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第四章 事件は海辺で起きてるんだ!


「はい」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)から手渡された二丁の水鉄砲を見て、怪訝な顔をした。
「これは、まさか……」
「はい、水鉄砲バトル、開始!」
「なっ……」
詳しい説明もないまま、セレンフィリティは容赦なくセレアナの顔面めがけて水鉄砲を撃ってきた。
「っ!」
それをすんでのところでかわし、体勢を低くしたかと思うと、セレアナは水鉄砲を構えた。
「おっと!」
セレアナから距離を取ったセレンティアは、楽しそうに笑った。
「すっかりやる気じゃない、セレアナ」
「撃たれっぱなしというのは性にあわないのよ」
「そうこなくっちゃ!」
お互い二丁銃を構えなおし、タイミングを見計らって二人は飛び出した。
時には海の水をすくって相手が油断した隙を狙ったり、砂を蹴り上げて視界を遮ったりと、徐々に攻防が激しくなっていく中。
「そこの、ツインテールのお嬢さーん!」
ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が軽やかな足取りで二人の間……若干、セレンフィリティ寄りに入った。
が、ここは戦場なのである。
「ぶへぼっ!」
互いを狙っていた二人の水鉄砲から水が発射され……、それは当然間に入ってきたハインリヒに命中した。
「あっ……」
全身水浸しになったハインリヒを見て、セレアナはさすがにまずいと思ったのか、水鉄砲をおろした。しかし、
「隙ありっ!」
「わっ!」
セレンフィリティは容赦なく水鉄砲を連射し、
「ごめんねっ! 今日は海開きの初日ってことで、大目に見て!」
と、ハインリヒに言いつつ、何気に彼を盾に攻撃の手は緩めない。
「や、役に立つんだったら……ぶっ、まあ、いいけど、げふっ、この後、がふっ、オレと、ひと夏の」
果敢にも水鉄砲の攻撃を受けながらも、セレンフィリティを誘おうとするのはナンパ根性のなせる業か。
(あああ……パステルブルーのビキニと、白のビキニの二人がオレを取り合ってる……!)
実際にはいい盾……いや、壁……にされているのだが、なかなかの水圧を連射され、ヘロヘロになっているハインリヒにはそう見えたのである。
と、そこへ。
「見〜つ〜け〜た〜わ〜よ〜」
どすどすと足音荒く近寄ってきたのは、天津亜衣(あまつ・あい)である。
「ナンパを止めようとしたパートナーをロープでぐるぐる巻きにしてトイレに閉じ込めたあげく、ドアに『故障中』の張り紙を張って人払いさせるとか……あんた、何様よぉおおお!」
地響きのような怒号と、目に見えそうな覇気に、水鉄砲を打ち合っていた二人も手を止めた。
「今度という今度は絶対に許さないんだからねッ! とっ捕まえて半殺しにしてやる! ……あれ?」
ハインリヒに近づいた亜衣は、彼が全身水浸しで気絶していることに気づいた。
「もしもーし? ……返答がない」
「あ、あの〜。あたしたち、彼と一緒に遊んでたんだけど……。ちょっと、彼、遊び疲れちゃったみたいなんだよね」
「ちょっ、セレン」
「しっ」
異議を唱えようとしたセレアナを黙らせ、セレンティアはテヘッと笑った。
「私たちもそろそろ休もうとしてたところだし……。知り合いならあと頼んじゃってもいいかな?」
「え……、はあ。どっちみち天誅を加えるつもりだったから、それは別に……」
「じゃっ、よろしくっ!」
言うが早いか、セレアナの腕をつかんだセレンティアは脱兎の如く二人の前から姿を消した。
「行っちゃった……。まあ、いいわ。気絶してるならそれはそれで……無抵抗だもんね……」
亜衣はにっこり笑った。
現場近くを歩いていた者は、後にこう証言している。
「急に寒気がしたと思ったら、海辺にいた人が騒ぎ出して。行ったらロープでぐるぐる巻きにされて、額に『故障中』って張り紙を張られた男の人が浮いていたんですよ」、と。



ところ変わって、すっかり運命の人探しをする気力を失くした愛美は、観戦席でガリガリ君を食べていた。
今コートにいるのは、新たにビーチバレーに参加した、銀星七緒(ぎんせい・ななお)ルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)のペアと、買出しから戻ってきたレキと桐子のペアである。
スポーツ万能なレキが強力なアタックを決めたとき、事件は起こった。
「きゃ……っ」
なんと、受けようとしたルクシィの水着がはだけてしまったのである。
「っ!」
パートナーの七緒が超感覚を用い、公衆の面前にさらされる前にルクシィの胸を隠すも、つい焦って力が入ったのか、
「ぁっ……ナオ…君……」
どこか切ないルクシィの声に、七緒は精神感応で補欠としてロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)絹織甲斐子(きぬおり・かいこ)を呼んだ。
「あとは頼む」
慌ててルクシィをつれてシャワー室へと向かった七緒を見送り、呼び出された二人は呆然としている面々に笑いかけた。
「お騒がせして悪いねぇ……そんじゃ、ここからはあたし達の番さね」
「よろしく……」
なかなかに強力な対戦相手によって、レキ・桐子ペアは得点をひっくり返されてしまうのだった。