薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション公開中!

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション

 
  
 ファーシーは話し出す。
「……わたしね、環菜さんが亡くなったって知った時、すごく悲しかったわ。辛かった。ろくりんピックの間中、ずっと思ってた。このまま、何事も無く終わればいいのに……って。ずっとずっと、胸騒ぎがしてた。わたしがまだ生活に慣れてなかった頃、シャンバラでは大きな変動があって、東西に分かれてしまって……。国が分かれるって、どうしても思い出しちゃうんだよね、あの時の事。わたしが、壊れてしまった時の事。そう思って、どこかで何かを警戒してた。だけど、結局、何も出来なかった。わたし、あそこにいたのに……。全てを知ったのは、帰って、寝て……次の日の朝だった。環菜さんは亡くなって、ルミーナはどこかに行っちゃった……。連絡したいけど出来なくて、石だった頃みたいに、電波に乗って意思を伝える事も出来ない。
 幸せだった。何回も何回も、幸せを感じた。
 でも、この身体じゃ出来ない事が多すぎる……。ちゃんと動けたら、もっと別の事が出来たんじゃないかって……。
 それは……わたしは確かに、ちゃんと、腕が動いて食事が出来て、こうして話せる。ルカルカさんから聞いたわ。食べ物の味が判らない機晶姫もいるんだって……。だから、わたしの言ってる事も、贅沢なのかもしれない。驕りなのかもしれない。でも……わたしは皆にお世話になってばっかりで、もっと、もっと……」
「……ファーシー様」
 ザイエンデが、そっと彼女に声を掛ける。
「ファーシー様は、何か皆に遠慮なさっているのではないですか? 足が動かない事を負目に感じて、皆の迷惑にならないようにしようなどと」
「それは……だって……いつも、助けてもらってるもの。でも、わたしは何も返せてない……」
「そんなことはありません。ファーシー様は何も遠慮する必要はありませんし、皆に気遣う必要もありません。何故なら皆、ファーシー様の事が大好きですから」
「ザインさん……」
「ファーシーさん!」
 そこで、ティエリーティアが堪らなくなったように顔を上げた。
「歩けるように頑張るからって言ったのに、そうしてあげられなくてごめんね…! もっと一杯勉強しなきゃ、ダメなんだろうね、ごめんね」
「……ううん、そんなことない。わたしだって、まだ……」
 ティエリーティアは、ファーシーの両手を取って、真剣な表情で言った。
「……種族によって寿命はそれぞれだって前に言ったっけ? でも、そう……そんなのに関係なく離れ離れになっちゃう人だっている。そういうことも、あるよ。
 でも……ファーシーは今、ここにいるよ。
 ザイエンデさんの言う通りだよ。ファーシーは何もできないって思い込んでるかもしれないけど、ここにいて、みんなの前にいて、優しさとか気遣いとかそういうあったかいものを、ちゃんと僕たちにくれてると思うの」
 ファーシーはティエリーティアに、少し驚いた顔を向けた。
「わたし……が?」
「うん、そうだよ。いっぱいいっぱい、くれてるよ」
 ティエリーティアは一生懸命、彼女に話す。
「今すぐじゃなくたっていいじゃない。いつか、って約束でもいいと思う。ファーシーが僕たちのことを覚えててくれるならきっと大丈夫」
「ティエルさん……」
「貴女の周りにいる人は、ただ偶然時を同じくして集った人々では有りません。皆、貴女様が大好きだから」
 ザイエンデに続き、望もファーシーに声を掛ける。
「ファーシー様。ホレグスリ事件しかり、入れ替わり事件しかり。私は、自分が楽しめればそれで良いと思っております」
「……?」
 突然変わった話題に、ファーシーはきょとんとする。でも。
「そしてファーシー様、貴女が暗い顔をされていると私は楽しめないのですよ」
 そう言われて、彼女は俯いた。
「うん……ごめん、ごめんね、ありがとう……」
 ルカルカが立ち上がって、ファーシーをもう1度抱き締める。
「ファーシー、自分を責めないで。焦らないで、貴女の脚は治るんだから。もし、今回が駄目でも、いつかは絶対に治るわ」
 そうして身体を離し、ルカルカは一歩距離を開けて、正面からファーシーを見詰めた。
「ろくりんピックの閉会式……。あの直前まで、教導団警備隊で、私、あそこにいたの」
「え……」
 ファーシーは驚いて、彼女を見返す。
「団長と会場を後にし、悲劇を知った時の痛みなら、私も……私だって!」
 ルカルカは、悔しそうに表情を歪めた。拳を固める。そして、身体から力を抜いて、微笑んだ。泣き笑いのような、だけど、懸命な笑顔。
「……できる事、しよう?」
 ファーシーは暫く彼女を見詰め……、俯いた。
「……ごめんね。何か、今……顔を上げられない」
 涙が浮かんでくる。みるみるうちに溢れて――