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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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*呪いと祝詞*



 ボタルガへと向かう最中、その機晶姫の姿を見つけた。ソア・ウェンボリスは、恐る恐る近づいた。その後ろには、綺雲 菜織もついていた。月谷 要こと重装闘機シュヴァルツパンツァーを、霧島 悠美香は必死に押さえていた。そうでもしないと、姿を見るなり殴りに行きそうだったのだ。

「あの、オーディオさん?」
「……そあ、とかいったか」
「はい! あの、ルーノさんは、どうしたんでしょうか? オーディオさんと一緒に消えてしまったのですが」

 その問いかけに、機晶姫は表情を全く変えずに黙り込んだ。

「思いを口にせねば、誰の心にも『響かぬし残らぬ』よ」

 綺雲 菜織の言葉に、機晶姫は顔を上げる。

「……人に必要とされぬ気持ちが、わかるか?」

 ようやく声を絞り出した機晶姫の表情は、とても哀しげだった。

「誰からも忘れられることを望まれ、捨てられたものの気持ちが、わかるか?」
「……それが辛くて、こんなことをしたのか?」

 綺雲 菜織が一歩進み出る。だが機晶姫は後ずさるどころか、前に進み出てきた。

「命は肉体に宿る。魂も肉体に宿る。肉体をなくした魂は、思いは、消えてなくなればいいというのがお前たちなのだろう?」
「え……」
「私の嘆きなど、助けを求める声など、お前たちには何一つ聞こえていないではないか!!!」

 機晶姫の叫びが、荒野全体に響いたような気がした。ケイラ・ジェシータは、胸元のペンダントをにぎりしめながら、後ろを向いてパートナーの姿を見やる。急に顔をのぞきこまれ、小首をかしげた御薗井 響子に微笑みかけると機晶姫に向き直る。

「この世に未練があるなら、それでもいいとおもう。君がやりたいのはなんだ?」
「そうだ。目的次第によっては、俺たちは協力してもいい」

 重装闘機シュヴァルツパンツァーは高らかに宣言した。機晶姫は泣きそうな顔から一変し、口元が不気味なほどに歪められた。


「あの機晶姫、ルーノ・アレエとやらに思い出してもらう。本当の人間の姿をな」
「本当の姿?」
「簡単だ。人間が機晶姫をないがしろにしたという、あの爆弾を思い出してさえくれれば、あの機晶姫は身の内の力を解放する。私はそれで満足だ」
「……あなた、助けを求めているんじゃ……?」

 綺雲 菜織が慎重に言葉を選んで問いかけると、その口元は一層持ち上げられる。

「ああ。私を認めない世界なんて、消えればいい。消す手伝いをしてくれるか?」

 綺雲 菜織は一瞬とまり、駆け出すとその機晶姫を抱きしめる。

「見極めたいな、君の嘘を」

 嘘、そういわれて機晶姫は急に無表情になった。そして、レビテートの呪文を唱えその場から飛び去った。後を追おうとすると、有栖川 美幸がそれを妨害する。

「お前ら、あいつの味方するのか!?」
「菜織様のやることを、邪魔させはしません……ただ、これだけは忘れないでください」
「なんだ?」

 銃器を構えたままの月島 悠が変わりに応えた。

「菜織様は、決して緋山様が困ることはいたしません。あの方は、信頼を裏切らぬお方です」
「……あの、行かせてあげてください」

 ソア・ウェンボリスの言葉に、一同が驚きの声を上げる。だが、ケイラ・ジェシータもその言葉に賛成らしく、彼女の小さな肩にを置いた。頭の上のフクロウが頭をくるくるさせている。

「とりあえず、懐に見知った人がいったってことは、決して悪いことじゃないんじゃないかな?」
「……ありがとうございます……」

 有栖川 美幸は深々と頭を下げると、その場を立ち去った。恐らく、パートナーを追いかけたのだろう。

「ちぇ! しょうがない! 状況整理して、ロザリンドさんと閃崎に報告だ!」

 重装闘機シュヴァルツパンツァーは深々とため息をつきながら大声を張り上げた。
 だが、彼自身も迷っていた。

(人がした行いを思い出させれば、あんなに人懐っこそうな子のお姉さんが、世界を消しちまう? どんなひどいことしたってんだよ……)

 








