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遅咲き桜と花祭り

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●第3章 花を愛で

 気になった屋台を全て食べて回った北都の2人は、遅咲きの桜の木々に囲まれた芝生広場へと足を運んでいた。
 座った北都の膝の上に、狼姿の昶の顎が載せられている。
「犬ってどうして顎を何かに乗せるんだろう」
「うん?」
 ぽつりと呟いた北都の言葉に、昶が視線を向けて訊ね返す。
「時々、余計に苦しいんじゃないかって角度で顎を乗せてる時があるから」
「さあな。ただ、人間が枕をするように、オレは顎を乗せるのが楽なんだよ」
「そう。それが楽なのなら、構わないよ」
 昶の答えに、北都は納得し、微笑みながらその頭を撫でた。
「今、幸せか?」
 不意に昶が頭を持ち上げ、北都を見上げながら訊ねた。
「え……」
 北都は言葉に詰まり、口を閉ざす。
 その様子を見て、昶は、即座に否定されない分は幸せなのだと感じ取り、答えなくても大丈夫だと言うように、再び、顎を膝へと乗せた。
(戦いばかりのこの世界で、偶にはこういう時間があるのもいいなぁ……)
 傍らに置いた菓子を1つ摘んで口へと運びながら、北都はふと思う。
(僕達は戦いをする為にここに居るんじゃない。新しい世界を切り開く為に居るんだ)
 ふわりと風が吹き、桜の花びらが2人を包み込むように舞い散る。
(冒険が出来るようになりますように……)

 友人、北都の姿やお茶をかける為のお釈迦様の仏像を探して、辺りをきょろきょろと見回す剛太郎の様子を、コーディリアは気にしていた。
 けれど、それよりも今日こそは彼の腕に組み付こうと考えていたために、そのタイミングを見計らうのに必死で、鼓動が早鐘を打っている。
「ありませんね……」
 屋台の並ぶ通りを抜けて、いつの間にやら、桜並木の中に居た。
 仏像を見つけられなかった剛太郎は、ぽつりと呟くと立ち止まり、やや後ろを歩いていたコーディリアの方へと振り返った。
「ここなら、他の人通りの邪魔にならないのであります」
 告げて、彼はコーディリアへと小さな包みを差し出した。
「開けてもよろしいですか?」
 受け取りながら、彼女が訊ねると、剛太郎は頷く。
 コーディリアがゆっくりと包みを開けると、中から、決して高価ではないけれど、剛太郎が彼女のためにと選んだのが分かるような、可愛いらしい花のネックレスが出てきた。
「可愛いです。ありがとうございます、剛太郎様」
 ネックレスを大事そうに、そして嬉しそうに両の手のひらで包み込んだコーディリアは勢いのままに、彼の腕へと抱きついた。

 何処からともなく着ぐるみを借りてきたブルタは、それを着込むと、美緒フェンリルの前へと躍り出た。
「あら、可愛らしい……クマ様?」
「タヌキに見える気もするが……」
 出てきた着ぐるみが何の動物だろうかと話し合う2人に、ブルタはアネモネの花を差し出した。
「ありがとうございます」
「ああ、ありがとう」
 嬉しそうに微笑んで受け取る美緒に対し、フェンリルは照れくさそうに受け取った。
 アネモネの花言葉は『儚い恋』。
 その花と、ブルタが後ほどそれぞれのパートナーへと送るつもりの報告書を合わせて見れば、面白いことになるかもしれない。
 着ぐるみの下で、見えないのをいいことに笑みを浮かべれば、彼は手を振りながら、その場を去っていった。