リアクション
13:エピローグ。そして……
「敵はいなくなったよ……涼司、カノンのところに行こう?」
美羽が涼司を促す。
「頑張ってください、涼司さん」
ベアトリーチェが励ます。
「ま、行ってきな」
開放祭の時のことを思い出しながら涼司は静麻の励ましを受ける。
「涼司さん、自分の幸せをつかんでください」
花音が励ます。
「……行ってくる」
そして涼司は何人かを引継れてイコンの前まで来た。
「カノン! カノン!」
呼びかけるとカノンが降りてくる。
「カノン……」
「あら、涼司さん」
カノンは開放祭のあと再び調整を受けて記憶を失ったようだった。
「さあ、涼司……」
美羽が涼司に『メガネを取るように』促す。
「ああ……カノン、俺を見てくれ」
「なに?」
涼司は昔の荒れていた時期を思い出さないためにメガネを掛けて過去を封印していた。
だが、いま、あえてメガネを取る。
「カノン……俺だ。お前の、涼司だ」
メガネを外した涼司を見てカノンの表情が変わる。
「……りょう……じ……くん?」
「ああ」
カノンの表情が笑顔に変わる。
「涼司君だ! 私の涼司君だ!」
カノンが涼司に抱きつく。が、ふと、表情が変わる。暗い方面へ。
「……あ……そうか……あたし……事故に……」
「そうだ……カノンは事故にあって、ずっと眠り姫だった。なんか、で、気がついたら、天御柱学院にいた」
「うん。目が覚めてから、元気になって退院した後、なんか天御柱に行くことを勧められたの」
ぽつ、ぽつとカノンは話し始める。
「それで、強化人間になったのか?」
「強化人間? 何のこと? あたし強化手術なんてうけてないよ?」
「え?」
強化手術を受けた自覚がないという。
「天御柱の教員が、カノンは強化人間だって言っていたぞ? どういうことだ?」
涼司の問にカノンは頭を振る。
「しらない! 分からないの……」
「そうか……」
「涼司、カノンの記憶がちゃんと戻ったんだからそんな細かいことはどうでもいいじゃん。積もる話は後でゆっくりすればいいよ。そんなことより今は勝ったことを素直に喜ばなきゃ。カノンのいる天御柱を天沼矛を守ったんだから」
美羽が嘴を挟む。
「そうだな。カノン、バリケードを片付けたら帰る。お前はイコン片付けて上で待っててくれ」
「うん! わかった。待ってるよ、涼司くん!」
そしてカノンがイコンに乗るとイコン部隊は格納庫へと戻り始めた。
その後……
オリガは皆の輪から離れてトイレにこもり、泣きながら吐き続けていた。
「初撃墜、良かったわね。今夜は赤飯でも炊く?」
すると扉をあけてエカチェリーナが入ってきてそういった。
オリガは立ち上がると反射的にエカチェリーナの頬を叩く。そしてこう言った。
「人を殺して何も良いことがありません!」
涙がこぼれる。
エカチェリーナは呆れたように言った。
「私たちパイロットは人殺しが仕事よ。殺さないなら殺されるわよ」
「でも……」
「私たちがやっているのは戦争なの。鏖殺寺院との戦争なの。殺し合いなのよ。脱出装置がついてるから安全な戦争ごっこのつもりだったの? はっ! 呆れたお嬢様ね」
「エカチェリーナ!」
「事実よ。それにね、たとえイコンパイロットが死ななくても他の兵科の兵士は簡単に死ぬの。戦車兵とか歩兵とか、敵の攻撃を受けたらそれで終わりなのよ?」
その言葉にオリガはこう答えた。
「それでも……殺したくない……」
エカチェリーナはオリガを優しく抱きしめると何も言わずに肩を叩いた。
オリガは大きな声で泣きながらエカチェリーナに抱きついた。
「教官、設楽カノンさんが記憶が戻ったそうですよ。よかったですね?」
奏音がそう悪意を込めて教官に報告する。カノンの記憶のことに教官たちは敏感になっているはずだった。また記憶操作を受けるかもしれない。そう期待して。
だが、その教官はカノンのことが担当外なのか不思議そうな顔をするだけだった。
「奏音……」
それを御空が見とがめる。
「御空、私はお腹がすきました……」
取り敢えずいつものセリフを言ってみる。
「わかった。食堂にいこう。教官、失礼します」
「あ、ああ」
奏音は舌打ちをする。
「奏音、おまえ設楽さんの何が不満なんだ?」
それに奏音は反応した。はげしく。
「私は白髪、赤眼、記憶の欠落と、とても日本へは帰れない副作用が強化手術で出たのに、何であの女は何事も無く幸せなの? それが許せないのよ!」
「奏音! それは単なる逆恨みだ!」
「御空! 私はお腹がすきました」
