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「さて、次のお悩みです。
 実は先日、契約者でもある大切な友人と喧嘩をしてしまい、今とても気まずいです。
 友人は私のことを心配して言ってくれたのですが、私にも譲れないものがあって、口論になってしまいました。
 何とか仲直りしたいと思っているのですが、私は生来口下手でうまく伝えられません。
 そこでシャレードさん、お願いです。
 私の代わりに友人に謝ってください。
 文面は考えました。
 親愛なるイルマへ、この間は本当にすまなかった、どうか許して欲しい。千歳より心をこめて
 匿名希望ちーにゃんこさんからですが、あっ、ごめんなさい、手紙そのまま読んじゃいました。これじゃバレバレですね。ううん、ばれないとちゃんと伝わらないのかあ。ということは、この匿名希望って、機能していないような気がするんですが……。まっ、いっか。
 こまけーことはいーんだよ。
 すいません、一度言ってみたかったんです」
 嘘だと、副調整室にいるバイト全員が思った。絶対、言い慣れているはずだ。
 
    ★    ★    ★
 
「な、な、な、なんという……」
 ラジオを聞いていたイルマ・レスト(いるま・れすと)は、プルプルと拳を振るわせた。
「公共の電波で、なんという投稿を……。口べたにもほどがあります。なぜ、自分の口で伝えられないのでしょう」
 怒りを顕わにして、イルマ・レストは言った。
「だいたい、手紙なんか書いている時間があるなら、私に会ってちゃんと伝える方が早いでしょうに。まったく、どうして千歳ったら……」
 朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)に対する憤りとも、憂慮とも区別のつかない思いに、イルマ・レスト自身、イライラを押さえきれない。
 鏖殺寺院の空母への作戦参加を止めた理由を、彼女は分かっているのだろうか。
「ま、まずい……」
 物陰からその様子を見ていた朝倉千歳は、出るに出られずその場に隠れたまま動けなくなっていた。
「私は、鬼ですか、悪魔ですか。一言悪かったと言ってくれれば、それ以上は何も言いませんのに……千歳の馬鹿!」
「えっ」
 聞こえてきたイルマ・レストの本音に、朝倉千歳は思わず声をあげて驚いてしまった。おかげで、その場にいたことがばれてしまう。
「千歳!」
「ごめんなさい!」
 
    ★    ★    ★
 
「次のお悩みは茜ケ久保彰さんです。
 いつもいつも、影が薄いと言われ続けています。
 自分では目立つつもりが逆効果らしくて、パートナーにさえ「いたの?」といわれる始末。
 得意の絵で注目集めてみようと思っても気味悪がられます。
 どうしたらもっとまわりに注目されるでしょうか。
 あ、それと、シャレード・ムーンさんのイラスト描いてみました。どうですか?似てますか?
 今問題になっているエアパートナーですね。パートナーの方が目立ってしまって、どんどん自分が空気になってしまうという……。
 これは、頑張るしかありません。
 自分が頑張れないなら、いっそ、パートナーの尻馬に乗ってしまうというのはどうでしょう。
 最初は同じ行動をとっておいて、ここぞっというときに決め台詞を奪っちゃうんです。目立てますよー。でも、その後のパートナーさんとの関係までは責任とりかねますけれどねー。
 絵が得意なそうですけど、どんな絵を描くのかなー。気味悪がられるというと、ちょっとリアルすぎるのかな? もしかして、画伯級の腕前だったりして。
 そういえば、このハガキにもイラストが……う、うまいと思いますよ。頑張って、もっとうまくなってくださいね」
 影野陽太が丁寧に黒く塗りつぶしたイラストを見て、シャレード・ムーンは適当にお茶をにごしてごまかした。
「さて、ここでCMです」
『ミッドナイト・シャンバラ♪』
『世界樹での安らぎのひととき。それはカフェテラス「宿り木に果実」にあります。各種お飲み物やケーキを、美人ウェイトレスさんがサービスしてくれる優良店です。パーティー用のスペースもございますので、イルミンスール魔法学校以外の方の御利用もお待ちしております。「宿り木に果実」それは、心の止まり木……』
 
 
教えてシャレード・ムーン。質問コーナー
 
 
「みんな、今日は慰労も兼ねてるから、食って、騒いで、疲れを癒してくれ!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、自宅として使っている工場跡に集まったアルマゲストの仲間たちを前にして言った。
 素麺などを持ち寄って、ささやかな夏の夜のパーディーといった感じだ。
 何もBGMがないというのも淋しいので、ラジオをつけてミッドナイトシャンバラを流している。
「ほう。美男子に美少女と……華やかでよろしい。皆、よく来たな。出来の悪い弟に代わり礼を言おう。紹介が遅れたな、私は、田中花子。出来の悪い弟が世話になっている」
「ちょっと待て、いきなり何を言い始める!」
 勝手に話し始めた武神 雅(たけがみ・みやび)に、武神牙竜があわてた。
「まあいいではないか。弟との関係は、背徳的で禁忌を踏み越えた関係と言えば……好奇心と想像力逞しい君たちならば判って貰えると信じている」
「信じるなよ、こいつの言うことはすべて嘘だ!」
 強い調子で、武神牙竜が否定した。
「まあな、そんな甲斐性があるなら、ここはハーレムになってるだろうな」
 にんまりと怪しい笑みを浮かべながら、武神雅が言った。