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リアクション
●未来へ、あるいは、世界へ
『未ダ来タリヌ』と書いて『未来』、すなわち未来とは、不確定なもの。今日の繁栄を楽しもうが、明日死んでいるかもしれないのが人間だ。だが、たとえ身は滅びようと、意志という魂魄を次世代に継がせることができるのもまた人間――ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)にはそういった宿命観がある。
(「今の自分がメッセージを残せる人間であるか、振り返る為に」)
ヴァルはタイムカプセルメールを作成した。10年後に向けて。
「10年後。このメールを受け取った帝王である者へ。
今もまだ、ヴァル・ゴライオンは帝王たる人間だろうか?
だとすれば幸いである。何も言うことは無い。
かつてと同じく、君にとっての10年前、私にとっては今の気持ちを、更なる10年前と同じように抱き続けているのであろうから。
このメールを受け取った者がヴァル・ゴライオンでなくとも、私にとっては幸いである。
ヴァルという器は既に無いかもしれないが、帝王という中身を受け継いだ者がいてくれるのだから。
君が私、ヴァル・ゴライオンと同じように、己が望むままに、己の描く道を歩むことを、心から祝福しよう。
願わくば最後の一瞬まで、立ち止まらず歩み続けることを。」
ヴァルはこれを送信した。
「これもひとつの機会……か」
ならば送ったものとして、送られたものを受けるとしよう。
彼は発つ。10年前に恩師が埋めてくれたタイムカプセルを掘りに行く。
帝王を名乗り、その種を自分に植えた人……今は亡きその人が遺したタイムカプセルを。
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ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)もタイムカプセルメールを使っていた。
送る相手は自分、そして……到着時期は画面を見ぬまま携帯をあてずっぽうに操作して送ることにした。いつこのメールが届いても落ち着いて開封し、過去の己と対峙できるように。
そして願わくば、過去を慈しみ、受け入れられるように。
「未来の自分へ。
メッセージを埋めてからどれだけの時期が経過しているかわかりませんが、これを読んでいるという事はとりあえず無事に生きているみたいですね。
イルミンの様子はどうですか? 簡単に変わる物ではないでしょうが、世界樹もどうなっているか気になりますね。
世界樹が成長すぎてこれが掘り返せなくなっていたらちょっと困りますが……(苦笑
そうそう、肝心の目標を聞き忘れてました。
未開地に自分の名前を刻む事は出来ましたか?
きっと様々な土地や人、物と出会っていると思います、
是非とも話を聞かせて貰いたいですが……聞いたらこれからの楽しみが半減してしまいますね。
まぁ、きっと今も新しい発見を求めて駆け回っている事でしょう。
あくなき探求心に終わりはありませんからね」
操作としては『メール送信』となるものの、気持ちとしては電子の土壌にメールを『埋めた』というのが近い。
ザカコが埋めた過去が電子の大地より掘り返されるのは、いつの日となるであろうか。
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イルミンスール魔法学校、寮の一室。ただ今は、ナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)、懺悔の時間。
「ああ神様さま、私はとっても黒い子だそうです。みんながそう言います。けれど私は、一風変わった楽しみ方をしたいだけ……」
ベッドの上に組んだ積み木(神さま?)に、膝を付いて祈りを捧げる眼鏡少女の姿があった。それが彼女、ナレディ・リンデンバウムである。
「だから、携帯電話の便利な新機種が発売されたら、ラブメールをしたり友情を深め合ったりするよりもまず、『これで楽しいイタズラができそう!』と思ってしまうのです。こんな私をお許し下さい。神さま………………懺悔完了」
ふーっ、と息をついてナレディは立ち上がる。ざらざらと積み木を崩す。
「懺悔したからいいですよね?」
などと、同じ部屋の隅にに小さくうずくまる名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)に問いかける。ところが小夜子は、
「……ワタシは影ワタシは闇……今日ののワタシに、ナレディを非難したり咎めたり糾弾したり弾劾したり責めたりする権利はありません……いないものと思って下さい」
と不可解なことを言うばかりで、決して隅から出てこないのであった。
「ほとんど同じ意味の言葉を何種類も繰り返して、さりげなく批判してくれてありがとう。でもやります。ナレディには世の善悪がよくわかりません!」
変な使命感に燃えるナレディである。スピーディーにメールを打ち終える。やはり小夜子は隅に座し、ただぶつぶつと繰り言していた。
「馬鹿でうつけ者で阿呆でたわけでイカレぽんちなナレディのお守り役として、止めるべきなのでしょうが、ワタシは影、ワタシは闇、女は海……」
普通に送っても面白くない、と思うのがナレディという人。新携帯のはじめてのメールで、以下のような怪文書を作成したのである。
「ごめんなさい。私は怖くて送ってしまいました。
以下、そのまま送ります。
昔、市川まことという女の子が『デスクエスト』というRPGを1週間でクリア
できるかどうか、友達と賭けをしたんです。
でもその女の子は結局クリアできなかったんです。
それでその子は罰ゲームで恥ずかしい写真を撮られて、それが元で自殺してしまったそうです。
このメールを十人にメールするか、デスクエストをクリアしてください。
そうしないとあなたも死にます。これは本当です。
>昔、市川まことという女の子が『デスクエスト』というRPGを1週間でク
>リアできるかどうか、友達と賭けをしたんです。
> でもその女の子は、結局クリアできなかったんです。
> それでその子は罰ゲームで恥ずかしい写真を撮られて、それが元で自殺して
>しまったそうです。
>このメールを十人にメールするか、デスクエストをクリアしてください。
>そうしないとあなたも死にます。これは本当です。」
「ディス・イズ・チェーンメール! さあ、みんなを恐怖のどんぞこに落としてあげますよ〜」
「皆様、くれぐれも、ひっかかりませんよう……」