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第四章:急げ! 焼き芋パーティ準備隊!!




 
その頃、第二部隊として地下に潜行した環菜を失い傷心気味のテクノクラートの影野 陽太(かげの・ようた)に連れられたメイガスの火村 加夜(ひむら・かや)、バトラーの本郷 翔(ほんごう・かける)達は黙々と洞窟を歩いていた。

 元々、陽太は環菜の復活のために、ナラカへ行く列車に乗り彼女の魂を取戻して現世で甦らせるミッションに、無能者な自分を自覚しながらも、不眠不休、自身の事柄は全て度外視し、その持てる全てを費やし打ち込んでいたのであった。
そんな中、たまたま少しの待機時間中、学園生の窮地を聞き、救出部隊に助力するため駆けつけたのである。

 テクノクラートとして、ユビキタスで地下ルートや地形、モグラ等のデータを収集し、ダークビジョンと銃型HCのマッピング機能及び特技の捜索とナゾ究明も活用する陽太の先導によって、ここまでさしたるトラブルもなく一同は洞窟を進んでいたのだが……。

「こっちです……(はぁ)」

「陽太さん、先程から溜息まじりに私達を正確に誘導して下さいますが、一体どうしたんでしょう?」

 陽太の後ろを歩く加夜が翔に小声で話しかける。

 遭難者がもし見つけた場合は地上がどちらかわかるように、壁へマッピングの印を刻みながら歩く翔も加夜の発言に不思議そうな顔をする。

「ティータイムを開き、過度の緊張を防ぐことを目指したつもりでございますが……陽太様はまだ何か気がかりがあるみたいですね」

 そう言って照明代わりの光術を前方に向ける翔。

「……ん?」

「道が広くなってますね」

「到着です(はぁ)」

「え?」

 あっさり言って立ち止まった陽太を追い抜くように駆け出す翔と加夜。

 二人が見ると、そこには捕らえられた花音や強化人間でサイオニックのノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)、守護天使でメイガスのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)、クイーン・ヴァンガードのオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー) 達が顔から下が石化した状態で横たわっていた。

「ノア!」

「ソール!」

 加夜と翔がそれぞれのパートナーの元へ走り寄る。

「やっぱり一緒に行けばよかったかなって後悔したんですが……良かった、無事で」

 加夜がノアを見て、うっすらと目に涙をためる。

「へへへ、ボクは花音達と芋をとりに行ったのはね〜、ハート型の芋を分けて食べると恋が実るって聞いたから、加夜にあげたいな〜って思ってなんだよ」

 照れくさそうに加夜を見るノアに、暗がりでもわかるほど、加夜の顔が赤くなる。

「あ〜あ、でもまさか加夜が居なくて「精神感応」も出来ない状態になるなんてね」

 加夜は、それ以上ノアに何も言わせないためか、安心したような顔でぎゅっと抱きしめる。

「痛いよ、加夜〜」

 一方、翔もソールと穏やかな顔で会話をしていた。

「く、まさか俺としたことが。こうなっちゃ携帯で連絡も取れなかったんだぜ?」

「食い意地、女好きの考えなしでも、一応パートナーですので助けにきましたよ?」

 翔の言葉にヘヘヘとソールが笑う。

「助かったよ」

ソールの素直な感謝の言葉に、翔が一瞬、面食らったような顔をする。
「ええ、本当によかったです」


 そうやって再会を喜び合う生徒達を見て、陽太はそっと胸元のロケットを開け、中にある想い人の写真を見る。

「……俺も、いつか必ず助けてみせます!」

 陽太と同じように、パートナーが来ない事に少しがっかりしていたのはオルフェリアであった。

「心細いのです……あ、最近契約した不束さんを召喚すればいいですねー♪」

 顔をパッと輝かせた彼女は、左目にある召喚の印を使う。

 召喚すると激痛と血が流れるその印の反動で、目が痛みごろごろと土の上をのたうちまわるオルフェリア。

 しかし、皆一様に歓喜に浸っているため、ギョッとした顔の花音以外に目撃者はいなかった。

「い、いだいですーーーーーーーー!!!」


 同じ頃、オルフェちゃんが穴に落ちちゃったんで迎えに行こうかなーっと、考えていた悪魔でセイバーの不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)は、一旦自宅に戻り、タンスの中の洋服を鏡の前で合わせて悩んでいた。

