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リアクション
「はわ、知らない人、いっぱいなの……」
「ライザ、エリー、最高の演奏で、ステージのアイドルたちを輝かせるわよ」
衛とジーナの紹介でブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)ことBR@N率いる『BLUE WATER』がエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)のタムロールと共に現れる。
エリシュカの8ビートに合わせてローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がギターを、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がベースを爪弾く。
ギターはディストーション強め、イングランドロック調。
彼らのステージはローザマリアがCY@Nに交渉して実現している。それは勿論、バンドマンとしてではなく、護衛を兼ねたものだ。この後のCY@Nの新曲でもバックバンドとして演奏することが条件でだ。
更に今回がアマチュアバンドの彼らにとって初のメジャー舞台。人見知りなエリシュカはステージ後ろから観客を覗いて緊張していた。他のメンツもそうだ。
しかし、今はブラダマンテのため、この大会のために精一杯演奏する。
どうすれば誓約を履行出来るの?
あなたと一緒に居たい、ただそれだけの誓いなのに
何が私たちを隔てるの?
孤独が蔓延るこの世界で
でも、一粒の希望は捨てたくない
だから私は呼び掛ける
一緒にありたい、あなたへと
演奏するに連れてテンションが上がる。コードもサビに向かって駆け上がる。ベースのアルペジオからのコードチェンジ。FM7のサビへと入る。王道進行。
BR@Nの声量が上がる。
私の声は届いていますか?
あなたの中に、あなたの心に
心の中に見付けた愛を信じて
私、信じ続けて待っています
BR@Nの高い声をベースが低音で支え、ドラムが嬉々とリズムを与え、そしてギターが歌声をリードする。息のあった演奏が会場を飲み込む。
サビが終わり、イントロフレーズへと戻る。締めのフレーズに、クラッシュシンバルが弾け、曲が終わった代わりに観客のコールが弾けた。
そしてそのまま次の曲へと繋ぐようにビートを変えたドラムソロが響いた。
BR@Nが歌うその舞台裏、次のユニットが出番を控えていた。
「リアトリスさん、出番ですよ」
リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は呼ばれた方を向くと、「はい直ぐ準備します」と返事をした。
バリージョ(カスタネット)を手に取り、ステージの裏手に回り込む。スカートと薄手のカーディガンを来た女性が居た。マネージャーだ。その隣にバックダンサーを努めてくれるアニス・パラス(あにす・ぱらす)が待っていた。
「遅いよ、リアトリスお兄……お姉ちゃん」
リアトリスは人見知りなアニスが知らない女性といるのに違和感を覚える。が、取り敢えずは挨拶だと頭を下げた。
「リアトリスです。よろしくお願いします」
「……はい?」
マネージャーの佐野 和輝(さの・かずき)はすっとんきょんな声を出した。
その声にはリアトリスも聞き覚えがあった。やっとその声を聴いて目の前の女性が男だと気づいた。
「リアトリス、俺が和輝だって気づいてなかったのか?」
「ごめん、全く……」
「いや、謝らなくていいさ。友人にも分からないほど変装できているってことだからな……」
和輝は悲しげに溜息を吐いた。
と、『BLUE WATER』の演奏が佳境に入る。
「そろそろアニスたちの時間だよ!」
アニスは緊張してきた様子。リアトリスも覚悟を決める。
「アニス、何かあったら《精神感応》で。リアトリス上手くやってこい!」
リアトリスは深く頷いて、舞台へと向かった。
ドラムロールの最中ピンクのワンピース水着のリアトリスが登場する。観客席へと笑顔で手を振る。その後ろにパカーを深めにかぶったアニス。
「続けて、可愛く見えても男の娘リアトリス様のフラメンコです!」
ジーナの紹介が終わると直ぐに曲が展開する。短いベースとドラムの前奏中にリアトリスは《超感覚》で犬耳を生やし、構える。
ギターはディストーションそのままでかき鳴らされる。
それに合わせて、リアトリスのサパテアード(ステップ)が床を鳴らす。
曲目はブラムースの『ハンガリー舞曲第五番』。テンポはやや早めのアレグロ。
リアトリスがステージを力強く舞い、バリージョで抑揚を表す。その後ろでアニスがパルマ(手拍子)を打つ。リズム隊の要はアニス。
情熱的なバイレ(踊り)に激しい演奏。観客を掻き立てる。
曲は変調後穏やかに、そして、最後も激しく2/4
リアトリスの最後のサパテアードが穿つ。観客へ顔を上げてポーズを決めた。
しかし、曲は終わらない。リバーヴのかかったシンセ音がフェイドインしてくる。観客への予告なしの演出。
二拍ほどの一瞬の無音。消えるライト。リアトリスは後ろへと下がる。
爆音と共にメタルの重音が会場を支配する。
全ての客の視線が突如現れたCY@Nへと向いた。
CY@Nがすべての者へと命令する。それが新曲発表の合図。
「あたしの歌を聞け――――っ!!」
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