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第3章 研究志願者募集・・・カフェのバイトもね

「(この身を実験に捧げれば、あの人と同じような存在に近づけるかもしれないんだ・・・)」
 月代 由唯(つきしろ・ゆい)は思い人に少しでも近づけるならと、中央扉へ近づこうとする。
「待て娘、城に入る許可を得ているの。見たところ、魔女じゃないようね」
「もらってないけど・・・、誰に許可をもらえばいいんだ?東の塔で不死になる研究をしているという話を、魔法学校の近くで知ったんだよ」
「へぇ。もしかしてイルミンスールの生徒なわけ?」
「あぁ、そうだよ。病に倒れず死なない身体と、強大な力に単純に惹かれたんだ」
 本当の動機を隠し、研究に協力したいと志願する。
「とはいっても完全に信用は出来ないから、ずっと監視つきだからね。それでよければ塔の中へ入れてやってもいいけど?」
「それで構わない・・・」
「まだ後ろに待っている子がいるから、そこで待ってなさい。次の人、あなたは何のようでここへ来たの」
「ハルカは生物の研究をしたくって来たのです」
 フードを深く被り、ハルカのスタイルになった遙遠が門番の女を見上げる。
「魔女じゃないみたいね。私たちに服従するっていうなら許可してあげるわ。その娘同様、監視つきだけど」
「それでいいのですよ〜」
 やっぱり野放しにはしてくれないのだと、すでに見張りがついている由唯の方をちらりと見て頷く。
「私も・・・東の塔へいきたいです」
 イナ・インバース(いな・いんばーす)も中へ入れて欲しいと魔女に頼む。
「あら、あなた魔女じゃないわね?私たちに服従するなら考えてあげもいいけど、どうする?」
「―・・・は・・・はい」
 ここで拒否してしまったらもう入れないと思い、沈んだ顔をして返事をする。
「あんたも見張りつきね。で、そこのメガネの娘と、お付きのやつら。あなたたちは何の用で来たわけ?」
「魔女の存在って素晴らしいわねぇ、魔科学で不死になれるなんて!種族は違っても、その研究に協力させてもらいたいわ〜、私の身体を使って研究してみない?」
 顔にメガネをかけて髪型を少し変え、変装した師王 アスカ(しおう・あすか)が検体になりたいと志願する。
「つまり服従するってこと?」
「えぇ、そうよぉ〜」
「で、傍にいる2人は・・・」
「彼らは実験を手伝ってくれる方ね」
 パートナーたちの方へ振り返り、ボロを出さないように無言で頷くよう、アスカが目配せをする。
「(まったく、我らは付き人扱いか)」
 ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は心の中で苦笑して頷く。
「(今回はそんな感じだからな・・・)」
 情報収集のためにアスカたちと来た蒼灯 鴉(そうひ・からす)も頷いた。
「顔が良く見えないわね・・・」
「早く入れてちょうだい〜。冬場は冷えちゃうから寒いのよぉ」
 敵方に知られないように、背を向けるルーツの顔を見ようとする魔女の視界をアスカが阻ように立つ。
「まぁいいわ、あなたたちも監視つきだからね。もし不穏な動きを見せたら・・・」
「わ、分かってるわよぉ〜。そんなにトゲトゲしないでっ」
「分かってるならいいわ、塔の中へ入っていいわよ。後、お願いね」
「はーい♪」
 門の見張り役の彼女に頼まれた別の魔女が、アスカたちを東の塔へ連れて行く。



「ここからは監視モニターとかあるはずアルよ」
 周りに聞こえないように小さな声音で言い、塔の門の向こうへ行き西の塔へ向かおうとするレキに、チムチムが気をつけるように言う。
 レキは黙ったままこりくりと頷く。
「誰か来たアル・・・」
 彼女を見送った後、チムチムは中央の門がある方へ移動し、造園の陰に隠れて様子を見る。
「僕たち、お城のカフェで働きたいんだけどいいかな?」
 中に入れてもらうように弥十郎が門番の魔女に頼む。
