校長室
【空京万博】海の家ライフ
リアクション公開中!
「何ということだ!! 合計27ポヨンを叩き出したセシルをもってしてでも、残酷な21点の壁を超えられないーー!?」 片付けを終えて司会に復帰したジークフリートが叫び、他の三名の司会が「ポヨン?」と彼に冷たい視線を送る。 「それではここで会場の声を聞いて見ましょう!」 衿栖の言葉に反応するかの様に、衿栖の操る人形がマイクを持って人混みをすり抜けていく。その後ろを遅れまいと走る幽那のアルラウネ・リリシウム。 「どうです? 楽しめてますか?」 マイクを向けられたのはナガンと共に、会場に来ていた梓である。 「俺? うーん、そうだね。楽しめてるよ? ね、ウェル?」 「何? このカメラ? アズ、映画撮影か?」 「おまえたち、この会場が暑い原因の半分はおまえ達だな?」 未散がチャチャを入れる。 「あれ? でも、その姿……女の子二人?」 幽那が呟くと、ナガンが梓を急に抱きしめる。 「コイツは俺の女だぜ〜〜!!」 「取らないわよ……」 「わかるものか。アズは可愛いんだからな!」 ナガンの行動に梓が顔を赤らめる。 「もう……ウェルった……モゴォ!?」 「うわーッ!! キメちゃいやがったなぁ!! これはおみそれ致しました!」 「参った」と未散が額をペチリと叩く。 向けられたカメラとマイクの前で、濃厚な口づけを交わすナガンと梓。 「プハッ……と、まぁこんな感じだ。アズを取ろうとしたら、水着燃やすぜ?」 得意げな顔を浮かべたナガンを、真っ赤な顔の梓が「ウェルのバカバカバカーッ!!」と嬉しそうにペチペチ叩く。 「はーい。ありがとうございましたー!!」 衿栖が中継していた人形を操作して、終了させる。 「ふぅぅ……私は今ので気温が5℃上がったのがわかるぜ」 「若いですよねぇ」 幽那と未散が「ねー?」と顔を見合わせ、アルラウネ・リリシウムが何か抗議する仕草を見せている。 「このあともミスコンはまだまだ続きます! 最後まで盛り上がって行きましょうー!」 衿栖がジークフリートに頷く。 「それでは、エントリーナンバー4!! 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)さん、張り切って行きましょうーー!!」 ステージ用衣装であるアイドルコスチューム姿で、アコースティックギターを持った詩穂がステージに現れる。 「む……あの少女は……どこかで……」 セルシウスが詩穂の姿を見て考える。おぼろげな彼の記憶に浮かぶ詩穂。 「(確か……コピー機というのを私に教示してくれたな……私の記憶も戻り始めていると言う事か……?)」 「よろしくおねがいしま〜す♪」 ステージ中央に立った詩穂が会釈する。 詩穂のギターを見た未散が呟く。 「まさか、これで武術を?」 「違うでしょ?」 幽那が突っ込む。 「詩穂さんは、秋葉原四十八星華のリーダーという事ですが、今日も事務所から派遣されて?」 「うーんと……詩穂もよくわからないんだけど、事務所のつぁんだ&Sディレクタ…、マネージャーの策略で、『ミス・セルシウス海水浴場コンテスト』に勝手にエントリーされていたんだよね」 「こんな小さなミスコンにプロを派遣するとは、何たる事務所!!」 「いや……私達も846プロなんですけどね」 衿栖が突っ込むが、ジークフリートはそれをスルーして、 「このアコギは?」 「はい。夏の海といえばロックフェス! 今日もこの夏の海をフェス会場にするためにアコギを持参したんだよ」 「成程。当コンテストの自己PRタイムを生かして歌を歌ってくれるんですね?」 「はい! 