 早く行ってくれと、ぐいぐいと襟を引っ張る彼に、またもや急かされて走らされてしまう。
「それ以外にもトマト風味のアサリのパスタとかもありますけど」
「うーんボンゴレ系もいいけど、もう少しあっさりしたやつがいいな」
「わさびと紫蘇の葉と筍を刻んで、スライスした鴨肉を乗せた、醤油ベースのパスタがありますね」
「美味そう、それにするっ」
「はい、どうぞ。熱いから火傷しないように、フーフーして食べてくださいね」
 カウンターで注文して侘助に渡してやる。
「はい、あーんしてください」
「また子ども扱いか!―・・・んぁっ」
 火藍に抱えられたまま、侘助はムッとしながらも口を開ける。
「うんまっ。ふぅ・・・、完食っと。なんか満腹感がないな。次、何か甘いもん食いたい!まだまだ入るぞ、今度はそっちの和菓屋へ行こうぜ」
 侘助は火藍の裾を引っ張り、抹茶のロールケーキや、草団子屋へ急げと誘導する。
「(おかしいですね、これだけ食べてまだはいるなんて。虚像であって本当は何も食べていないとか?それとも都市の食べ物だからでしょうか・・・)」
 ムシャムシャと食べ続ける侘助を見ながら、火藍は不思議そうに首を傾げる。



「ねぇ、普通に食べてるよ」
 他の生徒が平気そうに食べていると、セシリアがメイベルに言う。
「もう少し様子を見ましょう・・・」
「わたくしとしては、さきほどの薬膳料理が気になりますわ」
「何だか満腹感がないようですね?いくら食べてもお腹がいっぱいにならないということでしょうか」
 不思議そうにクリスが首を傾げる。
「いわゆる食べ放題に近いものですか・・・」
 出口のルートをメモに書きながら、瀬織がぼそりと呟く。
「食べてもお腹いっぱいならないということは。いくら食べても体重が変わらないのか?」
 彼女の傍らでユーリが問いかけるように言う。
「薬膳料理の方へ行きましたわ」
 フィリッパは食べ歩きをしている侘助たちを、じーっと見つめる。
「見てくださいメイベル様。1夜どころか食べ終わった後すぐに、肌がつるつるになっていますわ!」
 肌がつるつるになった侘助を羨ましそうに見る。
「しかも食べても身体に残らないっぽいし。ねぇメイベルーっ!」
「食べたら帰れなくなってしまうかもしれませんよ。いけません」
「もしかして食べるのに夢中になって、帰りそびれたって流れじゃないですわよね」
「うっ・・・そいうのは想定していませんでした」
 フィリッパにつっこまれ、メイベルが頬から冷や汗を流す。
「食べ物か・・・。たしか食べるのに夢中で、何者かに見られてたっていう来訪者がいたよね?それと何か関わりがあるかもしれないよ」
 その満腹感のない料理を食べていた者と、それを見ていた者について綺人がメイベルたちに言う。
「たしかに気になりますね」
「僕たちはその辺りを調べてみようかな。他のところに行ってみるからじゃあね」
「えぇ、行ってらっしゃい」
 フードショップを離れて行く綺人たちを見送る。



「自分の夢が叶うって、それが実体化するのかな?それともただ、幻を見せられるのかな・・・」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は鍵のかかっていない空き家のドアノブに手をかけ、そっと開けて中の様子を覗く。
「ここの家の人はどこにいるんだろうね」
 まだ手のつけられていない食事がテーブルに並べられているが、人の気配はまったくしない。
「超感覚で他の者の匂いがしませんか?」
 真っ暗な2階を見つめ、クナイ・アヤシ(くない・あやし)は家主の匂いがしないか聞く。
「うーん・・・いないみたい。明かりも点いていないし」
 本当にいないか北都は鼻をひくつかせて調べるが、やっぱり匂いはしないようだ。
「やっぱり僕たち2人以外、誰もいないよ」
 黒い犬耳を澄ませてみても、物音1つ聞こえない。
「料理に危険はないようだけど・・・」
 皿の上のクロワッサンに触れてみようとする。
「あれ?触れた感覚があるのに取れないよ」
「ただの虚像ということでしょうか」
「でもちゃんと手に感覚があるんだけど。不思議だね・・・匂いもちゃんとするよ。少なくとも料理が襲ってきたりするようなことはないみたいだね」
 訝しげにテーブルの料理を見るクナイの方へ顔を向けて言う。
 他にも出来たばかりのような、ステーキやチーズフォンデュがある。
