薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション公開中!

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション

 
 
 フーリの祠・道中0.5〜コンビニ前〜

(ファーシーファーシーはやまらないで。貴女だけじゃない、皆同じなのよ! だからお願い、自分を責めないで)
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ファーシーの写真を持って街の人々に聞き込みをしていた。写真は、いつか空京の電波塔で撮ったものだ。沢山の友人達の中央で、ファーシーが笑顔を浮かべている写真。
 車椅子での移動には介助が要る。ルートも限られるし、目立つだろう。実際、何人かの通行人はファーシーの姿を見かけていた。だが、その方向に行ってまた別の人間に聞いても知らないと言われてしまうのだ。
「空京にはいる筈なんだけど……他に、ファーシーの行き先に心当たりがある人は……」
 ルカルカはそう考えて、そうだ、と携帯電話を取り出した。
「番号は、と……あれ?」
 目的の人物の番号は、入っていなかった。
「あ、そうか……あの時はルミーナさんの電話から掛けたから。じゃあ……」

「えーと……こっちの方でいいんだよな……」
 GPS表示を睨みながら、ラスは空京の街を飛んでいた。ピノは、暫く街中でうろうろしていたが、本格的に祠へと向かい始めたらしい。彼女の位置は、西へ西へと移動している。少し気になるのは、移動速度がいきなり上がったことだろうか。だが、この調子ならじきに追いつく――
「おわっ!」
 しかし、ラスは突然小さく叫んだ。横を飛んでいた久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)が声を掛けてくる。
「どーしたのー?」
「何かトラブルでもありまして?」
「電池が切れた……」
 携帯電話の画面は、完全にブラックアウトしてしまっている。GPSを繋げっ放しにしておくというのは中々に電池を食うのだ。いかに契約者同士といえどもGPSまでは繋げ続けてはくれない。普通に有料サービスを利用してるだけだし。
「えーーっ! どうすんの? それじゃあピノちゃんの場所分かんないじゃん!」
「待たせたのはあなたでしょう……」
 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)エミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)が口々に言う。
「くそっ、祠の場所をどっかで調べるしかないか……!?」
「……充電器……」
「ん?」
「……充電器を買えばいいんじゃないでしょうか……コンビニで……」
下を軍用バイクで走る御薗井 響子(みそのい・きょうこ)がぼそりと言った。確かにその通りだ。だが。
「……金が無い……」
 今日は元々、電子マネーしか持ってきていなかった。それをピノが持ち逃げしたので一文無しなのである。
「この前、30万ピノに使われたばっかだしな……」
ついでにそうぼやく彼を、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が助手席から見上げる。
「お金なら、貸すよ?」
「へ?」
 あっさりと言われて、ラスは目を瞬いた。
「大富豪って程持ってないけど……ちゃんと返してくれるって分かってるしね」
「お、いや、まあ……」
 真っ直ぐにそう言われ、ラスはケイラから視線を逸らす。
「お前、よくそんなこと恥ずかしげもなく言えるな……」
「? 何が?」
「いや……」
 そのまま口を閉ざす彼に、ケイラは何かに気がついたように声を上げた。
「あっ! 貸すって、30万Gじゃないよ? 流石に面倒見切れないから……ごめんね」
「30万?」
 その言葉に、ラスは再びケイラの方を向いた。驚いた表情が、数秒して興味の無さそうな顔に変わる。
「……いや、別にそんな気ねーし……」
 ケイラはそっか、と言い、何故か嬉しそうに笑った。

