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イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー

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イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー
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第7章 超能力勝負

「さあ×2☆ 詩穂もいくよ! みんなの突撃についていくよ☆」
 騎沙良詩穂(きさら・しほ)をイーグリットを高速で移動させる。
 ミサイルの弾幕が一瞬途切れた隙に、各機は撃墜対象との距離をみるみる縮めていった。
「騎沙良さん、一人きりでイコンを操縦して、大丈夫なんですか? まさか、設楽さんなみに動かせるとか?」
 同じくイーグリットの端守秋穂(はなもり・あいお)が、騎沙良を気遣った。
 端守は、超能力バトルロイヤル「いくさ1」の勝利者(4位)だったが、それでも
イコンに1人で乗り込むようなことはせず、ビスケットをかじりながら操縦桿を握っているユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)と2人で操縦している。
 もっとも、端守は、強化人間として非常に高い潜在能力を持つ(だがその分精神が不安定で、端守に依存している)ユメミと2人で闘うことで真の力を発揮するため、2人での出撃は当然ともいえる。
「平気×2☆ 1人乗りのイコンは30%の力しか発揮できない? オーライ、百も承知の助だよ☆ 用途によりけり、今日の詩穂はスタンドプレーで突っ走る気満々☆」
 騎沙良は謎めいた言葉を紡ぐ。
「スタンドプレー? 特攻するんですか?」
「ある意味、そうかも? みえない力、あなたの知らない世界に首を突っ込むんだもんもんもん☆」
「そ、そうですか」
 端守は騎沙良のいうことがいまいちわからない。
 そんな端守に、パートナーのユメミが自分の不満を訴える。
「ビスケット、なくなったー」
 ユメミは、戦場でもお菓子が優先になるようだ。

「あっ、強化人間Pの機体がだいぶ近くなってきましたね。うわー、大きなイコンですね。あれ? 僕たちより先にきて闘っている人がいますね。この仮想空間にずっと閉じ込められてた人かな?」
 端守は、行く手に浮上したまま静止しているようにもみえる機体に気づき、関心を寄せる。
 その機体には、坂上来栖(さかがみ・くるす)ジノ・クランテ(じの・くらんて)が乗り込んでいた。
「はあはあ。まだ勝負は終わっていない! 必ずやここを突破してみせる!」
 端守たちがやってくるよりだいぶ前から闘い続けていた坂上は、身体の疲労をものともせず、不屈の闘志を燃やし続けている。
「来栖さん、私は、そろそろ限界なんですがー」
 ジノが、いまにも倒れそうな声でいう。
「どうしたんですか? なぜ、そこで止まっているんです?」
 端守は坂上たちに通信を送る。
「うん? 追加できた連中か? 手を出すな! ここは私とジノだけでやる!」
 坂上は、端守たちを振り返りもせずに怒鳴りちらす。
「ずいぶん興奮してますね……あれ? この感じは? う、うわあ!」
 端守は、悲鳴をあげた。
「うん? 頭、いたーい!」
 キャンディを探していたユメミも悲鳴をあげる。
 端守たちだけではない。
「う、うわー! 何だ、この感覚は!?」
 坂上たちに並ぶ位置にまできたイコンのパイロットの多くから、いっせいに悲鳴があがっていた。
 進むにつれ、頭に激痛が走り、激しく揺れるような感覚のために目眩も起きてくる。
 ついに、イコン部隊の大半は移動をやめてしまった。
 強化人間Pの放つプレッシャーが、超能力者たちの精神に強く圧迫しているのだ。
「だから! 下がれというのに!」
 坂上は舌打ちすると、再び念をこらして、プレッシャーを打ち破るかのような唸りをあげながら、イコンを前進させようとする。
 そのとき。
「待てよ。単機でやるな。みんなと力を合わせるんだ!」
 イーグリットのコクピットから、和泉直哉(いずみ・なおや)が坂上に呼びかけて、制止しようとする。
「誰? あなたも超能力者? そのわりには平気そうだけど?」
 坂上が、少し興味を持ったのか、直哉に尋ねる。
「平気なもんか。だが、俺は、これよりもっと強いプレッシャーに身をさらしたことがある! だから、少し慣れているというだけだ。ここに誓おう! あのときはプレッシャーを打破できなかったけど、今度は道を切り開いてみせるつもりだ!」
 直哉が叫ぶ。
「私も、兄さんについていくと決めたから! プレッシャーに飲み込まれたりはしないもん!」
 直哉の妹であり、同一機体に乗り込む和泉結奈(いずみ・ゆいな)も、気炎をあげて叫ぶ。