衣装も新しくしたし、今日は表の顔、アイドルで頑張ります!!」 笑顔で頷く詩穂。彼女の背後では、先程美羽のライブで用いられたドラムやキーボードが再び設置され、審査員席からあの男の姿が見えなくなっていた。 「詩穂……くっ、俺としたことが!!」 「シン総統閣下?」 ジョニーがシンを見ると、彼は眼鏡を外し涙を拭いていた。 「フ……涙の訳は聞かないが、あのペッタンな胸は素晴らしいな」 内縁の妻からかかってきた電話を切ったラルが頷く。余談であるが、彼の行動は携帯に搭載された『居場所追跡アプリ』により妻に筒抜けであったらしい。 「シン総統閣下、何を泣くでゴザル。 「ジョニー。俺は時代というものは無情なものだと思っていた。昔輝いていたアイドルがやがて大人になり、スキャンダルにまみれ、挙げ句の果てにリスカしてみたりする…‥何ともやりきれん話だ」 「シン総統閣下……」 「だが、詩穂を見てくれ! あの子は小学6年生体型を維持したまま、内面だけ成長させている!! これはこの世の道理に反する事だ!! それが俺の胸を強く打ち、この熱き涙となったのだ!!!」 「シン総統閣下……」 「ああ。わかっているさ。俺だってこんな事に涙するなんて思っていなかったからな!」 「違うでゴザル……」 「ジョニー?」 「シン総統閣下。拙者は今や二十台の身。だが、貴方はやや老けて見えるがまだ若干十四歳でゴザル……一体いつからアイドルの追っかけをしていたでゴザルか?」 「……」 無言で見つめ合うジョニーとシン。そんな中、詩穂の演奏が始まった。 詩穂はアコースティックギター片手にロックの曲を歌い上げる。 そこには、先程のライブを見てバックバンドを頼んだ美羽、ベアトリーチェ、コハク、そしてS☆ルシウス……の代わりのセルシウスがいた。 「夏の海といえばロックフェス!!」と豪語する詩穂が、【咆哮】と【幸せの歌】で浜辺にいる掃除屋やライフセーバー、更には海の家にいる店員や客にまで届く声量で思いっきりシャウトする。 ディーヴァ(歌姫)故のデスヴォイスもシャウトした詩穂の歌声に、魂を震わされた観客のボルテージが上がる。まさに、ミスコン会場は今や熱狂の渦である。 ドラムを叩くセルシウスが熱狂する観衆を見て思いを巡らせる。 「(この者達は何故、こうも夏に騒ぐのか……やはり蛮族……む!?)」 彼の目に最前列にいたガリガリの眼鏡と首タオルの肥満体が飛び込んでくる。彼らは他の観客とは違った応援方法、所謂PPPHなる踊りをしていた。 「(あの者達……それにあの踊り……見たことがあるぞ!! きっと私のルーツを知る者であろう!! これは是非後で会いに行かねば!!)」 「みんなー!! ありがとうねー!!」 歌い終え、汗だくになった詩穂が叫ぶ。 偶然にも今日という日は、後に『初代ミス・サマフェス』を名乗るディーヴァ、詩穂の始まりの日でもあった。 「ね、セルシウスちゃん。海の家にはこういう夏の海の文化もあるんだよ☆……て、いない?」 舞台袖に帰ってきた詩穂が振り返ると、そこには彼の姿は無かった。 「審査員席に連れていかれたよー」 美羽がタオルで汗を拭きながら、そう答える。 尚、そんな詩穂の得点は……3・4・2・4・3・5の計『21点』であった。 「これじゃミスコンではなくライブだから……衣装は良かったけどね」 「魔法少女の適性大有りだね。アイドルなんてことはさっさと辞めて、是非ボクと契約……」 「ロックの本場を知るミーは辛口デース。デモ、将来は楽しみデスネ!」 「お兄さんとカラオケに行こうか?」 「すまん、急用があるのだ」 ……以上が、詩穂への審査員達のコメントであった。