校長室
5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市
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第7章 崩れゆく永遠の都市 「覚えてもないスキルが使えるなんて、そんなのありえるのか?」 本当に可能なのか、陣はうーんと腕組しながら考える。 「えぇ使っている人がいましたから。どうやら集団催眠ではないようです」 他の生徒たちがまだ覚えてないはずの術を使っているところ見た影野 陽太(かげの・ようた)は、この都市にやってきた皆の行動を見て催眠ではないと判断した。 「生気の感じられない視線・・・。これはきっと、悪霊でしょうね」 ナゾ究明で生きている者ではないかもしれないと思い、メモ帳とペンを持って調査を続ける。 「都市が現れたのは朝方でしたっけ、そろそろ深夜の12時になりますね・・・」 出られなくならないように、陽太が懐中時計で時間を確認する。 「へぇ使えるんか」 「ですけど連発すると、身体が透明になっていって蜃気楼化するみたいです」 「蜃気楼化したらどうなるんだ?」 「2つ考えられますね。1つはたぶんこの都市の住人として永遠に過ごすんじゃないでしょうか。もう1つはもっと大変なことかもしれません」 メモを見ながら陽太はさらりと恐ろしいことを言う。 「な、なんや。もう1つって」 「それを今から調べようかと・・・」 「使われている建物や、都市の住人には触れられる・・・」 たった1日しか現れないというこの都市に、稲荷 白狐(いなり・しろきつね)も興味が湧き探索にやってきた。 「ただの空き家のはずのところに、手のつけられていない料理・・・」 鍵のかかっていない空き家を覗き、誰もいないのに温かい料理だけあるという不自然さに、入ってみようか迷う。 「今のところ危険な気配はない。しかし、相手は悪霊。いつ現れるか分からない」 「どうぞ座って待っていてください」 2階の方から女の声が聞こえてきた。 「住んでいる者がいる・・・?」 まったく人の気配のしない家の奥から聞こえ、白狐は眉を潜めて訝しそうに家の中を見る。 「どうぞって言っているし、行ってみっか?」 入ってみようかと陣が白狐に言い、彼女はコクリと軽く頷く。 「どうぞ座って待っていてください」 するとまた同じセリフと、同じ声音が奥の方から聞こえてきた。 「また同じ喋り方ですね」 同じトーンの声音に陽太は不信に思う。 玄関に入ると同じ声と言葉が聞こえ、キッチンがあるドアがギィーッと開き、人影が見えた。 禁猟区で警戒しながら廊下を進むと、またもや同じ声と言葉が聞こえる。 「何でしょうね・・・」 陽太が足をガクガクと震わせる。 「お姉ちゃんとお兄ちゃん、何しにきたの?」 ボールを抱えた幼い守護天使の子供が白狐たち3人を見上げる。 「我は都市が現れる理由と目的が知りたい」 「右に同じく」 陣が片手を上げる。 「食べ物何が好き?」 「―・・・?」 関連のなさそうなことを突然聞かれ、3人はハテナと疑問符を浮かべたような表情をする。 「出されたものは、残さずに食べなきゃいけないの。食べないと動けないから」 勝手に喋り続ける子供の言葉を黙ったまま聞く。 「それでね、お腹いっぱい食べて、お休みするの。だからみーんな食べちゃう。ボクも食べられちゃった」 ダンッとボールを床にぶつけ、子供は姿を消してしまった。 「食べられた?というとここは何かを食べて、またこの場所から消えてしまうということ?いったい何を食べた・・・」 幽霊の子供が言った最後の言葉がひっかかり、考え込んでいるとまたあの女の同じ言葉が聞こえた。 外へ出ようとすると廊下へ出るドアが閉まりかかる。 それに気づいた白狐たちは急いでドアの方へ走り、ドアノブを掴んで廊下へ出る。 「危うく閉じ込められてしまうところだった・・・」 「あの幽霊の子が言っていた言葉、何か気になりません?」 「そうやね、食べられたつーと。つまり・・・どういうこった?」 他の部屋を見ながらまたもや陣は疑問符を浮かべる。 「あっそいえばこの都市って、願いごとが叶うんだよな。つーことはもしかして・・・もしかするとか?」 封神台に送られてしまった妖精に、もう1度逢いたいと願う。 「ん、誰かいるのか?」 2階の階段の方へ走っていく足音を聞いた陣が呼びかける。 追いかけて階段を駆け上がると、逃げるように廊下を走っていく。 「無視か・・・おーい・・・。あの髪の色・・・もしかして!」 長いグリーンパールの髪が見え、陣は無我夢中で駆け寄り、細い腕をがしっと掴む。 「アウラさん受け取る資格がないとか言ってたけど、そんなん関係ねぇよ。友達なのにそう言われるのは、なんつーか・・・寂しい」 「生真面目なやつじゃのぅ・・・。