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善悪の彼岸

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善悪の彼岸

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★エピローグ



「自分はジャスティシアのマーゼン・クロッシュナーです」
 建物の陰から姿を現し、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)はミュラーの前に立った。
 竜の涙を盗まれた時の保険で、彼はエリザの傍にいたのだが、結果として、ミュラーが盗んだとは言い難い済んだ事実を迎えてしまっていた。
 だが、こうして前に立って、言わざるを得ない。
「本来ならば、竜の涙をまんまと盗み出した貴様の前でいろいろとしたかったのだが……ふう……やれやれだな」
「……」
 ミュラーは黙ってマーゼンを睨みつけた。
「ただ、これだけは覚えておけ。貴様が逃げ続けるのなら、被害者の誰かが貴様の代わりにエリザを狙う事は充分ありえる話だ。ベッケンバウアーの恋人のようにな……貴様はその時、後悔せずにいられるかな?」
「ふ……ご忠告ありがたく頂戴する、判官殿。だけど俺は、もう後悔は済ませてある……」
 そのミュラーの憑き物が落ちたような表情が、全てだった。

 マーゼンと入れ替わりでやってきたのは唯斗だった。
「エリザの手術は成功したのだろう。ならば、自首してはくれまいか?」
「やれやれ……。俺なんか小物より、ヴィシャスみたいな大物を狙った方がいいんじゃないか?」
 あの後、ヴィシャスの悪徳ぶりを探ろうとした面々により、その黒い商人ぶりが白昼の元となり、昼下がりのニュースでもいの一番に伝えられるくらいだ。
 ヴィシャスが多くの被害者を生むような悪徳商売は、カモフラージュだったのだ。
 訴えられて金を払えば済む程度ですませ続け、本命をひた隠しし続けた。
 それは、ヴィシャスらしからぬクリーンな仕入れと卸と、その天秤のバランスのらしからぬ悪さから見え始めたもう1つの商売。
「だとしても、ミュラー。あの時の行いは脅迫だ。それは悪事。不器用な俺には……それが見過ごせない」
「……フゥ……」
 ミュラーは唯斗に手を差し出した。
 が、次の瞬間、服の裾から勢いよくワイヤーか何かの類が飛び出したかと思うと、ビルの屋上にがっちり引っ掛かり、猛スピードで上昇していった。
「ク……やられた……ッ!」



 ――悪いが、俺は捕まらない。
 ――このまま義賊として、このまま自由な身で、苦しみも後悔もしていくのさ。
 ――カールハインツのように善悪の彼岸を求めたりはしない。
 ――俺は俺なりに、全てを受け入れる覚悟があるのさ。




(お終い)



担当マスターより

▼担当マスター

せく

▼マスターコメント

皆様、お疲れ様でした。
今回で5作目と相成りました、せくです。

去る3月11日の震災の影響で、実に5ヶ月振りの皆様との共同作業となりました。
新人が更に新人になって帰ってきてしまいましたが、本当に、本当に、再び皆様と会えて、嬉しく思います。

それでは、楽しんでいただけますよう願いながら、これをマスターコメントとして、この項を埋めさせていただきます。

また会える日を心からお待ちしています。
それでは、失礼します。