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第6章 どこへつながっているのか・・・地下水路の探索

「ここが魔女たちの町ですか」
 ネルソー・ランバード(ねるそー・らんばーど)は術で作られた仮初の町の中に入り周囲を見回す。
「まぁ、この格好なら分かりづらいですよね」
 全身つつむようなマントを羽織り、魔女が好んで使うような帽子を被る。
「あー・・・あぁ〜、声はこんな感じでいいでしょう」
 すぐにばれてしまわないように、ボイスチェンジャーで声音を変えておく。
「とりあえずあれに乗って町を1週してみますか」
 丸い椅子の乗り物に乗り、タッチパネルで行き先を選択する。
「やっぱり城の中央扉から入るのが効率よさそうなんですけどね・・・。あの魔女たちがいるからそうもいきそうにありませんか」
 空から見下ろして城の様子を眺めてみるが、警備がきつそうだと呟く。
「なんか町にランタンを飾ってますね?何か楽しげに話してますが・・・」
 近くで会話を聞こうと乗り物を止めて降りる。
「明日、パーティーをやることになったんだってね」
「じゃあ実験が成功したのかな?」
「持続効果がどれだけあるか分からないから、完璧にってわけじゃないみたいけどさ」
「パレードをやる時、中央扉が開くんだって」
「(ほう、あの場所が・・・)」
 外灯の傍で彼女たちの話を聞きメモを取る。
「あら・・・あなた見ない顔ね。そんなところで隠れてないで、こっちきなさないよ」
「(さすがに影までは隠せませんでしたか。ここは聞こえないふりをして逃げるより、素直にそこへ行くべきですね)」
 逃げて怪しまれるよりはと、手招きする魔女たちの傍へ歩く。
「ごめんなさい、皆よりちょっと・・・背が高くて、変な目で見られそうだから声をかけられなかったんです・・・」
「確かに・・・そうかも」
 魔女が自分よりもはるかに背が高いネルソーを見上げる。
「でもそんな細かいこと気にすることないわよ。同じ種族同士、仲良くやりましょう♪」
「あ、ありがとうございます」
「何か声が変ね?」
「これはその・・・」
 ボイスチェンジャーで変えた声音に違和感を感じられ怪しまれてしまう。
「すみません、ちょっと風邪をひいているんです・・・。それで喉がちょっと・・・ごほっ。治りかけなんですけどね」
 疑われないように間を空けず、とっさに思いついた嘘でごまかす。
「そうなの?大変ねー・・・」
「あの中央の扉って、どこで開閉しているんでしょうか。来たばかりで何もわからんです」
「確か城の地下に開閉するレバーがあるんだったかな?」
「そうなんですか・・・。(そこへ行ける道があるかどうかなんて聞いたら、やっぱり妙に思われますね・・・)」
 なんでそんなところを知りたいのか聞いてしまうと、侵入者だと疑われるだろうと質問しないでおいた。
「ねぇ、あなたもパレードに参加しない?面白いわよ、きっと」
「え!?そ、そうですね・・・いつ頃始まるんですか?」
「うーんと・・・今から2時間後かしら」
「だいぶありますね・・・。それまでちょっと町を散歩でもしてますよ」
「そう?じゃあ・・・気が向いたら町の中心の通りに来て。私たち2人、そこにいるからさ」
「はい。分かりました、それじゃあ・・・また後で」
 手を振りボロを出さないうちにと、さっとその場から離れる。
「彼女たちの話だと、その頃に紛れて中へ入ってもよさそうですね。ともあれ、ずっと扉が開きっぱなしってことはないでしょうから、開閉を操作出来るところへ誰か行かなければいけなさそうです」
 開閉レバーがある部屋へつながっていそうな地下から進入出来るような場所を探し始める。



「水の匂いがするな」
「どこから?」
「フードショップの通りからだな」
 走り出す昶の後を北都が追う。
「あ、ちょっと待って!」
「えっ、何?」
 休憩中の真に呼び止められ、北都たちは足を止める。
「ここのカフェで知ったことと、さっきアスカさんたちのペットからもらった情報を渡すよ」
「うん、ありがとう。えっとカフェでは魔女たちが力と不死を手に入れて、他の種族を服従させようと話していたんだ・・・。それで東の塔の情報は、不死の実験が成功したんだね?イルミンスールの人が検体になったみたい」