「スプーンとかは触れるんだ」
 触れることが出来る銀食器を手に取り、北都は不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ、これを使えばすくえるよ」
 手に取ったスプーンでカボチャの冷たいスープをすくってみせる。
「2階に行ってみようか」
 器の中にスプーンを置き、パートナーと階段を上っていく。
「住んでいれば服があるはずだけど」
 クローゼットを開けて覗いてみると、コートやスカートがハンガーにかけられている。
「さっきの料理と違って、洋服は触れるんだね」
 ダイニングのテーブルにあるとは異なり直接、手に触れることにまたもや不思議に思う。
「今のところ、危険な気配もありませんね。都市の住人や他の生徒がこの家に入ってくる様子もないですし」
 禁猟区に反応はなく、クナイは窓を開けて外を見てみる。
「(そういえば・・・あの時から何も進展がないように思えます。)」
 彼はクリスマスの告白の時から、北都との進展があったのか確かめたいと、窓を閉めてパートナーの方へ振り返る。
「(夢や願いが叶うというなら、今ここで確かめてみたいですね・・・。)」
 そう願ったクナイが、じーっと北都を見つめると、彼は見つめる相手の服の裾を掴む。
 犬耳と尻尾の動きを見て、“いいよ”と言葉の変わりに言っているのだと分かり、クナイはそっと抱きしめて彼の顔に手を触れて口付けをする。
 手を離そうとするクナイを見上げて、北都は尻尾をゆらゆらと振る。
 分かりやすい仕草だと、クナイは彼にもう一度口付けて手を離す。
 少しは進展できたのかと見上げる少年を見つめ返した。
「―・・・そろそろ、出ましょうか」
「うん、そうだね」
 都市の外へ出ようと、クナイと北都は1階へ下りる。
「ねぇ、このスープ。飲めるのかな?」
 料理が置いてあるテーブルの前で足を止め、北都は飲んでみようか考える。
「待ってください。スプーンですくえても触れられないようです」
 怪しんだクナイは彼が飲もうとしているスープへ手を入れてみるが、スープどころか皿にすら触れられない。
「このステーキ、入ってきた時とまったく変わっていません。というか・・・あれから数分経っているのにありえないです」
 出来立てのようにジュウジュウと音を立てている不自然な料理を睨む。
「なんというか・・・猟師が得物を捕らえる檻に、餌を置いているような感じがします」
「餌・・・?それってどういうこと」
「この都市から出なかったという者が、料理を食べている間に都市が消えたらしいですし。もしかしたら・・・」
 突然、禁猟区が反応したクナイは床を見て、ぎょっとした顔をする。
 悪霊の手が北都を捕まえようとしているのだ。
 クナイはすぐさま彼の手を引き、家の中から出ようとするものの、いつの間にか悪霊によってドアが閉ざされ、中から開けることは出来ない。
 何をやっても開かず、バニッシュを放ち退治しても、次から次へと湧き出て捕らえようと迫る。
「このままでは2人とも・・・。誰か・・・、誰かいませんか!?」
「ん・・・どこから音が。向こうの家からですね」
 都市の調査をしている緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が、クナイたちが閉じ込められている家の近くを通りがかりると、ドンドンドンッとドアを叩く音を聞こえてきた。
 音が聞こえる方へ駆け寄り、彼らが閉じ込められている家のドアを開けてやると、悪霊から逃れようと2人は慌てて外へ出てくる。
 遙遠が家の中を覗くと、中には悪霊の姿はすでになかった。
「何もいませんね・・・。見えないだけで、どこかに潜んでいるかもしれませんけど。禁猟区でも探知しきれなかったとなると、相当厄介ですね」
 室内の床からリビングの料理へ視線を移す。
「ああゆう料理で気をひきつけて、来た者を捕らえて喰らおうという手口でしょうか。遙遠はこの都市で調査を続けますけど、また何か危険なことが起こるかもしれませんから、長居はオススメ出来ません」
「そうだね・・・。また閉じ込められるかもしれないから」
「行きましょうか北都」
 クナイは北都の手を引き、都市の外へ向かう。
 恐ろしい目に遭ったが、たとえ夢を叶える力の影響があっても北都と進展出来てよかったと、都市の外へ出るまでずっと手を離さなかった。