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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

リアクション

「ホ、本当ニソレデイイノ?」
「構いません。この馬鹿を代わりに差し出しますので、彼を解放してください。お願いします」
 別のハルピュイアの前で交渉を行っているのは、ミカエラ・ウォーレンシュタット。トマス・ファーニナルのパートナーである。彼女とテノーリオ・メイベアの傍らには、ロープで簀巻きにされ、目の幅ほどの涙を流す魯粛子敬の姿があった。
「マ、マアアリガタイ申シ出ダケド……」
「いや本当に頼むよ。あの人は俺らにとって大事な人なんだ。まああんたらにしてみれば、あの人も手放したくない、って思うんだろうけど……」
「…………」
 出発前に魯粛は余計なことを言ったせいでミカエラの怒りを買い、今こうしてトマスとの「人質交換」に使われていた。
 ミカエラとテノーリオにとって魯粛とトマスとどちらが大事かといえば、無論、後者なのである。少なくともこの2人にしてみれば、トマスさえ返してくれるなら文句は無いのだ。
「ウ〜ン……、アッチノ雄モ惜シイケド……」
 しばらく悩んだ末に結論が出た。今はまだ解放はできないが、申し出は受けてもいいとのことである。
「モウチョットダケ待ッテホシイノヨ。他ノ雄タチノ都合トカアルシネ」
 その代わり、今捕まえている者との会話はしてもいいそうだ。
 ちなみにミカエラから事の次第を聞いたトマスは、しばらく魯粛と話さないことを誓ったという……。

「クリストファー! 助けに来た、よ……?」
 クリスティー・モーガンがやって来た時、捕まっていたパートナーのクリストファー・モーガンは頭を抱え、誰が見ても分かるようにどんよりとしていた。そして、それだけでクリスティーは何があったかを悟ってしまった。
「……あ〜、間に合わなかったみたいだね、これは」
 その声が聞こえたのか、クリストファーは助けに来たらしいパートナーの方を見る。
(うわ、これは……、さすがにどこまでやったのか、なんて聞けないなぁ)
 などと思いつつ、クリストファーの相手をしていたらしいハルピュイアを見やる。その視線に気づいた彼女は、たった一言、こう言った。
「……ゴチソウサマデシタ」
 その言葉でさらに精神的ダメージが加わったのか、クリストファーは頭を抱えたまま軽く叫んだ……。
 この後、クリスティーはパートナーを慰めることに専念したため、バックコーラスで瑛菜を手伝う、という行動は果たされずに終わった。

 如月佑也はまだ逃げ回っていた。音楽プレイヤーの大音量攻撃から立ち直った後、先ほど作っておいた氷の剣を縛られた両手で振り回し、迫ってくるハルピュイアを牽制しながら逃げていた。
 そしていい加減疲れが見え始めた彼は、まだ追ってくるハルピュイアにこう叫んだ。
「そっちの事情なんか知るか! DTなんだよ俺は! お前らにゃ俺の純潔は渡せねぇ!」
「な、なんだってー!?」
 突然そこに2人分の声が飛んできた。佑也はこの声の持ち主を知っている。恐る恐るそちらを見ると、案の定というか何というか、彼を助けに来たらしい、ビデオカメラを構えた如月正悟と武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の姿があった。見れば他にも佑也の友人――樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、牙竜のパートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)がそこにいるではないか!