「イルミンスールの生徒が・・・?その話、詳しく聞かせてください!」
 彼の話声を聞いたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、必死な形相で走り寄る。
「―・・・えぇ!?う、うん・・・メモの内容では月代由唯っていう人が検体になったみたい」
「そんな・・・由唯さんまでこんなくだらない研究を行うとは・・・連れ戻さなくては・・・。彼女は本当に不老不死になってしまったんですか?」
「内容からするとそうだけど、いつまで効果が続くか分からないみたいだね。まだ実験段階だから」
「完璧にそうなってしまってからは遅いですからね。早く由唯さんをばかげた研究から離さなければっ。永遠の命や不死身の肉体など、ほんとうにくだらない・・・。どんな種族だろうと増え続ければやがて、争いが生まれてしまうでしょうから」
「長年、いろんな人が追い求めていたものだし。誘いに乗っちゃうこともあるんだろうね」
「死は確かに恐ろしいですよ。でも、どんな生き物には終わりがあるんです。それを崩そうとするなんてそんな世界、病んでますよ・・・」
「それもあるけどね、他の種族を力で服従させたりするなんて僕はやだね」
「えぇ、不死と力を手に入れた者が破壊衝動にかられることもあるでしょうから。早く止めなければ・・・」
 由唯がそうならないかだんだんと不安になっていく。
「城へ進入出来そうな場所といったら地下水路あたりしか思い浮かびませんね」
「僕たちもそこを探しているんだよ。昶が水の匂いがするっていうから、向こうの方へ行こうと思ってね」
「そうなんですか。じゃあ私もそこへ行ってみましょう」
 水の匂いをたどって走る昶の後を追い走っていく。
 ネルソーの方も地下水路へ行く道を探している。
「あの辺り・・・魔女たちが集まってますね。―・・・なんて厄介なところに」
 路上にある鉄で作られたとような扉を見つけたが、なんとそれは彼女たちがいる通りにある。
「お、ここだぜ」
 超感覚の嗅覚をたよりにやってきた昶が、北都たちをそこへ連れてきた。
「ありゃー、今そこへ入っていったら妙に思われるわね」
 ルカルカもそこを通ろうとしたが、どうやって魔女たちを退かそうか考え込む。
「どこもそんなに甘くはないということだな」
 たむろっている彼女たちに退いてもらえるような方法を淵も考えてみる。
「力づくっていうわけにもいかなからね」
 周囲を見回してクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、この状況で無理やり通ったら、魔女たちがいっきに集まって捕まってしまいそうだと言う。
「城の警備がかなり厳重だったから、ここまで警戒されたらどうしようもなくなっちゃうわ。ねぇ・・・真がバイトしているカフェに誘導するってのはどうかしら?」
 真がいるカフェへ魔女たちを誘導しようと小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が提案する。
「そうですねイルミンスールの生徒さんを傷つけるわけにはいきませんから」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も彼女の案に頷く。
「自らここへ来たとしても自分の学校の生徒が傷ついたと知ったら、校長が怒り出しそうだしな」
 これ以上ことを荒立てないようにと、魔女に扮装した氷室 カイ(ひむろ・かい)が言う。
「じゃあ真にメールで伝えるね」
 魔女たちをカフェへ誘導して欲しいと美羽がメールを送る。
「まだかな・・・来た!」
 メールで呼んだ真を待ち、離れた場所で様子を見る。
「お店の割引券だよ。美味しいお菓子もあるから、よかったら来てね」
「へぇ〜、行ってみようかな」
 券を受け取った魔女たちは真に案内されてカフェへ行く。
「今のうちに入りましょう!」
 地下水路の傍から離れていくのを見て、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が早く侵入するようにと生徒たちを急がせる。