「……そういえば、沙幸さん」
 コンビニ前。ラスが出てくるのを待っていた美海は、中の様子をちらりと見てから沙幸に言った。
「剣の花嫁はパートナーの大切な人によく似てる、なんて話がありましたわよね? まさかピノさんはラスさんの妹さんにそっくりで、それが理由でピノさんを過保護にしている……、なんてことはありませんわよね?」
「え、妹さん? て……そっか、ピノは違うもんね」
 沙幸も店内に視線をやって、うーん……と言った。
「そうだね、もし、ねーさまの言うとおり、もしピノがラスの妹さんにそっくりだと仮定したら……」
 そこで、ラスが出てきて沙幸は口を噤む。少し「?」という表情をした後、彼は無事手に入れた充電器を携帯に突っ込んだ(念のために予備も幾つか買っている)。再び電源を入れると、途端に着信音が鳴り始めた。もしかしたら少し前から掛け続けていたのかもしれない。
「……誰だ?」
 電話に出て聞こえてきたのは――
『あ、ラス? 私、ルカルカよ。ねえ、ファーシーが何処に行ったか心当たり無い?』
「ファーシー?」
 どうしてそれを自分に訊くのか。何だか変な噂が流れたようなので文句を言うというなら分かるが。
「というか、俺、お前に番号教えた覚え無いんだけど……」
『証券会社に片っ端から電話したの。取引先のふりしてお金が回収できなくて困ってるって言ったら教えてくれたわ』
「!?」
 あっさりとした答えに、一瞬意味が解らなかった。今、こいつ何て言った……?
「何勝手してんだよ! またとんでもない方法で……!」
『問題あった?』
「何も無くても気分の良いもんじゃないだろ……? 変にブラックリストとか載ってないだろうな……30万無くなってから控えてたし……」
 どいつもこいつもろくなことをしない、と、自然にため息が出る。
『ねえ、そんなことより』
 そんなことより?
『ファーシー、何かをすごく思い詰めてたみたいだから探してるの。最後に話したのって、ラスなんでしょ? これから行きたい所とか、言ってなかった?』
「……いいや? 何も」
 完全に不貞腐れた。
『何もってことないでしょ? そうだ、ファーシーと何を話したの? その中に行き先のヒントがあるかもしれないわ』
「だから、本当に何もねーって」
 というより、言いたくない。
『ファーシーから笑顔が消えるなんてよっぽどよ。ねえ、私嫌な予感がするの。もしかして……』
「あのなあ、俺もあいつにばっかり構ってられるほど暇じゃねーんだ!」
『本当?』
「…………」
『本当にそう思ってる?』
「…………」
『30万G無くなったって言ってたわね。今、丁度貯金がそのくらいあるわ。あげるから教えて』
「……今度は何言ってんだよ。なんでお前から金……」
『なんで? 友達だからよ』
 迷い無く即答されて、言葉に詰まる。それからちらりとケイラを見た。
(こいつも、金あったらぽんと出してきたのか……?)
 視線を受けて不思議そうにするケイラから目を戻し、電話に戻る。
「……金なんかいらねーよ。いいか、1度しか言わないからな。ファーシーは……」
 話すとなると、必然的にこちらの話も絡まる訳で。ルカルカはそれにも深刻な声を出した。
『そう、ピノちゃんが……』
「だから暇じゃないって言ったんだ。ファーシーは……どうせそこらに居るだろ。お前が探してんだ。他の奴も探してるだろ。どっかの店で駄弁ってんじゃねーのか?」
『お店……そっか、探してみるわ』
 電話を切り、さて出発するかと飛空挺に乗る。しかし、そこで彼は気になるワードを耳にした。
「えへへー♪ やー兄とお出掛けだー♪ ラスちゃんの妹のピノちゃんを迎えに行くんだよね! ピノちゃんとちーちゃんお友達になれるかな?」
「おう! ピノちゃんはちーと同じくらいの子やからな、きっとなれるで! おっ! あそこに溜まってんのそうやないか? 知った顔もおるし……こう、何やシスコン魂がびびっと来たで!」
 空飛ぶ箒に相乗りした兄妹らしき2人は、7人の所までやってきて、空中で停止した。
「日下部さん! 祠に行くんだ?」
 ケイラが言うと、日下部 社(くさかべ・やしろ)は陽気に答える。
「おう、あ、やっぱりそこの黒髪がラッスンやな!」
「ら、ラッスン?」
 突然変な呼称を使われて驚いていると、社は降りてきてラスの背中を思い切り叩いた。
「よっしゃ! ラッスン、話は聞かせてもろうたで! そういう事やったら俺も一肌脱がせてもらうわ! 俺は日下部 社、あ、後ろにいるのはちーや!」
「ち、ちー?」
日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)でちーだよ♪」
「あ、なるほど……」
「ピノちゃんは妹みたいなもんなんやって? そりゃほっとけんな! 迎えに行ってやらな!」
「あ、ああ、まあな……」
 そんなこんなで、社と千尋を加えた一行は今度こそ祠に向かったのだった。