もう、この話はしたくない。そう拒絶の意味を込めた言葉。
「わかった……だから食堂に行こう」
「いやです。御空の部屋がいい……」
「分かった。ふたりっきりでゆっくり話そう。そのかわり飯は戦闘食料II型だぞ?」
「いいです」
奏音が応じたので、御空は奏音を連れて自分の部屋へといった。
それから……
ろくりんぴっく競技最終日。
衝撃的な事件が起きた。
蒼空学園校長兼生徒会長の御神楽環菜が暗殺されたのだ。そして涼司は環菜の遺言で蒼空学園の校長になった。
それから数日過ぎて……
カノンが涼司に会いに蒼空学園に来ていた。
コンコン。
花音がノックをする。
「なんだ?」
扉の奥から涼司の声。
「涼司様、設楽さんがおいでです」
「入れ」
「失礼します」
扉をあけて中に入る二人。
「カノン、よく来たな」
涼司は歓迎の挨拶をカノンに送る。
カノンは涼司に抱きついて
「涼司くん、会いたかった!」
と叫ぶと、花音の方を見て
「あたしの涼司くんに近づくな。この淫売!」
と罵る。
「え?」
「あたしの涼司くんを取るな!」
カノンは強い調子で花音を攻撃する。
「私は涼司様のパートナーです。涼司様のためなら、命など惜しくありません! ただそれだけです」
「だったらあたしの涼司君に近づくな」
「私は涼司様のパートナーです」
押し問答の結果は意外な言葉だった。
「だったらあたしも涼司くんのパートナーになる! あたしは強化人間なんでしょ? だったらパートナーになれるよね?」
そのカノンの言葉に涼司は押し黙った。
「涼司君?」
カノンが不思議そうな顔をする。涼司なら喜んでくれると思ったのに。
「カノン……俺はカノンを大切に思ってる」
「だったら……」
涼司はカノンの言葉を遮る。
「俺はカノンが大切だ。だから危険な戦場に出したくない。俺とパートナーになるってことは、そういう事だから……」
「涼司君……」
「だから、少し待ってくれ。今は環菜が死んだあとで忙しい。それに、パートナー契約をすれば、もし俺が死んだらカノンも花音も死んでしまう。蒼空学園の校長は危険なんだ。俺もいつ環菜みたいに殺されるかもわからない」
「環菜って、もしかして御神楽のお姉ちゃん?」
「ああ、そうだ」
「御神楽のお姉ちゃんが殺されたの? ひどい」
「だから、俺は環菜を殺した犯人と組織を見つけてぶっ殺す。そうしたら危険な戦場に出ることもなくなるだろう。パートナー契約はそれを終わってからでもいいだろ?」
「う……うん。涼司くんがそう言うのなら、待つけど……あたし涼司くんが死ぬのも嫌だよ?」
「ああ、俺は死なねえ。絶対にカノンを守る。だから待っててくれ」
「うん。分かった。待ってるね。でも、他の女に取られないでね」
「あ、ああ……」
涼司はカノンを妹的な存在だとしか考えていなかったのだが、カノンの方はどうやら違うようだ。涼司はそれに気づいた。そしてひとりの女性の存在を思い出した。
「カノン、悪いけど、俺、仕事があるから、ゆっくり話すのは学校が休みの時にしよう。花音、カノンを送ってってくれ。それから、火村加夜を呼ぶように」
「え? あ、はい、わかりました涼司様。さあ、設楽さん、お送りします」
「よろしくね、アームルートさん。涼司君、またね」
「またな!」
涼司は二人のカノンを見送ると来客を待った。
そして、ノックの音が聞こえる。
「あの、校長……火村加夜です」
「はいれ」
「はい。失礼します」
扉が開いて加夜が入ってきた。
「あの、校長、何の御用でしょうか?」
「開放祭の時の返事の件だ」
「!」
加夜は緊張した。
「そ、それで……」
「加夜の気持ちは嬉しい。でも、俺ももっと加夜のことを知りたいんだ。だから……」
「だから?」
「友達から始めないか?」
「カノンさんがいるからですか?」
「他人行儀はやめてくれ。校長になってからいきなりみんな変わっちまった」
「……涼司君」
「カノンは妹みたいなもんだ。大切な、どんなことをしてでも守りたい妹だ。もう二度と失いたくない。でも、恋人とは違うんだよな。カノンは恋愛の対象じゃない。やっぱり妹だ。だけど加夜には、友達って言うかな……俺の理解者になって欲しい。みんな校長先生様扱いだ。でも、友達がいたっていいだろ?」
「う、うん。じゃあ、私は涼司くんの理解者。友達。それで良いや。いきなり恋人は無理だよね……やっぱり」
「まあな。心の準備がないしな。環菜が死んだばっかりだし、無理だ」
