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リアクション
●ふろむ・はろうぃん・ぱーてぃ♪
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がメールを送った相手は、教導団団長の金 鋭峰(じん・るいふぉん)だ。
文面は簡素なものにすぎず、本編は動画だった。
現在、鋭峰はこれを執務室の大スクリーンに写させている。
以下、鋭鋒と一緒に観てみようではないか。
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どこかの家の居間らしい。ハロウィンパーティーの真っ最中らしく、壁や天井から飾りつけが下がり、
テーブルにはご馳走が並べられている。あちこちから歓声や笑い声が聞こえてもきた。
背後のマントルピースの上には、色々な写真立てが雛壇のように並んでいる。
幼いルカを抱いた青年、傭兵小隊、ルカがいないものも多数、様々な人達の沢山の写真……妙に軍人が多い
のが特徴だろうか。
一番前に飾られているシンプルな写真立て(鋼製)に焦点が合う。
夏祭での、ルカとクランジΦ(=ファイス)のツーショットだ。携帯で撮ったものらしい。
リンゴ飴を持ったルカは満面の笑顔で、浴衣を着たファイスもおずおずと笑っている。楽しそうな写真だ。
壁面に鋲打ちされた小さな銀板が、これら写真立ての説明となっていた。
銀板に打刻された文字は『Tacitum vivit sub pectore vulnus.(傷は沈黙し、胸にのみ生く)』。
死者を惜しむ一文である。
すなわちルカを除く写真の人はすべて、この世にいないことを意味している。
これら写真はいずれも、墓碑なのだ。
画面に飛び込むようにして、ルカルカが顔を見せた。
「えっと、こんばんはー、団長。ルカルカ・ルーです。今回、新しい携帯電話を買ったので、記念に初動画
メールをしてみました。お仕事中だったらごめんなさい。団長、教導団は学祭しないの? 修学旅行先はどこが
いいでしょう? それとそれと〜」
「こら!」
ルカルカの横から、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が現れている。
「閣下はご多忙であらせられる。一般学生のノリでそのような下らない質問をするな!」
「えー? じゃあ、お誘いに変えようか? やっほー、団長、ハロウィンしてる? なんなら来ません?
関羽さん達も一緒に、歓迎しちゃ……」
ダリルは問答無用でルカルカの口をふさいだ。
「うぐーっ!」
「うちのタンポポ頭が失礼を。仕事の連絡です。本メールに湯治場整備進捗状況を添付しました、後程
ご意見をお伺いしたく………」
「むぐーっ」
「こら暴れるな!」
ダリルを振り切ると、ルカルカは画面に向かってクラッカーを炸裂させたのである。
「忙しい毎日だと思うけど頑張ってね! 団長と共に生きたい私達もいる。だから団長は独りじゃないよ♪
はっぴーはろうぃん♪」
「こんな失礼なものを閣下に送れるかっ、撮り直しだ撮り直……」
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ここで突然衝突音がして、動画は途切れてしまった。
ダリルが録画停止するのと、阻止せんとするルカルカが送信を行ったのが同時だったのだろう。
「…………」
しばし、鋭鋒は口を閉ざしたままだったが、
「ファイルは保存しておけ」
と侍女に命じたのである。
普段通り目つきの鋭い鋭鋒ではある。しかし、その口元は微妙に綻んでいた。