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リアクション
さて、今回は多くの差し入れや炊き出しが提供され、ネネの家の前にはたくさんのテーブルや料理の配膳がきれいになされている。
そもそもの話、ネネ達がそんな気のきいたことして、みんなをねぎらうはずがない。
「さて、みんな今日の疲れをだいぶ癒してくれたようだな」
結果的に盛大な食事会を催すことができ、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は満足そうに会場を見渡す。
「俺ってやっぱ天才か……いや、神の上をゆくものだから仕方ないねぇ」
ヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)が、広い会場をカバーするため配膳に使った小型飛空艇にもたれかかって言う。
「何言ってんだよ。飛空艇で配膳なんかするから、やかましくってしょうがいないよ。クレームが来てないわけじゃないんだからな」
冬月 学人(ふゆつき・がくと)が、傍らでヴァンビーノに苦言を呈する。
「しかしまあ、ダークサイズデビューとしてはなかなかいい仕事できたよな、うちら」
ローズは自信に満ちた顔を崩さず、わざわざ用意したおそろいの執事服の襟を整える。
「ところでシンはどこだ? あいつまだ働いてんのか?」
三人は、もう一人の執事仲間シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)を探して、まだまだ人がごった返す会場を見渡す。
そのシンを最初に見つけるのは学人。
「あ、いたいた。いつの間にかダイソウトウの世話してるよ」
「ほおーう。なあロゼ。今日の俺たちの仕事の締めに、ダイソウトウを労うってのはどうだ」
「やれやれだぜ。だが悪くない。うちのとびきりのサービスを提供してやろう」
「くれぐれも目茶苦茶にしないでくれよ……」
学人の忠告は果たして聞こえていたのか、彼らはダイソウの元へ向かう。
「ほ、ほらよ。さっき炒飯食ってたみてえだから、紅茶よりホットウーロン茶のほうがいいだろ」
シンは言葉とは裏腹に、洗練された丁寧な動作でダイソウにお茶を出す。
ダイソウはウーロン茶を一口含み、キリッとシンを見る。
「今日は珍しく、私が驚かされてばかりだ」
「へ、へえ。だから何だよ」
「ただのウーロン茶を、これほど美味く淹れる者がダークサイズに加入するとは」
「な、ちょ、おま、何言って……!」
とたんに顔を真っ赤にして、トレイで顔を隠すシン。
「て、てめえ、オレのウーロン茶なんか褒めてんじゃねえっ」
「何故だ。美味いものを美味いと言って何が悪い?」
「うっせえ! こんなもん誰が作ったって、どうやったって美味くなるんだよ! わざわざ褒めてんじゃ……その減らず口、千鳥がけに縫うぞ!」
「ちょちょ、ちょっとシン! 何言ってるんだよ!」
と、慌てて学人がシンに駆け寄り、ダイソウに頭を下げる。
「どうも、うちのシンが申し訳ない……」
「今日の会場を仕切っていたのはお前たちか?」
「ああ、そうだぜえ。向こうのテントやパラソルなんかも俺たちの手柄さあ」
ヴァンビーノが自慢げに話しに入る。
それにさらにローズが、
「なあダイソウトウ、視察で一日歩き回って疲れただろ? 食後にうちの100%フレッシュジュースを飲んでいかないか?」
と提案し、ダイソウもそれに乗る。
「ほう、ジュースなど最近はなかなか飲まないからな。いただこう」
「そうこなくっちゃ。学人、オレンジとグレープはまだあるよな?」
と、ローズは学人に聞くが、学人は、
「え、ちょっと、またアレやる気かよ……やめとけって」
と、あからさまに嫌そうな顔をする。
するとヴァンビーノの目が輝く。
「お、やるかい? 材料は俺が持ってくるぜー」
と、ヴァンビーノは飛空艇から、アームの延びた不可思議な機械を取り出す。
「どじゃあああ〜ん! 『全自動★ロゼに果物渡しちゃう機』〜。配膳に忙しくて使えなかったからなあ。やっとお披露目だぜ」
「お、おいヴァン。何するつもりだよ……」
学人はハラハラしながら言う。
ヴァンビーノは手をパタパタと振って、
「心配すんなって〜。ロゼがジュース作りに集中できるように、自動的にフルーツを手渡してくれる、超絶便利グッズだぜ。これは神にも思いつかねえ発想さあ」
ヴァンビーノは説明しながら機械を設置する。
「よしロゼ、どのフルーツが欲しい?」
「オレンジをくれ」
「任せろ」