そこが陣の良いところでもあるが」 「出来れば封神台にいるアウラさんに伝えて欲しいんスッけど」 「それは出来ぬ。この都市の外へ及ぶような願いは届かぬのじゃ」 「―・・・そうスッよね」 陣は残念そうに沈んだ表情をする。 「早くここから出るのじゃ」 「もうちょっと話しててもいいじゃないスッか」 「さもなくばそなたらも呪いの餌となってしまうじゃろう・・・」 陣にそういうと彼の願いで現れたアウラネルクの幻は消えてしまった。 天井からミシッミシッと音が聞こえ、天井の壁が陣の足元へドスンッと落ちる。 「なっ、何だ!?」 穴の空いたそこを見上げると、ベタッベタッと黒く細い腕が現れた。 「あ゛・・・ぁあぁっ、ぁあ゛っ」 喉の奥から無理やり声を出しているような、生きているものではありえない不気味な声音が聞こえてくる。 「燃えて終いだっ」 ファイアストームの炎で焼いてしまおうと、悪霊に向かって放つ。 「どこにいった!?」 プスプスと天井が焦げただけで、そこに死骸が見当たらない。 「じ・・・陣さん・・・あ、あぁ足・・・」 「足?足がどうした」 顔面を蒼白して指を震わせる陽太を見て、陣は顔を顰める。 「おわぁああーっ!?」 「今、助けますからっ。」 悪霊に床へ引きずり込まれそうな陣の腕を掴んで引っ張ると、いきなり相手が手を離し、彼らは床へすっ飛ぶ。 「助かった・・・すまんな」 「玄関が・・・このままでは閉じ込められる!」 白狐の叫び声が聞こえ、2人は急いで玄関の方へ走る。 今度はキッチンの方から不気味な声音が聞こえ、彼女の方へだんだんと近づいてくる。 「ぁぁあ゛っ、あぁあぁ゛・・・」 禁猟区が反応したかと思うと女の悪霊がぐねりと身体をくねらせ、凄まじいスピードで這い、白狐たちを喰らおうと迫る。 「くぅっ!」 バタァンッ、ガチャリッ。 頭に噛みつかれそうになる寸前、家の外から出られた白狐は、ふぅっと安堵の息をつく。 「生き物を喰らうようになった哀れな都市・・・、早くここから出なければ・・・」 この呪いは呼び寄せた悪霊を留めておくために、訪れた者を数百年に一度、餌として活動しているのだ。 甘い夢とご馳走で人々を引き寄せていたのだと知った白狐たちは都市の外へ出て行く。 「結局、夢が発生する境界線は見つけられませんでしたね」 遙遠はヘキサハンマーを引きずりながら、どうしたものかと悩む。 「お墓ですか、何かありそうですね。おやどうしたんですか?」 血相を変えて走る白狐たちを見つけて、遙遠が声をかける。 「ここにいるのは危険すぎる。我は外へ出る」 白狐は先に都市の外へ走っていってしまう。 「おー、ヨウくん。そういうことで」 「陣さん・・・陽太さん。何があったか言うまで、逃がしませんよ」 あっさり通りすがろうとする彼らを、遙遠は地獄の天使の翼で飛び捕まえる。 「なんつーか悪霊たちがここへ来た者、つまり住人以外を食べて栄養にしているようなんだ」 「餌を得るために、数百年に一度現れるようですね」 「つまり遙遠たちは餌にあたるということですか」 餌扱いされているのかと、遙遠は顔をムッとさせる。 「そうみたいです・・・。しかも空き家に入って調べたら、恐ろしい悪霊が・・・。あぁあぁぁって声を上げながら襲ってくるんです」 「オレなんて引きずり込まれそうになったんだぞっ」 「えぇそうなんですよね。もう怖くて・・・怖くて・・・ああぁあああーっ!!」 「うわぁああっ!?」 「やかましいですっ、いきなり2人でショートコント始めないでください」 遙遠がベシッと、陽太の叫び顔に驚いただけの陣の背中を叩く。 「何でオレだけ・・・」 「それはそうと、この墓を破壊する必要があるようです」 「無視かっ」 「普通、墓って人の名前が書かれていますよね。それなのに、これにはないんです」 「呪いを発動させた時、より多くの悪霊を呼び寄せるための媒体なのかもしれませんね」 遙遠と陽太だけ会話を始め、陣は隅っこでしょんぼりとする。 「どういうわけか、ここには悪霊がいないようです。今のうちに壊してしまいましょう」 ヘキサハンマーで遙遠が殴り壊し、陽太も音波銃で墓石を破壊する。 「何も反応がありませんね、まだ他に媒体があるということでしょうか」 「えぇおそらくは・・・」 「探しに行きましょうか」 「うぉおいっ、オレを置き去りにしないでっ」 さっさと2人で移動しようとする彼らを、陣が慌てて後を追いかけていく。 「何だか、だんだん人気がなくなってきましたね」 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はパートナーと共に町の中枢を目指す。 