「―・・・それだけが目的なのかしら」
「っていうと?」
「まさか私たちの研究を止めてとか、そんなこと言わないわよね?」
 聞き返す弥十郎を訝しげに睨む。
「うん・・・言わないよ。(今はね)」
「なんかいまいちな返事ね。悪いけど見張りをつけさせてもらうから」
「初顔だからね、ちょっと仕方ないかな。(あ、そいうことなんだね。なんか警戒されてると思ったら)」
 メモに書いた内容を離れた場所で見せるチムチムの方をちらりと視線を移す。
 そこにはカフェでの出来事が書かれている。
 見張りつきで弥十郎と響は城の中へ入れてもらった。



「西の塔で研究に協力したいんですけど、よろしいでしょうか?」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は武器の研究をしようと、塔の中へ入れてもらおうと門番に頼み込む。
「私たちは魔女ではありませんが、あなた型と同じスキルの一部を使えるんです。このスープがその証拠です」
「―・・・確かに、これはギャザリングヘスクね」
 彼女が作ったスープを飲み、嘘ではないことを確認する。
「今、私が使用している武器はナラカの蜘蛛糸なんですけど、それをベースに呪力をのせてみたいんです。無属性の魔法系であれば使いやすそうですが、炎をのせた物を開発するとかいかがでしょうか。とても楽しそうだと思いませんか?」
「ふぅ〜ん・・・その案を元に何か考えるのも悪くないわね。で、そっちの娘は?」
 興味深そうに聞いた後、ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)の方へ視線を移す。
「わたくしは研究でお洋服が汚れた際に、お洗濯などの家事をお手伝いさせていただきますわ」
「そこまで手があまり回らないから、やってくれると助かるかもね。2人には悪いけど、さっき来た他のやつらにも見張りをつけたから、何人か傍におかせてもらうわ」
「まぁそうでしょうね。同じ種族でない私たちを、いきなり信用するなんて出来ないでしょうから」
「いくら同じ学校の人だからって、そうしないと不公平になっちゃうのよ。ごめんなさいね」
「気にしなくていいですよ。研究させてもらうだけでもありがたいですから」
 もうしわけなさそうに言う彼女に真言が微笑みかける。
「あなたたちは大丈夫そうだから、形ばかりの見張りと考えてもらって気を楽にしてちょうだい」
「はい、分かりました」
「じゃあそこでちょっと待っててくれるかしら?まだ協力志願者がいるのよ。では次の人、どうぞ」
「私も西の塔で開発したいです!」
 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)も研究の協力しようと、門番の魔女に頼み込んだ。
「そうですね、私の造った人形に魔力を込める研究というのはどうでしょう?」
「どうしう内容かしら?詳しく話してみてちょうだい」
「兵器開発をしてるのなら、それを使わせる兵隊が必要になりますよね。そこで魔力で自在に操れる人形がいたら・・・」
「いいえ。完成したら使うのは私たちだから、必要ないわね」
「(うっ、どうしましょう・・・。もうちょっと利用価値を考えてくれてもいいのにっ)」
 不採用と即答されてしまい、しょんぼりとする。
「(あぁ〜・・・提案の段階で落とされるなんて。でも、ここで引き下がったら来た意味がないよ)」
 茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は衿栖の傍へ寄り、“諦めたらここで終わりだよ”というふうに、自分の靴を彼女の靴にコンッと当てる。
「えぇっと・・・・・・あっ、そうです!出来立ての武器を使って、失敗して魔法が暴走するかもしれませんよ。そんなので衿栖たちが怪我したら怖いじゃないですか?」
 門前払いをくらってはたまらないと、衿栖は他に人形の使い道がないか考えながら言う。
