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【ザナドゥ魔戦記】芸術に灯る魂(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】芸術に灯る魂(第1回/全2回)

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第2章 魔族とヒト 1

「うっわー! うわっ! うわー! なんだこれー!」
「ガッチョンガッチョン言ってるー!」
 広場の中心にある砂場で音を鳴らして歩くイコプラを前に、魔族の子供たちがはしゃいでいた。そんな彼らに向けてイコプラを動かして見せるのは、御弾 知恵子(みたま・ちえこ)だった。
「知恵子ねーちゃん! これ、僕たちで遊んでいーのー?」
「ああ。ただし、雑に扱って壊しちまうんじゃないよ? オモチャだって心はあるんだ。大切に扱ってやりな」
「わーい!」
 知恵子から許可を得た魔族の子供たちが、イコプラを手に走りだしていった。まるで飛行船のようにブーンと声をあげてはしゃぎ回る子供たちは、それを囲んでキャッキャとはしゃいでいる。
「へへっ……やっぱ子供だとたんじゅんなもんだな! すーぐ楽しんでやがる」
「なに言ってんだか。あんただって子供だろ?」
 鈍色の金属光沢が光るポンチョが喋ると、知恵子は呆れた声を返した。
 ポンチョの名は四番型魔装 帝(よんばんがたまそう・みかど)。たいそうな名前がついてはいるものの、まだ魔鎧となって日の浅いお子様の魔鎧である。なんでも男の魔鎧になるのが嫌で脱走した代物らしいのだが、今となっては『おハジキのチエ』と名高い――といっても、自称であるが――知恵子のもとで大人しくパートナーとなっている。
「いや、それにしても面白いオモチャですなー。これは一体、どこで……?」
「この間、地上近くで拾ったのさ。パイモン様たちの地上侵略があっただろ? そのときに偶然こちら側に入って来たんじゃないかね?」
 子供の魔族たちの親であろう。壮年の魔族に話しかけられて、知恵子は答える。
 その顔が少しだけ憮然としているのは、彼女自身はこんな場所でのほほんと遊んでいるのがさほど好きではないということだった。というのも、そもそもイコプラを魔族の子供たちに教えようと言い出したのは帝である。
「だって、こっちのせかいにイコプラがないのはたいくつだろー? この街だったら、もしかしたらおもしろいイコプラの改造ができるかもしれないじゃないかー」
 ――とは、彼の弁であり、
「はいはい」
 知恵子は仕方ないといったため息をこぼして、手伝ってやってるのだった。
 帝だけではなく、魔鎧の子供までお守りになるとは思っていなかったが……まあ、いいだろう。どちらにせよ、連中の生活を見学するつもりではあったのだ。そのついでと思えば、悪くはない。
「ザナドゥ騎士、ドルヴァゴール参上だー! てやー!」
「ぐわー、や〜ら〜れ〜た〜」
「…………」
 そして、いつどこにいても子供は呑気だと、彼女は思うのだった。



 ガッシャーン! と、けたたましい音が鳴った。入れようとしていた茶葉は散々に散らばり、食器が床に転がる。
「ごごごごめんなさい! すぐに拭いて新しいお茶を入れなおさせていただきますぅ!」
「は、はあ…………」
 アドラマリア・ジャバウォック(あどらまりあ・じゃばうぉっく)は慌てて食器を片づけて次の茶葉を取りに戻った。台所のほうでもなにやら激しい物音と悲鳴が聞こえてくる。緊張してパニックになっているのか? ひどい慌てようだった。
 そんなアドラマリアにもてなされるのは、何気なくアムトーシスへとやってきた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)
 そして二人がいるのは彼女の営むブティックの奥だった。表に閉店の看板が出されているため、いまは客が一人もおらず静かなものである。
「それにしても…………本当、よく似てるわよねぇ。本当に血が繋がってるわけじゃないの?」
「本当ですよ。初めて会いましたよ、あの人とは」
 ベファーナは顔をしかめて、しつこいなといった顔になった。二人が目をやるのはやはり台所のアドラマリアである。
 彼女は魔族で、アムトーシスでブティックを営んでいて、そして――ベファーナと瓜二つだった。
 色々と疑いはあるが、吸血鬼と悪魔では関係はないのか?
 ――まあ、いずれにしてもリナリエッタにとってはどうでもいいことだ。面白い人ではあるし、付き合ってみるのも悪くない。勢いに任せて契約してしまったのも、そんな簡単な性格をしているリナリエッタだからこそだった。
 二人のもとにアドラマリアが戻ってくる。茶葉やお茶菓子を乗せたトレーを持つ手がプルプルと震えていたが、なんとか無事に用意することができた。
「ところで……」
 お茶をぐいっと酒のように飲みながら、リナリエッタが切り出す。
「はい?」
「この街じゃあ、みんなこうしてお店を出してるの?」
「まさか。そんなわけないですよ」
 アドラマリアは目の前で手を振った。
「個人の趣味で芸術品を製作してる人、お店を構えて美術品で商売してる人、工房を構えてる人…………この街はたくさんの『芸術家』さんで溢れてますよ」
「芸術が経済と社会の一体系なんだねぇ。ふぅん……面白いよ」
 ベファーナは微笑を浮かべて外を見た。同じように、リナリエッタも街の様子を眺める。
 確かに街には様々な『芸術家』がいるように思えた。路上で芸を披露する者もいれば、自分の作った芸術品を売買する者もいる。賑やかなその様子は、地上で見るものとさほど変わりなく思えた。
「魔族は魂を利用するのでしょう? 魂を抜いた肉体はどうされるんでしょうかねぇ。そのままにしておくのはちょっともったいないと思います」
「魂を扱える魔族なんて、私たちみたいな下級魔族にはそうそういませんよ。それに、芸術に魂を利用するのはよっぽどです。私だって……自分の服に魂を使うのは……嫌ですから」
「へぇ〜、珍しいんだね」
「そ、そんなことないです。魂は魔族にとって『名誉と階級の証』です。別に芸術に利用する必要なんて……ないんですから」
 アドラマリアの目は遠いところを見ていた。
 それは、地上の征服を目指す魔族たちの戦いを見ているのか? あるいはこの芸術の街か? リナリエッタには分からない。
(まぁ……どっちにしたって、私はいつでもイケメンの味方よぉ。ふふっ)
 ほほ笑みながら彼女はお茶菓子に手を伸ばす。口の中に広がったスコーンの香りは、豊かな乳白の甘みだった。