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図書館ボランティア

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図書館ボランティア

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 図書館の常連である柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)はパートナーの真田 幸村(さなだ・ゆきむら)を誘って、図書館ボランティアに参加していた。何をしようかと考えた末に、ボランティアをしつつ、読みたい本をキープできるカウンター業務を希望する。
 氷藍は神話や宗教に関する蔵書を読みながらカウンターで待機。幸村はそばで新刊のチェックを行っている。
「しかし誰も来ないなぁ」
 カウンターに離席中の札を立てると、本を返却がてら館内の見回りに出向いた。みると行列になっているカウンターがある。気付けば並んでるのが女性だけだった。
 さり気なく観察すると、担当しているのは同じボランティアのベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)だった。
「なんでここばかり」と思ったものの、ベルテハイトは次々と対応している。
 急いでカウンターに戻ると、幸村がライトノベルの新刊を手に震えていた。
「このような破廉恥な書物を図書館に置いて良いものでござろうか」
 氷藍が見れば、単なる水着だったり、キスシーンに過ぎない、極々当たり前のものだった。
「それは良いから、ちょっと聞きたいんだが、俺をどう思う?」と幸村に尋ねた。
「どうとは……、ご立派な主君でござる。武の腕前も志も言うことはござらん!」
「いや、そうじゃなくて、男として人間として、どう思うかってことなんだが」
 しばらく思い悩んでいたが、ハッと気付いた幸村は、氷藍の手を握り締めた。
「その意味でござったか。氷藍殿のためであれば、拙者、身も心も捧げる所存。夜伽なりなんなりとお命じ下され!」
 2人の異様なやり取りに、カウンターを遠巻きにヒソヒソ話をする利用者が数名。‘ウケ’だの‘セメ’だの、暗号らしき言葉も聞こえる。
「そうじゃなくってさ」とベルテハイトのところへ引っ張って行った。
「あいつと比べてどうだ?」
 幸村は2人を見比べる。
「どちらも負けず劣らずの‘はんさむ’でござるなぁ」
 カウンターに戻ると、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が座って待っていた。
「パラミタ大陸やシャンバラ王国に関する文献はあるかしら。あるだけ拝見したいのですけど」
「わかりました」
 最初の利用者のため、いくらか緊張しながらもリストを作り上げる。しかしリストを見た綾瀬の表情は変わらない。
「いかがですか?」 
「……悪くはないですね。でもこれと言って特徴はないわ。この程度なら自分で端末を叩いても作れるわね。それと……」
「それと?」
 綾瀬は氷藍に顔を近づける。その間はわずか数センチまで狭まった。
「もう少し笑顔を作った方が良いのでは無いかしら」
 黒いマスクはそのままに、口角が横に開いた。氷藍も必死で笑顔を作ろうとする。
「良いとこ……30点ね。ボランティアだからって、甘えてはいけませんわ。精々努力をすることね」
 ずばり言われてぐうの音も出なかった。しかし一朝一夕に笑顔ができるものでもない。
 仕方なく、先ほどと同じく本を読みながら、利用者を待つことにする。ただし幸村からは「氷藍殿、先ほどの件、いつでもおーけーでござる」と言われ続けることになった。



「あのー、この本はどこにあるんでしょうか?」
 椎名 真(しいな・まこと)双葉 京子(ふたば・きょうこ)が話しかけると、仮面ツァンダーが振り向いて驚く。もちろんボランティアの風森 巽(かぜもり・たつみ)なのだが。
 とっさに椎名真は身構え、双葉京子は真の背中に隠れるが、「ああ、これは……」と風森巽は何事もなく答えると行ってしまった。
「いろんな人がいるのねー」
「全くだ」
 お目当ての本とDVDが見つかった後も図書館を一回りする。
 触手で蔵書整理をしていたり、ボランティアながら本に夢中になっている集団があったりと話題に事欠かない。
「ここは図書館なんだよなぁ」
「ここは図書館なのよねぇ」
 2人して同時に同じような感想が口から漏れた。
 集めた資料を真が借りると、ツインパンダを思って帰路へと急いだ。