「そうだよね。いきなり校長先生になっちゃったもんね。心の余裕ないよね」
「すまないな……」
「ところで、環菜の遺品の中にこんなものがあったんだ。見てくれ」
涼司はそう言うとパソコンの中のファイルを開いた。
画面に表示されたのは地図だった。
「これは……?」
「鏖殺寺院の拠点だ。地球のな。今度天御柱と共同で作戦を立てる。教導団に専門家の派遣も依頼してみるが……とにかく、大規模な軍事作戦になる。俺はこの作戦で最前線に立つが、加夜は来るなよ。危険だから」
「そんなっ! 私も戦うよ。グレーターヒールだってあるし! それに私だけえこ贔屓されるのはおかしいよ。他のみんなも戦場に行くんでしょ? 私ひとりだけ安全な場所にいるなんてできない」
「そうだな……すまん。忘れてくれ。一緒に戦ってくれ、加夜」
「うん」
こうして涼司は新校長となり、大切な存在を取り戻し、理解者を得て、出だしは万全かと思われた。
だが、歴史のうねりは涼司がそのままでいることを許さないだろう。天御柱と鏖殺寺院の戦争はこれから次第に大規模になる。蒼空学園もそれに巻き込まれるだろう。それは涼司が戦乱のさなかに立つことを意味していた。
ノックの音がする。
「涼司様、帰りました」
「おう、入れ」
花音が入ってくる。
「ご苦労だったな。早速で悪いんだが閃崎静麻を呼んでくれ。加夜、話は終わりだ。帰ってもいい。すまないな」
「ううん。大丈夫。お仕事忙しいもんね……」
「はい、涼司様」
こうして二人は去っていった。
そしてしばらくして再びノックの音。
「閃崎静麻ですが……」
「入ってくれ」
静麻が入ってくる。
「ご苦労さん。こないだの戦いも含めてな」
「ありがとうございます、校長。それで、ご要件は?」
静麻の問に涼司は再び地図を表示する。
地図上にはいくつもの鏖殺寺院の拠点が表示されている。
「こいつは……」
「さすがだな、一目で分かったか」
「そりゃ……」
涼司は加夜に語ったことを繰り返した。
「で、どうしてそんな話を自分に?」
「閃崎静麻、お前を蒼空学園参謀に任ずる」
「は? いや、失礼。なんでまたそんなものを……」
「蒼空学園は普通の学校だからな。教導団みたいに戦争の専門家を育てているわけじゃない。だから、少しでも学園内に専門家が必要なのさ」
「なるほど。とすると少しは評価されてると?」
「少しどころじゃないがな、評価はしてるぜ。だから参謀の任を与える。参謀長じゃないけどな」
「まあ、肩書きにはこだわらないからいいですがね……」
そう言うと静麻は首筋を叩いた。
「はー、えらい話聞いたから肩こったぜ」
「まあ、話は以上だ。帰っていい」
「了解」
「花音、静麻が帰る」
「はい、涼司様」
花音に付き添われて静麻は部屋を出て行った。
「涼司様、次は?」
「とりあえずコリマ校長と会わねーとな……」
「これからですか?」
「いや、さすがにアポなしは無理だろ。あとでアポとってくれ。しばらく休憩してくれ」
「はい」
花音が休憩に入ると、涼司も校長用の椅子で休んだ。しばし、休息が必要だった。
薔薇の学舎
クリストファー・モーガンは観戦レポートを作成するとそれをジェイダス校長に提出した。
そしてBCCで鏖殺寺院の草に送る。
クリストファーは最終的に地球の鏖殺寺院やエリュシオンから、シャンバラを守るために、今は地球の鏖殺寺院に深く食い込む予定だった。
リークについてクリストファーはこう考えていた。
天御柱学院にも鏖殺寺院の草がいるだろうから、自分がリークしなくても情報は漏れるのは間違いないと考える。
観測者の視点が異なるレポート自体は、物事を多角的に観察する役には立つはずなので、自分のリークは全くの無意味ではない。
しかし、他に草がいるなら天御柱学院にとって致命的でもない。
という点で、罪悪感は感じない。
と。
こんにちは。樹です。
今回は物語的に盛り上がるPCが多めに文章量を取っています。
今回で5作目ですがなかなかリアクションをかくのは難しいものですね。
称号についてですがシナリオ内での活躍に応じてつけさせていただいておりますので希望称号が通らなかった人もいると思います。
どうもロボット物なのに涼司が主役になってロボット戦よりそれ以外のほうが描写に力入ったのが今回の反省点でしょうか?
でも、涼司とカノンの問題が一応今回で一解決したので、安心しています。これからさらにこじれそうですが(笑)
ではでは、参加or読んでいただきありがとうございました。