「みなさん、ぼやぼやしてるとまたミサイルの弾幕が押し寄せてきますよ! 和葉ちゃんが、和葉ちゃんがこの後やってくるから! 私は和葉ちゃんのために全力で道を開けておきたいんです! みんなの気合でプレッシャーをはねのけましょう!」
 コームラントの葉月可憐(はづき・かれん)も、坂上に呼びかける。
「わ、私も、あ、頭、痛いですけど! 何とか可憐についていきます! か、可憐を傷つけさせたくないから! 守りたいですから!」
 葉月のパートナーであるアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)も、押し寄せるプレッシャーに頭をかき混ぜられるような痛みを覚え、涙を流しながらも叫ぶ。
「さあ、みなさんに、プレッシャーを破ろうとする私の気合のほどをみてもらいましょう! リンフォース!」
 葉月は、イコンの手にずっと握らせていた、金属の塊のようなものを宙に放った。
 宙に浮かんだその塊は、みるみる大きくなっていく。
 リンフォース・アルベルト(りんふぉーす・あるべると)が、巨大な魔鎧に姿を変えているのだ。
「これが僕と可憐たちとのはじめての依頼だ! 僕は、僕は可憐を守る! いくぜ、装着合体! 白銀のライトメイルよ、イコンにとりつき鉄壁とならん!」
 叫びとともに、リンフォースは白銀のライトメイルの形状の巨大な魔鎧として、兜、胸当て、腰当て、篭手、足具などに分裂して、歯月のイコンにまといつくように装着されていく。
 ガシガシ、ガシッ!
 魔鎧とイコンが合体するという、シミュレーションでしかできない夢の展開が実現した。
「はあああああ!」
 リンフォースと魔鎧と合体後、イコンにファイティングポーズを決めさせて、葉月、アリス、リンフォースの3人が叫ぶ。
 白銀の鎧を身にまとったコームラントは、まるでパラディンが天かけるかのようである。
 ピピピピピピ
 葉月がいるコクピットに、通信が入った。
「可憐ちゃん、かっこいー! それじゃ、ルシェンさんにとっておきを送ってもらうね!」
 玖瀬まや(くぜ・まや)の声が、葉月の耳に響く。
「し、師匠! 師匠の愛が、いま飛んでくるんですか?」
 葉月は、興奮のあまり血が頭にのぼっていた。
「はい。飛んできます。しっかりつかまえて下さいね」
 ルシェン・グライシスから送信予告が入る。
 きらっ
 びゅうう!
 空の彼方が光ったかと思うと、巨大なレールガンが高速で飛んできて、葉月たちのコームラントの手に収まった。
「説明。大型レールガン。玖瀬まやが作成した。威力重視で一撃必殺を意図する追加武装だ」
 アイビス・エメラルドの説明が入る。
「ああ! こ、こんな素晴らしいものを! 師匠、ありがとうございます!」
 葉月は感動のあまり、滂沱の涙を流していた。
 もはやプレッシャーなど気にならなくなっているようだ。
「可憐ちゃん、思いきりぶちかましてね!」
 玖瀬は、ありったけの師弟愛を込めてメッセージを送った。
「さあ、みなさん、私たちの気合をみましたか? 『気合(きあい)』から『き』をとると『愛(あい)』になるんですよ? 私たちだけではなく、みんなで気合をあげてプレッシャーを打ち破り、他の機体がもっと先にいけるように援護しましょう!」
 葉月は叫んだ。
「わかった。気合は一人前か。だが!」
 坂上は、葉月の勇姿をみて、なお、叫んだ。
「いったはず! 連携はしない! 私は私でやる! 他にも突っ込みたい奴がいるなら、勝手にやればいい! いくぞ!」
 坂上は、念をこめながら、機体を少しずつ前方に移動させていく。
「ミサイル!? また、弾幕がきます!」
 レーダーをみていた端守が叫ぶ。
「いつまでもプレッシャーに負けてられないな。それじゃ、俺たちも、勝手に突っ込ませてもらうか! 坂上に並んでな!」
 和泉直哉が吠えた。
「やっぱりこの感覚、気に入らねえんだよ! そこの敵! 私を見下してんじゃねえっ!」
 坂上は絶叫とともに、機体をダッシュさせた。
 強化人間Pからのプレッシャーによる不快感で増幅された怒りのエネルギーが、ついにプレッシャーの圧迫を押しのけていた。
 坂上のイコンには、壊れた別のイコンの腕が握られている。
 坂上より先に闘っていたイコンが撃墜されたときに手に入れたのだ。
 迫りくるミサイルの大群に、坂上の機体が、壊れた別のイコンの腕を思いきり投げつけた。
 腕は、ミサイルに当たって、すさまじい誘爆を引き起こす。
「しぃねえええ!」
 爆炎の中を、坂上の機体が特攻していった。