「微力ながら、お手伝いさせてください」
 カウンターで忙しく働く司書の女性に申し出たのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)
「助かるわ」と交替して、利用者のサポートに務めた。
 エースが図書の検索と開架図書の案内を行い、メシエが閉架からの蔵書の取り出しを担当する。そして利用者の中から女性にのみ、オリジナルの押し花しおりをプレゼントした。自然と利用者が多くなる。
「メシエ、ちょっと遅いんじゃないか?」
「すまない、つい蔵書に目が行ってしまって」
 いつの間にかお目当ての本を何冊も確保しているのを見て、エースが苦笑する。
「まぁ、良いさ。次はこれを頼む」
 そんな2人のところに、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)がやってきた。
「ちょっとお願いがあるんですけど……」



 開かずの書庫に対応しているメンバーは突入を繰り返すことで、いくらかの収穫を得ていた。
「3人くらいなら、ゴーレムの起動も遅くなるみたいなのよね。3人で1体ずつ削っていくくらいかな」
 これは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の提案。
「大きく改造されているんじゃなさそうだぜ。ただどこからか操作されている感じもあるが」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)サイコメトリの結果を説明する。
「その意味では、余計な干渉をしている魔道書は発見できませんでした」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は自らの予想が外れたことを述べた。
 そこで八塚 くらら(やつか・くらら)から、新たな提案があった。彼女はゴーレム見学をしたい! との本音を隠して、掃除や整理を申し出ていた。
「あのままでは、大きく動けば本や書庫に被害が及ぶのは避けられません。まずは手分けして本を運び出し、本棚を隅に避けるなどして、行動できる空間を作ってはどうですか?」
 試したところ、本を持ち出そうとするとゴーレムが起動するのが分かった。それならそれでと行動の妨げにならないように少しずつ隅の方へと移動させていく。次第に入り口近辺に大きなスペースが出来あがった。



「あの2人も誘ってみようか」
 美咲とリアトリスが観察しているのは、熱心に本の整理を行うセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)とそれに引っ張られて手伝う琳 鳳明(りん・ほうめい)
「えーっと、なんで私は図書館でボランティアしてるんだっけ? セラさんに付き合って蒼空学園の図書館に来ただけだったのに……。 まぁ、セラさんは妙に生き生きと作業してるからいいけど」
 琳鳳明の言葉通り、2人のボランティア参加は急きょセラフィーナが決めたものだった。
 今朝のセラフィーナはご機嫌だった。
「いつもは教導団の図書館を利用していますが、たまに違う学校の図書館を訪れると学校ごとに並んでいる本の傾向の違いが判って、これはこれで面白いですね。さて、何を借りていきましょうか?」
 手を伸ばした本の横に並ぶ一冊が目に入る。そこで機嫌が急降下した。
「これは、この書架とは違うジャンルの本ですよね? 付けられた整理番号も違いますし。せっかくです、元に戻しておきましょう」
 本来あるはずの棚に移るとそこでも。
「……あら、ここにも。利用したらちゃんと元の場所に戻してほしいですね」
 そして二度あることは三度あるの言葉通り。
「……。まぁ、乗りかかった船という事で」
 ボランティアの蔵書整理に琳鳳明共々参加を決めた。
「……ふぅ、これは本気を出す必要がありそうですね!」
 セラフィーナにとっては手馴れた作業だったが、琳鳳明には書架の配置図片手でも難しい。2人の作業量は、すぐに大きな差がついた。
「うわ、セラさんもう1ブロック終わってる!? 何かこっち見てる。『もう少しテキパキ動いて下さいね』って目で語ってる? が、頑張るからそんな目で見ないでっ」
 そんなコンビに美咲とリアトリスが声をかけた。
「ワタシは本の整理を……」と言うセラフィーナだったが、「返ってきた本は誰かが整理するとしても、返ってこない本は私達が助けなくちゃ!」と説得されて、回収班への参加を決めた。