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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

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●15.事件前、事件中の背後状況について

 警視庁が巌郷会を捜査し、空京“環七”での調査結果と照らし合わせた結果、今回の事件の経緯はおおよそ次のようなものになる。





 “環七”東部地域の大がかりな暴走族取り締まり、及び北部の“空狂沫怒苦霊爾夷(クウキョウマッドクレイジー)”の壊滅とその直後の混乱及び警察の対応により、この界隈での暴走行為は激減。少なくとも、週末に“環七”を回って“ワル”“一番”を決めるという不良少年&少女達の傍迷惑な“ゲーム”は中断された。


 そんな中、地球・日本のとあるヤクザ組織「巌郷会」が、「シノギの一環として、パラミタ大陸にいる少年少女の〈契約者〉相手にドラッグを密売する」ことを企画。
 パラミタ大陸にいるクリーチャーには、人への高い幻覚作用と常習性を引き起こす成分を分泌するものがおり、それらを捕獲し、ドラッグ成分を抽出、精製、売りさばくことができれば大きな利益が上げられるのでは、との見通しが立てられる。
 目標となる市場は、地球からも比較的簡単に出入りできる空京の、風紀が少し乱れ気味の“環七”界隈が選ばれる。
 なお、ドラッグの“原料”にはシャンバラハイグリフォンが選定。


 空京“環七”へのドラッグ市場開拓プロジェクトは「ぶっとおし」(「ブツ」=「麻薬」・「とおし」=「投資」のダブルミーニング)という暗語で呼ばれ、そのプロジェクトのリーダーにはパラ実卒業生の若頭・幌向将佐(ほろむき・しょうすけ)、その補佐としてパラ実中退者の古座余助(こざ・よすけ)が設定される。
 実際の“現場”での作業は、空京“環七”の暴走族や不良少年などをスカウトし、彼らに従事させることが企画の早い段階で決定される。いざとなれば簡単に切り捨てられるようにするためである。
 また、指示系統は、
  幌向が古座に指示を出す
   →古座が“環七”の暴走族や不良少年に指示を出す
という形を取り、幌向が表に出てこないように注意が図られた。
 警察の手が及んでも、捜査の手を一度古座で止め、すぐ「巌郷会」本体に及ばせないようにするためである(必要であれば古座が自首し、「全部自分の一存でやった」と“供述”した上で警察署内で自殺する、という選択肢も存在した)。


 まず幌向は、表に出ないルート「闇の依頼サイト」というアングラなルートで「契約者」へ依頼を出し、「ドラッグ成分を分泌するクリーチャー」を確保する。今回は、シャンバラ大荒野の山岳部に生息するグリフォンの一種、シャンバラハイグリフォンの幼体を数頭捕獲を手配。
 古座は幌向から指示を受け、グリフォンの雛を「契約者」から受け取る。
 古座、捕らえたグリフォンの翼を削ぎ落とし、四肢の腱を切って動けなくした後、スパゲティ症候群よろしく小さな寝台に体を固定し、各種点滴を施して延命措置。大型のスーツケースにそれら「延命措置環境」を仕込んだものを数個口、シャンバラ大荒野から空京“環七”内に運び入れた。


 一方、幌向は密かに空京“環七”入りし、「巌郷会」が背後にいる運輸会社の事務所を立ち上げた。
 同時に北部の暴走族“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”を変装して自分の正体を隠しつつ接近、
「古座ってのが何かやりたがっている。何をしようとしてるかは分からんが、声かけられたら協力してやってくれ」
「このヤマが軌道に乗れば、お前さん達はビッグになれる」
と言い含め、丸め込みに成功。


 “環七”にて古座と幌向が合流。
 幌向、グリフォンの雛から絞り出した涙を薬にするためのマニュアルと設備(コンテナ内に理科の実験室程度の環境が整ったトレーラー)を提供。
 その後に、古座は“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”と合流してマニュアルとトレーラーを提供。
 “路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”、マニュアルに従ってドラッグの精製と、密売を開始。精製されてできたドラッグは、白い透明な粉末の形を取ることから“ザラメ”と呼ばれるようになった。
 グリフォンに落涙させる方法は、「その身を蝕む妄執」を使える者が毎回毎回内容の違う悪夢を施して慟哭の涙を流させる、というもの。見せる悪夢のシナリオは悪趣味な内容だった。


