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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 8階
「レイチェル、あと少しの辛抱やからな? 何が不安なんか僕には分からんけど……」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)の隣で自分と目を合わせようとしないレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)を励ましつつ、バズーカの到着を待っていた。魂が不安定になるというのは分かった。それでこの症状なんだろう。しかし、フランツは良くて泰輔が駄目というのは……?
 改めて、レイチェルに光線が当たる。
「…………」
「レイチェル?」
「泰輔さん……」
 レイチェルは身体の力を抜いて泰輔を見る。だが、戸惑ったようにふと目を逸らした。
「? ? 治った……んよな?」
「はい。体調に問題はありません」
 ――それから、彼女がいつも通りの平静な状態に戻るまでには、少し時間が掛かった。
 ――私は、泰輔さんの何?
 そう思ったのは今日に始まったことじゃない。その問いを胸の内にしまいこむ。
 いつか、答えが分かる日が来るのだろうか――

 屋上。
「ん……いてて……」
 セアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)は腫れた頬を押さえて立ち上がった。はて、なぜこんなに頬が腫れているのか。虫歯にでもなったのか。
「セアトくん!」
「ぅわっ!?」
 押し倒す勢いで白銀 司(しろがね・つかさ)が突進してきて、セアトはたたらを踏んだ。
「良かったよお。誰かの代わりなんかじゃない、私の大好きなキミはキミだけだよ!」
「……?」
 縋られ、突然告白めいたことを言われ、訳が分からずに記憶を辿る。
 そして、思い出した。
「ああ……」
 司を見下ろす。随分とひどいことを言ってしまったが、彼女はこうして戻ってきてくれた。少しだけ、暖かいものを感じる。
「さっき別の俺が言った事は忘れろ……悪かった」
 司はやがて、泣きじゃくり始める。
「セアトくん……セアトくんがいないと私、もうどうしていいかわかんないよ……」
 彼の服をぐしゃぐしゃにして。涙の染みを作りながら。
「必要ないとか……言わないでよぉ……」
 セアトは、そんな彼女の頭をそっと撫でた。
「泣き虫……」

              ◇◇◇◇◇◇

 4階。避難所
 ファーシーは、緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)閃崎 魅音(せんざき・みおん)如月 夜空(きさらぎ・よぞら)プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)にバズーカを撃った。
「……大佐さん?」
 大佐は、プリムローズに無言で抱きついた。泣きそうな顔を見られたくないから。その気持ちを察したのか、プリムローズは大佐に言う。
「私は大丈夫、大丈夫ですよ」
 そんな彼等を安心した顔で眺めると、ファーシーはバズーカを膝に乗せる。
「うん、これで全員かな」
 そう言って、彼女は今まで自分を探し、喫茶店では相談に乗ってくれ、それからずっと一緒にいてくれた皆に改めて言った。
「みんな、付き合ってくれてありがとう。今度の目的地はキマクだけど……」
「ファーシー……」
 そこで、神野 永太(じんの・えいた)が近付いてくる。
「本当にキマクでいいの? 何処か、もう1ヶ所……」
「え?」
 言われて、ファーシーは一瞬、バズーカを見下ろした。そして。少し硬い表情で、
「ううん、無いよ……」
 首を振りかけ――
「ファーシーさん、ピノさんに罪はありませんよ?」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の言葉に、その動きをぴたりと止めた。クロセルは、特技の説得を使って、ファーシーに語りかける。
「あなたは喫茶店で、ルイさんとフリードリヒさんに何をやりたいか訊かれた時、こう言いました。『とりあえず、デパートに戻りたい』、そして『アクアさんに会いに行きたい』と。この時点から、ピノさんの所へ行くというのが抜けていましたね」
「……それは……」
「『銅版時代は利己的だった』。この台詞が気に掛かっているんですか? 違いますよね。もう解っている筈ですよ。あなたは何をしてもいい、と。好きなことをやればいい。遠慮しないで、自信を持って、わがままでいいのだと皆さんに言われました。それを受けて、ここまで来たのでしょう」
「…………」
 黙ってしまった彼女に、クロセルは高らかに笑って言葉を続ける。
「はっはっはっ! 何か意地になっているようですから背中を押して差し上げましょう。利己的上等ではないですか! そうです。利己的なら自分のやりたい事を押し通せば良いのですよ。ピノさんを追いかけたいのでしょう?」
「ピノちゃんは、心配だけど……」
 俯いて、ファーシーはクロセルから目を逸らした。
「なら、迷うことはありません。追いかけましょう」
 反応が無くても気にせず、彼は言った。
「この際です。ラス君のことは度外視しても構いません。ピノさんのことだけ考えてみてください。どうですか?」
 ぴくり、とバズーカを持つ手が動く。もう一押しである。
「己の心に従わずして、何に従うと言うのでしょう! そりゃあ、考えなしもマズイですが、考えすぎては何も行動に起こせません。やりたい事をやりながら、目的を達成する手段を考えれば良いのです」
「そうだよ、ファーシー」
 永太もやさしく、ファーシーに話しかける。
「ピノちゃんを助けに行きたいと思ったのなら、何も気兼ねすることなんて無いよ。ファーシーの心が、魂が、そうしたいと望んでいるんだろう? だったら、好き勝手にすれば良いんだよ。好き勝手に心配して、好き勝手に助けてあげれば良いんだ」
「来るなって言われても……?」
「相手が拒否したって関係ない。善意を遠慮することなんてないんだよ。独りよがりな善意かもしれなくても、それでも、なにもしなければ何も変わらない。何も救えないんだ。善意は心にしまうものじゃない。誰かに差し出すものだから」
「永太さん……」
 ファーシーは顔を上げて、永太を見た。うん、と、彼は頷く。
「そうですよ。それに、考えてもみてください。バズーカはここにあります。それが無いと、ピノさんは元に戻りません。どうやら、一部ではバズーカ無しで元に戻った方もいるようですが……余程訴えかけるものがないと難しいでしょう」
「…………」
 彼女は逡巡するような表情をし、それから真っ直ぐにクロセルと視線を合わせた。彼は満足そうに頷くと、最後に言う。
「ファーシーさん……次はどこへ行きますか?」
「……わたし、フーリの祠へ行くわ」
「分かりました。俺がお手伝いします」
「うん……ありがとう」
 そして、ファーシーは車椅子をを進め始めた。その彼女を見て、永太は思う。

(そうだ……僕たち人間は、ファーシーやザインより、きっともっと我侭で、善意もきっと独善的だけど、機晶姫の君達が抱く善意は、きっと、とっても……)