校長室
【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪
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最高の笑顔で迎えられたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、ずっと噛みしめていた余韻のそのままにソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)に言った。 「いつも家事とか本当にありがとうな! すっげぇ助かってるぜ!」 「いえ、家事は私がしたいからやっているので大丈夫ですよ!」 打ち上がる花火の弾音に負けないように。 「家事も出来ないおっさんだが、これからもよろしくな!」 「はい、パパ! こちらこそ改めて、よろしくお願いしますねっ!」 何ともストレートな言葉の渡し受け。聞いているだけで気分が良い。なかなかここまで素直に伝えられる事はやはり−−− ほら、あの屋台にも居るみたいですよ。 うーん? 何か… 睨まれてる? 視線に気付いて円が瞳を向けた時には、翡翠は珈琲を睨みつけていた。気のせい? うぅん。第一、珈琲を睨んでるのだってオカシいんだから。 「あ、はぃ、ありがとうございました」 お客さんも居るし、接客してた方が良いかしら。 …………………… また睨んでるわね…… 髪が変になってるとか? うぅん、大丈夫。カチューシャだってズレてないし、それに変ならお客さんだって言ってくれ−−− ん? 遠回りして… グラスを一つだけ取って…? ………… あっ、目が合った途端に振り返った! もう、何なのよ。!!スカートめくれてるとか?! …… 平気か……。 うーん。何か言いたい事があるなら溜め込まずに口に出した方がいいと思うんだけれど…。 「はい」 スッと寄ってきてサッと突き出してきたた。そのグラスに手を伸ばしたら… 避けられた。 「くれないの?」 「今までずっと見守ってくれてありがとう」 「へっ?」 「貴女が護ってくれたから僕は今此処に居ます貴女があのとき撫でてくれたから私は今も笑えて居ます今までずっとありがとうこれからもずっと宜しくっ」 一息で言って、グラスを置いて去っていったよ。 ………… 反抗期かしら? 顔は、やっぱり隠してる。でも、少しだけ見えた気がする、ちゃんと見えた気がする。 ……………… もぅ………… 珈琲を一気に飲み干して、グラスをそっと翡翠に返した。 「し!ん!ぱ!い!し!た!ん!だ−−−」 「ごめんなさい!」 目の前にブレスレットが現れて、椎堂 紗月(しどう・さつき)は言葉を止められた。ブレスレットの向こうで有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が頭を下げていた。 「いつも私が危ない目に遭わないようにって紗月が先に動いて守ってくれてるでしょ、だから今回は私から動きたかったの、動いてみたかったの」 「それなら… もっと危なくない時にするとか、言ってくれれば… って、それじゃ意味ないのか…」 「いつもありがとう、と伝えたかった」 共に海を渡った椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が背に添い言った。 「自分から動いて、自分の力で成し遂げて伝えたかった。そうだろう?」 ブレスレットが揺れている。不格好で、でも一生懸命に向き合ったのだと伝ってくるブレスレットが揺れている。 「今度から、ひとこと言うように! …… それから………… ありがとな」 凪沙の頭を、そっと撫でた。 そんな光景を見つめ見て、鬼崎 朔(きざき・さく)は拳を握りしめた。凪沙の潤瞳につられまい、と見ていたのに。 「あれー? 朔ッチ、泣いてるのー?」 「泣いてない… 泣いてないぞ…」 上下左右に頭を振って、しつこく覗き込んでくるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の瞳から必死に逃げているってのに、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)は「スカサハも、アヤメ様に甘えに行くのでありますよ! なでなでしてもらうのであります!」なんて暢気な事を言っていた。 みな無事に再会できた。絆も、深まったのだろう。紗月の傍に居たかったけど… でも、凪沙一生懸命な姿も、謝る様も見てきた。だから今日は。 恋人の隣り、を諦めた者が居る。それでも何が起ころうとも最後の瞬間まで自分は諦めないと心に誓う者が居た。