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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

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「カナンに降り立ったのはいいが初っ端から救助とは……先が思いやられるな。ともあれ今回の相手は一国だ……しょうがないか」
 ぼやくように呟き、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、聖剣エクスカリバーを構えた。
 素早く、確実に片付けてしまおうと、恭司は考える。
 駆けるイノシシに近付くと、頭部に向かって、斬りつけた。
 肉の斬れる手ごたえはあるものの、真っ直ぐしか駆けれず、ぶつかることでしか止まることの出来ないイノシシの頭部は硬く、断ち切ることは出来ない。
 また、彼の手に反動で返って来る衝撃ほど、相手が衝撃を受けているようには見えなかった。
「一撃必殺、ってわけにはいかないか」
 聖剣エクスカリバーを構え直しながら、恭司は呟く。
 己に痛みを与えてきた相手――恭司を視界に捉えたイノシシは、大きく息を吸い込むと、火炎弾を吐き出してくる。
「そう簡単に喰らうか!」
 火炎弾を避けた恭司は再び、イノシシに向かって斬りかかる。
「西カナンでイノシシ猟ができるとは驚きだぜ」
 呟きながら、イノシシの注意を惹くために、暁 誠吾(あかつき・せいご)はそのイノシシに向けて、1発、アーミーショットガンの引鉄を引いた。
 狙いをつけたイノシシの傍に立つ恭司を初め、他にも前衛に立つ学生たちを巻き込まないために、普段ならバック・ショット(散弾)を使うところであるけれど、サボット・スラグ・ショット(主に狩猟に使われる1粒弾)に変えている。
 弾丸はイノシシの鼻先に当たった。
 斬られるだけでなく、何処からともなく撃たれた衝撃に、イノシシは首を巡らせる。
(普通のイノシシと体の構造が近ければ、イノシシは胴は厚い脂肪に覆われてることが多いから、脂肪のほぼ無い眉間や頭部が狙いどころだが……)
 そう考えて、首を巡らせるイノシシの眉間目掛けて、2発目を放った。
 弾丸は眉間へと向かうけれど、彼の想像以上に面の皮も厚いようで、貫くには至らない。
「何で俺が女悪魔なんかと……最悪だ。さっさとこの糞イノシシを倒してアスカと合流するぞ。足を引っ張ったら殺すからな……」
「何でバカラスと一緒に、ひどいわアスカ。ベルに命令しないでくれる〜? そっちこそ元殺し屋の腕前、鈍ってなきゃいいわね」
 師王 アスカ(しおう・あすか)にお願いされることで、2人だけで跡地へとやって来た蒼灯 鴉(そうひ・からす)オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は口喧嘩をしながら、イノシシの前へと現れた。
「こいつらより巨大なイノシシを相手にしてんだ。やってやるよ」
 鬼の力を覚醒させ、鴉は強力な力を得た。ただ、隙だらけになり、そこをイノシシは目をつけたようだ。
 彼に向かって、突進してくる。
「建物にぶつけたりや罠もいいけど、ぶつかって方向転換している奴よ、耐久力は強いはず……」
 オルベールは呟いた。
 その言葉が聞こえたか聞こえないかは分からないが、鴉は直前のところで避けて、イノシシを建物にぶつける。
「厚い装甲も貫くこいつの杭は痛いわよ?」
 ゆっくりと立ち上がり、振り返ったところをオルベールは構えたパイルバンカーから杭を打ち出した。
 狙いは、イノシシの目だ。
「――ッ!!」
 どんなに頑丈な頭部を持とうとも、目だけは違ったらしい。
 悲鳴にも似た叫び声を上げ、イノシシは見えないまま、駆け出した。
 ユニコーンの角らしきものが刃先となっている幻槍モノケロスという名の槍を鴉は上段に構える。
 そこから放ったのは、轟雷だ。
 イノシシの身体を電撃が駆け巡った。
「――ッ!」
 痛みに声を上げながらもイノシシは火炎弾を吐き出す。
 鴉は避けることはせず、強靭な精神力で以って火炎弾を耐えた。
 イノシシの懐に入り込むと、下から突き上げ、続けざまに特徴ある刃先を突き出し、爆炎を放つ。
 イノシシの身体が傾いていく。

 パートナーのエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)と共に陸路でカナンへと辿り着き、気付けば逸れてしまった緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、遠くから砂煙を発見したところを駆けつけてきた。
 イノシシへと立ち向かう学生たちの姿を見て、彼女もその輪に加わった。
 突進してくるイノシシから逃げるように見せかけて、輝夜は建物の壁際まで向かうと、己の幻影を作り出して、回避する。
 イノシシは輝夜に向かっているようであるが、所詮は幻影。その身をすり抜け、壁にぶつかった。
「ツェアライセン、おいで!」
 ぶつかったまま、なかなか立ち上がりそうにないイノシシを確認した輝夜は、フラワシを呼び出した。
 彼女の周りを漂うフラワシは、彼女の合図と共に、イノシシに向かって攻撃を繰り出した。
 コンジュラーである彼女にしか見えないフラワシの攻撃は、まるでカマイタチに斬り刻まれるかのように、イノシシの身を傷付けていく。
 痛みに失っていた意識を取り戻したイノシシは、方向を変え、再び輝夜に向かって、突進してきた。
 突進してくるイノシシに対し、無防備な姿を晒しているようにも見えたが、そうではない。
「行くのよ、ツェアライセン!」
 イノシシには見えないフラワシが、輝夜の指示どおり、立ち向かう。
 見えない攻撃を受けながらも突進したイノシシは再び壁へとぶつかった。

 宮殿用飛行翼で跡地へと着いた葉月 可憐(はづき・かれん)とパートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、上空から様子を窺っていた。
「……ちなみにスカートの下にはきちんとレギンスを穿いてますからね?」
「……え? 可憐、レギンスなんて穿いてきてたんですかっ!?」
 誰に告げるでもなく、可憐がぽつりと呟くと、アリスがそれを聞きとめ、驚く。
「あぅ……は、恥ずかしいのであんまりこっちを見ないでください〜!」
 様子を窺っている限りでは、頭上を見上げてくる者は居ないけれど、アリスは涙声でそう口にした。
 けれども飛んでいるうちに、各所で上がる砂煙の影響からか、細かな部分に砂塵が入ってしまった宮殿用飛行翼は、動作不良を起こして、奇怪な音を上げ、羽ばたきの動きが鈍くなってくる。
「やっぱり駄目ですか……」
「やっぱりダメでしたね」
 動作確認のためとはいえ、飛行手段を失った可憐は肩を落としつつ、下降し、地面へと降りた。
 アリスもそれに続く。
 通りに出ると、足止めされていないイノシシが1つの建物を狙っているのを見つけた。
 頑丈そうな建物の入り口付近に、人影がいくつか見える。
「件の村人たちみたいだねぇ」
「大変です! 助けに行きませんと!」
 駆け出す可憐にアリスが続く。駆けながら、可憐は光条兵器であるガトリングガンを構えた。
 射程範囲にイノシシを捉えると、可憐は引鉄を引く。
 放たれた弾はイノシシへと襲い掛かり、今まさに村人たちに向かって駆け出そうとしていたその足を止めた。
 その間に、可憐とアリスは、イノシシとマウロや村人たちの間に立ち、顔だけやや振り返って、彼らの味方であることを告げる。
「カナンに住む善良な方々に危害を加えるつもりなら、容赦はしませんよ?」
 辺りに邪念を抱いている存在や村人たちに害をなそうとする存在が居ないか確かめながら、イノシシに向かって言い放つと、両の手にそれぞれ魔道銃を構え直し、その引鉄を引いた。
 アリスも近付いてくる気配、害意がないかを気にしつつ、構えた魔銃モービッド・エンジェルから十字に砲火し、イノシシに痛みを与えていく。
 横の方から射撃による攻撃が飛んできた。
「手伝うよ!」
 告げて、ラスターハンドガンを構えながら、可憐たちの傍に立ったのはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。
「ファイアストームで焼き払ってくれるわ!」
 レキの後ろには、彼女のパートナーのミア・マハ(みあ・まは)も立つ。
「わらわも昔は無茶をしたものだが、無抵抗な一般人を狙って攻撃するなどと、そんな恥知らずな事はせぬわ。指示を出している者は余程性根の腐った奴のようじゃな。上も上なら下も下じゃ。そのような者に従う輩には容赦はせぬぞ」
 告げるとミアは賢人の杖を掲げ、炎の嵐を呼び出した。
 炎の嵐はイノシシを包み込み、背中などを焦がしていく。
 レキもラスターハンドガンを構え、狙いを定めると、イノシシの頭部目掛けて、引鉄を引いた。
 弾丸はイノシシの鼻先を貫き、痛みを与える。
 イノシシは、すぅ……と大きく息を吸い込んだかと思うと、反撃とばかりにレキ、そしてミアに火炎弾を吐き出してきた。
 咄嗟に避けても避け切れないその速さに火炎弾は2人の肩や腕へと当たって痛みを与える。勢いに、尻餅もついてしまった。
「いたた……」
 残り火を払いつつ、レキは立ち上がると、イノシシの対処をしやすくするには、親玉を先に倒すべきだと考える。
「喰らうが良いわ」
 ミアがイノシシに向かって再び炎の嵐を放ち、その嵐に包まれ、怯んでいる隙に、2人は統率を取る者を探して、駆け出した。