「……あ、あれ? み、皆来てたんだ……。あははー……」
 佑也が焦ったように口を開け閉めしていると、正悟と牙竜はその耳から何かを取り出した。ハルピュイアの魅了の歌対策でつけていた蜜蝋の耳栓である。
「……2人とも、なぜ耳栓をしていたのに今の発言が聞こえたんだ?」
 彼らと同じく、佑也を助けに来た刀真が聞くと、正悟と牙竜はそれはそれはさわやかな笑顔で言い放った。
「魂の叫びの前に!」
「耳栓など無意味!」
「……左様ですか」
 もはや呆れるしかない刀真であった。
「いや〜、それにしてもいい宣言だ。まるで宗教画の神が降臨したかのような美しい宣言構図だな、うん」
「ど、どの辺から聞いてた……?」
 佑也のその問いに牙竜は完璧な物真似で返した。
「『そっちの事情なんか知るか! DTなんだよ俺は! お前らにゃ俺の純潔は渡せねぇ!』ってところかな?」
「全部じゃないか!」
「それにしても……」
 奇妙な敗北感を背負いながら刀真がぼそりとつぶやく。
「それにしてもDTか……。聞かなかったことにするのが親切で、黙って飯に誘うのが友情なんだろうか」
「ど・ど・ど・ど、DTちゃうわ!」
 一時テレビで紹介された「空耳」を大声で叫び、佑也は否定するが、今頃否定したところで後の祭り、というものである。
「だがなダディよ」
 今度は正悟が生暖かい目を佑也に向けながら、形の上では優しそうに言う――ちなみにダディとは「家事全般ができる主夫」な佑也につけられたあだ名のことである。
「なんというか、そのままの純真なあなたでいてくれ、うん……。でもこのままここに置いていって大人の階段上ってみるのもいいかもしれないね。君はまだシンデレラだから」
「なに古い野球アニメのオープニングテーマ引っ張り出してかっこよく締めようとしてるんだよ!」
 あまりにも薄情な友人たちに佑也は少々殺意を抱いた。こいつら、自分を助ける気がないのか!?
 佑也の殺意とは裏腹に、彼らは彼らなりに佑也を助けようとは思っていたのである。
 牙竜は、佑也がハルピュイアに捕まったと聞いてもあまり動じなかった。その時の彼の心情はこうである。
(今頃、子供が見ちゃいけません的なプロレスごっこか……。経験積んでおいた方が、それこそ相手の人にとって良くないか? 繁殖が最大の目的のハルピュイアなんだからリードできるだろうし、助けずに……)
 と考えた辺りで「健全な心を忘れるところだった」と思い直し、佑也の救出に向かったのだ。
 正悟が佑也を助けようとしていたことについては前述(第2章)の通りだ。とはいえ彼の目的のほとんどは「ついで」のはずの「ハルピュイアの生態記録」の方に比重が置かれているらしい。それが証拠に、いまだビデオカメラは録画状態のままである。
 助けに来た男3人の中で最も危機感を持っていたのは刀真であった。佑也がハルピュイアの魅了の歌を食らったこと、今が繁殖期であることを聞いた彼は、すぐに佑也の貞操と、その佑也が惚れている十二星華の彼女のことを想像した。
(惚れた女がいるのに、ベッドでハルピュイアに襲われたとなったら、アイツ泣くんじゃないか……?)
 その時の彼の頭の中では、裸身に白いシーツを巻いてむせび泣いている佑也の姿があったらしい。一仕事を終えた後の礼としてコーヒーを1杯奢ってもらおうと、彼は救出作戦に参加したのである――結局のところ、本当に助けようと思っていたのは1人だけだったのではないだろうか……。
(それにしても、妙に佑也が輝いて見える……! 何なんだこの敗北感は……)
 色々考えて助けに来たのはいいが、救助対象の「宣言」になぜか刀真は打ちのめされていた。
「……ところで、『DT』って一体何のことなんですか?」
「え、リース? DTって何かって……、えっと、それは……」
 それまで黙って話を聞いていたリースが口を開くが、その内容は集まった男どもを困惑させた。勢いで牙竜が受け答えをしそうになるが、さすがにその内容は女子に言えるようなものではない。
「あ、その話、ボクも聞きたいな。ねえ正悟さん、DTって何?」
「うおっ!? 氷雨、何でここに!?」
 正悟の後ろからかかった声がかかる。聞き覚えのある声に振り向けば、友人の鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)がそこにいた。
「いや〜、佑也さんがハルピュイアに捕まったって聞いて、それで助けに来たんだけど迷子になっちゃってさ〜。それで正悟さんを見かけたからここまで来たんだよ」
「迷子になって木の上まで来るって、三刀流の海賊狩りじゃあるまいし、どんな方向音痴だよ……」
「で、DTって何?」
「えっと、それは、その……」
 氷雨に問われる正悟だが、彼も牙竜と同じく答えることができない。DTの意味がアレだなどと、さすがに言えるわけが無い!
