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リアクション
1.チャリティ前夜。
紡界 紺侍(つむがい・こんじ)からチャリティイベントに誘われた橘 美咲(たちばな・みさき)は、黙って紺侍の顔を見た。
「え、何スか?」
怪訝そうに言われても、変わらずじーっと。頭のてっぺんからつま先まで、見る。
この顔は、考えてない顔だ。
きょとんとした、ちょっとおばかな犬みたいな目で見つめ返してくるあたり。
――イベントのスケジュールとか段取りとか、考えてない顔だ!
――むしろ、『人が集まればいいっスよね!』とか思ってるだけよ、これ。
そうじゃないでしょ、と美咲は思う。
「違う……」
「へ?」
「違うのよ紺侍くん! やるべきことが!」
「へっ??」
ぐっと拳を握って、美咲は力説した。
「せっかく子供たちの為にって頑張ってるんだから! ちゃんと計画立てて成功させなきゃ!」
「えっ、あ、ハイ。すんません」
「私も一肌脱いであげるから! ほら作戦会議よ!」
とはいえ、大通りの真ん中で突っ立ってするわけにもいかない。
近くにケーキ屋さんがあったからそこでもいいかと思ったけれど、チラシ作成やイベント参加者の連絡先を整理しようとすると時間も場所もかかる。
「どこか落ち着いた場所が欲しいわね……」
とはいえ、美咲が住んでいる寮は男子禁制だし。
「紺侍くんの部屋は……散らかってそう」
「失礼っスね、綺麗ですよ」
「片付けできるの?」
「っつーか片付けるモンがないっス」
「…………」
いたたまれなくなりそうなので、この話は切り上げて。
「人形工房へ行きましょう」
「へ?」
「人形師さんと知り合いなんだよね? ならきっと貸してくれるだろうし!」
言いながら思いついた。そうだ、工房にはもう一人の主催者(と言うべきかお手伝いと言うべきか)、クロエが居る。前もって会っておきたい。
「そうと決まれば!」
「へい」
「ほら行くよ、やることはたくさんあるよ!」
「たくさんっスか」
「だって、チラシ用の写真選び、スケジュール管理、場所が足りなくなった時用に公園の使用許可の申請。ほら、たくさんでしょ?」
紺侍がうへ、という顔をした。
……まさか、
「嫌になってないよね?」
恐る恐る尋ねたけれど、
「なってないっスよ! むしろいい経験っつーか。いやめんどくせェとは思うけど」
大丈夫そうだった。後半は言わなくていい程度には正直だが。
ともあれ、やる気はありそうだし。
美咲だって手伝うつもり満々だし。
なんとかなる。というより、なんとかする。
「さぁ、頑張ろう!」
「うぃっス!」
*...***...*
美咲と紺侍によるチャリティ準備が行われる最中にヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は人形工房を訪れた。
「何をしているですか?」
「あァ、ヴァーナーさん。明日チャリティイベントがあるんスよ、それの準備っス」
「チャリティですか」
傍にあったチラシを見せてもらうと、なんだかとっても素敵そう。
「これ、ボクもおてつだいしていいですか?」
だから少しでも力になりたくて、申し出た。その申し出に、紺侍よりもクロエの顔がぱぁっと明るくなる。
「ヴァーナーおねぇちゃんも、おてつだいする?」
「するですよー。クロエちゃんもですか?」
「うん! それでね、いまからね、リンスにおにんぎょうのつくりかたをおしえてもらうところだったの」
「じゃあじゃあ、」
「ヴァーナーおねぇちゃんも、いっしょにつくろ!」
「はいですっ♪」
クロエの横にちょこんと座って、リンス・レイス(りんす・れいす)からの教えを待つ。
「二人に作れそうな人形っていうと……」
リンスは少し思案した後、
「タオルの猫とかどう?」
「タオルねこさんですか」
取り出された二枚のタオル。身体としっぽ、頭とお腹の型紙に合わせて切って、縫い合わせて。
「ボタンで目をつけてできあがり」
やってごらん、とボタンをつける前段階の猫を渡された。ちくちく縫う。
出来上がったのは15センチくらいの小さなぬいぐるみ。
「できたら、こんどはいちからね!」
「いちからつくるですよ! リンスおねえちゃん、おしえてくれてありがとうです」
ぺこりと頭を下げて、借りた型紙通りにタオルを切って、縫って、目をつけて。本職のリンスみたいにさらさらと作ることはできなかったけれど、その分丁寧に、気持ちを込めて作った。
「クロエちゃんのネコさん、かわいいです」
「ヴァーナーおねぇちゃんのねこさんはやさしそうね!」
二人で顔を見合わせて、ふふふと笑って。
「もっとつくるですよ!」
「つぎはかっこいいのをめざすわ!」
意気込んで、再び裁縫に戻る。
完成した猫のぬいぐるみを持って、ヴァーナーは帰途についた。
明日行われるというチャリティ。
上手く行くだろうか。上手く行くと良い。
「えがお、えがおは良いことです」
すてきなチャリティにするんだ。
それで、みんなのすてきな笑顔の写真を、紺侍に撮ってもらうんだ。
今からそれが楽しみで、自然に頬が緩んだ。
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