「クコさんその格好は・・・」 「これは・・・・・・・・・その」 顔の傷が消えてキレイなドレスを着てみたいと願ったクコ・赤嶺(くこ・あかみね)は、恥ずかしさのあまり顔を俯かせてしまう。 「似合わない・・・わよね。やっぱりやめるわ、こんな格好」 「いきなり服装が変わってしまったから、少し驚きましたけど、クコさん凄くキレイですよ」 「じゃあ・・・もうちょっと、この格好でいようかしら」 「はいっ」 「(まるで遊びにきた感じね。まぁいいけど)」 ジン・アライマル(じん・あらいまる)がふぅとため息をつく。 「何かしらあれ」 ゆらゆらと揺らめく黒い霧のような物体を見て、ジンが顔顰める。 「案内掲示板で見た地図によると、あの辺が中枢らしいですね」 「こっちに気づいたみたいよ」 超感覚で多数の視線が自分たちの方へ向けられたとクコが探知する。 「これって悪霊と戦わなきゃいけないってことかしら」 「どうやらそうみたいですね」 「ねぇ、何か守っているように見えない?」 目を凝らして悪霊の群れが集っているところを見つめ、ジンがモニュメントを指差す。 その周囲には沢山の墓場がある。 遙遠たちが破壊した媒体のところに悪霊がいなかったのは、ここへ集まっていたからだ。 「ジンさんはクコさんの傍から離れないようにお願いします」 ブライトシャムシールの切っ先を悪霊の群れに向け、それが守る物を破壊しようと突っ込む。 「近づきづらいですね」 捕らえて喰らおうとする亡者を切り伏せ、モニュメントへ近づく。 「後もう少し、・・・うわ!?」 どす黒い手の群れが霜月の足に絡みつくように掴み、彼が得物を持っている片腕をギリギリと握り締める。 「霜月!(この位置じゃ、ジンを守りながら行くことは出来ないわ。どうしたら・・・)」 彼を助けに行きたいものの、クコは狂血の黒影爪で襲いかかる悪霊の手から逃れるのが精一杯だ。 「こんなところで食われてしまうわけにはっ」 禁じられた言葉を唱えて魔力を増幅させ、氷術で作り出した刃を放ちモニュメントに破壊する。 「はぁ・・・何とか壊せましたね」 「この辺りの悪霊はもう消えたみたいね」 「なっ、何ですか。地震!?」 ゴゴゴッと地鳴りが聞こえ始める。 呪いの媒体が破壊された影響で石畳がひび割れ、都市の建物などが崩れていく。 止まっていた時間が進み、生きていた住人たちは寿命を迎え、眠るように倒れる。 「ここから出ましょう!」 霜月たちは崩壊していく都市の外へ脱出する。 「まだその辺に悪霊がいるはずです、巻き込まれた餌食にされてしまうかもしれません。皆さん早く逃げてくださいーっ!」 巻き込まれて吹っ飛ばされないよう、遙遠たちも急いで外へ出る。 生徒たちは全員無事に脱出し、崩壊した都市は欠片も残らず、住人たちと共に消え去った。 都市にいた悪霊たちはそれぞれ行きたい場所へ去っていく。 術の使いすぎで身体が消えかかっていた生徒たちの姿は元に戻った。 願いの影響で覚えている記憶以外、夢を叶えて満喫してた叶えたものが全て消え、生徒たちはしょんぼりとする。 「あぁっ、本が!そんなぁ・・・」 加夜が都市から持ってきた本は、都市が崩壊した影響で存在維持出来なくなり消え去ってしまう。 「デジカメでとったやつが、いつもの服装と荒野になっていますね。(あの心霊写真もなくなっているからよかったですけど)」 セーフェルはデジカメのデータを見て、残念そうな顔をする。 「ここは・・・?」 「目が覚めたんだね・・・。ずっと動かないし。さっきまで息をしてなかったから、心配しちゃったよ・・・」 今にも泣きそうな顔をしている陽が、地面の上でぐったりとしている勇を見下ろす。 「何か悪い夢でも見たんじゃないのか?」 もう夢から覚めたんじゃないのかという風に、久が勇に声をかける。 「気がついたんだ!じゃあ僕はそろそろ帰るよ」 息をしていなかった彼が目を覚ましたのを見届けると、博季はイルミンスールの方へ帰っていく。 「やりたいことはやっぱり現実で達成しないとね。ちょっと悲しい感じだったけどいろいろ分かってよかった。意見の衝突があっても理解しあって皆が仲良く生きるには、お互いにいっぱい会話するのも大事だからね」 「会いたい者に、すきだけ会っておくこともね」 朔は片手を振り、カリンと一緒に帰る。 生徒たちが学園へ戻る頃には、すっかり夜が明けてしまった。
▼担当マスター
按条境一
▼マスターコメント
皆様お疲れ様でした。 どこまで虚像か、どこまで本物かだったか・・・分かりましたでしょうか。 会いたい人の言葉まで虚像とは限りません。 前半はかなりコント的要素がありますが、いつもこうというわけじゃないです。 一部の方に称号をお送りさせていただきました。 それではまた次回、別のシナリオでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。