「ん・・・あれって西の塔に入っていった人のパートナーかな?」
 街中で唯斗を探しているエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)たちの姿を北都が見つける。
「あの馬鹿はこんな町に1人で来て、何をしておるのだ」
 ぷんぷんと怒りながら、自分たちを置いていった唯斗を探している。
「エクスさん、そんなに騒ぐと魔女たちの視線が・・・」
 ただでさえ違う種族はあまり歓迎されていないのにと、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)がおろおろとする。
「捕まってしまっては、もともこうもないですよ」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)もエクスを必死に宥めようとする。
「その人なら西の塔へ入っていくのをみたよ。たぶん、ドッペルゲンガーのオメガさんに協力しにいったんじゃないかな?」
「なっ、ドッペルゲンガーについて行っただと?何を考えとるのだあの、超絶馬鹿は!だいたい後先、考えず・・・むっ」
「怒りたいのは私たちも一緒です。ですけど、今は堪えてくださいっ」
 大声で怒鳴ろうとするエクスの口を、睡蓮とプラチナムが塞ぐ。
「早く水路へ行きましょう・・・。魔女たちに気づかれてしまったら、それこそ嘆息するしかありません」
「むぐうぅ!(訳:そのぞんざいな言い方は何なのだ!?)」
 彼女たちに口を塞がれながら、地下水路の中へ連れて行かれる。
「ちょっといいですか。町の中心の通りにいる魔女に聞いた話なんですけど、2時間後くらいにパレードをやるらしんです。その時に中央の扉が開いて城の中にいる魔女たちが何人か出てくるようです。開閉レバーを管理しているところとか少し手薄になると思うんです、その時にお願い出来ますか?」
 道路の扉を開いて中へ入ろうとするサーたちをネルソーが呼び止める。
「確か40分くらい前に聞いたんで、後1時間20分後くらいです」
「分かりました、その方がいいですね」
 軽く頷くと先に入った生徒たちの後を追ってサーが地下水路へ入っていく。



「ちょっと広から皆で手分けして探そう」
「そうね、じゃあまた後でね」
 外灯の明りが町を照らす夜、北都に手を振りルカルカたちは水路の別のルートへ行く。
「流れがゆっくりだからこれに乗っていこう」
「そうだな」
「下へ流れてくる感じのところを探せればいいんだけど」
 人型に戻った昶と一緒に、ジェイダス人形に乗って水路を辿る。
「下水って感じはしないね?」
「嫌な匂いがまったくしないな」
「もしかしてどこかでキレイにしてから流してるのかもね」
「いくら環境に優しいことをしてるからって、従う気にはなれないよ」
「まぁ、確かにな。そのために他の種族を奴隷のようにこき使おうとかしているんだろ」
 皆仲良くパラミタの地を大事にしようなんて考えは、これっぽっちもないだろうと昶はため息をつく。
「この地を所有物みたいにされちゃうのもイヤだけど。そのために誰かを犠牲にしようだなんてイヤだよ・・・」
「今のところは館に仕掛けてくる様子はないけどさ」
「うん・・・それにいくら同じ姿だからって性格は全然違うし・・・」
 非道な性格の魔女の方を思い浮かべ、不快そうな顔をする。
「ここで行き止まりかな?」
 壁から水道管から流れ出る水へ視線を移す。
「仕方ないな、別のとこ行ってみるか」
「もう1つ、ルートがあったよね、そっちに行ってみよう」
 人形に乗ったまま分かれ道へ戻る。



「あわわ、魔女たちが巡回してるよ。隠れなきゃ」
 ハンドライトを手に侵入者がいないか見回りしている魔女を見つけ、クマラたちは壁際へ身を潜める。
「明りで分かっちゃいそうだからノクトビジョンで視界を確保ていこうっと」
 手にしているマグライトの明りをパチッと消す。
「一応、町といってもイルミンスール森がある場所だから、コンパスはあまり訳に立たないね。ルカのHCは容量的にやばそうだから手書きかな?」
 入ってきたところからの道を思い出しながらメモ帳にマップを書く。