「刀真さんは知ってるんですか?」
「え、俺? えっと、知ってるような知らないような……?」
 牙竜から答えが返ってこないと知ったリースが、今度は刀真に質問を浴びせるが、なぜかこちらの反応もいまいちだ。
「一体何なんですか?」
「ねえねえ、教えてよ〜」
 女――それもどちらかといえば「少女」に分類されるような2人に迫られ、その場にいる男3人は答えに窮していた。
 だがそんな男連中の気持ちを裏切るかのように、灯が口を滑らせてしまった。
「DT、それは1人の男子から一度しか食べられない禁断の果実です」
「お、おい、灯!?」
 牙竜が止めようとするが灯の口は止まらない。
「果実を食した者は、その男子の心に一生消えない永遠の女性になることができるのです。私も美味しくいただきました。なかなかの食べごたえ、さすがアームストロング砲!」
「わあああああ!?」
 微妙に分かりにくい比喩表現を使っているが、彼女が言っているのはパートナーの牙竜のことである。
「へぇ……、1人の男子で一度だけ食べられる貴重なもの……忘れられない、永遠の女性……」
「いやいやリースさん、そんなしっかり聞かなくていいから――!」
「そっか、私もそのDTを食べれば永遠に好きな人のものになることができるんですね!」
 リースにいかがわしい知識が刷り込まれるのを止めようとする牙竜だが、その彼は灯によって逆に妨害されていた。そのせいでほぼ純真な彼女にどんどん知識がインプットされていってしまう。
「それにハルピュイアが揃いも揃って食べたがってるんだから、さぞいいものなんでしょうね。私も食べてみたいなぁ〜」
「とまあこのような意味があるんですが、別にDTを食さなくても、相手の心に存在を刻み込む方法は、いくらでも世の中に存在しますよ。アドバイスとしては、さしずめ『押しの一手で既成事実』――」
「灯さーん! それ以上言うのやめてくださいー!」
 止まらない「口撃」に対抗しようと牙竜が大声を張り上げる。
「おや牙竜、何だか諦めきったような顔をしていますが何かありましたか? 男ならドーンと構えていただかないと……。ところで牙竜はD――」
「わーっ、わーっ! ああ、そうだ佑也、お前腹減ったんじゃないのか!? ほら腹の足しになるかなと思ってこんにゃく持ってきたんだ。良かったら使ってくれよ。……俺は『守りきれなかった』からさ……」
「いらないよ、そんなの!」
 話をごまかすために佑也に絡むが、半分置いてきぼりにされた彼は取り合おうとしない。
 その一方でリースは、慌てる牙竜を見て何やらニヤニヤと笑みを浮かべていた……。
「それで結局DTって何なの? 何だか分かったような分からないような、よく分からないんだけど……」
 先ほどの灯の説明ではまだ不十分なのか、氷雨はまだ正悟に説明をせがんでいた。
「えっと、ほら、アレだ。要はまだシンデレラな男の人の事を指すんだよ。大事なものを失って大人になっていくっていうか……」
「シンデレラ? 大切なものが無くなる……? よくわかんないなぁ……」
 遠い目をしながら正悟は答えるが、どうも氷雨には伝わらないようだった。
「ねえ刀真さんならDTの意味わかる?」
「ええっ!?」
 氷雨の矛先が今度は刀真に向くが、当然のことながら彼も答えられない。そしてそんな彼の気持ちを裏切るかのように、今度は月夜が口を滑らせる。
「DTとは今までの話からおそらく『童貞』の事……。ちなみに童貞とは『まだ異性と肉体関係をもったことがないこと。また、その人』by Goo辞書」
「ちょっ、月夜さん! 何調べてんの!?」
 月夜の言葉に刀真が大騒ぎする。どうやら彼女はユビキタスの技術を使って検索したらしい。
「ほう、そーなのかー」
