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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

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第8章 改造開始

「よ〜し、それじゃ本日のメインイベント! はっじめるよ〜!」
 品評会が終わり、いよいよ本番「イコン魔改造」の時間である。
 改造のベースとなる要の離偉漸屠を用意し、魔改造に賛同した面々がそれぞれ自身のイコンと共にイコン用のパーツを持ち寄る。そして無謀な改造が始まるのだ。
 この場にいる誰もが、この行いを無茶、あるいは無謀と思っているに違いない。だがたとえそうであっても彼らはやるのだ。
 なぜならば、それが漢のロマンなのだから!

「それは……、さすがに無理だろうなぁ。つーか、俺でも止めるわ」
「え〜! そんなぁ〜!」
 苦笑いを浮かべるアレックスを前にして、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が不満そうに大声を張り上げた。
 彼女が不満を見せる理由を語るには、少しばかり時間をさかのぼらなければならない。

「イコンの魔改造なんて面白そうじゃない!」
 美羽がその噂を聞きつけたのは、シャンバラに点在するイコン製造プラント――キマクとヒラニプラの中間地点に位置する、その地下だった。
 彼女は天御柱学院が展開する作戦活動に参加したことがあり、その結果【イコン製造プラントアクセス権 レベル5】を獲得するに至ったという経緯がある。
「でもどうせ大人数でイコンを改造するなら、ちゃんとした設備があったほうがいいんじゃないかな……。みんなでキマクに集まってるみたいだし……」
 そこで彼女は、なんとイコン製造プラントを要たちのために開放しようと考えたのだ。もちろん、イコン製造に関わる重要な部分には触れさせないという条件であるが。
 その話をプラントの管理システムであるナイチンゲールに話してみたところ、返答は「ノー」だった。
『申し訳ございませんが、それについては許可いたしかねます』
「え〜!? どうして!? プラントの奥には立ち入らせないし、ここからの情報は外に出さないようにするけど?」
『そもそも私用で使うという時点で不可能です。イコンの改造それ自体は、おそらく遊びの領域を出ないものでしょうが、だからこそ私としては全力でそれを阻止しなければなりません』
 立体映像としてコミュニケーションをとるナイチンゲールは、その表情を変えないまま淡々と理由を述べていく。
 そもそもイコン製造プラントというものは、確かに存在自体は公になっているが、その細かい所在についてはほとんど機密扱いであり、一般の学生は所在地を知らないことになっている。まして美羽が招待しようとしているのはパラ実生。パラ実生は一般的には「略奪・暴行が当たり前の蛮族」という認識である。高島要という少女1人がそれに含まれるとは限らないが、それでもやはりパラ実生である以上、プラントの機密保持のためにも入れさせるわけにはいかない――今後のイコンをめぐる戦いにおいてそれなりの功績を挙げた上で、何かしら信頼されるような要素を見出すことができれば、あるいは立ち入りを認められるだろうが、残念ながら要にそのような要素は一辺たりとも無いのだ。
『その上、今現在は第二世代機開発の機密情報を取り扱っております。この情報が外に漏れるということは、場合によっては第二世代機の存在が敵に知られてしまいますし、何よりプラントの所在が露見してしまう可能性があります。そうなれば間違いなくここが戦場になるでしょう』
 美羽がやろうとしているのは、末端の存在である一般学生に対し、重要国家機密を漏洩させるも同然の行いである。ならば管理システムであるナイチンゲールとしては、美羽のそのような行いは断固として阻止しなければならない。
『これは以前にも申し上げましたが、私を造った2人のマスターの意思に反するようなことが行われないためにも、私を利用し続ける上で、アクセス権を持つ「仮のマスター」であるあなたの意思を、プログラムに従い確認する義務があります。もしあなたがマスターの意思に反することを行おうとするというのであれば、私は義務として、あなたのアクセス権を剥奪しなければならなくなります』
「……マジで?」
『これに関しては、私は本気です。私はあくまでも、人の持つ善悪という概念を持たない、命令さえあればそれを忠実に遂行する機械にすぎませんが……』
 機械であるからこそ、美羽が私用でプラントを開放しようとすることに関しては阻止する必要があるのだ。ナイチンゲールはそう締めくくった。

