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リアクション
16
解体した停電爆弾、時限爆弾、凍らせた手榴弾とナパーム弾を前に、椎名 真(しいな・まこと)と彼方 蒼(かなた・そう)は腕まくりをしていた。
蒼のイコプラを改造するため空大に来ていた二人は、アクリト・シーカーの許可を得て、爆弾の無効化に勤しんでいた。
つまり、爆弾は基樹の手から完全に離れたわけである。彼は今、アクリトと共に聴取を受けに行っていた。幸い、彼を犯人と疑った姫神 司やルネ・トワイライトの調べによりアリバイも証明された。爆弾集めに協力したという親戚に関しても、現在各学校にいることから容疑者リストからは外れた。
研究対象に関しては、変えざるを得ないだろうが、それも停学期間を終えてからの話だ。
真と蒼はまず、最も危険なナパーム弾の燃料を抜いた。同時に携帯電話に繋がった線を完全に切り離す。この大きさでどの程度の破壊力があるのかは、実験しなければ分からないが、機晶石を使っている以上、破壊力は地球の爆弾の比ではあるまい。
そして、核となる機晶石は別に保管することにした。これは停電爆弾も同様だ。
「ふむふむ。解体って、こうやるんですねぇ。勉強になりますぅ」
覗き込んでいた師王 アスカは、感心したように言った。蒼は彼女のスケッチブックを覗き込み、「わーっ」と声を上げた。
「ねーちゃん、すごいっ、すごいよっ。本物みたいだよっ」
「やだなぁ、蒼ちゃん、そんなに褒めないでよぉ」
アスカは解体の様子をスケッチすることを許可されていた。無論、写真も撮り録画もするのだが、それらは第一級の資料として大学が保管することになっている。
絵ならばそれほど問題あるまいと考えられたが、しかしアスカの絵は実に精密でよく描けていた。後でチェックしたアクリトが、結局それも取り上げたほどである。――ただし、記憶のみで描いた別の絵が、結局流出したのだが。
爆発してしまった地雷は、破片のみを回収。これは怪我人が出ているため、事件として検証することになっていた。
さて、残ったのは手榴弾と時限爆弾である。後者は自分も解除に立ち会っただけに、アスカとしても最も興味のある爆弾だ。
手榴弾はまずピンを戻し、火薬と機晶石を抜いた。時限爆弾も機晶石と時限信管を外した。
「これはどうするのぉ?」
よくぞ訊いてくれましたとばかりに、蒼はにっこり笑った。
「あのね、あのね、ここをこーしてこーやってー、かわりにコショウと紙吹雪をさぁーらさらぁー」
火薬と機晶石の代わりに、調理実習室から貰い受けた調味料と、びりびりに破った紙を入れた。
「あのね、これで安全なんだよっ。それでもし爆発しても、コショウ爆弾だから、くしゃんくしゃんするだけで大丈夫っ」
「それはそれで大変だけど……」
大勢の人々がくしゃみをしている様子を想像して、アスカは思わず笑ってしまった。
「じゃ、次いきまーすっ」
「って蒼っ、それは駄目!」
手榴弾に一掴みぶち込もうとしていた蒼を、真は慌てて止めた。
「小麦粉なんか入れたら、場所によっては粉塵爆発起こすよ!」
蒼は首を傾げた。
「コショウはいいのに、小麦粉だめなの? 何で?」
「何ででも」
蒼は頬を膨らませた。
――むずかしいことは、いっつも教えてくれないんだから。にーちゃんのばかっ。……あ、今のなしっ。なしだからねっ。
小麦粉とコショウに塗れる二人は、どう見ても爆弾というよりお料理を初めてする兄弟のようだとアスカは思った。
「メリッサ・ゴードンとマックス・ハロウェイ……」
世 羅儀はビデオに映っていた二人の画像を、ダリル・ガイザックにチェックしてもらった。盗難時には一切姿を残さなかった彼らも、ナパーム弾を講堂に仕掛けた後の戦いではしっかり顔を撮られていた。
メリッサは地球人、マックスはシャンバラ人で、盗難、建造物破壊の前歴がいくつもあった。ただし、逮捕歴はない。
この二人と、捕まった空京学生のアイザック・ストーンとウィリアム・ニコルソンにどんな繋がりがあるのか、まだ分かっていない。騎沙良 詩穂がサイコメトリした人物はウィリアムらしいが、二人は一切の黙秘を貫き通しているという。
ダリルはノートパソコンを閉じて言った。
「学生たちが情報を流し、この二人がそれに乗った……? 違和感があるな……」
「他の犯人にしても、妙じゃないか? 奴らが一つのグループとは思えないんだけどな」
羅儀がそれに応えた。
「――他に主犯がいる?」
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