「ついでに刀真も童貞……。いつも一緒にいるけど私や他の女の子にそこまで手を出してない」
「わーっ、わーっ、わーっ!!」
 どちらかといえば冷徹かつ冷静で通っている刀真が、普段の姿からは想像できないほどに大声を張り上げる。そしてこの時点で彼もDTであるということが周囲に知れ渡ってしまった。
「あ〜、いや、しかしね、俺も本当に忙しいんですよ! ただ今は女に興味を示している場合ではないというか――」
「女に興味が無い……? まさか男に興味が!?」
「いや男とか無いから! 『アッー!』なんて無いから! 薔薇の花吹雪とかいらないから!」
 騒げば騒ぐほどにドツボにはまっていく刀真。月夜は月夜で、どうも彼の話を正確に聞いていないようだ。
「ソレデ、私ノ方ハドウスレバイイノ?」
「さあ、もうこっち完全に置いてきぼりですよね……」
 仲間内で大騒ぎを始めた佑也の仲間たちは、もう完全に目的を忘れているようだった。当事者である救助対象と、それを捕らえているハルピュイアも呆然としている。
 そこへもう1羽ハルピュイアがやってきた。
「チョットォ、一体何ヲ騒イデンノヨ?」
「イヤァ、色々アリマシテ……」
 どうやら捕らえた雄たちの様子が気になって、見回りに来たらしいのだ。
「ナンテイウカ、アナタモ大変ネェ……。ン?」
「ん、どうかしたの?」
「アノ子……」
 先ほどやってきたハルピュイアが何かを見つめている。その視線を追えば、そこにいたのは氷雨であった。
「ネエネエ、アノ子……、結構良クナイ!?」
「ハア!? 何言ッテンノアンタ!?」
「アノ可愛ラシイ立チ居振ル舞イ、ソシテ保護欲ヲカキ立テラレルアノ仕草! モウダメ、最高!」
「イヤ、ソノ前ニアレハドウ見タッテ雌ジャナイノヨ!」
「アンナ可愛イ子ガ女ノ子ナワケガナイ!」
「何カ色々間違ッテル!? ツーカドコデソンナ言葉覚エタノ!?」
 どうもこのハルピュイア、人間で言うところのロリコンに分類される(?)、ちょっと変わった部類らしい。さっそく彼女は氷雨の前に近づくと、目の前で魅了の歌を歌いだした。
「ほえ? ……ん〜、いい歌〜」
 どこかですでに書いたかもしれないが、ハルピュイアの魅了の歌とは「歌声が聞こえた範囲内にいる者を、男女問わず無差別に魅了してしまう」代物である。外見性別女の氷雨も、結局はターゲットになってしまうのだ。
 そして歌が聞こえる範囲内にはもう1人、別の人間がいた。
「お〜、結構いい歌声だな……」
 たった今まで騒いでいた刀真である。
 何だか余計なものまでついてきたが、とりあえず目の前の子がやってくれば問題ない。ハルピュイアがそう思った瞬間だった。
 タイプライターを叩くような音と共に、ハルピュイアの前方、魅了された2人の後方から高速で何かが飛んできたのである。
「あばばばばばば!?」
「いでででででで!?」
「ノワワワワワワ!?」
 飛んできたのは非殺傷性の弾丸――ゴム弾であった。そしてそれは、魅了という事態に怒った月夜の構えるマシンピストルから吐き出されたものである。そしてその怒りは特に刀真に向けられており、彼を狙う弾丸は全て頭に命中していた。
「いだだだだ! 月夜サン痛いデス!」
「正気に返れ」
 抑揚の無い声を発しながら、月夜はまだ撃ち続ける。
「ついでにあなたたちもうるさい」
「ヒー、ゴメンナサイー!」
「何でボクまでー!?」
 それから弾が尽きるまで、月夜は乱射を止めなかった。

「まあ結局のところ、相手の都合も考えずに無理矢理連れてきた、っていうのが原因なのよね」
 葛葉明は枝に登らず、木の根元でハルピュイアを相手に説得を続けていた。
「他にも同じこと言ってるのがいると思うけど、合意の上なら誰も文句は言わないわ」