「うぅん、まぁそれもそうだけど・・・」
「それに危険な場所での任務は、人形に任せればいいと思うんです。そうすれば衿栖たちは傷つかずに済むわけですからね。不眠不休で働かせることも出来ますし」
「ふぅ〜ん、そいういう使い道もあるのね」
「私の企画・・・、どう・・・でしょうか?」
「面白そうだから採用してあげるわ。見張りつきだけどね」
「あ、ありがとうございます!」
 塔に入れる許可をもらえた衿栖はほっと息をつく。
「その後ろで待っているやつで最後かしら?あ・・・あいつ、十天君の人たちが警戒しているやつらの仲間ね!」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)へ視線を向けると、魔女は眉を吊り上げてロッドを握る。
「待て。俺はドッペルゲンガーたちに危害を加えるために来たわけじゃない。むしろ協力しに来たんだ」
 オメガに似た姿をした魔女が、仮初の町で何かやっていると聞きつけた彼は、彼女も助けたいというその一心で門の前へやってきた。
「へぇ〜、それをどうやって信じろっていうの?」
「俺も提案を出すだけじゃなく開発に助力する。皆と同じく見張りをつけてくれて構わない・・・。まずはドッペルゲンガーのオメガと話をさせてくれないか」
「―・・・いいわ。ただし、許可が出なかった場合・・・どうなるか分かっているわよね?」
「あぁ、十天君が関わっている以上、それを承知で来たつもりだ」
「―・・・・・・、これで話なさい」
 無線機のようなマイクつきヘッドホンを唯斗に渡す。
「ドッペルゲンガーのオメガか?唯斗だ・・・。以前、あの場所で言っただろ?お前も助けたいって・・・」
「あら、わたくしのために何をしてくださるの?」
「その名前では呼びづらいな、アルファ・・・と呼ばせてもらおう」
「好きに及びなさいな。わたくしがオメガであることには変わりはないのですから」
「それじゃあアルファ、ここへ来たのは他でもない。お前が少しでも変われるなら、協力してやりたいんだ。それと念のため言っておくが、どっちも諦めるつもりはない。俺は欲張りだからな」
「フフフッ、そうなるといいですわね」
 すぐに彼の言葉の意味を理解し、クスッと冷たく笑う。
「塔で研究出来る許可をさしあげますわ。まぁ、見張り役の方をつけさせていただきますけど」
「それで構わない」
「妙な真似したら、ただじゃおかないからね」
 通信を終えた唯斗からヘッドホンをひったくるように取る。
「(当然といえば当然だが、かなり警戒されているな)」
 扉が開かれると唯斗は見張り役に西の塔へ連れていかれる。
「ふぅ、やっと入れるみたいですね」
 彼に続けて真言たちも門の向こうがへ入る。
「(一時はひやっとしましたけど、おかげでちょっと行動しやすくなったかもしれませんね?)」
 本来の目的がばれず塔に入り込めた衿栖は、フフッと笑みを溢して両袖で口元を隠した。
「あれ・・・ドッペルゲンガーのオメガさんを助けようとした人もいるね?」
 城の周辺を探索している北都が、塔の中へ入っていく唯斗の姿を見つける。
「いつものパートナーたちが見当たらないな?」
「うん、そうだね」
 不思議そうに首を傾げる昶を見下ろして頷く。
「見かけたら・・・教えておくくらいはしてあげるかな」
 地下への進入口を探そうと城から離れる。



 城のカフェの中で働いている弥十郎は、オーダーを受けたタルトやホットドリンクをキッチンで作っている。
「生地が焼けたね♪」
 ミトンをつけてオーブンからビスケット生地を取り出す。
「焼いている間に作ったグレープフルーツクリームを流して、30分冷やさなきゃね。おっと、先に作っておいた方がもう冷えてるかな?」
 時間を計ろうとタイマーをセットし、すでに冷えているタイルとを冷蔵庫から出す。
「クリームの上に皮を剥いたホワイトとピンクのグレープフルーツを並べて、セルフィーユを飾りつけて出来上がりだね」