と、ヴァンビーノはオレンジを取って来て、機械の受け皿に乗せる。さらにスコープのようなものを覗きこんで、
「おいロゼ、もう少し左に立ってくれ。手はもうちょい上だ。あ、行きすぎ。下げて、そうそう」
と言いながら、ダイヤルを回して色々微調整をしている。
「えっと、あれ、あ、こうか。よしよし」
「全自動じゃないじゃないか!」
学人もたまらずツッコむが、そんなことにはお構いなし。ヴァンビーノはスイッチを入れる。
ぐういいいいいん……
慎重にゆっくりと、アームがローズに向かって伸びる。
「遅い!」
と、学人はまたしてもツッコむ。
「なあ、自分で取りに行った方が早くないか? どうして誰も気にしないんだ? 僕が気にしすぎか?」
学人がたっぷりつっこみ終わるほどの時間をかけて、ようやくオレンジがローズの手に渡る。
「さあダイソウトウ、うちお手製のフレッシュジュースだ」
と、ローズはコップを下に、オレンジを上にして、
ぐしゃああああ……
オレンジを握りつぶす。ぼたぼたと果汁と果肉が、コップに注がれていく。
「ああああ……」
学人の顔が青ざめていく。
「ヴァン、グレープをくれ。ミックスジュースだ」
「わかったぜえ」
ぐういいいいいいん……
ぐしゃあああああ……
ローズは、完成したジュースをダイソウの前に差し出す。
その一部始終を見ていたシンが、
「おい待て、それ飲み物なのかよ」
「執事ってのをわかってねえな、シンちゃん。手作りが何よりの真心だろう」
「てめえ悪気なくやってんのかよ……てかシンちゃんって言うんじゃねえ!」
と、怒りながら照れている。
差し出されたジュースを見つめるダイソウを見て、学人はまた頭を下げる。
「あの、申し訳ない……君を労う気持ちは本物なんだが……」
「……」
と、ダイソウは鼻をつまんで目をつぶり、意を決してジュースを飲もうとする。
「無理して飲まなくていいから! 気を使わないでくれ!」
学人は慌ててダイソウを止める。
「もったいなくないか?」
「だ、大丈夫! 後でちゃんとフルーツポンチにして、シンが美味しくいただくから」
「オレが処理すんのかよ!」
シンは今度は学人に詰め寄る。
コトリ
そのジュースの代わりだろうか、ダイソウの脇から別のコップがテーブルに置かれる。
見ると、伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)が立っている。
「ダイソウトウ、今日よりダークサイズに加入いたします、伊吹藤乃と申します。あいさつ代わりにこれをお飲み下さい」
「ほう、これは何だ?」
「私の医学と薬学を詰め込んだ、元気になれるジュースです。疲れをいやし、明日の作業では200%の効率で動くことができるでしょう。さあ、みなさんもどうぞ。効果は確実に保証いたします」
と、藤乃はジュースを配って回る。
「せっかくですから、乾杯の音頭を取っていただきましょう」
藤乃がダイソウに促す。
「うむ。皆、今日はご苦労であった。我々謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズは、いよいよこのカリペロニアを本格的な要塞として稼働し始める。空京放送局を合法的に手に入れ、我々の影響力は今後ますます大きくなっていくことであろう。幹部も大きく増えたとはいえ、このパラミタは広い。まだまだ味方は少なし、敵多しである。我々は征服者となるべく動く、悪の権化である。ダークサイズを倒そうと目論む正義の輩と徹底して戦い……」
(話長え……)
演説好きのダイソウの本領発揮である。原稿の用意などないのに、よく次々と言葉が出てくるものだ。
「さて、では皆のもの、グラスを掲げよ」
何だかんだで厳かな雰囲気になり、皆藤乃のジュースを手に持つ。
「ダークサイズの発展のため、かんぱ、あ、思い返せばダークサイズを結成した時は……」
「乾杯!!」
お約束の流れで、杯を交わすダークサイズ幹部たち。
次々にグラスが空いていくのを見て、藤乃は口元をニヤリと歪ませる。
「んー……あれ? 何か変だな……」
藤乃のジュースを飲んだ後、ちらほらと心身に違和感を感じていく人が出てくる。
(早速出てきたようですね。元気になれるジュースの副作用……)
突然腹を押さえてトイレへとダッシュする者、昏倒していびきをかき始める者、フラフラになって真っすぐ歩けない者、ぼーっとして焦点が合わない者など、様々な症状が出てくる。
「てめえ、何入れやがった……」
