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パラミタ自由研究

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パラミタ自由研究

リアクション

 

そのころ、百合園女学院では……

 
 
「今日もアイスのあたりは出なかった、終わり……。やったにゃー、宿題終わったにゃー」
 イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)が、ばんにゃーいをする。
「本当? よかったねー」
 その台詞を聞いて、暇潰しにアイスのはずれ棒を積みあげてペン立てを作っていた秋月 葵(あきづき・あおい)がほっと安心する。
 なにしろ、イングリット・ローゼンベルグは、究極宿題をしない子なのである。
 本人はサボる気は全然ないのだが、三日で宿題のあることを忘れてしまうため、夏休み中に十三回ほど綺麗に忘れてしまったくらいだ。
 去年の夏休みの宿題は、最終日に秋月葵たちが徹夜で手伝わされてなんとか完成している。今年もその悪夢を見ることだけは避けるために、早めに宿題をすべて終わらせた秋月葵が、つきっきりでドリルなどは終わらせていた。
 だが、問題は自由研究である。
 イングリット・ローゼンベルグの自由研究のテーマは、アイスのあたりがどの程度の確率であるのかだった。100本のアイスを食べて、あたりがどの程度の確率であったのかを秋月葵に計算してもらうのだ。そのため、毎日、秋月葵に二〜三本のアイスを買ってもらっていた。なんだか、うまく欺されて、体よくアイスを買ってもらうよ作戦に引っ掛かった気もするが、もう終わってしまった物は仕方ない。
「ええと、それで、あたりは何本あったんだもん?」
「四本にゃ〜」
 両手に二本ずつ「あたり」と書いてあるアイスのバーをV字型に持ってイングリット・ローゼンベルグが答えた。
「それじゃ、1/25だよね」
「1/4じゃないのかにゃー?」
「1/25だよ」
 不思議そうに聞き返すイングリット・ローゼンベルグに、秋月葵が強く言い返した。
「それにしても、その日記、毎日同じことしか書いてないじゃない」
 毎日、同じ言葉のコピペで埋め尽くされている日記を見て、秋月葵がちょっと呆れた。
「違うにゃー、ちゃんと4日だけ、『今日はあたりが出たー!!』って書いてあるのにゃー」
 イングリット・ローゼンベルグが反論する。
「はいはい。そうだ、日記のついでに、このペン立ても提出していいんだもん。持っていきなさいよね」
 このままでは赤点だと思った秋月葵が、自分が作ったペン立てをイングリット・ローゼンベルグにあげた。こんな中身のない研究よりは、現物のあるペン立ての方が採点は高いだろう。
「わーい、じゃあ、あたりでアイスもらってくるにゃー。半分は、イングリットが葵に奢ってあげるにゃー」
 そう言うと、イングリット・ローゼンベルグはアイスのあたり棒を高々とかざしながら走っていった。
「奢りって、元のアイス買ったの、全部あたしなんだもん……」
 なんだかいろいろと割り切れない秋月葵であった。
 
    ★    ★    ★
 
「えほんがいいですぅ〜♪ それもお、とびだすやつですぅ♪」
 用意した白い絵本を掲げてフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が叫んだ。
『いいですね、自由研究はそれにしましょう』
 立木 胡桃(たつき・くるみ)が、そうホワイトボードに書いて賛成した。
「じゃ、自由研究はそれにけってーだもん。よおーしっ、始めようかぁ
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)の号令一下、三人は協力して飛び出す絵本作りを始めた。
「ええとね、もふもふのないこがね、もふもふをさがしてたびにでるのー」
 ストーリー担当のフランカ・マキャフリーが、だいたいのお話をその場で作って語り始めた。
「さいしょのもふもふは……、ええっと……、しろくまさーん♪ でもねでもね、いじわるだからわけてくれないの。ひどいから、ばりかんもったせいぎのみかたが、もっふもっふをかりとってくれるのだけれど、でもそれはすでにもふもふじゃなくなっていたのー。それで、またたびにでるのー。こんどのもふもふは、しっぽもふもふのおねーちゃんー。でも、それってごせんぞさまだっからきえちゃうのー。つぎはね、つぎはね、かめんのもふもふさんなの。でも、うそつきだったから、ほんとはもふもふもじゃないのー。それでえ、さいごに、りすもふもふさんががでてくるのー。でねでね、もふもふをはずすことができないから、いっしょにもふもふにくるまってめでたしめでたしなのー」
 立木胡桃の尻尾にくるまってもふもふしながら、フランカ・マキャフリーがなんとかお話を作りあげた。
 解読にずいぶんと手間がかかりそうではあるが、なんとかストーリーが決まったので、三人は制作に取りかかっていった。
「フランカちゃん。もふもふしてないで絵を描くの手伝って〜」
 飛び出す部分の絵を描きながら、ミーナ・リンドバーグがフランカ・マキャフリーに言った。
「はーい」
 しっかりと左手で立木胡桃の尻尾をつかみながら、フランカ・マキャフリーが右手だけで前衛的な背景を絵本に描いていった。
「胡桃ったら、凄く器用なんだね」
 できあがったパーツを絶妙の角度で絵本に貼りつけていく立木胡桃を見て、ミーナ・リンドバーグが感心した。
 飛び出す絵本というのは、パーツを貼りつける角度が非常に微妙で難しいものである。うっかりすると本を閉じられなくなったり、本が開けても平らにならなかったりする。さらに、そこに切り込みを入れてパーツが動くようにしたりするのはかなり大変だ。それでも、立木胡桃は、パーツの部分を折りたたむとキャラが裸になったり消えたりするギミックをちまちまと作りあげていく。
『そんな。ミーナ殿の絵も可愛くて凄いです』
 ちょっと照れながら、立木胡桃がホワイトボードに赤い字で書いた。
 三人で和気藹々と、ときにじゃれ合ったり、ゴロゴロしたり、もふもふしたりしながら、なんとか三冊の飛び出す絵本ができあがった。
「みんなお疲れ様♪ 可愛い本ができたね。御褒美にぎゅ〜ってしてあげる♪」
 立木胡桃の尻尾をもふもふしているフランカ・マキャフリーごと、ミーナ・リンドバーグが二人をぎゅっ♪とだきしめた。
『ミーナ殿。ぎゅーってしながら……』
 耳をこしょこしょしちゃだめですと書き続けようとして、ぷるぷると振り回された勢いでホワイトボードに手が届かなくなってしまい、立木胡桃があわてた。