 “ザラメ”流通。
 効き方はアッパー系と呼ばれる、気分が爽快になって気力や体力がいくらでも湧き起こる、というもの。
 密売グループとなった“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”は、販売の際には徹底的な変装が義務づけられる。また、販路拡大に伴い、“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”の下にさらに密売人階層が作られるようになる。
 ある程度の上納金を古座に納めなければならないものの、“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”は経済的にやたら羽振りが良くなる。また、それを契機に対立する暴走族や非行グループへの攻撃と勢力の拡大を開始。抗争時には時として古座も首を突っ込んで暴れたりする。また、対立グループを“ザラメ”漬けにして服従させる事なども行った。
 抗争や“路王奴無頼蛇亜(ロードブライダー)”の勢力拡大の過程の中で、時折死人も出る。出た死体は「火術」で骨も残らないほどに焼却されたり、雲海の中に投げ捨てられられ、闇から闇に葬られた。


 “ザラメ”流通から約2ヶ月後、“ザラメ”の需要に対して供給量が足りなくなる。
 “ザラメ”常用者に禁断症状が出始める。禁断症状の中で「体内に無数の虫が蠢いている」という幻覚は比較的発生しやすいものだった。“ザラメ”常用者で禁断症状に陥った者の少なくない者達は、「体内の虫をまとめて焼き殺したい」という強い衝動にとらわれるようになり、結果、自分の体を自分で焼く“バースト”という行為が空京“環七”で見られるようになる。
 幌向、「シャンバラハイグリフォンは涙だけでなく、血液からもドラッグ成分が取れる」ことを突き止め、「闇の依頼サイト」に「シャンバラハイグリフォン捕獲/外傷はできるだけ無いように」と依頼を出す。同時にシャンバラ大荒野に赴き、その一画にある蛮族らの村の一画を借りて、成体グリフォンの血抜きをするための設備を整える。
 そして、
  a.「闇の依頼を受けた者がグリフォンの死体を蛮族の村へと持ち込む」
  b.「蛮族は死体を受け取り、グリフォンの死体から血を抜く」
  c.「抜いた血を古座が受け取りに行き、空京“環七”に持ち帰る」
  d.「グリフォンの血は“ザラメ”精製トレーラーに持ち込まれ、“ザラメ”精製過程を経て鈍い赤みを帯びた粉末になる」
  e.「グリフォンの血より精製されたドラッグは“アズキ”と呼ばれて密売される」
という状況が生まれた。


 “アズキ”“環七”に流通し始める。
 “アズキ”“ザラメ”に比べて不純物が多いので、効き目も短く、バッドトリップや悪い幻覚を見る事も多い。“バースト”さらに多発するようになる。
 空京警察環七中央署・少年犯罪担当の八街修史より「契約者」達に「事態収拾に協力してくれ」との依頼が出される。


 “依頼”を受けた「契約者」、事態収拾の為に奮戦。
 空京“環七”の状況は収束・鎮静化に向かい、以後の調査は地球・日本の警察に引き継がれた。






 なお、巌郷会に「シノギの一環として、パラミタ大陸にいる少年少女の〈契約者〉相手にドラッグを密売する」ことを提案してきた人間は、巌郷会外部の人間だという。
 ある日、「プロジェクト遂行」に必要な資料と携帯電話の番号が送りつけられ、電話をかけてみたら、
「資料をご覧頂けたようですね」
「正体は今申し上げる事は出来ませんが、巌郷会さんとはお近づきになりたいと思っている者です」
「送った資料は手土産のようなもの、どうかご検討、ご活用いただければと思います」
と、エフェクターを通した声で話してきた、とのことである。