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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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「ようこそ、ファーシー様ご一行! お待ちしておりゃーした!」
「え? え?」
 キマクに着いたファーシー達は、全く予測していなかったニッカポッカ達の歓迎に目を白黒させた。キマクは治安が悪い……わる……あれ?
「あの、えっと、何でわたし達が来るって知ってるの? モーナさんの依頼がここまで伝わってたのかな?」
「それは知りゃーせんが! 四天王ハーレック様のお客人とお聞きしたらもてなさないわけにはいきゃーせんで!」
 驚く彼女達と同様に、ニッカポッカ達も多少なりとも驚いていた。来訪者の人数もそうだが、彼女達は、見た目バリバリ不良の自分達に気後れする様子を微塵も見せない。
「ハーレック……ガートルードさん?」
「そうでさあ! ハーレック様は、このキマクで興行を開いておられるんで。おれ達の親分でさあよ!」
 自慢げな赤ニッカポッカの言葉に、ファーシーは普通に驚いた。
「興行……会社みたいなものなのかな。へえー、ガートルードさんって凄いのね!」
「会社とはちょっと違いまさあが……まあ、似たようなもんです。ところで、人数と青い髪の機晶姫って聞いてたんで分かったんですが、車椅子はどうしたんで?」
 訊かれ、ファーシーはああ、とアルバトロスに乗ったまま答える。
「……置いてきちゃった。少しでも、歩くためにね」
 少し真面目になった彼女の口調に、赤ニッカ(略)は頭を掻いた。
「……なんか、余計なことを訊いちまったみたいで……。ともかく、アクア様の隠れ家も調べ済みなんで、案内しまさあ!」
 ファーシーは、気を取り直して意気揚々と先を行こうとする赤ニッカを慌てて止めた。
「あ、待って!」
「なんでさあ?」
 ファーシーは携帯を取り出した。電波は……大丈夫、繋がる。
「ちょっと、連絡したい人がいるんだ」

 その頃、蒼空学園――
「……何で、知らねーんだよ」
「そ、そんな、何で、って言われても……。集まった生徒達を見送るのは僕の仕事じゃないし、それは、僕……学園側が主催した場合は、点呼とかもあるし、確認して見送りますけど……」
 門前に置かれていた車椅子に疑問を持ったラスは、ピノと共に冒険管理課を訪れ、コネタント・ピーに因縁……もとい、事情を訊いている所だった。だが、コネタントからの答えは『車椅子については何も知らない』というものだった。一応、ここに来る前にファーシーに電話を掛けてみたが、お決まりの『お客様のおかけになった電話は、現在電波の届かない云々……』というアナウンスが流れただけである。
「モーナからの要請を受けて生徒に依頼を出したんだろ。その集合場所が此処だったんなら、見送るくらいはするのが道理じゃねーのか?」
「い、いや、要請はモーナさんというより、教導団から……」
「どっちでも同じだ」
「……大丈夫かなあ、ファーシーちゃん……」
 ピノが心配そうに俯き、言う。
「歩けないのに、どうやってキマクまで行ったんだろう。誰かに運んでもらったのかな? でも、車椅子があるならそもそも運ぶ必要なんてないよね……もしかして、さらわれちゃったとか……」
「攫われ……?」
 その言葉に、ラスは眉を顰めた。有り得なくはないのか。否――
「それは、無いと思うよ。彼女が居なかったら、皆が騒ぐはずだから」
 コネタントが、ピノを安心させるように笑顔を浮かべる。着信音が鳴ったのは、そんな時だった。
『あ、ラス? 良かった繋がって。あのね、モフタンが……』
 誰だそれは。
 そうツッコみたくなるのを抑えて、彼は言う。
「お前、今、何処にいるんだ? 車椅子、こっちに置きっぱなしじゃねーか、どうやって……」
『あ、心配してくれたんだ?』
「…………違う」
 そうしてファーシーは、ルカルカとダリルが提案し、埋設した歩行補助装置について。車椅子が飛空艇に載らなかった為、歩く練習を兼ねて置いていったことを説明した。また、現在キマクに着いたということも。
「歩行補助装置? また、けったいなもん付けたもんだな……」
「ファーシーちゃん、歩けるようになったの!?」
 それを聞いたピノが、勢いこんでぴょんぴょんとジャンプする。電話に向かって話し掛けようとしてそうしているようだ。彼女の声が届いたのか、ファーシーは言う。
『ううん、まだ、歩いてみてないから……それより、大変なのよ、モフタンが……』
「だから、誰だよそれ」
 ついにツッコみを入れたラスに、ファーシーはパラミタキバタンがモーナ達の危機を教えてくれた事を伝えた。早急に、シャンバラ大荒野まで知らせる必要がある、と。