「ジーナ!!」

 ジーナ・フロイラインは、武器を構えていた。そして、機晶姫以外の生命体に攻撃を開始した。その目はうつろで、何かに操られている感じだった。

「おい! カラクリ娘! しっかりしろ!!」
「なんれー! なんれー!?」

 林田 コタローが泣きながら慌てふためいているのをかばいながら、林田 樹も武器を構える。茅野瀬 衿栖があのデスクに何かがあると察して、足元に転がる残骸たちに詫びを入れながらも、戦場をすり抜けて何とかデスクにたどり着く。そこには、黒い箱が一つと、まだ生きている画面に映像が映し出された。彼女は胃の中のものが逆流しそうになっていた。

「ジーナ! 目を覚ませ!」
「人間、生き物、コロセ、機会の体、我らは、生きている」

 何かを呟き続けるジーナ・フロイラインの攻撃に、林田 樹は困惑していると、霧雨 透乃が飛び出して、その腹に一撃加える。

「怒るんなら後にしてね! 今は仲間割れしてる場合じゃないから!」

 そう言い放ち、拳を構える。

「……せめて、気絶させることが出来れば……」
「ふん、その程度でいいなら」

 メシエ・ヒューヴェリアルが進み出ると、電撃を放つ。かなりきつめだったが、彼女の身体を止める程度のものだったらしく、林田 樹は駆け寄って、その身体を抱きかかえる。

「ジーナ! ジーナ!!」
「こたがなおすー」
「ボクも手伝うです!」

 涙ながらに、アーティフィサーである林田 コタローと、ヴァーナー・ヴォネガットが駆け寄って治療を施す。エレアノールとイシュベルタ・アルザスは、どこからか持ってきた工具を持ち寄って、ジーナ・フロイラインの頭にパッドをはめて、何かを弄っているようだった。
 しばらくすると、ぱち、とジーナ・フロイラインは瞼を開いた。

「ジーナ……」
「樹様? あれ、ワタシ……」
「あれは、おそらく……機晶姫たちを非道な実験に書けたデータの塊がおいてあるのだと思います。機晶姫が振れるだけで、そのデータが簡易にではありますが、上書きされます」

 茅野瀬 衿栖は涙を流しながら、残骸を抱きしめていた。そして、そこに写されていたデータを皆が見られるようにメモリープロジェクターで映し出した。

 大半が、生きたままどこまで切り刻んだら、機能停止するか、痛覚をどこまで高めることが出来るか、逆はどうか、スイッチを切らないまま内部機関をばらしたらどうなるのか。
 攫われた機晶姫たちは、そんなことをする意味があるのだろうかというような実験を繰り返しうけていた。

 それ以外にも、純粋に兵器として借り出された機晶姫たちが残した日記なども部屋から見つかった。書き記された日記は、きっとそういった知識を与えられた機晶姫が使ったのだろうというのが見て取れる。
 最後には「こんな知識を与えられるくらいなら、何もなくただ破壊するだけのほうが幸せだった」とも書かれている。
 
 それは、鏖殺寺院のみに関わらず、戦争のために作られた彼女たち自身の嘆きだった。
 機晶姫とは、生まれながらの兵器。
 そんな言葉が、映像の中の人間らしき声が聞こえてきた。

 ヴァーナー・ヴォネガットはわんわん泣き始め、イシュベルタ・アルザスがハンカチ代わりにその懐を貸していた。

「だからって、こんなことしていいわけ……?」

 ピクシコラ・ドロセラは、一滴涙を落とした。気づかれないようにぬぐっていたら、ディオネア・マスキプラにハンカチを差し出される。茅野瀬 衿栖はぼろぼろと涙を流していた。

「あなたたちが生きているときに会いたかった……ひどいよ、こんな、人間の手で作って、こんなひどいことがどうしてできるの!?」

 ぶつけられない思いを、エレアノールにぶつけた。トライブ・ロックスターがそんな罵倒から守るように、前に立つ。

「え……トライブさん」
「例え一時でも鏖殺寺院にいたとはいえ、彼女がそうしたわけじゃない」
「それに……そんなものがあるということは、とてつもなくまずいことが起きる気がするよ」