「うーん、この感じ☆ いいねえ」
 騎沙良詩穂は、脳にしみこんでくるようなプレッシャーを浴びながら、ニコニコと笑い始めた。
 どこか、カノンに似ていないでもない笑いだ。
 超能力と超能力がぶつかりあったその瞬間、騎沙良の体内には心地のよい波が生まれていた。
「みんな、生きている! だから、この苦しみも、プレッシャーもあるし!」
 騎沙良は、オルゴールの音を拡声器でイコンの外の空間に流す。
「この歌、聞いて! ラララ、死んでも仲良し☆ ゾンビになってもあなたは襲わない☆」
 騎沙良の持つ恐るべき超能力スキルが、音楽に乗ることで高められていった。
 あの体験イベントのときと同じだ。
 音楽が、より強い力を引き出していく。
「だから、単機でも平気なの! このためにいるから! ラララ、天国地獄、どこにいっても投げキッス☆ ハア×2☆ あーああああーあー」
 しゅばあああああ
 騎沙良の機体から、鎮静の気をまとったすさまじい精神波が放たれた。
 生徒たちを襲うプレッシャーを和らげ、強化人間Pの心にも届かんという勢いだ。
 騎沙良は、仲間を襲うプレッシャーの全てを受け止める勢いだ。
「精神感応☆ 強化人間Pさんにコンタクト! えっ、カノンさん? あっ、違うか」
 騎沙良は、強化人間Pと、一瞬だが、精神感応で通じ合ったかのように思った。
 その瞬間、設楽カノンとPを混同したのはなぜか、わからない。
 もちろんPは、カノンではない。
 だが、異様に黒々とした気の波動を感じ、記憶のどこかに、同じようなものと接した体験があると感じた。
 それは……。
「えっ、嘘☆ そういうことなの? 全ては運命?」
 騎沙良は真相を知ったが、そのことを他の生徒にはあえて伝えなかった。
 特に理由があったわけではない。
 伝えるべきかどうか、さすがの騎沙良も判断がつかなかったのだ。
「この、責任! 知るって、こういうことなの? これからも、いろんな裏事情を知っちゃうのかな、詩穂は☆ でも、みんなが、がんばるなら、詩穂も!」
 騎沙良は、いまはプレッシャーを受け止め、和らげることに専念しようと考えた。