「イコン製造プラントなんてほとんど国家の持ち物だろ? だとすると政府のお偉いさん方の許可を得なきゃいけないんだろうし、そもそもそんなとこに蛮族同然の俺らを招待するっていうのは、ま、普通はできないよな」
「パラ実生全員がそうとは限らないはずだけど……」
「それもまあそうだろうが、他にも問題がある」
「というと?」
「……ムカつく話だが、今のシャンバラ大荒野には歓迎したくないお客さんがいるしな……」
「……恐竜騎士団」
 アレックスが最も危惧するのはまさにその点――恐竜騎士団にイコン製造プラントの存在が知られてしまうことだった。エリュシオンの侵略者が我が物顔で荒野をうろつきまわっているだけでも鬱陶しいのに、その上プラントのことまで知られたら……。
「仮に俺がプラントの管理者だとしたら……、機密保持のためにも、やってきたお客さんにはビームキャノンの花束をプレゼントするだろうな。でもって全員残らず消し炭にする。そうでもしなきゃ秘密なんて守れないだろうからな」
「……ちょっと過激すぎない?」
「これでも足りないくらいだよ、これに関してはな」
 今回の「首謀者」である要のパートナーとしては、あの暴走娘を製造プラントに入れさせることは断固として阻止しなければならない。その暴走娘と同じくパラ実生であるくせに、妙なところで真面目で常識人であるアレックスは、そう言って肩をすくめた。
「はぁ、しょうがないなぁ。それじゃ今回はここで改造するので我慢するよ」
 ナイチンゲールにさえ止められたのだ。ならば我慢するしかない。美羽は愛機である【イーグリット・アサルト(機体コード:CHP003A)】の【グラディウス】に、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と乗り込み、要の離偉漸屠の改造に取り掛かった。
「結局、プラントは使えずじまいですね」
「本気で改造するなら、それなりの設備があった方がいいと思ったんだけどね」
「まあ、今回は兵器運用とか新型機の作成とかじゃないんですし、あんまり細かいところは考えないでもいいと思いますよ?」
「……それもそうね」
 どちらかといえば美羽の暴走を抑えるブレーキ役であるベアトリーチェだが、その暴走を別の人間に止められたのであれば出番は無い。だから今回は適当になだめることにしたようだ。
「よし、それじゃ少しばかりやりますか!」
 早速美羽はグラディウスにイコン用のシールドを持たせ、それを要の離偉漸屠の前面と背面に取り付ける。
「……ん? シールドを前後に取り付けて、あれはどういうつもりなんだろ?」
「シールドでサンドイッチマンか? まあ防御面は大丈夫になるだろうが、カメラは問題ないんだろうか……?」
 残念ながら大問題である。
 コクピットから外の光景を見るためのカメラは、主にイコンの「目」の部分である。目の部分がメインカメラであり、これを攻撃されると視覚的情報が一気に失われてしまうのである。とはいえ、パラ実イコンにはメインカメラしか無いわけではなく、サブカメラも備わっている――これはイコンによって場所が異なるのだが、主に備わっているのは額のオブジェクト、あるいは後頭部である。
 つまりほとんど「顔から手足が生えた」外見のパラ実イコンに対し、シールドでサンドイッチマンをやらせるということは、少なくとも目の部分にシールドが来てしまい、前が見えなくなるということである。一応サブカメラはあるため、たかがメインカメラが使えなくなっただけだと言い切ることもできなくはないのだが……。
 そんな事情をよそにシールドが取り付けられた。その表面にはなぜか美羽の全身図がプリントされていたが。
「よし、これでアピール完了! 大きくするのもいいけど、私より目立つなんて許さないんだからね!」
 改造における美羽の目的は、改造がてら自身が目立つことを重視して「痛イコン」を作るということだった。ただ単に離偉漸屠の表面に自分の姿を塗るよりは、防御力アップを兼ねてシールドの表面に塗った方がいい。
 それがこの後有効活用されるかどうかは、かなり微妙だが……。

「要ちゃん、あなたはこれまでに一体何を言いましたか?」
「うん?」
 続いてやってきた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)に、要は突然そのようなことを言われた。
 もちろんそれだけでは意味がわからないため、要は質問の意味を聞き出す。
「いいですか要ちゃん、『改造する』……そんな言葉は使う必要が無いんです☆ なぜなら詩穂や詩穂たちの仲間は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時にはッ! 実際にイコンを改造しちゃってもう既に終わってるんですッ! だから使った事がありませんッ! 『改造した』なら使ってもいいよ♪」
「……って、なんですと〜〜〜〜〜!?」
 詩穂のその言葉の意味を探るべく、要は自身のイコンを見てみる。すると、離偉漸屠の頭のところに何かが取り付けられているのがわかった。
 それは詩穂が持ち込んだ琴音ロボ【チクワの磯辺揚げ】が所有していた「ちくわサーベル」だった。
「しかもただ頭に取り付けただけじゃありません☆ よく見てください。何と、エンジンに直結してるんです♪」
「おお〜〜〜!」
 文章で説明するのが少々難しいが、つまりはこうである。
 ちくわサーベルの先端を、離偉漸屠の背面エンジンに直結し、それをカーブさせて離偉漸屠の頭に乗せたのである。ちょうどサーベルのもう片方の先端がリーゼントと同じ方向を向くように、だ。
「にしても、これはなんていうか、サーベルのキャノン砲……?」
「……ちょっと要ちゃん、あなた……今、あのヘアースタイルとサーベルのこと、なんて言いました……?」
「へ?」
「離偉漸屠のヘアースタイルがサザエさんみたいですって? 頭部がネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲みたいでまさに直列4亀頭ですって?」
「え! そ……、そんなこと誰も言って……」
「あなた覚悟してきてる人ですよね……。イコンを改造しようってことは、逆に改造されることになるかもしれないという危険を常に覚悟してきてる人ってわけですよね……」
 ドドドドドドとかゴゴゴゴゴゴといった大掛かりな擬音語を背負い、詩穂が要に迫る。
「シリンダー、ピストンやバランスシャフトなどの数えきれない部品・ジャンクパーツを精密なバランスで配合し、特殊な改造を施して噴かすこと七日七晩!! そうすれば冷却水やエンジンオイルからは決して検出されず、なおかつ全てのパーツの効果も数倍……! さらにッ、エンジンマフラーから注入(食べ)ることでさらに数倍となる究極部品ドーピング直列4気筒ちくわエンジンの完成……!」
 それこそが、詩穂の主張するところの「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲」だそうだ。

 まったくもって、わけがわからないッ!

「えっと……、とりあえずスゴイというのはよくわかりました!」
「よろしい☆」
 形だけとはいえ納得したそぶりを見せると、詩穂はあっさりと引き下がった。
「しかし何で『アームストロング』って単語が2回も出てくるんだ。そんなに大事なのか、アームストロング……?」
 アレックスのそんなつぶやきは誰にも聞こえなかった。