看護所スタッフとして参加するエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)である。医師ですから。 「どうです? 体の痺れは取れましたか?」 エースの顔を見つけると、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)は急に胸を押さた。 「うぅっ、あたしの墓標には、この、クラーケンの足を串焼きにして立ててくれぇ…… バタッ」 「ウルさぁぁぁぁん」 「そんな事をしたら、本当に死んでしまいますよ」 「えっ?」 エオリアの声に瞳を開けてみれば、レイナ握る果物ナイフの切っ先が目の前に迫ってきていて−−− 「って! 本当に死ぬっての!!」 「痛みには更なる痛みが良く効き−−−」 「効かねぇわ! つーか、刺したら傷みになるだろうが、種類が違ってより痛いわ!」 ため息が出る。聞いていたエースは、ため息を吐くのに何の苦労も必要としなかった。 「いいから横になれ。それと、『痛み』と『傷み』のやりとりは聴覚に訴えるには分かりにくい。ネタを変えるか、説明セリフにならないように補足する必要が−−−」 「お前は何のケアをするつもりだぁ!」 「ウルフィさんっ!」 ウルフィオナのツッコミをかき消す位に大きな叫び声が飛び込んできた。声と共に飛び込んできた音井 博季(おとい・ひろき)は、エルボーをしたかのようにウルフィオナに跳びついた。 「ウルフィさんっ! ウルフィさんっ! 大丈夫なんですかっ! ウルフィさんっ!」 「落ち着いて下さい、無事に処置は済んでいます。安静にしていれば問題ありません」 「本当ですか… よかった」 エルボーの治療も必要になると思いますが、という言葉は飲み込んで、エオリアはティータイムの準備に向かった。 既に手伝ってくれていたリリが盆を持って来てくれていた。 「ありがとうございます」 「いえ。でも、もう少しだけ待ちますか」 心配だったのだろう。涙を流す博季を、ウルフィオナが宥めている。ウルフィオナとは犬猿の仲でも、今だけは待ってあげても良いと思えた。 「そうですね。待ちましょう」 治療や癒しは外傷だけに施すのではない。最も単純で最も難しい治療が行われているのなら、口出しはしないでおきましょう。 看護所の中の時間が、しばしの間だけ、静かに流れた。 多くの言葉は要らない、ただ、君が要れば。 「待たせたかい、我が姫」 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、その手を差し出した。 「遅い、もちょっと早く来い!」 そう言いながらエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が手を取る。 言葉は要らない、ただ、この手の温もりがあれば。 花火が照らす夜空の下、2人は駆け出した。 姫がそっと腕に抱きついた。頬の赤らみも2人にとっては絆の証であった。 ドラマティックに。ロマンティックに。男性なら、いいや女性だって、想い人にはそうしたいし、そうして欲しいとも思ったりするわけで。並んで腰掛けるセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)とローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)も想い人同士なわけですから。 「花火、キレイだな」 「えぇ、キレイ」 「今夜のステージ、良かったぞ」 「そう? どこが?」 「…… いや、とにかく良かった」 「何よそれ。本当に観てた?」 「観てたさ−−− うぐっ」 口の中で溶けてゆく。この甘さは… チョコレート…? 「半年遅れの、バレンタインよ」 この暑さだというのに、キンキンに冷えていた。チョコが溶けると歯ごたえがあった。なるほど、短めのチョコスティックだった訳か。 「先に渡されると、出しにくいな」 「だから先に渡したのよ」 セオボルトはモルダバイトのペンダントを手渡した。緑色に輝くその石は、『愛の証』と呼ばれている。 2人の雰囲気を読まない夜空は、間を空けることなく火薬の華を弾けさせた。 競うように鳴り響く爆音と降りてくる光りの中で、静かに2人はキスをした。 キュンキュンする2人の話で締めれば良いのに……。いや、でも黄島の中で今もずっと報われてない男がクタクタになって戻ってきたのですもの……。 「はぁ、本当に姫さんは、この島に居るのかぁ?」 探して走り回って疲弊しきったトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が自分の屋台に戻ってくると、何やら楽しげな声が聞こえてきて−−−そのまま硬直した、ピシッって聞こえた。 