「ユメミ、僕たちもいきますよ!」
 端守も覚悟を決めた。
「僕は、ユメミと2人でバトルロイヤルを勝ち抜いた! 今回だって!」
 端守は、迫るミサイル群を意識からシャットダウンさせるかのように目を閉じて、プレッシャーを破ろうとひたすら念をこめる。
「絶対、皆で現実に戻るんだ……負けてたまるかぁぁぁぁっ!」
 ユメミもまた、しゃぶっていたキャンディをこなごなに噛み砕くと、パートナーに尽くしたい一心で叫んだ。
「秋穂ちゃんがやりたいなら、手伝うよー。秋穂ちゃんが、秋穂ちゃんが現実世界に戻れなくなったら嫌だから! だから、絶対負けない!」
 ユメミは、この先に待ち受ける強化人間Pへの闘志を燃やし、精神を押し包むプレッシャーもものともせずに叫ぶ。
「あんたごときが……秋穂ちゃんの邪魔をすんなぁぁぁぁ!」
 ユメミが瞬間的に放ったその精神波の勢いは、端守のそれを超えるものだった。
 端守とユメミ。
 2人の気合がひとつになり、プレッシャーの抑えをはねのけていく。
 端守たちのイコンが、まずはゆっくりと、前方へ移動する。
 すぐに、ダッシュへと移行した。

「俺は次に海人と会うまでに、もっと強くならなければいけないんだ……この程度で止まってられるかよーっ!」
 和泉直哉たちのイコンも、前へ進み始める。
 強化人間「海人」のすさまじいプレッシャーを経験した直哉には、比較的超えやすいハードルだった。
 それに、今回の直哉には、結奈もついているのだ。
「兄さん! 一緒に! 一緒に行くの!」
 和泉結奈は、直哉とともに気合をあげ、プレッシャーを徐々に克服していく。
 同時に、結奈は、強化人間Pと精神感応で通じ合うことができないか、試してもいた。
「これは……? この感じ、破壊しかないの? まるで、ひとつの人格の凶悪な部分だけが寄せ集められたように、偏っている!」
 Pの心を一瞬のぞいたように感じた結奈は、驚きの叫びをあげた。
 本当に、こんな人格を、一人の人間が、結奈と同じ強化人間が、持つことができるのだろうか?

「さあ、みんな、いくよ! リンフォースに守ってもらって! 師匠の愛とともに!」
 葉月のイコンが、追加武装の大型レールガンを、押し寄せるミサイルの大群に向ける。
「くらええええ!」
 どごーん
 大型レールガンから威勢のよい一撃が放つことで、葉月の気合がより高められ、プレッシャーを克服していく。
 レールガンでの攻撃が、葉月に「てこ入れ」をしているのだ。
 ちゅどーん!
 レールガンの攻撃をくらったミサイルが、次々に爆散していく。
 爆発の炎をくらっても、リンフォースの魔鎧に守られている葉月のイコンは、無傷だ。
「アリスも一緒に!」
「あ、ああああああ! はい!」
 葉月に促されて、プレッシャーに耐えるのに精一杯のアリスは、涙を流しながら絶叫する。
 すると、絶叫によってアリスの精神力が引き上げられ、プレッシャーに拮抗できるようになっていった。
「接近しましょう、もっと! みんな!」
 威勢よく前方にダッシュを始めた葉月のイコンに、他の機体が続いていく。

「さあ、みなさん! 詩穂がここに残って、プレッシャーを抑えるよ☆ ミサイルの位置も御指南! 次、3時の方向! その次、10時の方向から! 変幻自在に押し寄せてくるよ!」
 プレッシャーを克服するきっかけをつかんだ他の機体が次々に特攻していく中、騎沙良の機体はその場に残り、プレッシャーを一心に受け止めながら、ミサイルの群れ
がどの方向から来るかを仲間に伝えていく。
 もはや、プレッシャーも、ミサイルも、さしたる障害ではなくなってきていた。