 クマラ・カールッティケーヤが身震いさせながら、エース・ラグランツを見上げる。彼の顔も、真っ青になっている。

「イシュベルタさん、ルーノさんの中に、この記録……いえ、記憶があるのですか?」
「ああ。しかも、いちばん際奥にな」
「……この博士達は、機晶姫をただのおもちゃか何かと勘違いしていたようだな。あれはただの人形じゃない。純粋な兵器だ」

 メシエ・ヒューヴェリアルははき捨てるように言い放つ。月夜見 望が反論しようと立ち上がる。

「兵器なんかじゃないよ!」
「兵器だ。だから力がある。力を発揮することもかなわず、殺されたこいつらの、作られた意味はなんだ?」

 その言葉は、目の前の月夜見 望に向けたものではないことは、その場の一同が理解した。

「うん。生まれてきて、これからいろんなことが出来たのに、兵器じゃない道も選べたかもしれないのに……こんな」
『違うな。兵器に感情など不要、それを知らしめるための実験を彼らが行っていたのだ』

 聞こえてきた声に、一同は振り向いた。そこにいたのはあの機晶姫、オーディオだった。一番後ろにいた冬山 小夜子が拳を構えたが、すぐに姿は消えてなくなる。
 それがホログラムであると知れたのは、新しく作られたらしいカメラなどを調査してからだった。
 忌まわしい記録が残ったデータをとりあえず入手したトライブ・ロックスターは、ため息混じりに口を開いた。

「……とにかく、これがもし悪用されたら困る。壊しておこう」
「お任せを」

 冬山 小夜子がダンスをする前のように優雅なお辞儀をすると、一撃でその機械を拳で潰してしまった。同じく拳で戦う霧雨 透乃が感心する声を上げる。

「凄いねぇ!」 
「あら、そうでしたか?」
「うん。十分十分」

 崩城 亜璃珠の拍手に、冬山 小夜子はにっこりと微笑んだ。

「女のほうが怖いな」

 緋山 政敏が小さく呟くと、トライブ・ロックスターも思わず頷いた。

「「「なにか?」」」

 カチュア・ニムロッド、リーン・リリィーシア、王城 綾瀬はそれぞれにこやかだったり睨みつけたりする表情で二人を見た。視線をはずすしか、彼らにはできることがなかった。


「ピクシー、大丈夫?」
「大丈夫よ、春美」
「うん……それにしても、私たちかなり出遅れてるわね」

 彼女が呟いた言葉に、一同は驚いた。

「だって、最初『使用中』状態だったってことは、きっと……わざと見つけてもらうため。さっきのホログラムだって、きっともともと仕掛けてあったのよ」
「うん……だとしたら、敵は……あのオーディオという機晶姫……きっとアルディーンの意識が植え付けられているとみて間違いないと思う」
「こんなわざとらしい手を使うのは、彼女しかいないよね」

 霧島 春美と、エース・ラグランツの言葉に、頷かざるを得なかった。そして、ここにあまり時間を裂く事も出来ないことを悟った。
 簡単な調査だけでは遺跡の中ではそれ以上のものは見つからず、エヴァルト・マルトリッツは少し残念そうに肩を落としていた。そういえば、とエレアノールが道中部屋に入り、一冊の本を見せる。といっても中身はスケッチぶっくのようだった。

「私は専門ではないのですが、以前合体機晶姫に関するレポートを見て、移したことがあります」
「ど、どれですか!!?」

 そういって差し出したスケッチは、小さな機晶姫が、中くらいの機晶姫に包まれ、そして更に大きな機晶姫に包まれ、巨大兵器と化するものだった。

「……マトリョーシカ?」
「や、どっちかというとバイカ○フーじゃ……」
「そうか。この手があったか!!!」

 よくわからないが、喜んでいるらしいエヴァルト・マルトリッツの背中を、ロートラウト・エッカートは眺めていた。

「いわなくていいんですか?」
「うーん。まぁ実際ボクらは分離とか無理だからねぇ……普通の機晶エネルギーじゃエネルギー不足だったわけだし。追加パーツ的にくっつくだけだから、ああいう感じでやれるなら、どこかで誰かが作ってくれるかもね。そのうち、イコンとも戦えたりしてー」

 合体戦車 ローランダーはヘッドライトをちかちかさせていたが、ロートラウト・エッカートは楽しそうだった。 


 遺跡を出るなり、緋山 政敏の携帯に連絡が入る。それは、驚きの情報だった。