「…… こぅ?」 「そうそう、パッフェルちゃん、上手〜!」 んなっ! ……………… !!! 客の居ない店内で、パッフェルとルカルカ・ルー(るかるか・るー)が小さな『かき氷機』で遊んでいた。 「…… もっと速く、できる……」 「きゃ〜、速い速い。みなさ〜ん、今なら何杯でもすぐに提供できますよ〜」 なっ ………………なっ、にっ、を………… 「…… これ、おもしろい……」 「でしょでしょ〜? 気に入ったのなら、あげるよ〜」 「!!! …… くれるの?」 「うん、あげる−−−」 「なぁにを勝手に決めてくれてんだぁ〜!!!」 俺の声で姫さんがビックリしてた… ビックリさせちまったって思ったら一瞬で戻って来ちまって−−− 「あれ? ねぇねぇベルナデット、この人がトライブ?」 「おぉおぉ戻ったか。そうじゃ、そこのウジウジ虫がトライブじゃ」 「だぁれがウジウジ虫だ! つーか何勝手にカウンターの中に入れてやがる…」 「何時まで経っても戻って来ぬから手伝って貰ってたのじゃ。のう、2人とも」 「そうだよ〜、一緒に、い〜っぱい、かき氷作ったんだよ〜」 「あんた馴染み過ぎだろうが! 少しはーーー」 姫さんと目が合って、何も言えなくなった。言いたいことは… あるはずなのに。 「あ、俺… その……」 「…… トライブ……」 「姫さん… 俺の名前、覚えてて−−−」 「さっき教えておいたぞ、感謝しろ」 ……… ベルナデット…… よくやった…… でも、今は黙ってろ…… 「姫さんについてくって言っときながら、最後は敵対する事になって…」 マ・メール・ロアでの戦いの時、俺はティセラ側に居た。でも、それでも俺は本当は姫さんと肩を並べて−−− 「…… 覚えてない」 「……………… 覚えて…… ない?」 「そう…… 覚えてない」 体内からランチャーを取り出して、パッフェルはそっと銃身に触れた。触れているだけで容易に思い出せる、あの日の戦いの一撃も、あの日に見た光景のどんな場面も。 「…… あの日の戦いも、あの頃の私たちも、あの頃の私も。どうするべきだったのか、何が正しかったのか…… 今もよく分からない、だから」 「だから………… 覚えてない?」 「……そう、覚えてない。誰がどこに居て何を言っていたのか…… 何が正しかったのか…… 今は分からない」 「え〜と、つまり。いろんな事に挑戦して、いろんな経験をしてから判断するって事、かな?」 「…… そう、今はできない、でも、できるようになる。だからそれまでは…… 覚えてない」 「それが今の、応えか?」 腕を組んで聞いていたダリルが小さく訊いた。彼女は「…… そう」とだけ呟いて、光条兵器を体内に戻した。 戦いが、彼女を変えた。先の大戦だけでなく、彼女が蘇ってからの、いや、太古の昔の戦いからだろうか。 俺の知る限り、彼女は毒を操る力や水晶化を促す力を失っている。「毒」は彼女自身の能力、「水晶化」はダークヴァルキリーの呪いを取り込んだのだという。水晶化の解除方法については、俺の「水晶化に関する研究データ」を見せても、五獣の女王器「青龍鱗」での解除方法しか分からないと応えただけだった。 応え。オボエテナイ。それが彼女の応え、今現在の彼女が導いた彼女なりの応えなのだろう。 トライブはと言えば、困惑した表情をしている。トライブのように彼女と共に戦ったり、または敵として戦った者も多いだろう。それでも彼女は『覚えてない』のだ。 知った顔、知っている顔、親しかった顔は覚えている。どの立場で何を言って何をしたのか、それは今は『覚えてない』。 いろんな事に触れて、いろんな事を知って、いろんな事を経験して。何が正しいのか、何が間違ってるのか。判断できる、答えが出せる、その日まで。 花火の輝く空にあっても、しっかりと輝きを放つ星のように。決して埋もれない強い輝きを、決して揺れない自分の考えを、自分なりの応えを。 想い人たちが、その想いを確かめあう日。 己が想いを見つめ確かめるのも、また一つの形、なのかもしれない。
▼担当マスター
古戝 正規
▼マスターコメント
<リアクションの一部内容とタグの不具合を訂正致しました> こんばんは。ゲームマスターの古戝正規です。 まずは、リアクションの公開が遅れてしまった事を深くお詫びいたします。 申し訳ありませんでした。 本編は、と言いますと…… お腹いっぱいです(笑) みなさまの個性的なアクションのおかげで、もう、ドキワクキュンキュンしっぱなしでした。 七夕の日は過ぎ去ってしまいましたが、花火大会は今が正にシーズンですね。 夜空に弾ける花を見上げて、みんなで首を痛めましょう(笑) それでは、次回もまたお会いできることを祈りつつ。 おやすみなさい。
▼マスター個別コメント