「大荒野……? まさか、そこまで行けってことか? めんど……」
『何?』
「いや……」
『あと、これは今日知ったんだけど……山田太郎さん、亡くなったらしいの。ただ、チェリーさんは助かったって……。知ってた?』
「…………」
『やっぱり、知ってたのね……』
 電話の奥から、何やら恐ろしいオーラが漂ってくる。結局の所、教えなかった事を怒っているらしい。
「ま、待てよ、それには事情が……」
『……大荒野に行くわよね?』
「…………」
『行 く わ よ ね?』
「ハイ……」
 パシリか。パシリなのか!? そう思いつつ電話を切ろうとして、ふと思い出して彼女の名を呼ぶ。
「ファーシー、そこに誰か、俺の知ってるやつ居るか?」
『え? そうね、何人かいるけど』
 名前を幾つか告げられた所で、彼はファーシーを遮った。そして、電話を切る。途端、ピノが急かすように、期待するように訊いてきた。
「ファーシーちゃんは? ねえ、歩けるようになったの?」
「……未だだそうだ」
 それだけ答え、ラスは風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)の番号を選んでメール作成画面を呼び出す。そこに入力したのは――

 赤ニッカポッカを始め台詞は無かったが黒ニッカポッカや茶ニッカポッカなど10人程のガートルードの子分達に案内される。町中を歩きながら、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はこれから会う人物について考える。
(アクア・ベリル――ファーシーの友達? ただの? それが本当かどうか、この眼で確と見極めねばならないわね……。一体、何者なのかしら。話を、というよりも……どんな人物なのか気になるわ)
 1人、考え込むローザマリアに、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が話しかけた。アクアとの対峙前、バズーカの謎について聞こうというその前に――
「ローザ」
「? 何? ジョー」
「申し訳ありません、ローザ……自らの力を御し得ず、契約者たる貴方を傷付けてしまうなんて……私、パートナー失格ですね」
「……どうしたの? いきなり……私は気にしてないわ。あなたは、大事なパートナーよ」
 ローザマリアは立ち止まる。エシクの顔を見返すが、仮面の下の表情は読み取れない。
「ありがとうございます。先日も、私を止めていただいて、本当に感謝しています」
 エシクは、そうして彼女に告げる。自分について、思い出したことを。
「あの時――確かに、私は私であって私ではありませんでした……でも、その中で一つだけ思い出す事が出来たんです。貴方に騙り掛けられた瞬間に、脳裏に浮かび上がってきたのは、私の本当の、名前」
「……本当の、名前……?」
「アルヘナ・シャハブ・サフィール。流星の御遣い、という意味だと……誰かは思い出せませんが、そう言って私にその名を付けてくれました」
「アルヘナ・シャハブ・サフィール……」
 ローザマリアは突然の告白に驚きながら、その名前を復唱した。そして、エシクに微笑みかける。
「そう……。それを思い出したのは、きっととても意味のあることよ。大切なこと。教えてくれて……ありがとう」
「……はい」
「ねえ、あなたは……アクアという人物について、どう思う?」
 アクアは、自分ならファーシーの脚を直せるかもしれない、と手紙に書いていたらしい。それは、モーナの手に渡ったバズーカを利用して、という意味だとローザマリアは思っていた。直すというそれ自体は、ファーシーの為ではある、確かに。
 ――でも、アクアとあのバズーカが繋がると云うのは穏やかではない話だわ。
「正直、私はあまり信用出来ないんだけど……バズーカで直す、なんて」
 直接攻撃を受けたエシクにも、意見を聞いておきたかった。
「私は……分かりません。ただ……あのバズーカは、本質的に危険なものだと思います。役に立つ場合もあると、否定はしませんが。しかし、彼女は、何故バズーカの事をそこまで知っているのでしょうか」
「そうね……バズーカがファーシーの脚を動かすことにも繋がる、なんて、どうして云い切れるのかしら? ……やっぱり、敵、という可能性もあるわよね……」
 しかし、はっきりとそれが明確にならないと、対処しようが無い気もする。
「もし、ファーシーを狙っていて攻撃を仕掛けてくるというのなら敵と看做す事も出来る……けれども、事はそれで終わる程に単純ではない気がするのよね……」
「ローザマリアさん! エシクさん! どうしたの?」
 遠くから、ファーシーが呼ぶ声がする。いつの間にか立ち話になっていたローザマリア達は、急いで彼女達と合流した。