「もう行ったみたい。急ごうっ」
「えぇ・・・」
 通っても大丈夫というふうに手招きするクマラにルカルカがこくりと静かに頷く。
「なるべく争いごとは避けなければな・・・」
「そうね、仮にも魔法学校の生徒だもの」
 淵と同じくルカルカも出来れば怪我をさせたくないと慎重に行動する。
「操られているわけじゃないんだろうけどさ。言葉で誘惑されて実験をしているうちに、本当に欲しくなったんだろうな・・・」
「その狂気にとり憑かれてちゃったのね・・・」
 エースの言葉に彼女は悲しそうに呟く。
「町がなくなればきっと正気に戻ってくれるさ」
「えぇ、そうなることを願うわ」
 早く魔女たちが普通の生活へ帰れるようにと思いながら通路を進む。
 一方、美羽たちも別のルートを探索している。
 ベルフラマントを羽織り、水気で湿った道を進む。
「滑らないように気をつけなきゃね」
「向こうに道があるみたいですけど、魔女が見張っていますね」
 ベアトリーチェがダークビジョンで薄暗い奥の方を軽く睨む。
「仕方ないわね、ちょっと眠ってもらってもらおうかな」
「俺が少し注意をひきつけるか」
 水路に入って魔女の変装をやめたカイは、自分の方へ注意を逸らそうとライトで影を作る。
「そこにいるのは誰!?―・・・あっ・・・・・・」
 影の方へぱっと振り返ったとたん、ヒプノシスの強烈な眠気に襲われた魔女は床へ倒れてしまう。
「仲間内だから出来ることですね」
 倒れている彼女をサーが見下ろす。
「その先にもう1人いますね」
 サーは水面へライトをちらつかせ、その隙にカイが光条兵器の柄で気絶させる。
「まだいそうだな」
 通路の角からエクスがちらりと奥の方を見る。
「警備しているってことは、やっぱり城へつながっているんしょうか?」
「おそらくそのようだな」
 首を傾げる睡蓮に頷いて言う。
「後、1時間くらいでパレードが始まるのか」
 あれから何分たったのだろうかとカイは携帯で時間を確認する。
「まだそれだけあると思っても、あっとゆう間にすぎてしまいますからね。急ぎましょう」
 エッツェルたちは焦りながらも慎重に城へつながっている道を探す。



「結構、警備が厳重ですねここも」
 ソニアは通路を見回し、どうやって魔女たちを気絶させようかと考える。
「この水路が城の地下へつながっているのなら、手薄なわけはないな・・・」
 動かず待機している彼女たちをグレンが軽く睨む。
「眠らせて通るのが一番か」
「誰か通路にいるわ!」
 ディテクトエビルで3人の存在に気づいた魔女が仲間たちを呼ぶ。
「うわっ、やべ!」
 彼女たちに見つかってしまい、魔法の直撃をくらわないようにナタクが身構える。
「水路のことも考えておくべきでしたね」
「これ以上騒がれると面倒だから眠ってもらおうぜ」
「少し甘くみていたか・・・」
 グレンとナタクはヒプノシスで眠らせるものの、追いかけられてしまう。
「げ、まだくるっ」
 捕まってたまるかと通路を逃げる。
「あ!見張りがいなくなったわ。フフフッ、いっそげー♪」
 今のうちに通ろうとルカルカたちが駆け足で通り抜ける。
「この上から行けるかもしれないな、クマラ先に行って見てくれないか?もしつながっていたら、床を2回踏んで教えてくれ」
「うん、分かった」
 エースに言われて天井の蓋を外した少年が、中央の扉の開閉を管理している部屋へ出た。
「あなた誰!?」
「おっオイラは・・・ちょっと下で警備してたんだよ」
「ふぅん、そうなの」
「(確か2回踏むんだっけ)」
 魔女たちの声にびくっとしながらも、トントンッと床を踏み鳴らしてエースたちに教える。
「つながっているようだな。パレードが始まる頃に入ろう」
「無理やり入るより、それがいいかも」
「皆ここにいたんだね?ここがそうなのかな」
 やっと城へつながっている場所を見つけた北都が生徒たちに声をかける。
「ここが城の地下につながっているの?」
「えぇ、そうよ」
 美羽と北都に聞かれたルカルカが頷く。
「分かったわ。ここは足りていそうだから私とベアはひとまず上へ戻るわね」
「気をつけろよ」
「うん、そっちもね」
 カイたちをその場に残し、美羽たち2人は急いで地上へ戻る。