「フムフム……」
「だから協力してくれない人だけ解放しちゃいましょう。協力してくれそうな人だけ残しておけば、そんなに問題は無いのよ」
「問題ハソノ『協力者』ガドレダケ集マルノカ、ッテトコナンダケド……」
「まあ渋りたくなる気持ちは分かるわ。だからまあ、これは『今後』の話になるわね。もしまた繁殖期が来たら、その時はザンスカールの町やイルミンスールの学校辺りで協力者を募りましょう。世の中にはあなたたちみたいな美少女モンスター好きの人間もきっといるはずよ」
「本当?」
「本当よ。現に今こうして来てる連中であなたたちに攻撃しようとか思ってる人はいないでしょ?」
 実は先ほど1人いたのだが、それは別の学生により止められたため、明確な被害は無いことになっている。
「ウ〜ン……。確カニソウシタ方ガイイヨウナ気ガスルワネ……」
 明の説得により、少なくとも今の段階では誰も返せないが「今後は協力者を募る」ということで落ち着いた。

「それにしても貞操の危機、かぁ。兄さんにはもう関係ないような……。いや、それはさすがにかわいそうだね」
 そうつぶやきながら枝の上を歩き回るのは椎名真、捕まっている原田左之助のパートナーである。「兄さん」とはすなわち左之助のことだ。
「さて、いい加減見つかってもいいはずなんだけど」
「あー、そこの執事さん。左の方に捜し求めてるのがいるぜ?」
 ふと声が聞こえた。言われた通りそちらを見ると、ハルピュイアと正面に向き合い座っている左之助の姿があった。
「兄さん、お待たせ」
「遅えぞ真。ま、俺は無事だから、あんまり心配しなくていいぜ」
「……っていうか、なにやってんの?」
「ん? ちょっくらハルピュイアに『結婚』のなんたるかってのを語ってたところだ」
 おいおい、と真は呆れそうになったが、確かにこの男ならその程度のことはやるだろうと思い直した。
 とそこに、何かの「声」が聞こえてきた。発信源はかなり遠いようだが、その特徴的な「ヒャッハー」のかけ声から察するに、どうやら瑛菜の話に出ていたパラ実生がやってきたらしい。
「うわ、こんな時に……」
 言いながら真はその場を離れようとする。
「お、おい、真。お前さんどこ行くつもりだ?」
「ハルピュイアを狙ってパラ実生が来たみたいなんだ。ちょっと相手しなきゃならないから、一旦離れるよ。兄さんも、そこのハルピュイアも、後で指示を出すからうまく逃げてくれない?」
「……しょうがねえな、わかったぜ。というわけで嬢ちゃん、逃げる準備だ。他の仲間にも伝えてやってくれねえか?」
「ウン、ワカッタ」
 言われたハルピュイアが周囲の仲間に敵襲を告げるべく飛び立つ。
 左之助も立ち上がり、戦闘に備える。本来、彼は捕まっていた立場なのだからそのまま逃げればいいのだが、今はなぜかそうする気になれなかった……。

「せっかく妄想してたってのに、なんで邪魔が入るのかねぇ」
「鬼羅さん、俺たちも参戦した方がいいんじゃないですかねぇ?」
「オレもそうしたいと思ってるんだが、なんか人数も多いし、後で考えようぜ」
「襲撃のどさくさにまぎれて逃げるか? いや、そんなことしたら混乱が大きくなるだけだわな……」
「おっと、結構楽しんでたのに……。しょうがない、後にするか」
「……これが終わったら歌わせてもらおうかな」
 国頭武尊、クド・ストレイフ、天空寺鬼羅、斎藤邦彦、霧島玖朔、スレヴィ・ユシライネンの6人はまだ捕まった状態だったが、他の学生によるハルピュイアへの説得や、今にも起きるであろうパラ実生との戦闘準備のおかげで、いまだ貞操の危機は逃れている。もちろん彼らも後に解放されることになるのだが、今はまだハルピュイアの監視付きで大人しくしているしかなかった。