「私の医学と薬学の結晶です。言ったでしょう、効果は保証します。そのために、心と体に溜まった毒を出さなければなりません。あなたは宿便が溜まっていますね? あなた、ゲームのしすぎで寝てませんね。あたなは日ごろ無理して明るく振る舞いすぎです、その反動ですよ。あなたは頭を使いすぎです、脳が強制的に休んでいます」
ジュースを飲んだ後のそれぞれの副作用を見て、藤乃は各々の心身の異常を指摘していく。
一方のダイソウはというと、
「私は何も変わらないのだが……」
「あなたはただ単に健康すぎです。リーダーなのですから、もっと無理して働いてください」
「私が楽をしているみたいじゃないか」
「いや、そういうことですよ」
と、副作用が出ないと、それはそれで不満らしい。
身体の毒素を出すためにそれぞれ悶えている中、会場に紛れ込んでいたジークフリートがネネの家の方に歩きだす。
(フッ、こんな形でダークサイズを襲うチャンスが来るとは。遠慮なくいただくとするか)
当たり前といえば当たり前だが、警戒してジュースを飲まなかったジークフリート。
ダークサイズが手薄になったのを機に、彼はネネの後ろに立つ。
ネネはワインの酔いもあってか、椅子にもたれかかって眠っている。
(くくく、ちょうど血を吸いやすいように眠ってくれているとは)
と、ジークフリートはネネの首筋に牙を立て、アルコールの混じった血を堪能する。
「んく……はぅ……」
ネネの口から色っぽい吐息が漏れる。
「ふうー。なかなか美味かっ……ぐおっ!」
ジークフリートがネネから口を話した直後、彼の肩に何かが激突し、小屋の壁に叩きつけられる。
「く、なんだ」
「てんめぇ、こらぁ〜っ。お姉さまに何してくれてんだぁぁぁ」
ジークフリートを叩きつけたのは、ジュースで完全に目が据わりきっているモモ。
「貴様、モモの方かっ」
「呼び捨てにしてんじゃあねぇぞおおおお、こらぁぁあああ!」
「ひいぃ〜、妹ちゃんが変なんなってるぜ……」
ジュースで引き出されたモモの一面を見て、トライブの顔が青い。
(ま、まずい、やられる!)
モモの獣のような目に警戒したジークフリートは、吸精幻夜を発動する。
「ネネっ、モモを止めろ!」
「モモさん、おやめなさい……」
「わかりましたよおおお、お姉さまあぁぁ」
べろべろになっていても、ネネには忠実なモモ。
モモは何故か目標をトライブに切り替え、オヤジのように絡んでいる。
ジークフリートは胸をなでおろし、
「やれやれ……くくく、聞けっダークサイズよ! お前たちのトップの一人、キャノンネネは陥落した! ダークサイズなど全然大した秘密結社じゃねえなあ!」
「え? ああ……」
ジークフリートは胸を張って皆に宣言するが、ジュースの副作用で反応はイマイチである。
ジークフリートは若干イラッとしつつ、
「よ、よ〜し、ならダークサイズが程度の低い組織だってことを分からせてやるぜ。ネネ! ダイソウトウの恥ずかしエピソードを披露してやれ! お前たちのリーダーがどれだけ頼りないか分からせてやれ!」
ジークフリートの言葉で、ネネが立ち上がる。ドレスの肩ひもが片方落ちていて、今にも胸が見えそうだが、操られたネネは気付かない。
「ダイソウちゃんは……猫好きなのに、猫の毛アレルギー……」
「うむ、アレルギー克服のため、あえて猫を飼っているぞ」
ネネのエピソードに逆に補足説明を加えるダイソウ。
「いや、乗ってくるなよ。恥ずかしがれ」
ジークフリートがつっこむ。
「ダイソウトウ! そんなんじゃアレルギーは治らないぞ!」
と、どこからか野次が飛んでくる。
「何、治らないのか?」
「治るわけねえだろ」
ダイソウと野次の会話がありつつも、ネネは次のダイソウエピソードを言いだす。
「ダイソウちゃんは……粉薬で必ずむせる……」
「あんなもの、飲める奴の気が知れん」
「だから乗っかるなって」
そこここから笑い声も漏れてくる。
「ダイソウちゃんは……暇すぎて一日中辞書を読んでいたことがある……」
「金田一京助の偉大さに目覚めた日だった」
「だからお前が補足説明すんな!」
「ダイソウちゃんは……人に言えない趣味がある」
「服のほつれを歯で噛み切ることだ」
「だから! 自分でばらしてんじゃねえ!」
「いいぞー、もっとやれー」
藤乃のジュースの効果か、場は飲み会の余興のような空気になってきた。
「ダイソウちゃんは……手の甲にオリオン座みたいな形のほくろがある」
「私のチャームポイントと自負している」
「それもう恥ずかしエピソードじゃねえ!」
結局ジークフリートを交えた三人の漫談が行われ、カリペロニアの夜は更けていくのであった。
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