「うむ……これはちょっと俺様にはキザすぎるな……」

 奏戯の傍には着脱を繰り返したらしき服がうず高く積まれていた。

「待っててなオルフェちゃん! 不束さん家の奏戯君が愛しのオルフェちゃんを超カッコよく救出しちゃうんだぜー!」

 鼻歌交じりに今着た服を素早く脱ぎ捨てる奏戯に、召喚の印の光が輝き出す。

「……って今召喚しちゃうんかいーーっ!!」

 微かな残響を残して消えた奏戯はオルフェリアの直ぐ前に出現させられる。

「不束さん!! ……ひゃあ!な、何故パンツだけしか着てないのですか!?」

「なんでいつもタイミング悪いのさオルフェちゃーーーーーん!」

 互いに非難し合う二人。もちろん誰も聞いていない。

「えと、えっと……お、オルフェの服で良ければ!」

「何! 済まない! じゃあちょっと借りるぜぃ!」

 動けないオルフェリアの服をしゃがんで拝借する奏戯。
 ちなみにパンツ一枚の男が倒れた少女の服を剥いでいる光景は色々と問題がある。

「……と、これでよし! ……ってオルフェちゃん、セェェェクゥシィィィーーーッ!?」

「え? あ、ああああぁぁぁっ!!」



 その悲鳴は、洞窟内を歩いていたニンジャの神和 綺人(かんなぎ・あやと)とヴァルキリーでパラディンのクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)の耳に届いていた。

「誰かの悲鳴です! クリス、急ぎますよ!!」

「アヤ、まずはこれを見て下さい」

 クリスが光精の指輪で壁を照らすと、印が刻まれている。

「これは、僕らが辿ってきたのと同じだね……という事は?」

「ええ、どうもビンゴみたいです。早く花音さん達を助けて、焼き芋パーティーをしましょう!」

「そうだね」

 綺人が駈け出し、クリスがその後を追う。

 やがて花音達の元に辿り着いた綺人とクリスは、再びオルフェリアの服を脱いだパンツ一丁の奏戯に危うく攻撃しそうになったのだが……ここでは割愛する。



「石化解除薬を持ってきて正解だったね」

 綺人が石化した花音やノア達を助けながらクリスに笑いかける。

「ええ」

 浮かない顔のクリスに綺人が気がつく。

「どうしたの?」

「……焼き芋以外にも、お料理あるでしょうか? お腹が随分減ったのです……」

 プッと吹き出す綺人、やがてその笑い声は一同に広まっていく。

「さて……あとはみんなで脱出するだけですね」

 石化の解けた花音の言葉に頷く一同。

「それにしても、ボクらをここまで持ってきたモグラ達はどこに行ったんだろうね?」

 ノアが首を傾げる。

「もうそんな事どうでもいいぜ、それよか早く地上に戻って、パーティしようぜ!」

 ソールがそう言うと同時に、彼らの元に、ルカルカと淵がひょっこり顔を出す。

「あー! いたー!」

「やっと発見したぜ!」

「ルカルカ? それに淵も?」

「これで後は地上班に連絡して助けてもらうだけね、あ、陽太、携帯ちょっち貸してくれない?」

「ええ、いいですよ」

 陽太がルカルカに携帯を渡していると、パラパラと上から砂が落ちてくる。

「急いだ方がいいみたいね……あ、ダリル! みんなを無事発見したわ! そう場所は……」

 そこに駆け足でやって来たのは、ニンジャの御剣 紫音(みつるぎ・しおん)と強化人間でテクノクラートの綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)と魔道書でメイガスのアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)である。

「君達、無事か!?」

「ああ、おまえらで4番目だよ?」

 淵が紫音達を見て勝ち誇ったようにニヤリと笑う。

「……紫音、私らの後から5番目が来はるえ?」

 おっとりとした顔で風花が言う。

「5番目?」

 アストレイアが紫音に頷き、目を閉じる。

「我、魔鎧となりて我が主を護らん」

 紫音の纏う魔鎧となるアストレイア。

 銃型HCを構えた紫音が一同に背を向ける。

「紫音? どうして今更魔鎧なんて装備するわけ?」

「……先程、ヒプノシスで眠らそうとしたんだ。けど、それでも無理だったら戦うしかないだろう?」

 低く呟いた紫音の言葉に、のんびりムードだった一同の顔色が変わる。

「……ま、まさか?」

「喜べよ? 超大物が5番目に来てくれるんだ」

 瞬時に事態を把握したルカルカが淵に叫ぶ。

「淵! 天井を氷嵐で硬めるのよ! 大至急で!! ダリル達の作業スピードならそんなにかからないわ!!」

「ルカも錐状カタクリで上への掘削を!!」

 急に慌しくなる一同を見た奏戯が綺人に尋ねる。

「おいおい、綺人ちゃん? 何が始まるんだ?」

 さざれ石の短刀を持った綺人が、クレセントアックスを抱えたクリスと一歩前に出る。

「アヤ、さっき私達がスルーしたヤツですか?」

「多分そうだね……結局、こうなるなら、もっと安全な場所で倒しておくべきだったよ」

「おい、綺人ちゃん! 教えろよ!」

 奏戯に振り返った綺人が真剣な目で告げる。

「この場所への5番目として、パラミタオオヘビがやって来るということです」

「……何、だって?」

「人間もモグラも、餌としては変わらないのでしょうねぇ……」

 クリスの言葉にゴクリと唾を飲み込むオルフェリア。

「来たぞっ!!」

 紫音が叫ぶと同時に、洞窟の奥から、人を丸呑みできそうな大きな口を開けたパラミタオオヘビが猛スピードで襲いかかってくるのであった。