「タルトレット・オ・パンプルムースまだかな、サーヤ」
「出来たよ。ホットドリンクのアップルジュースも出来てるから、一緒に持っていって。―・・・サーヤって何!?」
 注文の品をトレイに置いた弥十郎が眉を潜めて響をじっと見る。
「本名だと男ってばれちゃうよ。佐々木のサと、弥十郎のヤをとって考えてみたんだよ。魔女って少女のスタイルばかりだし?男の子もいるにはいると思うけど、この城の魔女は女の子ばかりだからね。念のためだよ♪」
「ねぇ、モテそうって言ったの根に持ってない?」
「ううん、全然♪」
「じゃあ響ンって呼ぼうかな」
「何でンをつけるの?」
「その方が可愛くみえるよ。それともシッキーがいい?」
「やめてよ!日本のマスコットみたいなネーミングになってるし、河童は西遊記だよ」
「うん知ってる♪」
 焦る響を見て弥十郎はくふっと笑う。
「―・・・・・・〜っ!」
「ねぇ、注文したのまだー?」
「は、はい。今持っていくよ!」
 席で待っている魔女に急かされ、注文のデザートを持っていく。
「お待ちどうさま」
「わぁ〜、美味しそう♪」
「最近来たばっかりなんだけど、何かみんなイキイキしているよね。楽しいことでもあったのかな」
「後、何時間かしたらパーティーがあるの」
「へぇ〜どんな感じのかな?」
 それについて聞きたそうな顔をして会話を続ける。
「東の塔と西の塔の実験が成功したらやるのよ。その時に中央の扉が開かれる予定で、城にいる魔女たちが何人か町へ出て歌ったり踊ったりするの」
「なんだか楽しそうだね」
 魔女の話を記憶し、頷きながら聞く。
「あぁそうそう、不死っといってもただの不死じゃないの。病とかにもならないし、たとえばらばらにされても痛みを感じないのよね」
「無痛覚にもなれるんだ。でもそうなると、アツアツの料理とかも感覚がわかんなくなるのかなぁ。なんか味気ないね」
「何で?刺されたりしちゃった時の痛みとかが無痛なだけよ。主に脳で深いだという痛みね。料理を食べた時とかの感覚がまったくなくなるわけじゃないからさ」
「でもね、もしそうなっちゃったらどうする?」
「んー・・・別にいいかな。楽しく生きられれば食事くらいはどうでもいいし」
「そんなの悲しくないかな?せっかく美味しいものを食べても分からなくなっちゃうかもしれないのに」
「うるさいっ!生きたいように生きて何が悪いの!?」
「―・・・・・・えっ」
 突然バンッとテーブルを叩かれ、表情を一変させた彼女の姿に驚いて目を丸くする。
「そんなこと言っていると、裏切り者だと思われるわよ。ていうか牢屋に入れてやろうかしら」
「ご、ごめんなさい。ボク・・・ここに来たばかりだから、あまり空気読めてないかも・・・」
 トレイを抱えて逃げるように弥十郎のところへ戻る。
「あぁ〜怖かった」
「どうしたの?」
「うん・・・ちょっとね。美味しい料理を食べた時に、良く分からなくなっちゃうなんて悲しいよっていうふうに言ったんだけどね。それくらいどうでもいいって返ってきたんだよ。これ以上言うと本当に捕まっちゃいそうだから戻ってきたよ」
 見張りに聞かれないように、響が小さな声音で呟くように話す。
「きっと望むものが手に入ると思って、正気じゃないんだよ、それが得られるなら、何かを犠牲にしてもいいってことじゃないかな」
「どうしたらいいんだろう・・・」
「ねぇ、他に何か言ってなかった?」
「えーっと・・・もうすぐパレードをやるかもってことを言ってたかな。その時に門が開かれてちょっとだけ、中が手薄になるかもね」
「なるほどね・・・。今、城の中にいて動けるのは今のところ3人だけだから・・・何かいいアイデアが浮かべばいいんだけど」
「牢屋にいる子が動ければいいんだけどね・・・」
「うん・・・なんとかしてあげたいけど。後から潜入してくる生徒が助けてくれれば、状況がよくなりそうだと思うんだよね」
 デザートを作りながら、お菓子のように甘い考えは捨てなきゃいけないかもと、弥十郎は次の作戦を考える。