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パラミタ百物語

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パラミタ百物語

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第伍話 螺旋の怪
 
 
 
「カイダンだよね。僕の話を聞いてよー」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が、立川るるに続いてとことこと前に出てきた。
「螺旋の話。
 螺旋っていうのは、知っての通り、真ん中に柱が通っててその周りをぐるぐるーってなってるもの。
 全部の段を支えなきゃいけないから、柱は丈夫で頑丈でなきゃだめなんだ!
 だから鉄骨製のものが多いんだね。
 面積的には他のと比べて一番省スペースなんだよ。
 非常用が多いけど、見た目もよくて人気もあるみたいだね。
 おしゃれな雑誌で撮影セットに使われてるのを見たことがあるよ。
 そして僕デザインのがこんな感じ!」
 そう言って、ラピス・ラズリがぱらみたがくしゅうちょうを開いた。会場のあちこちから、絹を切り裂くような悲鳴がわき起こる。そこには、見るもおぞましいい奇っ怪な二重螺旋の魔法陣にも似た模様が描かれていたのだった。
「螺旋構造を持つ巻き貝がモチーフだよ!
 螺旋の外周に滑り台を併設したんだ。
 見た目だけでなく、機能性も重視してるのがポイント!
 いいよね、螺旋階段。
 これで、僕の話は終わり♪」
 ふっと、ラピス・ラズリが吹き消す前に、蝋燭の炎がしゅっと消えた。
「うううっ、こ、怖い……!?」
「いや、怖くないだろ」
 怖がる気満々だったジーノ・アルベルトがちょっと戸惑うところへ、すかさずクロイス・シドが言った。暗くて、画伯の絵はよく見えなかったらしい。
 同様に、レリウス・アイゼンヴォルフたちも絵ははっきりとは見なかったようだ。
「うん、確かに、オフザケイベントのようですね」
「ええっと、まあな……」
 妙に納得するレリウス・アイゼンヴォルフに、ハイラル・ヘイルがちょっと困ったように言った。
 
 
第陸話 噛み男の怪
 
 
 
「さて、今日、俺が用意した怪談なんですが……。皆さん、『噛み男』って、知ってますか?」
 前に進み出た鬼龍貴仁が語り始めた。
 いったいなんの妖怪だと、話を聞いていた一同が首をかしげる。
「なんでも、地球のアメリカ版カマイタチみたいなものらしいんですけどね?
 ここパラミタでもいるんですよ。もっとも、性質はこっちの方が悪いですが。
 姿を見せずに、道行く人に突然噛みついてくるんです。
 いやあ、酷いですよ、腕や脚にしっかりと噛み痕が残りますから。それこそ、運が悪いとそのまま肉を噛みちぎられてしまうそうですから。
 もしそうなったときは、噛み男は食い千切った肉をいつまでも口の中でくちゃくちゃと咀嚼しているんだそうです。その口からは、真っ赤な血が滴り落ちています。
 そして、それを見てしまった人間にむかって、再び真っ赤な口を大きく開けて襲いかかってくるんです。いつまでも、いつまでも……。
 俺は、たまたまその『噛み男』に遭遇したので、そのときのことを話させてもらいますね。
 ……アレは、俺がパラミタに来て間もないころ、ちょっとした依頼をすませて、帰路に着いてるときでした……。
 あのころはまだ、依頼に慣れてなったんですよね。それで、外が暗くなるまでかかってしまいまして……。
 パートナーと二人、今日も疲れたとか言いつつ、歩いてたんですよ……。
 もちろん、疲れてる上に歩いてたので、口数も少なくなっていきます。
 ……何も喋らなくなって、三十分位経ったときでしょうかねえ……。
 何も音がしないはずなのに、後ろから、何か変な音が聞こえるんですよ……」
 シーンと静まりかえった広間に、微かに何か口を鳴らして咀嚼しているような音が微かに響いた。
 えっという感じで、会場がざわめく。
「それは、『クチャ…クチャ…』っと……。何か、柔らかい物を咀嚼するような音が……。
 振り返ってみると……そこには……。
 っておや?
 ……俺が話してたからでしょうか? ここに来てるみたいですね……。
 ほら、ジーノさんの後ろに!」
 突然大声を出して、鬼龍貴仁が、柳玄氷藍の前に座っていたジーノ・アルベルトを指さした。
「ひー!」
 ジーノ・アルベルトと柳玄氷藍が同時に飛びあがって驚いた。あまりに驚いたので、その拍子に柳玄氷藍が口の中のガムと一緒に舌を噛んでしまった。
「あいたたたたたたっ……」
 あわてて開いた口から溢れ出た真っ赤な血が滴り落ちる。
……血、出てるな……。あがっ!? あがあがががかが……」
 あわててた柳玄氷藍だったが、あわてすぎてもともと弱くなっていた顎がみごとに外れてしまった。
「ち、血が……。ふうっ……」
 暗闇の中、至近距離でそれを見たジーノ・アルベルトが泡を吹いてひっくり返る。
 驚いた柳玄氷藍が、あわててその場から逃げだそうとした。
『うわっ、本当に血だらけの女が……。く、来るなあ!!』
 思わず振り返ってその顔を見てしまった木曾義仲が、なぜか携帯していた教科書類を次々に柳玄氷藍にむかって投げつけた。
 その一つが彼女の顎にクリーンヒットした。
 幸いなことに、その衝撃で運よく外れていた顎が填まった。
「ぢ、ぢごでず。ぢだがんぢゃずだのー」
 必死に、柳玄氷藍が弁明する。
「やれやれ、人騒がせですね」
 香住 火藍(かすみ・からん)が、ヒールで柳玄氷藍の傷を治してやりながら言った。