校長室
【空京万博】海の家ライフ
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「それより調理が大変だったじゃん?」とは卑弥呼の言葉である。 卑弥呼は蒼木屋のシャンバラ国境店の女将の傍ら、今回、一店員として菊に付き添って海の家のバイトにやってきたのだ。 菊が入場規制をくらっている間も、厨房では掃除屋達が仕留めてきた鮫を調理する卑弥呼の姿があった。 「元が怪獣扱いなので、食せる部位は限られるわ。鮫はヒレだけ使いエイヒレ風にスープで煮て……」 他にも、「蛸も巨大だと大味らしいので、場合によっては干物にして味を凝縮させないとだめかな?」と考えてみたが、今回は蛸は採れなかったらしい。 あらかた卑弥呼が下ごしらえを済ませた時、菊が厨房にやって来た。 「ったく……何だい。本当、頭の固いヤツらだよ」 そう言って卑弥呼の隣に立った菊が上着を脱ぐと、彼女の背中には見事な弁財天の刺青がある。 「刺青は銭湯でも虐げられるものね?」 「それは慣れっこだけどな……よし、一丁、ラーメン作りといくかぁ!!」 「でも、今回、ミスコンやライブといったイベントも有るのに、あたい達はラーメンかぁ」 卑弥呼が呟く。余談だが、彼女は秋葉原48星華なので、食材の運搬中などは、店を宣伝するCMソング的な歌を歌いながら歩いていた。 「ライブで秋葉原四十八星華や、ミスコンへの参加も捨てがたいが、やはり料理人としては厨房で頑張るのが筋じゃん!!」 菊がそう言って厨房を見渡す。 「よしよし。ラーメン用の麺が無いなら、お好み焼き屋から小麦粉を調達して麺を打つ……と思ってたけど、あるようだね!」 卑弥呼はそこで、菊の赤髪がやや濡れているのに気づいた。 「菊? おまえ、海にでも潜ってきたの?」 「ああ! こいつらを採るためにな!!」 菊が足元に置いたカゴを持ち上げ、台に乗せる。 「ハマグリに、アサリの貝類とエビ、カニの甲殻類と海草が少々……魚は?」 「いや。こっちの方が魚類より捕まえ易いし、味の濃いものが多いんだ。第一、素潜りで魚採るのは結構大変なんだよ」 遅れを取り戻すべく、菊が手早く調理を恥じる。 そうやって、二人が作ったラーメンが男の前に置かれたソレである。 「このスープは、海草と海の幸のミックスさ」 菊が言う通り、男が鼻を近づけると新鮮な海の香りがする。 作り方はこうだ。まず、豚骨スープを作る要領と同じに、寸胴鍋の強火で貝類と甲殻類をとことん煮込んで濃厚な出汁を取る。丁寧に灰汁取りをしたのは卑弥呼である。 これと卑弥呼が作った鮫のスープを合わせると、海の幸スープになる。 だが、菊はこれだけでは満足しなかった。 海草を天日で乾燥させ、少しでも出汁昆布風に近づけ、あっさり風味な出汁を取り、下拵えと基本のスープに使ったのである。 そのスープに、具材とのバランスを考えて濃厚な海の幸スープを少量ミックスして調整していた。 また、甲殻類の半分程は、薄めて麺を茹でるのにも使い、ただの袋麺を蟹風味な麺にするのに活用していた。薄味スープに具と麺から濃厚な出汁が染み出すようにするためだ。 空いた時間も無駄にしないのは、菊の料理人としての手際の良さの表れだろう。 ラーメンの具材としては、希少な鮑タイプの貝を薄切りにして海草スープで煮ていた。これだけは素材の味を殺さぬように薄味であり、他の具材は出汁で煮るか炒めて調理していた。 「美味い……本当に美味いぞ!!」 箸が止まらない男に、他の客達の視線が注がれる。 既に時刻は昼食時を超えておやつの時間に入ろうとしていたが、「あのラーメンある?」と店員に聞く客が続出したため、それに促されるように、菊と卑弥呼が厨房へと戻っていく。また、雅羅を病院に連れて行くみすみを見送った後の祥子も、ワニバーガーの調理のため厨房へと追いやられるのであった。